神様に虚飾の権能と+α貰ったから取り敢えず旅する 作:供給が足りない
一瞬投稿するやつをミスりました
あの世界に別れを告げ、9年の月日が流れた。そして、訪れた2022年の春。今日、あの2人が交差する。
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この世界に来て直ぐに、俺は権能の力により、彗星被害により三葉などが死んだ世界の記憶を継承した、と認識させた。
認識させる過程で気づいたのだが、この世界は入れ替わりを経験しておらず、認識させただけではダメだと分かった。
三葉の死んだ世界線の2016年の瀧が、御神木にある口噛酒を口に含んだ事で、死んだ三葉との結びにより、幽世にある三葉の魂と触れ合った。そこで瀧は三葉の記憶に触れ、不安定な幽世の時空間から奇跡が起きた世界線に魂が入れ替わった状態で意識が戻った。
そしてカタワレ時に、2人が出会う。そこからは映画で描写された通りに、糸守町は崩壊したが死者はゼロ人となったわけだな。
だから認識させただけでは、結びにより幽世を通って来たわけでもない為、入れ替わりを経験しておらず、結びが無い。だから認識を書き換えると同時に2人を入れ替わらせた。ここまでやれば後は、入れ替わった事により、2人に結びが出来るため、俺は何もせずとも原作通りに進んでいく、と予想した。そこでちょちょいっと記憶は無くなったけど、なにかを忘れていることは分かるような複雑な状態にしとけばいい。
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9時半ごろ。
東京。空は良くあるような晴れた日。俺は、空からそれを見ている。
雑踏の中、二つの人影が誰かを探して、走っていた。自分の中にある空白を埋める、その人を探して。
いやー映画を見てる時には気づかなかったんだけど、お互いがお互いの降りた駅に対して反対方向に走っていったんだな。権能で2人の位置が分かるようにしておいたから気づいたわ。よくこれで須賀神社男坂で出会うことができたな。こう俯瞰してみると2人の間の結びの力?ってやつを強く感じることができるな。考えてみたらすれ違う電車でお互いの姿を視認できるってすごいわな。これも結びの力なのかもな。
須賀神社男坂。
姿を視認したのは、ほぼ同時。
スーツ姿の瀧。
都会に溶け込む服装の三葉。
お互い、疲れた表情。
一段、一段。
三葉は降り、瀧は上がる。
「あの!」
覚悟を決めるようにして、一息入れた瀧は振り返り、声をかける。
「俺、君をどこかで!」
振り返った三葉。その頬には一筋の涙。
「私も!」
瀧も涙を浮かべる。
「君の、名前は…?」
うおおおおおお!とうとうここまで来たか!いやー長かった。改めて思うが、良くここをラストシーンに選んだよな。周りを見ても、ここは至って普通の場所だぜ?新海誠さんの凄さが分かるわ。
だが、俺の頑張りどころはここからだ。此処で登場して、記憶を戻す。此処まで来たらやるしかない。いくぞー!
「…私、宮水 三葉」
名前が、空気に溶ける。
その瞬間カチリ、と何かが噛み合う。
瀧の瞳が揺れる。
説明できない衝動が走っているのが見てとれた。
「俺は、立花 瀧」
ただ、名前を渡し合う。
ただそれだけなのに。
───ここだ。
「もし?」
俺はふわり、と2人の間に降り立つ。
2人が、同時にこちらを見る。
驚き。
戸惑い。
そういった感情をひしひしと感じる。
「…誰?」
三葉がそう尋ねてくる。
「ちょっとした通りすがりですよ。ですが…」
視線を、二人の間に落とす。
「お二人とも、随分と大事なものを、今まで忘れていたようですね」
瀧が眉をひそめる。
「……どういう意味だ?」
「そのままの意味です」
「忘れても、失くしても、それでも──」
視線を戻す。
「魂は、覚えています」
俺は、肩をすくめる。
「私は、それを思い出させに来ただけですよ」
俺は、ゆっくりと胸の前に手を上げて、そして─
「さぁ、行きましょう」
手を鳴らした。
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…ここは?
目を開けたはずなのに、景色が定まらない。
須賀神社の階段も、澄んだ青空も、東京も、すべてが遠ざかっていく。
足元が、ほどけた。
落ちているわけじゃない。
沈んでいる感覚に近い。
音が消え、重力が意味を失い、
代わりに、胸の奥へと、引っ張られる。
——行ってください。
俺の声じゃない。
どこか、儚さを感じる静かな印象の声。
階段で聞いた。あの声。
次の瞬間、視界が切り替わる。
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夜。
見覚えのないはずの田舎町。なのに、懐かしい。山に囲まれた盆地。湖に映る星空。遠くで鳴く虫の声。
「……糸守……?」
口から零れた言葉に、自分で驚く。知っているはずがない。来た覚えもない。
なのに、名前が出てきた。
足が勝手に動く。坂を下り、町を歩く。
——違う。
これは「今」の自分じゃない。
視線が低い。手が、少し小さい。
気づいた瞬間、世界が反転する。
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『はぁ……今日も疲れた』
自分の声じゃない。でも、確かに自分の内側で響く声。鏡に映るのは、知らない女の子。けれど、目を見た瞬間に分かる。
——知ってる。
この感覚を、知ってる。名前が、喉まで出かかって、でも思い出せない。代わりに、感情が溢れ出す。不安。焦り。誰かを想う気持ち。その“誰か”の輪郭だけが、どうしても見えない。
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場面が飛ぶ。
教室。ノート。見覚えのない字で書かれた日付。
【今日の瀧くんは——】
「……俺の、名前……?」
文字を読んだ瞬間、胸が締め付けられる。
——そうだ。
俺は、ここにいた。
“俺”は、“彼女”として、ここで生きていたことがある。
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また、切り替わる。
暗い洞窟。湿った空気。掌に残る、奇妙な温度。酒の味。土の匂い。遠ざかる意識。
『っ!彗星…!』
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次の瞬間、空を見上げていた。
夜。空が、異様に赤い。
彗星。
割れる光。轟音。叫び声。
必死に伸ばした手が、届かない。
『三葉。三葉!三葉!!三葉ぁぁああああ!!!!!』
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ただひたすらに走っていた。
山道。
カタワレ時。
傷だらけになりながら、ただひたすらに。
『3年前、お前はあの時。俺に、会いに来たんだ!』
クレーター。
御神木。
その縁で、出会い言葉を交わした。
『目が覚めても忘れないようにさ。名前、書いとこうぜ』
『うんっ!』
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——すべてが、戻った。
糸守で見た星空。彼女の声。笑顔。泣き顔。入れ替わった日々。交わした言葉。失った時間。
そして、探し続けた理由。
胸が、熱い。
息が、苦しい。
視界が、再び現実へと引き戻される。
須賀神社の階段。
目の前に立つ彼女。
宮水三葉。
もう、分かる。
名前も。
理由も。
想いも。
「……思い出した」
小さく、でも確かにそう呟いた。
世界がどうなろうと関係ない。
時間が、引き裂こうと関係ない。
——もう、離さない。
俺は、一歩踏み出した。
「三葉!」