常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する   作:鋼鉄の山本

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第五十二話 桐間と幸村2

「桐間、早く守備について」

「すみません審判。今桐間の奴腹が痛いとかでトイレに行ってしまいまして……。おそらくすぐに戻ってくるはずなので少しだけ待っててください」

「え、いや彼ベンチにいますよね? (二軍)監督さん、あんまり変なことを言うのはよしてくだ――」

「申し訳ない、すぐにトイレから戻ってこさせますので」

「え、だからすぐそこに――」

「申し訳ない、すぐにトイレから戻ってこさせますので」

「え、あの――」

「申し訳ない、すぐにトイレから戻ってこさせますので」

「…………わかりました。すぐに戻ってくるように」

 

 思わずできた、あるはずのない空白の時間。グラウンドはマウンドがぽっかりと空いている以外、準備が出来上がっている。

 だというのに今更……本当に今更ながら中野コーチの言葉に耳を貸す時間ができてしまう。

 

「お前は、まだまだここからの選手だってのに……今年21だろ? 周りの同い年はまだ大学すら出てないってのにもう投手失格だなんて、あまりに早すぎると思ってたんだがな」

「いえ、自分でも……その、見限られる理由はわかってますから」

 

 プロ野球選手だって、結局は雇われ社会人だ。仕事(野球)できる(上手い)のが一番としても、その次には間違いなく性格、人となりが重要視される。

 

 礼儀のない人間、空気を悪くする人間の評価はいつだって低く出る。ルールを守れない、人として幼稚などは持ってほかだろう。

 たとえ主力の選手であろうと、それが原因で放出されるのは珍しくない。

 

 それに俺の場合は選手としても役に立てていない。監督コーチの言いつけは守らないうえ、ブルペンやベンチの雰囲気だって俺がいるときは重く淀むことはさすがに知っていた。

 ……ただ、そんなことはずっと前から自覚している。

 

「……それでも、このやり方を選んだのは俺です。周りなんて関係ないって、自分の意志で意地を張り続けました」

「そうか。……でもこのままじゃ終わるのは自覚しているな」

 

 そう、数十分後の俺がどうなっているかなんて、自分でも理解している。

 

「なら、最後に信じてくれないか。お前の人生最後のマウンドを俺たちに預けてくれ」

「…………」

 

 声にはできなかった。今までにない感情だったから。どうせこのまま終わるぐらいならと半ばやけくそになっていたとも思う。

 

 でもそれより、自分以上に俺のことを信じてくれるこの人に応えたいと首を縦に振った。

 

 

――――

 

3()回裏ノーアウトランナー無

 

 大方では、この試合は8-2でサラマンダーズの勝利だと予想されていた。

 序盤に大量リードを奪いそのままの逃げ切りが容易に予想できたから。

 一方でシープスの勝機は、乱打戦に持ち込めれば希望があるといったところ。

 

 そしてその予想は当たっていた。初回を見ただけでも桐間の状態は悪い。間違いなくいつも通りの登板内容。

 低め狙いのボールが浮いて真ん中付近に集まり、高めのボールがはっきりとゾーンを外れるいつものパターン。――一回が終わるまでは。

 

「ストライク! バッターアウト!」

「おい、急にどうしたんだ。あのピッチャー」

 

 球場はサラマンダーズの圧倒的有利な雰囲気から一転する。

 福岡応援団から戸惑いの声がいたるところで上がる。

 球速が上がっているわけではない。だが突如としてサラマンダーズのバッターがことごとく振り遅れている。

 この回も先頭の一番打者を空振り三振に抑えて見せた。

 

『二番 ショート 幸村 背番号52』

 

 だから、というわけではないが、初回に本塁打を打てたからって油断はしない。

 先ほどまでの投手とは全くの別人。簡単に打てるピッチャーじゃなくなった。

 

 様子見はしない。高めのストレート、初球から振っていく。

 バットに当てることは出来たがファウルゾーンは切れていく。……ボールが逃げたな、初球から縦スラかよ。

 

 2球目もスライダー。今度ははっきりとしたボール球。3球目は沈むボール。多分ツーシーム、これをファールにする。

 

 やっぱり、配球を変えてきた。ストレートの割合がめっきり減っている。

 なるほど、通用しなかったから新しい手を打つ。当然の選択だ。

 

 ――ところで、ストレートピッチャーが変化球に逃げて、一体何が残るんだ?

 

 苦し紛れの投球が通用するのはここまでだ。

 4球目、アウトコースのストレートを見逃してカウント2-2。

 

 直球の軌道も見れた。やっぱりさっきまでと何ら変わりはない。

 

 5球目、ピッチャーが選んだボールはインコース高めのストレート。

 迷いなく振り抜き、引導を渡しにいく。

 木製バット特有の乾いた破壊音が鳴る。重たい衝撃、バットを振り抜く。

 

 ――前言を、撤回しなければならない。

 急にバットが軽くなったのは、その根本から折れたせい。

 サードが余裕を持って落下点に入られる。

 

 …これで2アウト。

 

 変化球に逃げたと思った。苦し紛れの奇策なんだと思ってた。

 違う、明らかにボールの勢いが違った。

 回転数? 目の錯覚? 原理はまだわかんないけれど認識を改めなければ。

 

 明らかに宮ちゃんや千尋クラスの……いや、下手をしたらそれ以上。

 

 認めたくはない、認めたくはないけれど……吉城暁、それと神崎仁一郎(思い出したくもないあいつ)の姿が脳裏によぎってしまった。

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