常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する 作:鋼鉄の山本
湘南シープス6-大江戸ペンギンズ4
「……結局ひっくり返されちゃったな」
「……あの、抑えない前提のクローザーっていちゃダメだと思うんですよ」
「そりゃ、
7回の攻防。幸村選手の逆転弾から一気にペンギンズのペースに、と思っていたのだけれど……。
息をするように抑えの小宮選手が三失点。
……とほほ、結局これで八連敗。まだ開幕したてとはいえ借金7。この地獄がいつまで続くんだろう。
……ただ、その原因は
「マシューズ選手と幸村選手がホームランを打った時のベンチの様子……そんなに喜んでいませんでしたよね。雰囲気悪くないですか?」
「そりゃ、つい昨日喧嘩したとかで
そんな会話を古市さんとしてると聞こえる深い、深いため息。
「……はあぁぁ。本当にペンギンズってプロ球団なんですか? 下手なアマチュアクラブより酷いですよ」
おそらく、誰もが思っていても口にできない言葉。
だから何も言い返せない。あの古市さんまでもが私と一緒に黙り込む。
「しかもチームから浮いてるっていうじゃないですか。まだ下位球団へのトレードならドリームスやモンキーズ……なんなら、獲得に動いていたって言うフェンリルズに行った方が幸せだったと思いますね」
誰が、とは聞かなくてもわかる。
普段通りの声色ながら、明らかに口調は荒れている。
……理由には薄々気づく。たとえば、彼に対する豊富な情報量はきちんと調べないと無理だ。
言い方は悪いが、たかが控えの一人……しかも、他に華やかな選手の多いサラマンダーズにおいて優先度は低いはずなのに。
「…そんなにいうならもう見に来なけりゃいいだろ。大人しくギャロップスでも取材してろや。ここに来る記者はやる気のないやつか、よっぽどペンギンズを好きなやつだけだぜ」
「——なら、麻見くんに当てはまってますよ。今日はペンギンズの試合じゃなくて、幸村早南也の試合を見にきたんですもんね」
ようやく麻見くんの口が止まる。
今まで人を食った態度の彼からすると、私みたいなひよっこに図星を突かれるとは思ってもいなかったんだろう。同い年だけど。
「……たった一回見にきただけでわかります?」
気まずそうに一呼吸おき、いつもよりも素直にそれを認める。
そりゃ、わかるよ。だって——
「——だって、同じですから! ……なんなら、ペンギンズにきてから最初に好きになったの私ですよ!」
いつからだなんて、きっと本当に最初から。
キャンプ初日、このペンギンズに染まらずに一人声を出して一つ一つのプレーに集中していた姿から。
そこから、彼の人となりを知って、幸村早南也の野球を知った。
真面目だけど天然が少し入っていて、意外と話しやすく、それでいて野球に対してだけは紳士な姿。
たった一つのプレーに備え続ける努力家で、勝利のためには迷いながらも非情になれる精神があること。
走・攻・守揃ったオールラウンダーなんて言葉では物足りない彼のスタイル。どのシーンを切り取っても、必ず試合の流れを変える場所にいるところ。
中学生に間違えられて土下座……はいいか、別に。
まぁ、何が言いたいかというと……。
「私も、まだ誰にも知られていない幸村選手を、色んな人に知ってもらいたいんです! 彼にはその価値がある……! それに、こう見えてジャーナリストですからね。」
「…………はあぁぁ! なんか負けたぁぁ!」
そういうと、彼はガバリと立ち上がる。そしてそのまま選手への取材すらしようとせず、ゆっくりと階段を降る。
「……取材いいの?」
「柏田さんの言ったことが全部ですよ。……ああでも、幸村のこと代わりにお願いしますね。ヒーローの素質は十分保証しますよ」
言われなくてもそのつもり。
完全に彼の姿が見えなくなったことを確認してから席を立つ。例え負けたとしても、私達の仕事がなくなるわけじゃない。
……はずなのに、なぜか古市さんが動かない。どうしたんでしょうか、この昼行燈。
「柏田ぁ……幸村好きってマジか。マジかぁぁぁ!」
「えっちょ、あくまで選手としてですよ! 公私混同しませんってば!」
あぁ、もうめんどくさい! いつも以上に使い物にならないであろう古市さんを引っ張って取材へ向かう。
というか、仮に私が誰を好きになったからってどうでもいいじゃないですか!
「はあ、とりあえず編集長に相談しよ……」
「ちょっと待てぇ! あの人古市さんの十倍は面倒なんですよ、勘弁してください!」