常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する 作:鋼鉄の山本
「誘ってもらって嬉しいんですけど……すみません、もうちょっと体動かしたいので遠慮しときます」
「あ、そう? ……まぁ無理にとは言わないけどキャンプはこれからだからな、あんまり無理だけはするなよ」
キャンプの初日、早くチームに馴染んでもらえるようにと誘った食事。
「多分タイプ的に
「だよなぁ。ただ、ああいう意識高い系の選手はどうせ活躍できなくて、すぐこっち側に来るだろ」
「あーあ、ヤダヤダ。自分頑張ってますってやつ昔からイタくて嫌いなんだよね」
せっかくのそれを、自主練したいからと適当な理由で帰っていくなんてノリが悪いと笑っていたあの日。
思い返せば、あの日の俺はどうして彼のことを
「——このチームを優勝させにきました」
「あはは、さすが新入り。現状がわかってないからあんな恥ずかしいこと言えるな」
「こういうのってFA選手が言うから様になるのであって……しかもあいつのトレードって、有永のやつがよっぽど志願したからだよな。口は意外と達者じゃん」
久しぶりの開幕戦勝利を理由に集まったいつもの居酒屋。
偶然勝てただけの開幕戦で、よくもそんなことを言えるものだと、嘲笑を肴に飲んでいたあの時。
案の定、というか想定以上に負け続けてしまっているけれど、これがこのチームなんだ。
……だから、いちいちそんなに悔しそうにするなよ。
「おいおい幸村くんよぉ。ヒーローインタビューでは随分かっこいいこと言っておいて、この様はなんだ?」
「返す言葉も無いです……。俺がもっと打っていれば……ここまでの5連敗は全部俺のせいです」
「そんなわけねぇだろうが! あんま調子のんなや!」
……なんで来てすぐのチームをそこまで背負えるんだよ。
畑さんだって、別に負けの責任をお前に押し付けたいんじゃなかった。本当はちょっと脅かすつもりで言っただけなんだぞ。
俺はお前と同じ年で移籍してきたけど、当時から自分のことしか考えていなかったぞ。
お前なら何もしなくても2000万以上は硬いよ。……いや、もしかしたら3000万は貰えるんじゃないか? そのぐらいうまいよ。それで良いじゃないか。
上を見たら5000万、億越え……海を越えればその十倍、百倍貰ってる奴もいるけれど、そんなのと比較したところでキリがないだろ?
こんなチーム、お前がちょっとやそっと動いた程度では変わらないんだよ。じゃなきゃ8年も最下位やってないんだよ。
「このチームを少し変えたところで、優勝には届かない。……できるとかできないとかじゃない、京水は日本一の守備と日本一の打撃を持つ遊撃手に
「京水にはホームランバッターになってもらいます」
……なんで本気で優勝なんて目指すんだよ。ここはお前のいたサラマンダーズじゃないんだ。
必死にやらないでくれ、頑張らないでくれ、諦めてくれ。じゃないと、じゃないと——
「堀江さん、左打者続くんで俺ライト寄りに守りますね」
「お、おう、任せた……」
——じゃないと、俺たちが悪者みたいじゃないか。
——————
大江戸ペンギンズ3-瀬戸内モンキーズ2
9回裏ノーアウトランナー無
7回、8回を回跨ぎの杉が抑え両者スコア動かず最終回を迎える。
ペンギンズとしてはこの回さえ抑えれば久しぶりの勝利となる中。
ビジターのペンギンズ応援席から悲鳴が上がる。
『ピッチャー杉に代わりまして、小宮。九番ピッチャー小宮 背番号18』
平均球速150キロ越えのストレートと切れ味抜群のスプリットをもつチームの守護神。
変化球も多彩であり、なにより9回のプレッシャーを……連敗脱出への重圧をまるで感じさせない佇まい。
……しかし、昨シーズンは五敗のうち四敗がサヨナラ負け。
今シーズンも前回登板でセーブ失敗。ここまで登板した全ての試合で失点を重ねる通称『大江戸の死神』。
それでも、この男にしか現状抑えを任せることができないのがチームの現状。
ちなみに、この男がセーブ失敗の割に敗戦が少ないのは、同点にしてからのしぶとさがあるからだとか。
「頼むぞ小宮……ヒットなら打たれても良いし、いくらでもフォアボール出して良い。だから……頼むからホームだけは踏ませるなよ」
神か小宮か、どちらに祈っているかはわからない。だが、上谷がファンを含めたペンギンズの気持ちを代弁する。
前節のシープス三連戦は終盤まで、勝ち越ししている、もしくは同点の状況を作れていた。
ところが、三試合連続の逆転負け。今のペンギンズに、綺麗に勝利を締めてくれるイメージはない。
「Uhmm……千葉モーチョイ投ゲサセルベキダッタカシラ。ソンデ杉コノ回デ……」
「たらればは意味ないですよ監督! 送り出したのアナタなんですから、堂々と見守りましょう!」
「……ソウヨネ!」
実際小宮の投げているボール自体は悪くない、球種だって豊富だ。石崎のようにプレッシャーに弱いというわけでもない。
……それでもここまで失点を重ねるのは、一体なぜなのか。
4巡目の一番打者・海に対して、0-2からの三球目。内角に構えられたミットの反対にボールが抜けていく。
アウトコースよりの真ん中、それも中途半端なハーフスピード……いわゆる失投を弾き返される。
打球は……
(飛び込めばワンチャン……? でも幸村の位置は遠いし抜けたら最悪……!?)
それでも、かろうじて堀江の守備範囲。
一か八か飛び込んでアウトを……いや、周りにフォローがいない以上ギャンブルはしない。
その判断は間違いじゃない……間違えていたのは前提。
たとえどんなに遠くても、幸村はいつものように打球に追いついてきている。
「……堀江さんどっち!」
(幸村!? さっきまでいなかったろ……どっち!? どっちが捕るか!? 位置的には俺かも、でも幸村の方がワンチャンある? いや待て、そもそもボールをちゃんと追いながらここまで来てるのかこいつ——)
「ゆ、幸村——」
——その一番の理由は突然現れたセンターに戸惑ってしまったから? それともスーパープレイを重ねる幸村なら大丈夫だと信頼してしまったから?
どちらにせよ、一瞬の遅れが致命傷となる。
「左中間抜けた、長打コース! ……というよりも!?」
「レフトとセンターがまさかのお見合い!?」
「何やってんだお前ら!」
(本当に何やってんだ! 幸村は全速力でこっちに来て……違う! ボールなんて見ずに走ったからこそ追いついてきたんじゃないか。今のは俺が飛び込むか、幸村を回り込ませるだろ!? ヒットになっても長打にはさせないところまではいけだはずだ! ただでさえ今日もノーヒットなのにここでお見合いするかよ!? なんでここでやらかすんだよ。それに、……それに?———)
幸村はフェンスに当たり転がるボールをすぐさま内野まで戻すも、打った打者は余裕のスリーベースヒット。
ノーアウト三塁。6回にも八重樫の三塁打から似た場面があったが、抑えられたのは千葉の能力の高さと相手が下位打線だったことが大きい。
一方で、小宮にはこの状況を潜り抜ける能力があるとは思えない。
ましてや上位打線。サヨナラを期待する声が、あちらこちらから響いてくる。
(……はは、いやでもしばらく使わないだけならもしかしたら、後半戦の頭ぐらいには出られるように——)
「堀江さん
「…………!?」
堀江は最悪に備えて……いや、逃避しかけた現実に連れ戻したのは幸村の叱咤。正確には——
「もう少し膨らみながら入ればボールと堀江さん両方見れて……いやそれだとそもそも追いつけないし……言い訳はいらない改善しろ、
小声で呟くそれは、幸村自身を律するための言葉。それでも微かに耳に入った言葉が、堀江凛之介の終幕を引き延ばす。
(——そうだ、俺はなんで幸村に任せようとしたんだ? 今のミスの原因は……俺が、幸村に守備で劣ると認めたからじゃないのか!?)
今のプレーを勝手に反省をする幸村を見て、無意識下にあった劣等感……そして、今まで置かれていた状況のぬるさにようやく気づく。
(次はいつかあるかもって考えて、
一瞬頭をよぎった最悪の思考を振り払う。そんな甘い考えはこれから通用しなくなると。
(幸村もそうだけど、首脳陣だっていろいろ動き始めてる。そりゃ、畑さんとか柿田みたいなケースも出てくるだろう。けれども、若手はなんとなく幸村と打ち解けつつあるし、さっきの話的に橋本なんかは、今の成績はともかく成長の途中ではある。それと、神田さんはなんというか……試合中に明るくなった)
つまりそれは変化の兆し。最弱のペンギンズが勝てるようになるかどうかは置いておいて、それでも去年までのチームではなくなるのは必然。
堀江にある選択肢は二つ。今までのように安定的に給料を受け取りつつ、プロ野球選手としての人生を謳歌するか。
それとも、今更ながら俺が悪かった、これからは改心すると……ヘラヘラしながら幸村に就くか。
「——幸村、今のは間違いなく俺のミスだ。しっかりとボールを追えていたのは俺の方。せっかくお前が寄ってくれたんだからフォローを任せて、少し無茶でもアウトを狙いにいくべきだったんだ。
(悩むまでもない、答えは一択だろ!)