『題材発表』
シャーレの執務室には、なぜか本格的な撮影用のリングライトとビデオカメラがセットされていた。
デスクの中央には、ホカホカと湯気を立てる炊きたての白米が盛られたお茶碗。そしてその脇には、木箱に入れられた『出所不明の謎の削り節』がいくつか丁寧に並べられている。
私はカメラに向かって、動画配信者のような満面の笑みを浮かべた。そして隣の椅子に縛……座っている風紀委員のイオリへと手を向ける。
「はい、というわけでカメラ回ってます! 今回の実況解説のゲストとして来てくれた、ゲヘナ学園風紀委員会のイオリちゃんです! よろしくね!」
「……よろしくね、じゃない。なんで私が休日にこんな所に呼ばれたんだ? というか、その机の上の木箱に入ってる、鰹節の出来損ないみたいなゴミはなんだ」
露骨に嫌そうな顔をして腕を組むイオリをよそに、私はドラムロールの口三味線を鳴らし、高らかに今回の企画を発表した。
「今回はなんと! キヴォトス初の試み! 『角の生えた生徒たちのツノの削り節を、ふりかけにして食べていく』という至高のグルメレビュー企画です!!」
「っ気持ち悪いなぁ!!! 本当に何してるんだ!!!」
──ドゴッ!
イオリの容赦ない蹴りが、私のすねにクリーンヒットした。
私は激痛に顔を引き攣らせながらも、プロの配信者としての笑顔を崩さずにお茶碗と箸を手に取った。
「い、痛いなぁ……。じゃあ、さっそく食べていこうか!」
「私の蹴りを無視して進めるな変態!! そもそも誰の角だそれ!!」
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『フウカのツノ』
「まずはエントリーナンバー1。給食部のフウカのツノを削ったものです。これをこうして、熱々のご飯にパラパラと……うん、いただきます!」
私は一口分のご飯を掻き込み、目を閉じてじっくりと咀嚼した。
口の中に広がる風味を、美食家のように真剣な顔で分析する。
「……うん、なるほど。噛めば噛むほど『旨味』が出てくるね。鰹節にも似た深いコクがある。やっぱり給食部でいつも美味しい料理をしているから、煙や出汁の成分がツノにまで染み込んでいるのかな。ご飯によく合うよ」
「……それは先生の味覚がおかしいだけじゃないか? 角から出汁の味がするわけないだろ! そもそも他人の角を削って食うな! フウカもなんで削らせた! またどっかに拉致されて無理やり削られたのか!?」
イオリがドン引きしながらツッコミを入れるが、私は「フウカにはお詫びに新しいフライパンを買ってあげたよ」とウインクで返し、次の箱を開けた。
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『カスミのツノ』
「さて、次は温泉開発部部長、カスミのツノだね。さっきより少し黒みがかった削り節だけど……匂いはどうかな。クンクン……うん。それじゃあ、いただきます」
再びご飯に乗せて一口。モグモグと噛み締めた私は、少しだけ眉間に皺を寄せた。
「……うーん。これはちょっと厳しいかな。温泉開発部なだけあって、少し塩素系というか、硫黄っぽい味がするね。ミネラルは豊富そうだけど、ふりかけには向かないかも」
「そもそも角の削り節がふりかけに向かないんだ、先生。いい加減に気づけ」
イオリは大きくため息をつき、信じられないものを見る目で私を蔑んだ。
「というか、あのカスミをどうやって大人しくさせて角を削ったんだ。麻酔銃でも撃ち込んだのか? ……そのまま風紀委員に引き渡してくれたら楽だったんだが……」
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『セナのツノ』
「気を取り直して、エントリーナンバー3! 救急医学部のセナのツノ削り節だよ。見た目はすごく綺麗だね。パクリ」
私は咀嚼し、今度はパッと顔を輝かせた。
「おっ、これは割とオーソドックスな味だね! 変な癖がなくて、どこか安心する風味だ。『のりたま』みたいにサクサクと美味しく食べられるよ! ほら、イオリも一口どう? あーん」
私が箸でご飯を掬い、イオリの口元へ差し出す。
「ツノの味でオーソドックスって何なんだ……? ってやめろぉ!! 絶対にいらない!! 私にそれを近づけるなド変態!!」
イオリは悲鳴を上げ、キャスター付きの椅子ごと全力で後ずさり、壁際まで避難してしまった。
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『ヒナのツノ』
「うーん、イオリは恥ずかしがり屋みたいだから、私一人でメインディッシュにいこうかな。……続いては、こちら。ヒナのツノです」
「──ッ!? 委員長!? 委員長のも削ったのか!?」
壁際まで逃げていたイオリが、目を見開いて凄い勢いで机まで身を乗り出してきた。その顔には、怒りよりも純粋な驚きと動揺が浮かんでいる。
「そりゃまぁ。ちょっとお願いしたら、なんかまんざらでもなさそうだったし」
「まんざら・でも・ない!?」
「うん。『先生がどうしてもって言うなら……』って、顔を赤くしながら大人しく大工用のカンナを当てさせてくれたよ。シュルルッていい音がしたなぁ」
「委員長ぉ!!!」
尊敬してやまない、あの完璧で冷徹な風紀委員長が。
先生の狂気的な欲望にあっさりと屈し、あろうことか頭に大工道具をかけられながら頬を染めている姿を想像してしまったのだろう。イオリは頭を抱え、絶望的な声を漏らした。
「さて、気になるお味の方は……ふむ。かなり癖の強い味だね。濃厚すぎるというか……口の中で暴れ回るような圧倒的な存在感だ。ヒナ本人が非常に強いから、味も比例して癖強になったのかな。これはご飯よりは、ちびちびとお酒のつまみにする方が合いそうだね」
私が真面目な顔でカメラに向かって食レポを続けていると、隣から「カタン」と鈍い音がした。
見ると、イオリが虚空を見つめ、魂が抜けたような顔で椅子に座り込んでいる。
「委員長……どうして……そこまで……」
「おーい、イオリー? 聞いてる?」
「あっ、あ……」
イオリの口から、もはやツッコミの気力すら失われた、かすかな呟きが漏れる。目は完全に焦点が合っておらず、口は半開きだ。
「あれっ、イオリが実況を放棄しちゃった……。ちょっと刺激が強すぎたかな?」
私はすっかり静かになってしまった執務室で、残されたヒナのツノふりかけご飯をモグモグと平らげながら、ただ一人、笑顔で動画のエンディングを迎えるのだった。
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終わり
「頼むニヤ! どうしてもそれが欲しいんだ!」
「ちょ、あの……これ最後のツノなんで、嫌です……」
「いける! ちょっと細くなるだけだから!」
「いや、いけない……」