常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する 作:鋼鉄の山本
紅白戦が終了してすぐ報道陣はモーリス監督の元へと集まった。
「大江戸回覧の古市です。まずは今回の紅白戦について感想をお聞かせください」
「たまたま紅組に調子がいい選手が多く、いいアピールをしてもらったね。点差が開いてしまった白組は残念だけどその中でしっかりと結果を残してくれた選手もいる。そういう子には次もチャンスをあげたいね」
結果あの試合は――8対2で紅組が勝利。それ自体はともかく白組の神田はフル出場。幸村は7回で交代したが、懲罰交代ではなく予定されていた交代のように見えた。
オープン戦まで残り一ヶ月を切ったのだ。今年は大丈夫なのだろうか。
「ではこの試合で大きく点差がついた要因、または見えてきた課題などはあるでしょうか?」
「守備でのミスで2失点してしまった柿田は残念だと思うけど全体的に投手はみんなボールが浮いていたし本調子ではまずないよね。だからこの試合は8点も取られた白組の投手ではなく2点しか取れなかった野手の方が問題だと思ったね」
「あの、古市さんあの方になんかしました? すごい見られてますけど」
「言うな、柏田。気のせいだから……」
次々と記者たちの質問に答えるモーリス監督。とはいえ、全て英語での回答をしているため、隣にいる通訳がその内容を意訳してくれる。当然、記者達は通訳の彼の言葉を記事に起こしているのだが……。
「ブキテレの大河です。紅組は投手だと郡選手、野手だと越後選手が目立っていましたが他に注目すべき選手、またモーリス監督のお目にかかった選手などいましたらお聞かせください」
だが、英語がわかる何人かは顔を顰める……いや、正確には苦笑いしかできない。なぜなら……。
『そうね、強いてあげるならアリタかしら? みた? あのぽよぽよのお腹、あんな立派なのつけて汗だくで投げる姿……本当に唆ったわ。あとはサワダとユキムラかしら? ピッチャーをしっかり引っ張って頑張るお兄ちゃんみたいなサワダはすっごくキュートだしユキムラもいっぱいクールなプレーでね、スクール時代に好きだったワイルドなあの人をおもいだしちゃったわ! でもね、一定の例外はいたけどみーんないい子達ね、人気のないチームだって聞いたけどアタシ大好きになっちゃったわ!』
……これを
「もちろんだけどこの試合だけで決めるつもりはないよ。それでもあえて名前を挙げるなら有田、沢田、幸村。この辺かな? ただ今挙げた選手も、もちろん郡とかもそうなんだけど、あくまで今日! 調子が良かっただけだからね。ただ、8年連続最下位のチームだと聞いて身構えていたけど中々いい選手が多くてびっくりしたよ」
と、かなり都合よく意訳する通訳さんが今日のMVPだろう。
「あの……なんかキュートとかラブミーとか聞こえましたけど……」
「そういやアメリカに留学してたとか言ってたな……。無視だ無視。俺たちは通訳さんの言葉だけ記事にしろ」
「スポーツ東亜の鈴木です。今幸村選手の名前が出ましたが、3回の守備では連携のミスを神田選手に押し付け、口論する様子が見られました。その件についてどう思われますか?」
そんな中、記者陣でも特に若い一人が質問をする。それは皆、気になっていた質問。だが、その聞き方はどうかと……。
案の定、それがトリガーだった。空気が一変する。聞いた瞬間から、先ほどまで面白外国人風だった監督の様相が大きく変化したからだ。
『……オーケイ、君たちにはあの場面がそう見えていたのか。ならちゃんと説明しよう。幸村の名誉のために言うがそもそもあの打球はライト前ヒット。それを捕るだけでなく、ファーストへ投げるかセカンドに投げるかの選択肢を出せる選手はそういないだろう。故にあの悪送球は二人のミス。連携をとりあえず、相互理解ができていなかった両方のミスだ。まさかあのプレーを外様の幸村が暴走……などといったつまらない記事を書いた記者はいないだろうね』
怒り、それと多大な呆れを含んだため息を一つ吐くと踵を返し裏へと戻ろうとする。長年プロで結果を残してきた監督の凄みに当てられ、また、この会見をぶち壊した責任を問われるような周囲の視線に鈴木の表情が、青を通り越して真っ白になっている。
急に終わってしまった質疑応答の場。そんなざわめきの中、隣の席から椅子が大きく倒れる音が会場に響く。
「あの! 大江戸回覧の柏田です!」
椅子の音に驚いたのかモーリス監督達の足が止まる。
「幸村選手のあの場面での真相は伝わりました。そして現時点でも監督のお眼鏡にかなった選手がいると心強いお言葉もいただけました。しかし、我々はチームが15年間Bクラスという結果に長年辛酸を味わっています。そんな中で今年の監督の現時点での期待度をお聞かせください! 今年はAクラス、ひいては優勝を狙えるチームになるでしょうか!」
「何いってんだ柏田! あんま面倒を――」
『YES』
柏田の急な質問に再びざわつく会場。
俺も彼女を宥めようとしたその時、短く、マイク越しに一言がそれを遮った。
たったこれだけであったが力強い言葉。それだけで会場は静まりかえる。
そしてマイクを置くと、すぐに今度こそ裏へと戻っていく。その表情は伺えなかったが……。
何を期待したのか他の記者陣が柏田を真似し何人か質問を投げつける。だが無駄だろう、戻ってくる気配はない。
「すみません。どうしても居ても立っても居いられなくて……」
「ふぅ、こう言う公の場でそういう暴走はやめろよ、相手に失礼になる。……ただ、ファインプレーだ」
そうだ、そうだな。せめて俺たち番記者ぐらいはチームの勝利を願ったっていいのに。そんなことすら忘れていた。
もちろん、答えてくれた監督も現時点でそんなこと分かりはしないだろう。チーム状況もまだまだ確認中の上、他チームの状態も分かりはしないのだから。
それでも、勝てるかどうか。ここ数年の監督なら言葉を濁して終わりだっただろう。そんな小学生みたいな問いに即答してくれる監督が来た。これだけで嬉しいニュースである。
「ところで古市さんの時だけ目線が色っぽかったような……」
「……きっと気のせいだ柏田ぁ!」