常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する   作:鋼鉄の山本

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第六十話 最高のボールと最低のメンタル

 

「おいーっす、千葉っち自主練?」

「少しだけでも投げたくて……そういう拳もでしょ?」

「まあね」

 

 すでに時間は23時を回ろうとしている頃。

 試合も終わり、それぞれのチームメイトは遊びに行ったり、家族との時間のために早々に帰宅していたりと自分の時間を過ごしているころ。

 

 最近出番が回ってこなかった僕は、少しでも投げようと室内練習場を訪れていた。

 そうすると、先にいたのは見慣れた顔。

 ドラフト同期であり、同じポジション同じ学年で、なにより同じサウスポー。

 ローテーション投手として一軍に帯同している友人の加藤拳。

 

 普段この時間ならば、お互い郡龍士とともに自主練をしているはずの時間。

 だが、その郡さんは予定があるとかで今日は無し。

 もの寂しさを埋めるためにお互いやってきていた。

 

 ……どうやらもう2人ほど先客がいるな。

 

 扉の向こうから、すでに何度も爆発のようにミットの音が鳴り響いている。

 勢いからして豪速球……ならば石崎さんだろうなと目星をつける。

 

 先日打たれたとはいえ、すでにチームでトップクラスの出力の持ち主。あんな音を出せても不思議じゃない。

 それにここの練習場は寮の近くにあるため、よく顔を出しているのを覚えている。

 

 おそらく構えてるのは……多分照貴(結城)だろうな。

 リード以外は完璧と称される友人ならば、石崎さんの豪速球でもこういう風にいい音を鳴らせるだろう。

 

「せっかくなら二人も誘ってやろうぜ。4人も居れば色々できるだろうし」

「いいね」

 

 そんな時だった。不意に後ろから聞こえた聴き馴染みのある声。

 ドラフト同期で最近一軍に上がってきたばかりの若手捕手。

 5年前、高卒で指名された3人のうちの3人目。

 

「あれー? 加藤(かとやん)と千葉っち! 奇遇じゃん」

「よう、テル。ちょうどお前と当覇さん誘おう、と、してて……」

「……え、なんでいるの?」

 

 それこそ今まさに、扉の奥で捕手をしているはずの結城照貴の姿がそこにあった。

 

「なんでって、今日出番少なくて物足りないからバットでも振ろうと思ってたんだけど……そっちもじゃないの?」

「いやそうじゃなくて! てっきりもう居るもんだと思ってて……じゃあ中で捕ってるの誰!?」

 

 ここに結城がいるのならば捕手は誰なんだよ!? 森谷さんは家庭あるからホームゲームの日はこの時間まで残ってないし、牛島さんはマッサージに行く日のはず。

 

 ならば寮にいた二軍以下の選手……? だが、こんな柔らかいキャッチング音を出せる選手、他に誰かいたか?

 

「と、とりあえず入ろうぜ」

「そ、そうだね」

 

 意を決して……いや、覚悟なんてする必要はないのだが。

 妙な緊張感がある中、そろりと扉を開ける。

 

 ……予想外にもそこにいたのは三人。

 一人は予想通り石崎さん。やはりこの力強いボールは彼以外考えられなかった。

 もう一人は、バッターを想定しているのか打席に立つ橋本京水。

 

 そして三人目、石崎さんのボールを受けるキャッチャー。そこにいたのは想定外、なぜなら()()()()()()()()()()()()——

 

「なんで幸村さんがここにいるんすか!?」

 

——————

 

「あれ、千葉くん達。お疲れ」

「……ちっす」

「なんだよ、俺がいちゃ悪いか」

 

 当覇のボールを受けること数十分。

 自分らから開けておいて一体なんだってんだ。

 大袈裟なほどに驚きながらやってきたのは、数少ないペンギンズの誇れる23歳トリオ。

 

「ユキについては俺から頼み込んだんだ。俺に足りないものを教えてくれって。それで昨日からこうやって……」

「あ、いやそういう意味ではなくてですね」

「にしても幸村さんすごいいい音鳴らしますね! ……まさかキャッチャーも行けるんすか!」

 

 ……ああ、そうか。俺が当覇のボールを捕るのは意外か。確かにこのチームではあんまりやらなかったしな。

 

「一応言っとくけど捕るだけな。配球とかフィールディングとかは普通に無理。試合だと通用しないから安心しろよ」

「よかったー」

 

 照貴からの質問に答えつつ、当覇に練習の続きを促す。

 向こうには申し訳ないが、あと数球で一区切りつくのだ。

 それが終わってからゆっくり話そう。

 

「あと5球。右バッターのアウトローに」

 

 短く頷き、すぐに投球モーションに入る。

 当覇のフォームは意外とコンパクトだ。ランナーがいなくてもセットポジションで投げているし、左足はそんなに高く上げていない。……俺にとってはよく見慣れたフォーム。

 

 ——だというのにこの球威だもんな。

 

 左手に伝わる鈍い衝撃。彼だけ硬式球ではなくて鉄球でも投げているんじゃないかと錯覚する。

 

「すっげえボール……」

「やばいっすねトーハさん! これ試合で投げれたら無敵じゃないですか!」

「あう」

 

 最後の一球。その言葉を聞いた瞬間、一気に制球が乱れる。……ブルペンでもこれか、やっぱりこいつの欠点はここだよな。

 

「悪いユキ……そんで、どう? 俺のボール」

「まずは……京水、お前はどう思う?」

「そう……っすね。ぶっちゃけこんなストレート投げれる人、ペンギンズ(うち)どころか他のチームにもいないんじゃないですか」

 

 言いたいことはたくさんあるが、せっかく連れてきた京水に感想を聞く。

 驚いているがただ突っ立たせるために呼んだんじゃないからな。お前の練習も兼ねてんだからな。

 

 ……それと、せっかくだし今来たあいつらにも聞くか。

 

「三人組! お前らはどう思う」

「一括りにしないでください……ただ、概ね京水と一緒です。マジでストレートはチームで一番じゃないですか?」

「回転数もいいし、何より意外とコントロールもいいんですよね。テルじゃないですけど、試合で投げれたら最強だと思います」

「マジパネェっす!!」

 

 やはり帰ってくるのは同じ言葉。

 練習中のボールは素晴らしいという意見。

 俺もそれが一番に出てくるし、なんなら本人も自覚しているだろう。

 

 やっぱりこいつの弱点は——

 

「やっぱり、俺、精神が弱いから……」

「……で、でもそれさえ克服できちゃえばすぐにでも通用すると思いますよ!」

 

 おいおい、後輩(千葉)に気を使わせるなよ。

 ……せっかくだし、こいつらも巻き込んでみるか。

 

「例えばだけど……京水は守備が良くて足も速いから、打撃をなんとかしろって良くいわれてるけど、なんかアドバイスある?」

「あー、投手からするとすげーありがたい打者って感じなのなんとかすべきだと思うぜ。ボール球空振りしてくれるし、甘いコース見送ってくれるし」

「まず緩い変化球に手が出ちゃうほうが問題じゃない? それできるだけで2割は行けるでしょ」

「じゃあ当覇のメンタルなんとかする方法は?」

 

 ようやく問題点に気づく二人。

 精神が弱いだけで片付けたくはない。当覇がマウンドに立てるかどうかでうちの勝率はぐっと上がる。

 

 京水に対して具体策を挙げられたのは過去のデータがあるから。ならばまずやるべきは当覇の分析から。

 

「分析って言ってもどこから手をつければ良いのか……」

「打たれた2試合ともピンチでの登板だったろ? だから失点するのが怖いとか?」

「いや、2試合目の大下さんとはファール打たれるまでよかったと思いますよ? それに、初登板であの状況に駆り出されるなら何かしらの実績はあるんじゃないですか?」

 

 この二人(加藤と千葉)は話が早くて助かるよ。

 ペンギンズの中でも特に成長著しい若手のコンビはいつもこうやって議論を重ねているんだろうな。

 

 成功と失敗を曖昧にせずにきっちりと分析、反省ができている。

 普段からちゃんとやっているのが、直近の試合結果からも見て取れる。

 

「……えーっとぉ、メンタルを鍛える……?」

「照貴、京水の打撃見てやってくれ。当覇の方はこっちでやってるから」

「了解っす!」

「えっ! なんで俺もですか」

 

 ……よくわかっていない照貴には少し外してもらおう。

 まあこいつは下手に考えるよりも無心で練習の成果を発揮できるタイプだから問題はない。

 

「お前俺とカキ、あとは神田さんとぐらいしか喋ってるとこ見たことないぞ。チームに馴染め、交流は大事だぞ」

「あんたにだけは言われたくない!」

 

 照貴はアホなだけでとっつきやすいタイプだし、京水の面倒でも見てもらおう。技術指導はまるっきり期待していないが、自分から喋ってくれるタイプなら話しやすいだろうし、コミュ障のこいつでも間が持つだろ。

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