常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する   作:鋼鉄の山本

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第七話

 白組の先頭バッターが2球でアウトとなりすぐに打席が回ってくる。

 

 郡さんは白組の先発の有田さんと同い年、身長も同じく180ないぐらいだろう。一方でガタイがよく、無精髭とビール腹の目立つ所謂おじさん体型の彼とは違い、すらっとしたフォルムといまだに女性ファンに支持されるルックスでとてもベテラン感がない。

 

 にもかかわらず、長年活躍してきた自負からか、はたまた元来の気質か、そのマウンドでの雰囲気に圧倒される。

 

(本当にいい選手ってのは見てすぐわかる。この人だけサラマンダーズ(うち)にいても見劣りしない)

 いや、もう()()ではないか。

 

 自戒の意味()込めてコツンと頭を叩く。集中しろ、この人だけは簡単に打てない。

 

 郡さんが投球モーションに入る。体に捩れを加え、左膝が地面につきそうなほど、大きく投球歩幅を踏み出す。異様なほど深く沈み込む下半身。一方、上半身は強くしなりを上げる。そして、ボールは頭の裏、体の背面から急に飛び込んで来る。

 

 ズバンとボールはアウトローいっぱい、ボール。今はまだ肩が出来ていないが、シーズン中ならおそらくもっと厳しいところに投げてくるだろう。

 

 2球目、すぐに来たがタイミングが合わない、見逃す。ストライク。

 

 ダイナミックなフォームから想像もつかない()()。球速は今の段階で130キロぐらいか? シーズンでも最速142キロ。平均球速136.6キロと、プロとして戦うにはあまりに遅い。

 

 そんな球でも、出どころが分かりづらいフォームとうねうね曲がるクセ玉、抜群のコントロール。それとプロトップレベルの決め球(ウイニングショット)。低迷するこのペンギンズで唯一勝ち星を上げ続ける『氷のエース』

 

 3球目、インコース、タイミングを測りに行く、スライダー。バットを出すもミートポイントがズレる、感触が悪い。三塁線の外側をボテボテと転がる。ファール、危なかった。

 

 一度間を作り、立て直す。彼への対応は変えない。集中するためバットを三度ほどヘルメットに当てる。

 シーズン中なら多分、くる。裏を描いて別の変化球を投げて来ることも考えられるが、今日俺と当たるのは多分あともう1回ぐらいだろうし、投げてこい。と言うより投げて欲しい。

 

 4球目、速い球、アウトハイ外れてボール。カウント2ボール2ストライク(ツーツー)。決めにこい、あの球でこい。

 

 5球目、郡さんが腕を振る、ボール消える、消えた? 違う上、山なりのボール。すっぽ抜け? ボール球? 違う、遅い(こない)遅い(こない)遅い(こない)。強烈なスピンをかけられた山なりのボールは打者の目の前で急激に落ちてくる。

 

 この球を――待っていた。

 

 彼にしては少し高い、打ちごろ。ギリギリまで溜めて、溜めて、落ち際を掬う。

 狙い通り打球は左中間へ。ショートに抜擢された期待の若手が必死に追う。足が速い、追いつくか? だが体勢が悪い。ボールを背面にしたまま懸命に飛ぶ。無駄だ、届かない……あれ!? 届いた!? あっ、止められるんですか、あの打球。

 

「ツーアウト!」

 紅白戦とは言えファインプレー、紅組が盛り上がる。

 その張本人はと言うと至って冷静。ボールを投手に返すと一言告げポジションに戻る。

 

 まさかあれがヒットにならないとは……侮るつもりはなかったが、他にもいい選手がいたもんだな。

 高卒3年目の橋本 京水(はしもと きょうすい)か……まさか、名前を覚えさせられるとは……。

 

「幸村、アウトだよ。早く戻って(ハリーハリー)

 

 あっ、やべ! すいません!

 

――

 

 4回表ノーアウトランナー無

 

 順調に進む紅白戦。2回に紅組が四球、進塁打、ヒットで先制し逆にこちらは郡さんにしっかりと押さえ込まれ無得点。

 次の攻撃は自分から、とは言ってもまずはここを抑えたい。

 

 投手はこの回から有田さんが変わる。バッターは四番の遠藤さん。だったが三振に取り1アウト。

 続くは五番の佐藤さん。去年1軍だとそんなにいい成績ではなかったが、2軍ではリーグ安打数2位と結構活躍している選手。最初の打席はセカンドゴロでランナーを進めている。

 

 こちらの2番手もまだ制球が定まらないのか3ボール。歩かせるか? とも思ったがキャッチャーはゾーンへ構える。勝負か。

 しかし、ストライクを取りに行ったスライダーを狙われる。ライト前ヒットで1アウトランナー一塁。

 

 打席には先ほどタイムリーの越後さん。昨年はセカンドとして確か80試合ぐらいに出場した選手。キャッチャーのサインはゲッツーシフト。了解、二遊間の間隔を狭める。

 

 スライダーとカットボールを外に投げ、2ボール。今投げている柿田はそこまでコントロールが悪いイメージはないが……今日はかなり荒れているな。一度空気を変えたい。

 

「落ち着こうぜ柿田! しっかり腕振りゃ大丈夫だ!」

「一回落ち着こうか柿田(カキ)。後ろは任して!」

「――ふぅ、すんませんお二人! そっちに打球行ったら頼んます」

 

 どうやら、神田さんも同じことを考えていたのかタイミングが合う。

 さて、一息つけたならいいんだけど……。

 と、思ったが大丈夫そうか。インコースにスライダー、右バッターの越後さんに向かっていく軌道。ストライク、いいコース。

 

 4球目、外角低めにストレート、カットされカウント2ボール2ストライク(ツーツー)。5球目、6球目も粘られカウントそのまま7球目。

 

 粘る越後さんに1つ気が付く。スタンスが分かりやすく狭くなっている。あれではインコースを打ちづらいだろう。

 守備位置を少し変える。

 7球目低めにカットボール、しかしやや高いか。

 内に入ってくるボールを狙っていたとばかりに体を開く。そして変化に合わせて力一杯に引っ張る。

 

 ――わかりやすい誘いだ。少し移動した守備範囲にぎりぎり飛んでくる。とはいえ痛烈なあたり。膝をつきながら、なんとかグラブの端で捕球に成功する。早い打球のおかげで佐藤さんはまだ一二塁間の半分程度までしか来ていない。二塁間に合う「ファースト!」反転スローでっ!

 

 ――何が起きたのか、すぐにはわからなかった。突然音を失くすグラウンド、その中でべチンといやな音だけが響く。神田さんの咄嗟に出したグラブが俺の送球をはじいた音…………まずい!

 ボールは転々とレフト線を超えファールゾーンへ。

 

 レフトが何とか回り込みボールを抑えるも、佐藤さんがホームに、越後さんは三塁に到達。2対0。いや、それ以上にまずいミス。

 

「幸村! なんで二塁に投げた! 無理する場面じゃないだろ!」

 見たこともない形相で神田さんがこちらに詰めてくる。

 でも、今のは。

「無理じゃねーっすよあれ! むしろなんでベース上で棒立ちしてんですか!」

「一塁に投げれば2アウトだったろ! 次の打者京水だしそんな怖くねーって」

「一番はさっさと3アウトにすることでしょ! 実際弾かなきゃ二塁アウト! ゲッツーは無理でも2アウト一塁だったじゃないですか!」

「タイムタイム! いったん落ち着いてください二人とも!」

 

 練習では出来ていたプレーのはずだ。技術、と言うより心構えの問題。二塁ベース付近に集まったチームメイトが俺たちの間に入り止めてくる。

 

「落ち着け幸村、前のチーム(サラマンダーズ)と環境違って戸惑うのはわかるけど先輩にそんないくなお前!」

「神田さんも落ち着きましょう! そんな怒り方普段しないじゃないですか!」

 

 一度引き離される俺たち。……くそっ! 揉めるつもりはなかったのに、いきなり面倒ごとを起こしたくないのに……流石に交代か……?

 

 しかし一度落ち着いたと判断されたのかプレイが再開される。次の回からの交代かとも思ったが、俺が変えられたのは7回に代打を出されたところ。まさかのなんの変更も無くゲームが終了したのだった。

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