常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する 作:鋼鉄の山本
現在八連敗中の我らがペンギンズ。その次の対戦カードは瀬戸内モンキーズとのアウェイ三連戦。
また、ペンギンズほど落ちぶれてはいないが5年連続Bクラスと近年実績が振るっていないチーム。
今日こそは負けていられない……そんな思いがチームにはあると思う。
格上であることには違いないのだけれども。
そんなピリピリとしたペンギンズのベンチを抜け出して向かうのは、モンキーズのベンチの近く。
「久しぶりです、
まだ幸い投球練習を始めようとしたところだったんだろう。ガチャガチャとプロテクターを鳴らす、おそらく今日のスタメンマスクに声をかける。
お互いによく見知った顔。彼は気づいてくれた瞬間に俺の方に駆け寄ってくれる。
「ん……おお! ユキじゃねぇか! ははは、なんだよ、絶好調みたいだなお前!」
昨冬、サラマンダーズはオフに5回のトレードを成立させている。
その中で最も話題になったのは俺と有永のトレードでも、かつてのレギュラー、坂井直隆の放出でもなかった。
その選手の名前は
昨年は、若手捕手の飛躍もあり二番手扱いとなってしまったが、それでも52試合でマスクを被った司令塔。
そんな彼は、モンキーズの火消し役だった河野投手との交換トレードにて、俺に続きリ・リーグに移籍していた。
「おいおい、ちょっと見ない間にデカくなったんじゃないか?」
「ヤエさんだって! なんかふっくらしましたね! あだっ!」
ぽこり、と軽快な音が俺の頭から響く。
……ちょっとふざけただけじゃないですか。
でも、ずっと初めての環境に苦戦している俺にとってはようやく。ものすごく待ち望んでいた、いつもの時間。
「ヤエさん、なんすかそいつ。スパイかなんかですか?」
「違う違う、福岡の時の同僚だよ。幸村早南也、知ってるだろ?」
「名前は知ってますよ。……それより、試合前に受けてくれるって約束でしたよね」
かつての同僚と久しぶりの再会に盛り上がっていると、それをよく思っていなさそうな声。
ギョロリ、とおそらく190を優に超える長身から不機嫌そうにこちらを見下す若者。
しかし、まだまだ線が細く、何より顔からあどけなさが抜けきっていない。
そのせいで威圧感というよりも不機嫌な子供、といった印象の方が強い。
それもそのはず。彼はまだ高卒2年目の20歳なのだから。
それでいながら、開幕から瀬戸内モンキーズのブルペンに名を連ねる期待の新星
試合開始前だから少しぐらい融通を利かせて欲しいが、練習の妨げになるなら仕方ない。大人しく撤退しよう。
「じゃあ、また試合で。俺出るかわかりませんけど当たったらお手柔らかに」
「嘘つけ、今のお前を外す意味がわからん。……多分一番センターだろ。幸村早南也は要警戒対象だって今日のスタメンマスクに伝えとくよ」
白々しい。そっちこそ、どうせ今日もキャッチャーはあんたでしょうよ、と心の中で呟きつつそそくさと退散する。
まだスタメン発表前だからお互いに確信しつつも、一応ぼかしながらこの場を去る。
……それにしても一番センターか。いい線いくな、ヤエさん。
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先行 大江戸ペンギンズ
1番 石田 右
2番 堀江 左
3番 マシューズ 三
4番 遠藤 一
5番 幸村 中
6番 結城 捕
7番 神田 二
8番 橋本 遊
9番 加藤 投
後攻 瀬戸内モンキーズ
1番 海 三
2番 ウィーゴー 中
3番 アルダマイヤ 左
4番 春川 右
5番 雨崎 遊
6番 笠松 一
7番 八重樫 捕
8番 谷重 二
9番 女川 投
「随分と思い切った変更ですね」
「YES。コレガチームノ
試合開始前ながら、昨日までとは違う打順に相手が戸惑ってくれれば儲け物だったが……まあ、反応はボチボチといったところか。
昨日の会議の結論としては、現状入れ替える候補はいてもまだ見極めるには早いという判断。
問題の先延ばしと言われてしまえばその通り。だが、なんとか打てる手を考えた結果が、この打順変更。
今まで上位を打たせていた神田と下位打線がメインの堀江の入れ替え。さらに開幕から固定していたマシューズの四番剥奪。代わりの四番には怪我開けの遠藤を抜擢……だが、何よりも目立つのはクリンナップに幸村を起用したところだろう。
『一番 ライト 石田 背番号9』
そんな今のチームで、唯一固定されているのが先頭の石田。(※結城は昨日の試合途中出場)
ケガ明けながら、現在3試合連続安打中。
昨年までの実績もあるとはいえ、すでにモーリスからの信頼を勝ち得ているチーム屈指のヒットメーカー。
その二球目。初球よりも甘く入った外角低めを打ち返す。
だが、打球に勢いはない。見事に芯を外されている。
「アウト!」
ボテボテのサードゴロ。
けれど問題はそこじゃない。
(石田さんが二球でアウトになった?)
ベンチからそれを見ていた幸村にとってそれは衝撃的な内容。
石田哲平の武器の一つが打席での粘り。甘いボールか、打てるコースに来るまでとことん耐球してくる。
その鬱陶しさこそ、彼を一番打者として起用する理由の一つ。
「あー! もう嫌! 僕あの人キライ!」
「子供ですか……もう三十路でしょうよ」
「ユッキーも打席立てばわかるよ! あの人のボール見づらいし、打ちづらいから!」
そんなやりとりをしているうちに、今日は俺の代わりに二番抜擢の堀江さんが左打席に入った。