常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する   作:鋼鉄の山本

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第六話

パシャリ、パシャリ

 春季キャンプも始まり一週間が過ぎようとしていた。高卒1位ルーキー今岡、大卒2位の大清水の合流や多少のメンバー変化があったものの順調に日程を進める(目立ったニュースが無い)ペンギンズ。

 

 パシャリ、パシャリ

 そして相変わらず報道陣が少ない中での公開練習。ここまで変わり映えのしない練習風景ばかりでは記者……というか刺激を求めるファンには物足りない出だし。まぁ大きなけが人が出ていないのだけが救いか。

 

「連日夜の街に消えゆく神田。今シーズンも夜のタイトルダービーの本命か……」

番記者(おれら)ゴシップ(それ)に手を出したら終わりだからな柏田ぁ……」

 

 この一週間小さな記事しか書けていない我々にとってようやく掴めたネタだというのに。

 最も、神田選手は独身だから別にそういう遊びをしていたとしても問題ない上、彼の()()好きはもはや周知の事実のため目新しさもないのだけれど。

 

「いやだなぁ、さすがに冗談ですよ。まだまだ使う場面じゃないことは重々承知です!」

「だからそもそも使うなって話なんだよ……。まったく今日は珍しく盛り上がりそうなんだ。ちゃんと見逃すなよ。」

 

 本来ならばそろそろ全体練習に入るころの時間ではあるが、グラウンドに練習機材などなく代わりにバックスクリーンには久しぶりの電気がつく。

 

「紅白戦とは言え久々の試合形式だ。ちゃんと取材しろよ柏田」

「もちです!」

 

 

――――

 

「神田さん今日はよろしくお願いします」

「おう! フォローはしてやるからガンガンアピールしろよ!」

 

 ついに始まった試合形式の練習。ノックやら投内連携やらで組んだことはあるとは言え、初めて二遊間を組む神田さんに挨拶をする。去年2桁エラーをしているとは言えプロ15年分の経験値がある。こう言ってくれる彼と組めたのはラッキーだったな。

 

「整列!」

 

紅組          白組

1番 石田 右      1番 堀江 中

2番 角田 三      2番 幸村 ニ

3番 畑 左       3番 蔵田 指

4番 遠藤 一      4番 大清水 一

5番 佐藤 指      5番 田中 三

6番 越後 ニ      6番 神田 遊

7番 橋本 遊      7番 竹沢 左

8番 森谷 捕      8番 北上 右

9番 松本 中      9番 沢田 捕

投手 郡         投手 有田

 

 そうこうしている間に試合開始の時間。ラインナップを見る限り主力選手を中心にしつつ、ルーキーや育成選手を試す打線。

 

 先行は紅組。トップバッターのライト石田さんがゆっくりと左打席に立つ。昨シーズンチーム首位打者。そして一昨年神田さんから選手会長を引き継いだ選手。

 

「よっしゃお前ら! 紅白戦とは言え初試合だ! 気合い入れて抑えっから、後ろ頼むぜ! 泰平(大清水)! 幸村! お前らの力見せてくれよ! 竹沢と北上もなぁ!」

 

 一方こちらの先発は、投球練習が終わるとバックへと声をかけ始める。新加入の俺や大清水 泰平(おおしみず たいへい)、それと育成の竹沢と北上にも声をかけるのが白組先発の有田さん。昨シーズンチーム2位タイの勝ち星(5勝)を挙げたピッチャー。

 ガサツなところもあるが面倒見が良く若手にも慕われるベテラン。

 ただ、ユニフォームの上からでもわかるそのビール腹が少しだけ気になるが。

 

 どちらもプロ10年以上のベテラン同士。その最初の対決。

 初球インコース、やや甘く入ったように見えたが石田さんは見送る。ワンストライク。

 2球目今度は外、明らかなボール球カウント1-1。

 制球は定まっていない。だが、それ以上に球威がある。2球とも乾いた炸裂音がキャッチャーミットから聞こえてくる。

 

 いい意味でアバウトな制球と重い球でのゴリ押し。まだ体が2月でできていない中、しっかりと自分のピッチングを作ってきている。

 

 だが、その程度で抑えられるほど石田 哲平(いしだ てっぺい)と言う打者は甘くない。

 変化球が外れ2ボール1ストライク。カウントをとりにきた外のストレート。そんな球を待っていたと言わんばかりにバットを出しレフト前へと運ぶ。

 

 ノーアウトランナー一塁。二番打者の角田が一発で送りバントを決め1アウトランナー二塁。打席には昨シーズン規定到達した外野手の畑さんが右打席に入る。

 

――

 

「初回いきなりのチャンスですね」

「だな。畑はここで打っておきたいだろ」

 

 1アウトランナー二塁。初回、いきなりのチャンス。

 昨シーズン規定到達したものの打率2割3分4厘 8本塁打 40打点。チームの中軸を任された選手としては物足りないがそれでもチーム屈指の成績。

 

 そんな彼が最も得意とするのがインコース。コース別打率で見ると3割2分1厘と最も得意としているコース。そんな彼を警戒して守備シフトを敷かれるのは珍しくない。

 

 完全に閉じ切られた三塁線、ショートの神田はベースカバーを幸村に任せて三遊間の深くに構える。幸村は二塁ベース近く、打球に関してはセンター気味の打球を警戒。

 

「ただそのせいで一二塁間が大きく開いている」

「なるほど、ここで畑選手がどう言うバッティングをするのか注目ですね」

 

(おいおい、初回のピンチからやるシフトじゃないだろ、どうせ右には打てないってか? 舐めやがって。大体こう言うのは有田でやるべきじゃないだろ!)

 

 初球、内に入ったストレートをミートする。打球は鋭いが大きくファールゾーンへ外れる。

 

「あぶない、元々コントロール良いイメージないですけどまだ調子上がってないんですかね」

「荒れ玉……て言うよりストライクゾーンが大体真ん中しかないようなピッチャーだからな。しっかりボールにパワーがあれば良いんだが、今の状態だとレフトの頭も超えられそうだな」

 

 ボール、ボール。甘い球を投げまいと逆にカウントを悪くするバッテリー。

 

(勘弁してくれ、フォアボールよりタイムリーヒットでアピールをしたい)

 

 遠目に見ても、打席に立つ畑選手に明らかに力が入る。わかりやすいが次の球を狙っている。

 なら狙っている球は何だ? バッテリー的にはこれ以上カウントは悪くしたくない、甘い球もダメ。ならここで一番自信のあるボールを……

(ほらな! スライダー、っ!)

 

 おそらくだが、お互い球種への読みは合っていた。外角のボールだとも。だが、アウトローギリギリ入るかどうかのボール。畑選手のバットは、もう止まらない。

 

(クソが! こんな球シーズンでもそんな投げれねーだろ、取っとけや!)

 

 しかし、あたりが良かったのか打球は狙い通りぽっかり空いた一二塁間、定位置なら平凡なセカンドゴロだろうがまず抜けるだろう。石田選手の足なら打点にはならないだろう。そう、考えていた。

 

「あれ?」

 誰もいないと思われたそこには、すでにいる幸村。そのまま捕球し一塁へ送球。まるで最初からそこに居たような、平凡なセカンドゴロ。

 怪訝な表情のままベンチに戻る畑選手もおそらく困惑しているだろう。

 

(ありえねぇ、確かに前評判で守備が上手いとは聞いていた。仮に打球に追いつかれたならまぁ、わかる。わかんねえ、守備位置は変わっていなかったはずなのに。なんであいつはあそこに?)

 

――――

 

 とまぁ、色々と考察している畑だったがそもそも彼が思案するべきはそこではない。今日の練習が終了するとすぐに2軍行きを命じられるのだから。

 

 この日の紅白戦彼は3打数ノーヒット。だが、これは問題ではない。

 原因は一打席目、初球の甘い球をファールにしたところ。どうしてセカンドゴロになったのか? ではない、1試合に何度あるかわからない自分の得意なコースへの失投(打ちやすい球)、これを一撃で仕留められない。

 まして、そのミスを挽回するどころかそこに気づいてすらいない。

 

 もし、昨年までの監督ならば今までの実績を考慮し残していたかもしれない。

 なのでこれは警告。このチームを変えるため、勝たせるチームに変えるため少しの怠慢すら許さない。これはチーム再建を求められたウォルカー・モーリス新監督の意思表示である。

 

 少し、時間を戻そう。

 畑のセカンドゴロの間にランナーは三塁へ。2アウトランナー三塁から四番の遠藤がライトフライでスリーアウトチェンジ。そして――

 

 エース郡 龍士(こおり りゅうし)が紅組のマウンドへと上がる。

 

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