常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する   作:鋼鉄の山本

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第六十七話 焦りと好機

6回表1アウトランナー一塁

 

 ここまで好投を続けていた女川だったが、ついに疲れが見え始める。

 今まで投球の中心だったスライダーが枠を外れ出したのだ。

 

 1アウトから、今日もカモにしていた石田を相手に四球を献上。

 しかし、ここで打席には2打席凡退の堀江。

 案の定、その顔にははっきりと余裕がないと書かれている。

 

(まずいまずい、今年は全試合スタメンで出して貰っといて打率は2割ちょうど。ここで打てなかったらついに一割台に突入しちまう。……それに、今更ながらセンター幸村が恐ろしく良い! 外野の競争率が低い今、センターにコンバートしてくるんじゃないか? そんなことになったら俺のポジションは……というか、畑さんが復帰してきたり、他に打てる外野手が入ってきたら俺の出番はどうなるんだ!? このままだとベンチに下げられる、年俸が下がっちまう)

 

 それだけは阻止しないと……そう強く思えば思うほど目に見えて肩に力が入っていく。

 

 初球、ストレート。高めのボール球を空振りしてしまい1ストライク。明らかにボールが見えていない。

 二球目、アウトコースに構えたスライダーがすっぽ抜ける。今日初めて大きく枠を外れるボール球。……それにすらバットが止まらない。2ストライク。

 

(いやいや、こんなクソボールにまで手を出してくれんのかよこいつ。……自動アウトには助かっているけど、このレベルの選手を使い続けてんのやばいだろ)

 

 敵だとしても、さすがの八重樫も苦言を呈してしまいそうになる。

 

 ……一球試してみよう。そう思い要求するのはアウトコースのボールゾーンギリギリ。打席で左右違いはあれど、幸村から空振りを奪ったコースと同じところ。

 

 スピードは彼の平均球速よりやや遅い120キロ前半のボール。

 ボールゾーンからストライクに入ってくるスライダー。そう判断し当てに行く堀江だが……バットに当たらない。というよりも届いていない。

 

(曲がりきらない!? ……カットボールか!)

(なんか勘違いしてるな。スライダー気味に投げてもらっただけで、ただのストレートだよ。……こいつ、神戸にいた時はもっとマシな選手だったろ)

 

 だが、何を投げられたかなんて関係がない。

 ボール球を3つ振って三球三振。この内容ははっきり言って最悪な結果。

 

(やばい、終わった……代えられる)

「イチイチベンチヲ見ルナ!」

「……っ!」

 

 そんな心情なんて簡単に見抜かれる。

 ただでさえ結果が出ていない中で、モーリスの蛇のような視線を向けられてはただでは済まない。

 

「……安心ナサイ。今日ハマダチャンスアゲルワ」

「……へ?」

 

 だからこそ、その言葉は意外なもの。こちらを安心させるかのように、小さな子供へ向けているかのような優しい口調。

 けれどそれは、決して励ましなどではない。

 

「ほっとするな堀江! 今日のスタメンにはある意図がある。だからよっぽどのことがなければお前は代えない」

「う、上谷さん……」

「その代わり、俺たちが定めた基準に当てはまらなければしばらくお前を使わない」

「そん…………はい。それで、その基準っていうのは」

「教えん! 死ぬ気で考えろ!」

 

 堀江が想定していたよりも、彼の立場は苦しい。なんとか返事を捻り出すも、モーリス、上谷からはこれ以上言葉は返ってこない。

 

 ……だが、試合中に絶望をする暇なんてどこにもない。

 

「打ったー! 四番を剥奪されたとはいえ、強打者マシューズがツーベースヒット!」

「ツーアウトランナー二三塁で、迎えるは今日の四番!」

 

『四番 ファースト 遠藤 背番号60』

 

 マシューズの代わりに四番に抜擢されたのは今年7年目の内野手遠藤 勝利(えんどう かつとし)

 怪我が多く年間60試合以上の出場こそないが、それでもマシューズに次ぐスラッガーとして在籍する31歳。

 

 約一週間ぶりのスタメンだが、代打で出た直近2試合で2安打と状態は悪くない。

 

(……こいつは飛ばしてくるイメージがある。けど、この打席だと結構短く持ってんな。得点圏にランナーがいるうえ、2アウトだから大きいのはいらないってのをよくわかっている)

 

 初球、低めに外れたボール球を悠然と見逃し1ボール。

 二球目、カウントを取るためのスライダーをバットに当てられファール。

 そこからさらに、インコース高めのストレートでファールを打たせて追い込む。

 

 四球目、スライダーを内枠低めギリギリに。

 本来なら手を出されてもゴロになるコース。しっかりと女川も投げ切るが遠藤は見極める。カウント2-2。

 

(チッ……他の奴らなら手を出してくれるコースなんだけど、さすがに舐めすぎたか。でも、次の打者は幸村なんだ。このピンチはここで抑えたい!)

 

 五球目、六球目と厳しいコースに投げ続けるが、ことごとくボールをカットされ続ける。

 ボールを一つ挟んで八球目。スライダーが少しだけ高めに浮く。

 そのボールを逃さない。左足を踏み込んで強く打ち返す。

 

「スライダーを逆方向に打ち返した!」

「痛烈な打球は一二塁を抜ける! 三塁ランナー生還、二塁のマシューズは三塁でストップ! 四番遠藤のタイムリーヒットでペンギンズ勝ち越し!」

 

 ここまで好投を続けていた女川であるが、ここにきて失投が増えてくる。

 それでも今日はまだ二失点。瀬戸内のベンチは動きをみせない。

 

「まだ6回だ。疲れてないよな?」

「当然! 少し運が悪かっただけですよ」

 

 こういう時、投手は決して弱音を吐かない生き物だ。だからこそ、かける言葉は心配であってはいけない。

 

(それに何より、この程度で音を上げる投手であって欲しくはない)

 

 これ以上の失点は避けたい。だというのに、ここで迎えるのは……かつての同僚だとかの贔屓目はない。

 打率はペンギンズでトップ。さらに言うと2回の打席結果で本塁打もチーム一位に躍り出ている。

 

 得点圏打席が最近までなかったせいで目立たないが、チャンスでの強さ、ここ一番の集中力は健在。

 

 今の幸村早南也は、ただただペンギンズで一番当たっているだけのバッター。

  

「……ここから先は言い訳無用、結果だけに集中。コースは厳しいところだけ。最悪は四球まで、ヒットは絶対打たせないでいくぞ!」

「はい!」

 

6回表2アウトランナー一三塁

 

 逆転直後であり、未だに得点圏にランナーがいる状態。

 さらにいうと遠藤に代わり、一塁ランナーは俊足の角田。

 

 追加点を狙うのに絶好の状況(シチュエーション)

 幸村は打席に立つと、まずはヘルメットを三度叩くルーティーン。逸る心を少しでも落ち着かせる。

 

「相変わらず、何狙ってかわかりやすいルーティーンしてんのな。頭3回は変化球用だっけか?」

「……さあ? いつもこれじゃないですか?」

 

 集中を削いでこようと八重樫が囁いてくるが、大して気にしたそぶりもなく投手にだけ集中している。

 本人からしても、ルーティーンの意味がバレていようと関係がないのだから。

 

(初球インコース。空振りのイメージがある内に攻めていこう……大丈夫、危なくてもちゃんと避けるやつだから怖がらずに投げ込め!)

(了解です、狙いは胸元ギリギリ)

 

 ——汗か、疲れか、はたまた慎重になり過ぎた結果か。

 

(攻め切れてない! ストライク寄り過ぎる、まずい!)

 

 八重樫の想定よりも数センチ中に入ったボール。……それだけで十分だった。

 

 足を外に大きく開き視界を確保、いつもより少しだけ長くボールを呼び込みバットを出す。

 

 無理やりなスイングな上、ジャストミートとは行かない手応え。だが、ライナーとフライの中間のような打球となり、三塁手の頭上を余裕で越す。

 

 勢いがないが、ファウルラインギリギリ。角度によって、落下位置はラインの外側のように見える。

 

(——いや打球の軌道がおかしい! 変な回転がかかってんのか! ……ならまずい!)

 

「フェアだ! レフト周り込め!」

 

 三塁手、海の打球予測は正確であった。レフトへのコーチングの判断も的確。

 それでも、フェアゾーンギリギリに落ちたボールは、レフトから逃げるようにファウルゾーンを転々と転がる。

 その間にサードにいたマシューズがホームベースをしっかりと踏み締める。

 

「2アウトでスタートしていた角田が三塁も蹴った!?」

「ライン際とはいえそこそこ浅いぞ!?」

 

(いや、レフトのアルダマイヤは守備意識が低いで有名! 当てた瞬間にスタートしたおかげで俺も帰れる! このチームのスピード担当は幸村だけじゃないんだぜ!)

 

 角田の昨シーズンまでの役割は内野のユーティリティ兼代走要員。

 シーズン開幕前の予想では幸村と立場が被っていた選手。

 

 しかし、現在は幸村と大きな差をつけられている上、内野の席はバックアップを含めて埋まっている状態。

 畑の代わりに昇格したばかりで今日が今シーズン初出場。そういう事情もあって浮き足だってしまったのであろう。

 

 要するに——

 

「——さすがに舐め過ぎだ!」

「アウト!」

 

 確かに一点は仕方なかった。だが、モンキーズにとっては最悪に至らない。

 アルダマイヤがいつもより一歩早く打球に追いつけたのはサードの判断が早かったから。

 そして海がレフトからボールを受け取ると、無駄のないスローイングで、頭から滑り込む角田を追い越す矢のような送球。

 

 派手さはないが堅実な連携でこれ以上の失点を防いで見せた。……しかし。

 

「すみません! 四球でもいいって言われたのにストライク欲しがりました!」

「それが投手の本能(サガ)ってやつなんだろ! ……失敗は悔め、今日の経験を噛み締めろ。お互い、次は打たれないようにな。とりあえず、俺に謝るより海に感謝な!」

「………………すいませんでした!」

 

 ベンチに戻る際に頭を下げる女川。

 今日の結果は6回三失点。記録だけで見ればQSと上々のものにも見えるが、女川からすると悔しい結果。

 

 ただ、そんな彼よりもこの失点を噛み締める男が一人。

 

(次の回は俺に回ってくる。今日はまだ二点差、試合はどうとでもなる。……女房役としても先輩としても、幸村にだけは打たれたくなかった。この失点は、インコースを打てないって印象に引っ張られすぎた俺の責任なんだ。せめて負けだけでも消させてもらうぞ)

 

大江戸ペンギンズ3-瀬戸内モンキーズ1

 

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