常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する 作:鋼鉄の山本
「ボール、フォア!」
守備の乱れから始まった最終回。ノーアウト三塁で慎重になるのは当然ではあるが、なりすぎるのも考えもの。
クローザー・小宮は二番打者のウィーゴーに四球を与えてしまい、ノーアウトランナー一三塁。
『三番 レフト D・アルダマイヤ 背番号99』
そして、ここからクリーンナップ。外野フライも打たれたくない場面で、左のパワーヒッターが並んでいる。
「oh……プレッシャーイラナイワヨ……」
「(四球を)出しても良いとは言ったけど、心臓に悪すぎる……。あぁそれと監督。小宮のアレはプレッシャーとか関係なく普段通りです!」
それこそがダメなんだろう……。なんて突っ込める人間は今、ベンチに誰もいない。
微妙な空気が流れる中。絶妙なスプリットが低めに決まりストライクを奪う。
この調子で投げ、無失点で抑えて欲しい……なんて考えは甘い。
2ストライク目を狙うが、インコース低めに構えられた牛山のミットとは逆方向。
バッターから大きく外れる大暴投。牛山がなんとか体で止めるも、あと少しずれていたらパスボールで同点になっていた。
一呼吸おいて三球目。ボールゾーンへのストレートを今度はしっかりと投げ込むが、見送られてカウント2-1。
四球目、牛山のサインは低めのスライダー。変化球でカウントを奪いにいく。
……本来
制球が悪く、無駄な四球が多いのが玉に瑕。
だが、どんなにランナーを貯めても自分のピッチングを貫けるメンタルだって持っている。
……あくまで練習中では、と頭につく話だが。
(変化しないうえ、構えた所から外れすぎ!?……しかも外際、こいつの得意コースじゃねぇか!?)
アルダマイヤがバットの先で失投を捉える。
長い腕を振り回す外角打ちは彼の代名詞。
———しかし幸いにも、歪な回転のせいか……それともストレートのタイミングで打ってくれたおかげか、思ったほど飛距離は出ない。
「レフト前に落ちるぞ! まずは同点だ!」
「海、スタートは落ちてからで良い!」
未だ空にある白球。しかし、誰もがサヨナラを疑わない。懸命に追う堀江ではあるが、やはり位置が悪い。
(……確かにボールが落ちれば同点、捕れてもホームで刺せなきゃ同点。でも、勝負に行って万が一後ろにでも逸れたら今度こそゲームオーバー。……けど、ようやくわかってきた。今、俺の隣に幸村がいるってことが)
元々、堀江は堅実な守備が武器。ファインプレーは少ないが、それ以上にミスが極端に少なく、たとえヒットになっても的確な判断で最悪だけは防ぐ。
(俺が慎重なのは、ミスをしたらどう見られるんだろうと気になるから。俺のせいで負けたとなれば一週間は立ち直れないからだ。でも、今なら俺がミスっても最悪はないって思える)
前進守備のレフトとセンターの間。その落下点に左腕を伸ばし、間一髪で地面より先にその手に掴んで見せる。
浅い外野フライ、ホームまでの距離はそこそこ近い……それでも、堀江は体勢を崩して投げられない。
そう判断した三塁コーチャーは、なら充分だと本塁突入の合図をする。
(幸村の外野捕殺が多いのはフォームが良いからだ。抜群の瞬発力でつけた勢いと、全身でタメたパワーを全部ボールに注ぎ込めるからスピードが出る。それに、どんな体勢からでも常に同じフォームで投げるからコントロールのブレも少ない。……でも、それは良い外野手の前提みたいなもの)
並の外野手なら、確かに投げられる状態じゃない。
ならば、並の外野手でなければ?
滑り込ませたグラブを右耳まで引き寄せ、右手にボールを移す。
その間に、全身は一連の動作をとっくに完了させる。
(幸村ができるなら俺にだってできる……
残りはリリースのみ、動きは流れるように。無理やり腕を引いた反動ごと肩を回し、指先にパワーを乗せる。
彼が神戸入団時に期待されたのは、バットコントロールでも足の速さでも、ましてや堅実な守備ではない。
都市対抗戦の初戦、プロのスカウトの前で見せた二度の外野捕殺。
特に目を引いたのは、フェンス手前からでも本塁突入を許さなかったレーザービーム。
牛山、サードランナー、バックホームが本塁で重なる瞬間。
審判の腕が上がるより先に堀江の握り拳が高く上がる。
「……アウト!」
本来聞こえたはずの歓声とは真逆、大きな大きな絶望のため息。
「リクエスト! リクエストだ!」
それでも際どい判断……ざわめくフィールドは、瀬戸内の監督のリクエスト要求により一瞬試合が止まる。
「……最高だよな、幸村。外野手やっててこれ以上の快感はねぇ」
「わかります。……特にアウェーでやれると尚更ですよね。盛り上がっている人数が多い分、落胆の声が大きいっていうか聞こえやすいっていうか……!」
「えぇ……性格わるっ……」
「なんでですか!」
その空白の時間を、今まで避けてきた幸村と向かい合うために使う。
本塁突入の細かい様子は見れない……けれど、この判定は覆ることがないと確信しているがゆえ、二人に緊張感はない。
「……まぁ、なら俺も性格悪いなぁ」
「あ、判定出ましたよ。やっぱりアウトですって」
「だよな………………よかったぁ……」
「聞こえてますよ」
確信はしていたが安心はする。自信はあったがそれでも失点の恐怖はあった。
堀江はようやく、その肩の荷を下ろした。
——————
安堵する外野手二人ではあるが、試合はまだ終わっていない。9回裏2アウトランナー一塁。
ここまで来たならば俺がヒーローになってやる。そう意気込んで、四番の春川が打席に入る。
小宮はストライクがうまく入らないというのもあるが、最後の粘りを見せてくる打者の気迫に完全に押されている。
それでもなんとか追い込むも、その直後の六球目。
フルカウントから投じたインハイへのツーシーム、それを狙い打たれる。
三遊間を抜けそうなほど強烈な一打。
……だが、地を這う打球はその時点で橋本京水の守備エリアである。
大江戸ペンギンズ3-瀬戸内モンキーズ2
——————
久しぶりの勝利に……喜ぶと言うよりはほっとする気持ちの方が強い。
昨年は最大12連敗までは経験したが、開幕直後でいきなりそれに並ぶのは苦しかった。
もっと早く腹をくくれていたら……は、言い訳だな。
ベンチから早く出ようと準備する幸村へ、ゆっくりと近づく。
「……ありがとな、幸村」
「えっ、はい。……な、何がですか!?」
ひらひらと手を振り、幸村より先にロッカールームへ。俺は早く荷物を片付けて、一足先に東京へ戻ろう。
そうやって一番乗りで廊下に出ようとすると、後ろから引き止める声。
「Hey堀江、早イジャナイ」
「ああ監督、すぐに荷物纏めますので。……それと、すみませんでした。こんだけチャンス貰っといて、戦う覚悟一つ決めるのにどんだけ時間をかけてしまって」
「マッタクヨ……デモ、モウ大丈夫ヨネ」
幸村のおかげで思い出せた。
今更……本当に今更だけれど俺はプロ野球選手なんだ。
口では勝ちたいだなんて言っていたけれど、いつの間にか戦う意志すら捨てていたことにようやく気がつけた。
「はい。上谷ヘッドからしばらくは使わないって言われましたけど、すぐに撤回させて見せます。……もし、戻って来れたらセンターで勝負させてください。守備だけなら幸村よりも上だと証明して見せます」
……幸村の言葉を借りれば、今まで戦って来なかったツケを全部返す。まずは二軍で鍛え直しだ。
これからは今までのレギュラー争いとはもう次元が違う。
それでも、戻ってきた時には……空いている所じゃない、ちゃんとセンターのポジションを奪って見せる。
「……トコロデ、ロッカー片付ケナンデ? 石田トチガッテEveryday綺麗ヨ。ソレニ、明日モ試合ココヨ?」
「……? えっ、だって俺今日ノーヒットで守備でもやらかしてますよ?」
「……ソレ勿論アウトヨ? ダカラ、明日挽回期待シテマス」
……あれ? モーリス監督と話が噛み合わない。誰か通訳の人近くにいないかな。
この人下手に喋れる分、通訳さんいない時あるんだよな……。これではまるで——
「マッタク、アナタッテ子ハ……Last chanceモノニシタッテノニ……ダ・カ・ラ! 明日カラモヨロシクネ!」
「えっ」
一瞬呆れた顔をしたと思ったら、すれ違いに気付いたのだろう。
すぐに大袈裟にそれを伝えると……去り際にヴァチンッ、とウィンク一つ残しすぐに去っていく。
何が起きたかわからない。それでも、フリーズしている頭の中が、少しずつ動き始める。
「はは、……あはははははは!!」
「お疲れでーす……堀江さん!? 大丈夫すか!?」
「なんだなんだ!? 堀江が壊れたって!?」
………………えっ、俺生き残れたの? 幸村にカッコつけて出てきちゃったんだけど!?
「……ははは、はぁ。マジか……マジでか!」
「……とりあえず、おめでとうございます。堀江さん守備上手いんで居てくれると助かります」
いつのまにか居なくなるモーリスとは反対に、いつのまにかベンチ内の片付けを済ませたのか、第一発見者となった幸村が背中をさする。
……俺、泣いてまではねぇよ。
はぁ、まったく、締まらないけれどよしとするか。
「必ずセンター取り戻すからな……首洗って待ってろよ」
「ええ、負けないっすよ堀江さん」
少し恥ずかしくて情けないけれど、宣戦布告で出した拳に幸村も応えてくれる。
目標変更、まずは取り戻そう……いや、超えていこう。
せっかく用意してもらった