常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する   作:鋼鉄の山本

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第九話

「全く、なんであんな熱くなっとるんやお前は……」

「まぁ、熱くなったのは認めるけどよ。まさかあんな風になるとは……」

 

 紅白戦も終わり、練習も終了したはずの屋内練習場。

 何人か残って自主練習をしている選手もいるが、心なしか俺たちの周りだけ、人がはけているような気がする。

 

「と言うか柿田、今日投げたんだし俺の自主練に付き合わないでダウンするなり自分の練習したら?」

「やかましい! 俺もそうしたいんやけどお前の様子見てこい言われてんねん!」

 

 どうやら3回のあの件、ネットで記事になっているらしい。しかも俺がフィルダースチョイスをしたのにその責任を神田さんに押し付けただの、古巣が強いだけで調子に乗ってるだの……。

 

「あんなん正当な要求でしょうに。神田さんの言うことも一理あるだろうけど、そんな無難なプレーばっかしてもつまんないだろ」

「おもろい、おもろくないはどうでもええわ。と言うか、神田さんそないな取っ組み合いみたいにならない人やで。なんでそんな嫌われてんお前」

 

 はいはい、俺が悪いんですよ! まあ、神田さんはチームの顔だし信頼している人も多いよな、柿田の目からでも疑問らしい。

 

「心当たりは初日の飲み会断ったぐらいだぞ? その程度で人を嫌う人か?」

「いや、せんなぁ。第一その飲み会結構断ってるで。なんて言って断ったん?」

「別に普通にだぞ、体力余ってるから体動かしますって」

 

 その一言を聞いた瞬間、ガックリと肩を落とされる。

 

「あーそれやんなぁ、神田さんが言うより、神田派の連中の琴線に触れたんやろ」

 

 待て待て待て、普通の断りだろうが。と言うか、神田派?

 

「まずなぁ、お前一番強いサラマンダーズから一番弱いペンギンズに来とるやん? そんでそいつが体力余ってるなんて言うたらうちの練習が緩い言うとるようなもんやん?」

「別に緩かねぇよ。チームの練習時間はおんなじくらいかこっちのがちょい多いぞ」

「そうなん!? ……まぁ、一旦置いとくで。んで、たとえばお前後輩誘って飲み行こうとするやん? そん時練習したいから行きませんなんて言われたらどう思う?」

「頑張ってんなぁ、ただあんま無理すんなよって思う」

 

 再びガックリと肩を落とす柿田。だが今度は力を貯めていたらしい。

 

「あっっっそう! 普通はな! 思わんねん! なんやこいつ舐めすぎやろ! ってなんねん!」

 

 激しい剣幕に気をされる……ごめんて、そんな怒んなよ。

 

「あのさ、柿田。その、申し訳ないんだけど……神田派って何?」

「……あー、なんで誰も喋っとらんのや……。ごめんな、まずそこよな」

 

 ボリボリと頭をかき、しばらく思考していると、説明が纏まったのか練習をやめるよう言われる。

 そして、俺にしか聞こえない小さな声で話し始めた。

 

「あんな、まず俺誰に様子見にこさせられたかわかるか?」

「えっ、まぁ監督かコーチ……もしくは選手会長の石田さんとか?」

「全員違う。正解は郡さんや」

 

 は? なんで? と間抜けにも聞いてしまう。

 先日まで交流がなく、ポジションまで違う郡さんが俺を気にかける理由がまったくない。そもそも、まだそこまで話したこともない。

 

「まず、うちは今でっかい派閥が二つあんねん。神田派と郡派言うてな。なんとなくでもいっつも一緒におるやつ決まっとんなーって思わんかったか?」

「まぁ、思ってたけど、別に仲良いやつと連むのはおかしいことではないだろ?」

「せやな、確かにおかしないことやない。じゃあ何でそうなったかって言うと、俺ら郡派と違って、神田派はそもそも勝つことに興味がない連中や」

 

 神妙な面持ちで語り始める柿田。きっと、このチームにとって重要な不文律なのだろう。

 

 だがその内容はあまりにも――

 

「あいつらのほとんどが多少の努力も何もせず結果を出せる。あぁ、結果いうてもあくまでペンギンズ基準でやで。でもそのせいで年俸はそれなりにあるし、お金があるから練習より遊びを優先する。それでも試合には出られるから年俸も下がらない。この負のループのせいでうちは、長年最下位なんやと思っとる」

「んー、あのさ柿田。だったらそういう奴らを追い越す奴が誰もいないのはおかしくない? 言っちゃ悪いんだけど……去年めっちゃ出てた畑さんあたりとか、別のチームだとそもそも一軍での出場も怪しいレベルだぞ」

 

 この前飲みに誘ってもらったメンバーを思い出す。その中には確かに、昨年まで一軍に帯同していたメンバーが多かったように思える。

 

 その中でも神田さんの次に名前の知れている畑さんなんかは、1年間クリーンアップを任された選手とは思えないほど、成績が良くない。

 サラマンダーズ……いや、このチーム以外では規定打席到達ができるほどのチャンスが与えられるようには思えない。

 

「そこ言われると痛いんやけど……でもまぁ、その通り。でもな、そこに立ち上がったんが我らのエース郡さんや。あの人はすごいで! 投手と若手野手を中心に練習会なんかを開いてくれるし、一軍の経験なんかを教えてくれる。ポジションなんて関係なく面倒見てくれてるんや! 去年は確かに結果を残せていない……でも今年ならきっと! あいつらからレギュラーを取れると思っているんや!」

 

 つらつらと語る柿田は、どんどんとその熱い思いを吐き出す。だが、その熱意と反比例するように俺の心がだんだんと冷えていくのを感じる。

 そして言いたいことは全て吐き出したのか、最後に本題を告げる。

 

「郡さんはお前に期待しとった。この一週間の練習量とその勤勉な性格はきっと俺達の思想とまったく同じやって! 一緒に神田派の連中からスタメン取ってAクラス、いや優勝を目指そうで!」

 

 ……あぁ、山形さん。あの時は確かに回らない頭を動かしてくれた言葉でした。でも、あなたが言った「多少流されてみろ」は、本当はこういうことなんですか。

 

 ――その内容はあまりにも、俺の知るプロ野球とはかけ離れ、とても幼稚なものに聞こえた。

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