常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する   作:鋼鉄の山本

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第四十八話

 ブォン、ブォンと真っ暗な……おそらく使われていない駐車場なのだろうか。

 ともかく明かりがないこの場所にいつまでも風切音が鳴り響いている。

 

 その音に向かってスマホの小さな明かりがサクサクと足音を立てて近づいてくる。

 

「ユーキー! お前まだここにいたのかよ。明日も早いんだからさっさと寝ろや! こんな何も見えないとこで練習しても仕方ないだろ」

「ごめん宮下(みや)ちゃん。すぐ切り上げて戻るから」

 

 すでに時計の針は12時を跨いでいる。誰に言われて来たわけではないが、スマホの持ち主はよく通る声で暗闇の中心に語り掛ける。

 

「それ言うの何回目? 毎回確認に来る俺のことも考えてくれよ」

「……それ言うの何回目? そんなに言うなら来なくてもいいのに」

「おい、それはさすがに一線超えてるぜアンポンタン。……はぁ、相変わらず無神経な奴だな、友達なくすぞ」

 

 余計なお世話です。とせっかく様子を見に来た親友に対してこのリアクションである。しかもこの間一切素振りをやめる気配はない。

 

 ただ、そんなことにはとっくに慣れているのも親友。仕方ねぇなとつぶやき砂利だらけの地面に腰かけると、彼の集中力を横からしゃべって乱す作戦をとる。

 

(とりあえず今日の晩飯の話……多分食いつかねぇな。今話題のアニメの話……だめだ、俺もそんな詳しくねぇ。今付き合っている彼女の話……こいつ童貞だから拗ねるな。というか、俺もいない)

 

 だが悲しいかな。残念ながらこの宮下圭も根っからの野球バカである。この二人の会話の8割が野球関係。俗世的な会話ができないように、この九州の僻地で調教済みなのだ。

 

 できれば野球から意識をそらさせたいが、一度座ってしまってからにはもう一度立ち上がるのは気まずい。

 どうしようかと頭をボリボリ掻くと、なるべく自慢話にならないよう慎重に話し始める。

 

「俺よー、この前一軍の紅白戦で投げたじゃん。あれのおかげで今度先発のチャンスもらえたんだよね」

「いいじゃん、頑張りなよ」

「今一軍の先発西邦さんとマーベラスだけだろ? ほかはケガやら世界大会やらでいないおかげで開幕ローテも十分あり得るって」

「さすが神崎世代の真エース。さっさと一軍に定着しないとな」

「やめろやそれ」

 

 いつだったからか使われるようになった神崎世代という名前。

 高卒1年目にして大阪ワイルズのエースとなった神崎仁一郎を中心とした名前の総称であり、のちの黄金世代の愛称として広く使われる名称。

 だが自分が脇役のように聞こえるそれに、そう呼ばれる同年代は少なからず不満を持っている。

 

 更に言うと、宮下が気に食わないのは続く愛称の方も。

 

「俺神崎世代って言われん嫌だって何べんも言ってるよな! 後、()エースってなんなん? 結局一番は神崎仁一郎って言われる気がして腹立つ!」

「宮ちゃん今12時過ぎてる」

「素振りやめないやつに言われたくない!」

 

 実際ファームでもほどほどに結果を出し、シーズンの終盤には中継ぎとして一軍に帯同。16試合の出場にとどまったがそれでもインパクトを残している。

 どういう起用法かはまだ不明だが開幕一軍入りは現実的なラインだ。

 

 ……だがその一方で。

 

「はぁ、お前は言われんの悔しくないのかよ。勝手に世代No.1を取られて。特にお前、元チームメイトだろ」

「うーん、あんま悔しいとかはないかな」

「……あー神崎を知りすぎてとか、そういう?」

 

 なるほど、素性をよく知らない自分の感性と、逆に3年間同じ釜の飯を食べた同級生とでは見え方が違うのだろう。

 そう勝手に納得しようとした宮下だったが真相は違う。

 

「いや、それ以前の問題――俺はまだ、悔しいと思える地点にも立てていないから」

 

 二軍戦打率.250、盗塁数7、7打点。守備も内野ならショート、外野ならセンターを中心に複数ポジションをこなせるユーティリティ性。

 

 出場機会確保のために三軍での試合も多く、二軍公式戦出場は30試合程度ながら、高卒下位指名の二年目の選手としてみれば上々の出来のようにも思える。

 

 誰よりも練習熱心であり、一歩一歩着実に成長する姿は、上からもだいぶ好評である。

 

 ――だがはっきり言おう。強豪福岡サラマンダーズの70分の1(支配下枠)にするにはあまりにも物足りない。

 

「はっきり言って二軍の便利屋……三軍、四軍を回すための守備要員が俺の現状。俺が今年背番号2桁なのは奇跡だって」

「……!? まじか誰に!」

伊能田監督(当時一軍監督)

「……まじかぁ」

 

 あまりにも残酷な評価。しかもそれが目指すべき一軍のトップから直々に言われたというのだ。

 現時点で一軍行きをつかみかけている自分とは全く別の立ち位置。

 

 話題選びの最悪を引いちまったか……と気まずそうにする宮下と対照的に幸村の表情はずっと変わらない。

 ただずっと、一心にバットを振り続けている。

 

「俺はまだ、三軍の試合に何とか出してもらえてるだけ……。でも調子が悪いからそこにいるわけじゃない」

 

 だがその声は確かに強い覚悟を含んでいる。宮下もそれを感じ取ったのか、いつもの強い幸村に……自分が何をしに来たのかすら忘れて続きを促す。

 

「いくら日本一の選手層をもつサラマンダーズだからって……俺へのチャンスがゼロなわけがない。いつその時が来てもいいように準備だけは怠りたくない」

 

 ふつふつ湧き出る野心と今の現状に腐らない忍耐。

 技術や身体能力で言えば彼よりも上の選手は何人といるだろうが、彼並みの精神力を持つ選手はそういないだろう。

 真っ暗で広大で生き物二人しかいないこの空間に、はっきりと彼の存在感だけが浮かび上がっている。

 

「……やっぱお前は強いな。吉城さんがお前を買ってる理由がなんとなくわかるよ。……っよっしゃ、俺もちょっと手伝う――」

「……あー、なんかしゃべりすぎたかも」

「――へ?」

 

「疲れてんのかな俺? ……さすがに今日は遅いし、もう休むか」

「――俺、お前のメンタル強いとこ尊敬してるけどさ。……そのとんでもなくマイペースなとこ、嫌い」

「え、あ、ごめん……って宮ちゃん俺のこと止めに来たじゃん」

 

 今までの抵抗はなんだったのだろうか。いそいそと道具を片付けて宿舎へ戻る姿に、本来の目的を達成したとはいえ苦言を呈するしかほかない。

 

 ——ともかく、方や球界の期待を一身に受けながらも、いまだに頭角すら表せない高校野球のスター。方や誰の目にも留まらずひっそりと消えゆきそうな無名の若手。

 どちらも練習熱心でありながらそれゆえに危うい二人。この当時お互いを認識する暇もなかっただろう。

 

 だがこの二人の運命が交わり、大きく変わる試合は、この日の約2週間後……二軍のオープン戦最終日に行われる。

 

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