生徒に色々する反応集(段階分け)   作:曇りのち晴れ男

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ケース10 セリカに代金を支払う

 

『小銭が無かったから一万円』

 

 柴関ラーメンの穏やかな昼下がり。私は熱々の特製ラーメンのスープを最後まで飲み干し、満足げなため息をついてから立ち上がった。

 レジに向かい、財布を開く。しかし、あいにく千円札も小銭も切らしており、入っていたのは一万円札だけだった。私は少し申し訳なさそうな顔を作り、無言で一万円札をトレイの上にそっと置いた。

 

「はい、毎度あり! お会計580円ね」

 

 レジ打ちをしていたセリカは、私の一万円札を見ると、手慣れた様子でレジのドロワーを開いた。

 

「一万円からお預かりしますね。……はい、お釣り9420円! ちょうど千円札切らしてなくて良かったわ。先生も、次からはなるべく崩してから来てよね」

 

 セリカは呆れたように口では文句を言いつつも、お札の向きを綺麗に揃え、小銭と一緒に丁寧に私の手に乗せてくれた。アルバイトとして完全に板についた、頼もしい手際だった。

 

 ■■■

 

『キャッシュレス決済』

 

 別の日。私はいつものようにラーメンを平らげ、レジへと向かった。

 今日は財布を開かず、おもむろにスマートフォンを取り出す。そして、画面に電子決済用のバーコードを表示させ、無言のままセリカの目の前へとスッと差し出した。

 

「毎度あり! お会計は……えっ?」

 

 差し出されたスマートフォンの画面を見て、セリカはピタリと動きを止めた。そして、少しだけ気まずそうに眉を下げて、両手を顔の前で合わせる。

 

「あー……ご、ごめん先生。うち、そういう最新のキャッシュレス決済とか、まだ導入してないのよ……。お会計は現金のみでやってて……」

 

 申し訳なさそうに謝るセリカに対し、私は「気にしないで」と首を横に振り、笑顔で財布から現金を取り出して支払った。

 

「もう、びっくりさせないでよね。いつか導入できたら教えてあげるから!」

 

 と、セリカはホッとしたように笑って見送ってくれた。

 

 ■■■

 

『すべて一円玉』

 

 さらに別の日。ランチタイムのピークが過ぎ、少し落ち着きを取り戻した店内で、私は綺麗に空になったどんぶりをカウンターに上げ、セリカを呼んだ。

 

「毎度あり! お会計、580円ね!」

 

 元気にレジを打つセリカに対し、私は無言で鞄の中からずっしりと重い布袋を取り出した。そして、カチャカチャと音を立てながら、トレイの上へと大量の硬貨を積み上げていく。すべて、銀色に光る『一円玉』である。

 

 棒金の状態もしっかり解消したものだ。

 

「……は? ちょっと先生、なによこれ。全部一円玉ってどういうこと!? 嫌がらせ!?」

 

 セリカが釣り上がった目で私を鋭く睨みつける。私は澄ました顔で、静かに親指を立てた。

 

「もう! いくら暇になってきたからって、数える身にもなってよね! 1、2、3……10、20……ええい、面倒くさい! 手がアルミ臭くなるじゃないの! ……って、あれ?」

 

 ブツブツと文句を言いながらも、真面目な性格ゆえにキッチリと数え終えたセリカは、信じられないものを見たように目を見開いた。

 

「……ぴったり580枚あるし。逆に怖いわよ! ていうか、銀行の窓口じゃないんだから、素直にお札で払ってよ!!」

 

 ■■■

 

『巨大な本マグロ』

 

 すっかり日が落ちた夜の営業時間。私はラーメンを美味しくいただいた後、無言のまま一度店を出て、店外に停めてあったレンタルトラックの荷台から「それ」を肩に担ぎ込んできた。

 

 ──ビチチチチチッ!! ビターンッ!! 

 

「キャアアア!? 水しぶき!? 生臭っ!? っていうかデカッ!!」

 

 私がレジ横のカウンターに豪快に叩きつけたのは、丸々と太り、まだ元気よく尾びれを跳ねさせている巨大な本マグロだった。私は額の汗を手の甲で拭い、セリカに向かって「釣り銭はとっておけ」という顔で爽やかに微笑みかけた。

 

「物々交換!? いやいやいや、ラーメン一杯に本マグロ一本はレートがおかしすぎるでしょ!? ここはラーメン屋であって、海鮮市場じゃないのよ!!」

 

 セリカが激しく両手を振って猛抗議するが、厨房の奥では、大将が頭の鉢巻きをキュッと締め直し、おもむろに巨大な出刃包丁を研ぎ始めていた。

 

「ちょっと大将! 目をキラキラさせないで! うちラーメン屋でしょ!? 完全に捌く気満々じゃない!! 先生も変なもの持ち込まないで!!」

 

 ■■■

 

『泥付きの金鉱石』

 

 そして今日。私は大盛りの特製ラーメンの汁まで一滴残らず飲み干すと、満足げに天を仰ぎ、ゆっくりと立ち上がってレジへ向かった。

 

「はいはい、毎度あり。今日はトッピングも込みで1050円ね。……また変な支払い方しないでしょうね? 今日はマグロの置き場なんてないからね?」

 

 警戒心を剥き出しにするセリカに対し、私は重々しく頷いた。そして、背負っていたリュックサックの奥底から、赤土のついた未精製の「巨大な金鉱石」を取り出し、レジ横のコイントレイにゴトンッ!!! と沈み込ませた。

 

「ひゃっ!? ちょ、重っ!? 金属音!? トレイが完全にへこんだんだけど!?」

 

 セリカは鈍い光を放つ金塊と、私の顔を交互に見て、完全にパニック状態に陥った。

 

「なにこれ、金鉱石!? どこの鉱山で掘ってきたの!? 泥がついてるし! うちには両替機も、グラムを正確に測る電子天秤もないわよ! お釣り出せないってば!!」

 

 私がこれでなんとか頼む、と両手を合わせて拝み倒していると、背後から大将がスタスタと歩み寄ってきた。

 大将はチョコ皿とバーナーを持ってきて、鋳造する気満々のようだ。

 

「ちょっとばかし鋳造に時間がかかるから、しばらく表頼んだよセリカちゃん」

 

「ちょっと大将! ……ってかなんで鋳造の道具も知識もあるのよ! ラーメン屋の業務範囲を完全に逸脱してるから!! 先生! お願いだから普通に電子マネー導入するまで待つか、一万円札で払ってぇぇぇ!!!」

 

 セリカの悲痛なツッコミが、夜の柴関ラーメンに虚しく響き渡るのだった。

 

 ■■■

 

 終わり

 

 

「鋳造が終わったけど、結構な量だなぁ!」

 

「これ手に入れるの苦労したよ、大将」

 

「今のレートからしても、ラーメン何百杯分にもになるな。先生! しばらく代金はいらないから、また食べに来てくれよな!」

 

「やったぜ!!」

 

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