常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する   作:鋼鉄の山本

64 / 74
第六十二話 何よりの絶望

 

「ユキさん、その……大丈夫でした?」

「あぁ、うん。神田さんと郡さんにすごいこっぴどく怒られた。人としてあり得ないって」

「でしょうね」

 

 ホーム湘南戦を終えた我らペンギンズは、東京から西日本……正確に言うと広島県へと向かっている。

 

 移動疲れで皆ぐったりしていると言うのもあるが、現在八連敗中でチーム内外の空気は最悪。

 いつもの三割増しで険悪な空気の新幹線車内。そこで俺が今にも死にそうなのには理由があった。

 

——————

 

「……すげぇ、こんなボールが」

「言っておくけど、やっぱり今年一年は準備の年ってことにしたほうがいい。チームにはカウンセラーさんもいるし、頑張って少しずつ改善していくほうが、まだ克服する可能性高いと思うよ」

「だろうね。でも今のボールを見て思ったよ……一年かけても克服できる可能性は低い。なら、少しでも一軍で活躍できる方を選びたい」

 

 それに、可能性って言っても大して確率変わらないでしょ。

 と、にやりと作って笑う当覇に対して感嘆のため息が出る。……こんなことを言えるやつは、マウンドであんなに動揺しないだろ。

 

「というか、トーハさんって見られるのが怖いって言いますけど甲子園……は出ていないとしても大学、社会人と活躍してたじゃないですか。こっちからすると何を今さらって思うんですけど」

「いやいや、俺もそう思ってたんだけれどプロのマウンドは怖いよ。……憧れの舞台に自分から登ったつもりなんだけど、打者の圧だったり観客の声だったり、色々想像以上だった」

「おい、間違っても二軍のほうが投げやすいとか言うなよ」

 

 わかってるよ、と返す当覇。

 こいつ二軍の成績めちゃくちゃいいんだよな……5試合6イニングでノーヒット、7三振。

 けどこいつは二軍の帝王になっちゃダメなやつだ。

 幸い自分で危機感を持ててるのが救いだな。……今は悪い意味での方が強いけれど。

 

 でも、このチームにおいて自分をここまで追い込める奴はあんまりいない。それは間違いなく武器になってくれると思う。

 ……なんとかこの方法でうまく行ってくれると良いんだが。

 

「それにしても幸村さんって結構いい人なんですね。いくら同級生って言っても、普通はこんなに面倒見ないですよ」

 

 ちょっと誤解してました、なんて笑いながら言う千葉。

 ……そうだろうか。一緒に練習するなんて郡さんとかもやっているし、特別なことをしているつもりなんてないのだが。

 

 それでもまぁ、今ちょっとチームから浮いている現状。一軍の戦力にそう言ってもらえるのは助かる。

 

「いや、でも滅多にできないですよ。わざわざ神田さんとの約束を断ってまでチームメイトの練習に付き合うなんて」

「別にお人好しじゃないぞ。今回は当覇がめちゃくちゃやる気あるし、全部素直に聞いてくれるからこうやって付き合ってるだけで——ごめん、今なんて言った?」

 

 神田さんとの約束? それは昨日すぐにちゃんと断ったはず……。

 

『今日の夜空いてるか、()()? 少しこのチームのことで話したいことがあるんだ』

『……すみません、試合の後先約があるので、ちょっと……』

『え、ああそうなの!? ああ、じゃあ明日とかどうだ? 明日空けられる?』

『あ、明日なら、ハイ』

 

 ちょうど昨日、畑さん達が二軍に落とされて気まずい空気が流れていた試合開始前。

 京水を除いて、唯一俺に話しかけてくれた神田さんとの会話。

 

 あの時は、もうすでに当覇から練習に付き合ってほしいと言われていたため断ったはず。

 ええと、それで日程がズレて……ズレて…………。

 

 急いで携帯を取りに行く。

 案の定というか、普段から頻繁に使わないメッセージアプリには10数件の通知が溜まっていて……。

 

『今日の店ここな? 22時半から予約入れてるから試合終わり次第すぐに準備しろよ』

『まだ来てないみたいだけど場所わかるか?』

『言ってなかったけど今日郡もくるからな。遅れそうなら連絡入れろよ』

『既読ついてないけど、まさかバット振ってないよな』

『留守電』

『留守電』

『留守電』

——————

 

 今までかいていた汗の上から、やけに冷たいものが落ちてくる。

 

 ……よし、一旦落ち着こう。約束の時間は22時半。指定された店は今からタクシーを使えば30分で着く。それで今の時刻は23時半……なるほど…………。

 

 相手はチームの顔で実質的なリーダーの神田さんとエースの郡さん。

 …………なるほどなるほど、全然致命傷だな。

 

 そんな中、手に持つ携帯からピコンと通知音がなる。

 今開いている画面が更新された音。恐る恐る薄目でちらりと覗き込む。

 

『ようやく既読ついたな。何時だと思ってんだ?』

 

 ——ふぅ、終わった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。