常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する 作:鋼鉄の山本
第五十九話 連敗の重み
『放送席、放送席。今日のヒーローは決勝打を放った毛利選手です! まずは今のお気持ちをお聞かせください』
『そうですね、開幕したからずっと桐間か大下さんだけ目立ってたんで……今日こそはお立ち台に上がれてうれしいです!』
降り注ぐ拍手の中、ビジターでの試合ゆえか慎ましく行われているヒーローインタビュー。
今日の試合で選ばれたのは、9回に勝ち越しタイムリーヒットを打った正捕手・日下部。
「くっそー、密かに2試合連続ヒーロー狙ってたんですけど!」
「密かにつうか、毎試合狙ってんだろ。というか今日の出来で呼ばれるほうが嫌じゃね」
「そうなんですけど! そりゃそうなんですけど!」
5打数4安打3打点。見事にサイクルヒットを達成した桐間が、あそこに立っていたのはもう昨日の話。
……しかし今日の出来はというと4打数ノーヒット。しかも守備でのミスもあった。
「ったく、間違いなく昨日はすごかったが一試合は一試合だからな。全く……クリーンナップが足引っ張ってたら勝てる試合も勝てんぞ」
「突っ込み待ちかよ凱」
そんな話を矢田としていたところ、少し調子に乗っているとでも思われていたのだろう。昨日の試合は桐間の同点ツーベースの後に勝ち越しタイムリーを打った大下が釘を刺しに来る。
……もっとも、この男も今日は4打数ノーヒット(2三振)と振るってはいない。
「別にいつも通りのつもりだったんですけど、舞い上がってたんですかね?」
「
「え、矢田っち……どの基準ならそう思えるの?」
「さっきから気になってたけど、俺年上だからな! ……まぁ、思っていたよりお前のライバルがすげぇやつだったのは認めるけどよ」
そんな、いつも通りのやり取りをしつつ同僚の晴れ舞台を見守る三人。
久しぶりのインタビューに舞い上がりながらも丁寧に返していく日下部。
……だが、せっかくのヒーローの声はこの3日間で聞いたことのない罵声にかき消されている。
「ふざけんな、今日で8連敗だぞ! どうなってんだよ!」
「コロコロ、コロコロ選手入れ替えやがって! 勝つ気あるのかよ!」
「去年よりひどいじゃねぇかぁ! 有永は福岡でもう2勝だぞ!? なんで放出したんだ!」
「やる気ないなら辞めちまえよ! お前らプロじゃねぇよ……いい加減にしてくれ!」
結果として、大江戸ペンギンズ対湘南シープスの最初の三連戦はシープスの三連勝で幕を閉じた。
この試合の結果シープスは2位に浮上。一方でペンギンズはこれで8連敗。
開幕戦以降、一勝もできていないこの現状に不満を持つファンも多い……いや、ほぼ全てのファンが憤りを感じている。
「これ、昨日もやってたよな」
「うん。いくら敵でもこれはちょっと同情しちゃうな」
「余計な感傷はよせ、お前ら」
いくらプロ入りしてから最下位を味わったことがないとはいえ、こういう場面は自分たちだって経験がある。
けれど、情けをかけている場合ではない。あくまでペンギンズとは敵球団。気を抜かず次戦も勝ち星を挙げる……そういう話だと認識した二人だったが、大下は首を横に振る。
「そんな優しい理由じゃねぇよ。これを聞いて、何かを感じるやつが、あのチームに何人いるって話だよ」
——————
「彼らの言葉は罵声ではなく、悲鳴だ! とGMはおっしゃっています」
「……もちろん、わかっていますとも」
試合も終わり、すでに日が変わるまであと長針半周といったところ。
外の暗闇よりも暗く、梅雨空よりもどんよりとした空気の中。
ふてぶてと、会議室の一番奥に居座る感情の死んだ着ぐるみを、連敗のせいか顔色の悪い一軍指導陣が囲みを作って集まっていた。
「しかし、まずはどこから手をつけていいのやら……」
「決まってる! 湘南戦は負けこそしたが点は取れている。石田の復帰と結城の起用で光は見えた。まずはリリーフの整備が第一です!」
そう語るのは今季から一軍投手コーチに就任している宇佐美だ。
そして、それに頷き続くのは守備コーチやバッテリーコーチ。
それも当然だろう。中継ぎはベテラン杉、若手千葉の二人以外はかなり点を取られている上、何よりクローザーを任せるはずだった助っ人マルティーヨ、昨年守護神の小宮が大不振。
今日の試合は8回まで2対2の同点だったのだが、小宮が最終回に打たれての敗北。
先発に関しては郡、加藤、大平が期待通りの活躍のため文句はないのだが、いずれにしても投手の補強を優先すべきと声が上がる。
「確かにいつもよりも点は取れていますが初戦に本塁打を打った畑は今二軍。今日も昨日も、後一本が出ずに負けているんですよ! 特に
そう進言するのは打撃コーチの大耳だ。若干39歳ながら抜擢された今季2年目のコーチは、繋がりのない打線にテコ入れをすべきだと話す。
「個人的には石田、幸村の一二番は効果的でないように思います」
そして、それに付け加えるように走塁コーチ白戸がもう一つの不安要素を付け加える。
それは長年チームのリードオフマンを務めてきた石田と幸村の相性の悪さ。
この二人はベンチの様子を見るに性格的な相性は悪くない。
ただ、試合となると足の遅い石田では幸村のゲッツーを誘いやすい。
また単打の多い石田では、幸村の前の塁に居てしまいやすい。それだと自慢のスピードに蓋をしてしまう。
ならば、打順を入れ替えようか。しかし、一人でチャンスを作れる幸村と昨年得点圏打率最下位の石田の組み合わせは、あまりいい予感がしない。
攻守ともに大きな穴が空いている現状。誰にチャンスを与えるか。また、限られた予算と残りの支配下枠4つ。どこを補強するべきか。
「補強については投手で数人目処はついていますが……野手についてはお手上げだとGMは仰っています」
「なら……いえ、なんでも無いです」
「イイノヨ、大耳チャン。何デモ言ッテチョーダイ」
それはこの場の全員が思っていたこと。促されて一番若いコーチが代表して口を開く。
「そういう状態ならなぜ、畑に一ヶ月の出場停止なんでしょうか。最近は空回り気味でしたが彼の打力はチームに必要不可欠。それに精神面でもチームを引っ張れる選手の一人でしたよ」
先日の喧嘩騒動による謹慎処分。どんな理由があれど、許してはいけない行為ではあるため深く切り込むことはしづらいが、それでも思うところはある。
「……すみません、私も柿田に対してですが同意見です。開幕直後は調子は良くありませんでしたが、我々ブルペン陣は柿田を頼りにしていました。どこでも投げられる器用さと、1年間ガス欠しないタフネス。目立つ能力ではありませんが彼無しでしばらく持たせるのは難しいですね」
そこに投手コーチが付け加える。
目処が立っているとはいえ、まだ具体的な話は上がっていない。すぐに投げられる人材が欲しい現場としては、まだ見ぬ腕利きよりも、実績のある
……それに、グレーな話になってしまうが。
「上への報告は必要な義務ですが……その、幸村のようにうまく誤魔化せなかったんですかね。幸い怪我人もいませんでしたし、内々的に処理するなどすれば……」
そんなことを言ったのは誰か、ガタン! と大きな音が不動を貫いてきた怪鳥の方から響く。
『いまいったばかはだれ?』
『もんだいをすりかえるな』
ガリガリと、持っているスケッチブックに力任せに殴られた文字。
商業用の丸文字のひらがなとは違い、荒々しく書きなぐられた言葉。
……だが、そんなことは理解しつつも、思うところはある。
幸村早南也の存在は、選手としてならともかくペンギンズの一員として見ると難しい存在だと。
「すみません、失言でした……。ですが、GM……監督もこれだけは聞いてください。お二人は幸村を特別扱いしすぎではないですか?」
中心ではないのかもしれないが、もしも幸村がいなければ間違いなく起きなかった騒動。
幸村早南也の野球選手としての能力は高い。よくサラマンダーズが出してくれたものだ。
だが、性格の良し悪しではなくこのペンギンズに合っていない。それがこのチームの総意であった。