常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する 作:鋼鉄の山本
7回表1アウトランナー無
「ナイススイングですウシさん! なかなか三つ振れませんよ!」
「三球三振したのいじってるだろ」
バッテリーごとの入れ替えによる弊害……その一番は牛山が打席に立ってしまうことだろう。
元々守備に特化している選手ではあるが、衰えのせいで打席でボールが見えてるのかも怪しい。
ちなみに声をかける結城は、大先輩の
続く七番打者は神田。チーム内の野手だと牛山に次ぐベテラン。
それを迎え撃つのは、今季四試合目の登板となる20歳。
「ボール走ってるぞ翔山!」
「はい!」
先頭を三振で打ち取り勢いに乗る長身右腕、小原翔山。
その初球、低めの縦スライダーを見逃す。……いや、正確にはストライクだと思ったのに手が出せなかった。
(あっぶねぇ……直前までストレートだと思ったのに急に落ちてきた。……それにさっきまで変則アンダースローを打ってたんだ、普段よりも速くて、高く感じる)
二球目のストレートは149キロ。しっかりとインコースに投げきりストライクを取ってくる。
(いや、女川の後ろとか関係なく、ボールのキレもノビもちゃんと一軍クラス。その上で、今投げた胸元へのコースがまぐれじゃないんだろ? ……これで加藤とか京水よりも年下かよ)
その実力に、神田は敵ながら将来の活躍を期待してしまう。それほど今の二球が素晴らしかった。
間違いなく、近い将来神崎仁一郎や百瀬千尋に並ぶ投手になるだろうと。
(けれど、落ち目のベテランにだって意地はあるんだよ)
三球目はカーブ。緩急をつけつつストライクを取りに来たボールに反応する。
相手の目論み通りに体ごと泳がされてしまうが、かろうじてバットに当ててみせファール。
四球目のストレートを見送りカウント2-2。五球目のインローへのストレートもカットし、六球目。今度はスライダーをしっかりと見送りフルカウント。
一呼吸置いて投じた七球目、内角いっぱいへのボール。球の軌道からストレートを予測する……しかし、七球も見れた。
それは違うと、今度は確信を持って見逃す。初球と同じ縦のスライダー。変化が強すぎてストライクゾーンを大きく外れてフォアボール。
審判に宣告され一塁へ歩き出すと、一息をつき、小原とわざと目を合わせる。
(こういう無駄があるから先発やらせてもらえないんだなw)
(前にボール飛ばせてねぇくせに……! 調子乗るなよクソジジイ!)
言葉にはしないが、少しでも揺さぶってやろうと目だけでおちょくり、わざとらしく歩く速度を緩める。
点差は一点。この後のことを考えるともう一点は欲しい。
……しかし、ここで打席には八番の橋本。ここまで打率.150と、打では戦力になっていない守備の人。
昨年成績は171打数30安打の打率.175。ただでさえ打ってはいないが、今シーズンは昨年よりも成績が悪く……今打席はそれよりも内容が良くない。
「橋本ぉ! 神田の打席を見てなかったのか! なんだ今の三球三振は!」
「はい」
「いいか、打てないなら打てないなりに工夫をして打席に立つもんなんだ。あんなブンブン振り回してたら相手を助けるだけだぞ」
「はい」
「お前の足は幸村にも匹敵……いや、単純なスピードなら橋本の方が上だと思っている。なら打席でやるべきは転がすなり、四球を選ぶなりして出塁することだろ!」
「はい」
「せめてもう少し上手く聞くふりできないかなぁ!?」
流れ弾のせいで落ち込む牛山は置いておき、橋本らしくない全力のフルスイング3つ。
昨年までのフォームはノーステップ気味の構えから最短距離でバットを出すシャープなバッティング。とにかく当てて転がすを意識した打撃。
打撃コーチの大耳としては見過ごせない変化。
「ユキさん、今のどうでした?」
「三つとも当たらなかっただけで見えてはいたな。ただ、ボールを待ち過ぎだ。懐に呼び込むために振り遅れろとは言ったけれど、さすがにやり過ぎだな」
その説明中だというのに彼が駆け寄ったのは、ただの選手であるはずの幸村の方。
「お前かぁ! 余計なこと教えてんのは!」
「大耳チャン、stayヨ」
橋本京水はまだ高卒3年目の21歳。チーム事情で一軍の試合に出ているが、本来ならばまだ育成に時間を当てたい年齢。
打撃、メンタル、体のケア……まだまだ学ばせたいことがたくさんある中で余計なアドバイスをして欲しくないというのが本音だ。
しかも幸村の教えようとしているのは大耳が思う完成形とは真逆のもの。
「……ふぅ、お前が教えてんのはフライボール革命ってやつだろ? スイングスピードやら、打撃角度をあげて長打を増やしましょうって考え方。確かにホームランは増えるらしいが、なんでもかんでも振り回せって話じゃない。それに今橋本に一番欲しいのは確実性。打率、出塁率の向上だろ?」
監督直々にクールダウンを求められたからか、少しだけ余裕を持った大耳からの言葉。
一時は流行した指導法ではあるが、結局は向き不向き。現に橋本の三振数は昨シーズンを超えるペースで増えていっている上、仮に当たったとしても彼のパワーではスタンドまで届くことは難しい。
せっかく持つ球界トップクラスの瞬足も塁に出なければ意味がない。
「たとえば、それがちょっとしたアドバイスとかなら良いんだ。ただ、俺たち首脳陣が必死に教えていることの正反対をやらせるっていうのはどうなんだ? 確かに長打も打てるようにもなって欲しいが、まずはさっきの神田みたいに打者とのかけ引きだったりを学んで出塁をしてだな——」
「——世界一のヒットメーカーが日本にいた時。2年連続の最多安打、首位打者、盗塁王を取り日本中が沸いていたあの時、彼は24本もの本塁打を打っていました」
「……急になんの話だ?」
欲しいのは安打、出塁……幸村はその意見を待っていた。
「Mr.トリプルスリーと呼ばれた選手だって、実は右打者としてのシーズン最多安打記録を持つアベレージヒッターでもある」
それは可能性の話。今の二人は京水と同じ180センチ程度の身長とやや細身の体格。見た目だけではパワーのイメージが湧かない選手達。
「打つための駆け引きは大事だと思います。けれど、塁に出るためには神田さんみたいな難しいかけ引きは、今日の京水にはいらない。もっとわかりやすい怖さで良い。長打一つあるだけで打率も出塁率も……もっと言えばOPSが増えてくる」
「そのために、ブンブン振らせると……ここは一軍だぞ? 練習場でも試験会場でもない、真剣勝負の舞台だろう?」
「……このチームってずっと最下位でAクラスすら15年近く行ってないんですよね」
……弱いチームだからといって何をしても良いわけじゃない。
喉まで出かかった言葉は、昨日のモーリスと同じ熱意に遮られる。
「このチームを少し変えたところで、優勝には届かない。……そのためにもできるとか、できないとかじゃない。京水は日本一の守備と日本一の打撃を持つ遊撃手に
何もかもが浪漫だ。そう言って否定するのはきっと簡単だっただろう。それでも、誰より大局を見据えるこの男の圧に反論の言葉が封じられる
「そのために、今は痛い目を見ましょう。15年分のツケだと思って、喜んで泥水を啜りましょう。この一年の『最後に咲う』ために、今は無理をする期間にすべきだと思うんです」
(それが幸村の口から出てくるとは……いや、同じ思いだからこそモーリスもGMも彼を重宝しているのかもしれない)
他にも言いたいことはたくさんある、けれども今はまだ試合中。
タイミングがいいことに、代打の黒田が凡退したため3アウト。幸村達は会話を切り上げて守備へと移る。
「Hey,ユッキー! Last Question! 日本一ノバッターイウケド、ソノタメニ何期待シテル?」
「……京水には——」
それでも、今までコーチを落ち着かせるだけで、ずっと黙っていたモーリスから最後の質問が飛ぶ。
幸村は一瞬振り返ると、迷わず自分が思う橋本京水の未来を答える。
「——ホームランバッターになってもらいます」