常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する 作:鋼鉄の山本
『ストライク! バッターアウト! チェンジ!』
「いいぞー! 桐間ー!!」
「負けるなサラマンダーズ!!」
……もうお父さん隠す気ないじゃん。
それはさておいて、流石の私でもこの異変には気づける。急にサラマンダーズが打てなくなった……と言うより、あの桐間という投手から打てなくなった。
3回、4回とランナーこそ出ているけれどその後が全くと言っていいほど続かない。さっき弟の口から「攻撃が停滞している」なんて言葉が出てきたぐらいだ。よく停滞なんて言葉知ってたね。
逆にサラマンダーズの投手の方が崩れ始めてきた。
最初は三振をたくさん取っていたのに、今度はこっちが簡単に打たれ始めた。幸いなことに未だ無失点ではあるけれどもそれも時間の問題に思える。
「あ、あああ! 行かないでー!!」
「いくなー!! 超えるなー!!」
私の意識を戻してくれたのは弟と、……見知らぬ福岡ファンの声。
サラマンダーズの先発が本塁打を打たれてしまった。これで2対1。
「よしっ! よしっ! ナイスホームラーン!」
「宮下〜なんで〜」
「……お父さん、ビジター席は向こうだよ」
と、ここでピッチャーが変わるようだ。帽子を深々と被りマウンドを降りる先発の……宮下選手。
打たれたからマウンドを降りる……というわけではないのだろう。
力無くダラリと垂れている右腕が目に入る。ベンチから出てきた壮年のコーチに支えられながらゆっくりとマウンドを降りる。
「……いや、今日もまだ調子が悪いだけだ。本当に、それだけであってくれ!」
そんな声があちこちから聞こえてくるほど、その姿は痛々しい。しかし、そんな心配をしていたとしても試合は止まらない。
どんな理由の降板であれ、勢いは以前シープスのまま。変わったばかりのピッチャーが二連打を浴びる。
ノーアウトランナー一三塁。打席には四番バッター。
「いいぞぅ! この流れのままいけー!」
「負けるなー!!」
球場に、ヒリヒリとした緊張感が漂う。遠目でもわかるぐらいに慎重に四隅に投げているが、バッターの方はぴくりともしていない。
父のウンチクによるとあのバッターも甲子園に出ていた選手らしい。通算五十本塁打越えのスラッガーだったとか。
そんなすごい人の打席の結果は……6球目が打たれてセンター方向に。でも幸運なことにも守備の正面。そのままベースを踏んで1アウト、一塁に投げて2アウト。
三塁走者が帰ってしまい同点に追いつかれてしまったがこれでランナーは0。
「うわぁ、コースさえ違ってれば……」
「ラッキー……助かったぁ……」
当たりの良い、正面の打球で助かった。おかげでダブルプレー。
……しかも、アウトを取ったのがお兄さん(おそらく)だというのも嬉しい。
父ほどあからさまに応援するのは恥ずかしいけれど、高らかに2本指を立てる彼の姿から目が離せない。
――――
5回裏ノーアウトランナー一塁
「ストライク! バッターアウト!」
おかしい、何かがおかしい。自分で思っている以上に簡単に空振りが取れる、アウトが取れる。もちろん楽勝で……というわけではないが、それでもあの苦しい期間と比べるとどうしてもそう感じてしまう。
今までの苦労は一体なんだったのかと思ってしまうほど。
何かを特別変えたわけではない。確かに変化球の割合を多少増やしたが結局のところ、肝心な場面では
(ただ、リード自体は大きく変わってなくてもコーチから強く言われたのは、リードの意味を考えて理解しろ……か。相手の苦手なコースでカウントを取って、自信のあるボールで仕留める。口で言うのは簡単だけれど本当にきつい。……今までもそうして来たつもりだったけれど、今日はなんでかできる。できている!)
二番打者の幸村は外角打ちの打率は高いけれど、一方でインコースを苦手としている。だからカウントは内角をメインに。ホームランを打たれた内角高めにストレート。
バットにこそ当ててくるがファールに。タイミングはともかく、パワーでは俺の方が上。ボールを前に飛ばさせない。
今度はチェンジアップを低めに。振らせるためではなくタイミングを逸らすために。なら、ミットはストライクゾーンギリギリに構えてくれるが敢えて外す、振らなくてもいい代わり、きっちり低めごと意識してもらう。
……バットこそ振らなかったが体が少し反応した。インコースのストレートのサインが出るけれど首を振る。もう一球、変化球で様子を見たい。
スライダーをアウトコースへ。見逃せばボールかもしれないというのにしっかりと手を出してくれた。ボールはファウルゾーンへ飛んでいきカウント1-2。
あとはゾーンに投げるだけ。もちろん投げるのは高めのストレート……。
『幸村……三軍では結構打ってるし三振も少ないみたいだけど、その分併殺も多いですね』
『典型的なバットに当てちゃうタイプかもな……おい桐間! ミーティング途中だぞ!? 聞いてんのか?』
『……まぁ、一応』
『一応じゃなくてちゃんと聞けや、先発ピッチャー!』
……はは、あの時はどうせ出てこないと思って話半分だったけれど、一応ちゃんと聞いてよかった。想像以上に大事なんだな。
高めに構えてくれたリードに首を振り対角線のコースへ構えてもらう。リードの意味を知るのはこういうことなんだろうな。
体のしなり、指の掛かり、全身で弓引く渾身のボールをアウトコース低めへと投げ込む。
今日一の手応え——
——でも、悔しいけど当てるよな、
シャープなスイングだ。力強くしっかりと左足を踏み込み、逆方向に打ち返す……俺の思った通りのところに。
「セカンド!」
「オーライ! ショート!」
「フッ! ファースト!」
力強い打球だった、けれどセカンドの正面。教科書通りの4-6-3の併殺打でこの回を終える。
「ナイスピッチ桐間! やっぱりお前はすごいやつだ!」
「このまま目標達成しろよ! 絶対点とってお前にピッチャー続けさせてやる!」
バシバシと何度も後ろを守ってくれた先輩達に叩かれながらベンチへ戻る。
……ああ、そうか。
『桐間! 桐間! 桐間!』
今日は福岡での二軍戦だというのに、駆けつけてくれた応援団の人たち。手拍子混じりの声援は福岡のファンにも負けていない。
……そうだったのか。
「……これはお前の今までの積み重ねだからな。普通のやつなら結果が出ない、チームに居場所が無いって時ならそもそも野球から逃げる。酒に逃げる、女に逃げる、遊びに逃げる」
「中野コーチ……」
戻るベンチ、そこでグラウンドに視線をやったままのコーチがいつもの調子でそう告げる。
「でも、お前は努力に逃げた。決して褒められることでは無いけれど、野球から逃げなかった。……それだけでお前が今までどういう風に野球やってたかわかるよ。ずっとそうやって壁を乗り越え続けてきたから、お前は甲子園を取ったんだ。それがみんなわかるから、誰もお前を見捨てなかった。今日のこの流れも、スタンドからの歓声も奇跡じゃ無い。ただの実力だ」
「……はい」
あの絶望の中、奇跡なんてないなんて言われて……いやそれより、もっとずっと怒らせてばっかりだったから見捨てられていたと思っていた。チームにも居場所が無いと思っていた。
……でも、誰よりも見てくれていた。それだけで何よりも嬉しいのに。
「ただお前、不用意に先頭出し過ぎだ。この調子で今日はこのまま行ってほしいが、これは今後の課題だからな」
「……はい」
「あれ? 泣いてる?」
「泣いでまぜん!!」
……俺が欲しかったものはずっとここにあったのか。
それにすら気づけないだなんて……ばかだなぁ。
喜び7割、後悔3割。ぐちゃぐちゃになった感情が爆発してしまうがすぐに顔を拭い、次のクリンナップの特徴を頭に入れる。
俺の夢が始まるまで残りアウト6つ。死ぬ気で奪いとってやる。