ヤニカスがVRMMOにログインしました(旧題:ニコチン・オンライン)   作:ジュネープ

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ヤニー、家を買う

 

 

「そろそろ、ギルドホームを買おうかと思う」

 

「え・・・・」

 

「・・・・・今なんて?」

 

ボウを仲間に迎えてから10ヶ月後。

第57層・マーテンの酒場に集まったメンバーへ、俺はそう切り出した。

 

「ギルドホームを買おうかと思うって言ったんだ」

 

「そういう意味ちゃう。なんで今なんや?」

 

ストライクの煙を、ゆっくりと吐き出す。

 

「ギルドホームで寝泊まりできりゃ、宿代がいらなくなる。それに、栽培用のスペースも今とは比べ物にならないくらい増える」

 

俺の言葉に、リリィは顎に手を当てて考え込む。

 

「・・・・確かに、今までは手持ちのプランターだけで栽培していましたし、生産量には限界がありました。私は、良いと思います」

 

「値は張るが、今の手持ち資金なら、多少豪華な拠点を選んでも消費は全体の三割程度だ。問題ない」

 

「リリィちゃんも乗り気なんか。それなら、ワイから言うことは何もあらへんわ」

 

全員の同意を確認し、吸い終えたタバコを揉み消して席を立つ。

 

「それなら決まりだ。行くぞ」

 

「・・・・おいこらちょい待て」

 

一番察しのいいボウが口を開く。

リリィは、何が始まるのか分からず、きょとんとした表情を浮かべていた。

 

「もしかして、ワイらを今日ここに呼んだ理由って・・・・」

 

「ギルドホームの内見に行く」

 

そう告げた瞬間、場の空気が一瞬、静まり返った。

 

 

 

 

 

 

 

「現在、売り出し中の物件はこちらになります」

 

「ほぇー。結構あるんやなぁ」

 

「この階層は、まだプレイヤーが物件を買ってないからな。妥当だろ」

 

俺たちは、マーテンの不動産屋でNPCが提示した物件一覧を眺めていた。

 

SAOでは、階層が下に行くほど、プレイヤーが先に購入した物件が増えていく。

そのため、この階層に並ぶ不動産は、まだ選び放題と言っていい数が残っていた。

 

「寝室は将来的に10人程度まで対応。作業部屋と栽培エリア、それに応接ルーム付き・・・・この条件で絞るぞ」

 

操作を終えると、条件に合致した物件が20件ほど表示された。

 

「悩ましいな・・・・」

 

「・・・・ですね。どれも甲乙つけ難いと思います」

 

このデスゲームにおいて、住環境は、タバコを吸うことの次に重要な要素だ。

すでにこの世界を現実と同じ生活空間として捉えている以上、物件選びの基準も自然と現実寄りになる。

 

「ヤニーはん。内装は後から改装できるんやし、間取り重視で選ばん?」

 

「間取りか・・・・なら、これなんてどうだ?」

 

少し考えて、俺は一つの物件を指差した。

どこか物々しい、要塞じみた雰囲気を持つ建物だ。

 

「これなら、仮に敵が攻めてきても、屋内で防衛戦ができる」

 

「いやアホか?!圏内で襲われることなんて、あるはず無いやろ!」

 

「あはは・・・・」

 

乾いた笑いを浮かべるリリィ。

この構図はボウが加入してからすっかりお馴染みな流れになっていた。

 

「ダメか・・・・だったらセンスがありそうなリリィに選ばせるか?」

 

「わ・・・・私ですか?!」

 

「ええ考えやと思うで。正直、男二人より女の子の方がセンスあるやろうしな?」

 

思いがけない流れ弾に、リリィは明らかに動揺しながらも物件を選ぶ。

 

彼女が指差したその物件を見て、俺とボウは顔を見合わせる。

 

「良いと思うぞ」

 

「これは・・・・ええチョイスやな」

 

二人とも、文句の付けようがないと思える選択だった。

 

 

 

 

「わぁ・・・・これが、私たちの拠点ですか!」

 

「中々ええ門構えやないか!」

 

リリィとボウの声を受け流しつつ、俺は購入した拠点へ足を踏み入れた。

 

目の前に広がるのは、吹き抜けのエントランス。

某ゾンビゲームに出てくる洋館を小さくしたような間取りだ。

 

内心のワクワク感を抑え、俺はコンソールから内装変更コマンドを呼び出した。

 

「せっかくやし、新居祝いに知り合い呼んで、パーッといこうや!」

 

「良い考えだと・・・・思います」

 

「そうか。じゃあ、お前らはパーティの準備を頼む。俺はやることやってから合流する」

 

道中、散々議論した内装を次々と適用していく。

殺風景だった部屋が、一瞬で高級感漂うシックな空間へと変貌した。

 

同じ手順を各フロアで繰り返し、購入済みの家具を設置し終えると、俺は執務室・・・・・・もとい、自室へ向かう。

 

 

 

椅子に腰を下ろし、アイテムボックスからパイプを取り出す。

あらかじめ小分けにされた葉を包む紙を開き、中身をパイプへ詰めた。

 

マッチに火をつけ、葉へ着火する。

空気を送り込みながら煙を吸う動作を何度か繰り返し、安定したのを確認して、椅子にもたれかかった。

 

「・・・・最高だ」

 

これはパイプ用ではなく、ジャグ・・・・いわゆる手巻き用の葉だ。

燃焼は早いが、その分、短時間でえげつない量のヤニを摂取できる。

 

「懐かしいな・・・・」

 

パイプ用の葉が買えなかった新卒の頃、よくこうやって吸っていた事を当時の記憶と共に思い出す。

 

数分後、完全に燃え尽き、葉が粒子となったのを確認して席を立つ。

 

街を歩きながら、わずかながらも存在するフレンドへ、新居祝いの参加確認をメッセージで送った。

 

そのままの勢いで、半ば趣味と化した新しいタバコ葉の探索を始める。

今回向かうフィールドは第19層の十字の丘だ。

 

基本的に、新階層が解放されれば一通り回る。

だが、月夜の黒猫団の件以降、一度回った場所も時間帯や日を変えて再度巡るようにしていた。

 

「・・・・新しい素材は、ないか」

 

落胆しかけた、その時。

遠くから、騒がしい音が響いた。

 

一瞬で身構え、両手に草刈り鎌を装備する。

 

音のした方向へ、俺は走り出した。

 

 

 

 

 

(あれは・・・・キリトか。それに・・・・フードを被った男?)

 

視界の先に、場違いな光景が広がっていた。

この階層には不釣り合いな最前線でよく見かける装備を身に纏った男とキリト。

その背後には、中層プレイヤーと思しき数人が、怯えた様子で固まっている。

 

そして、対峙する相手。

全員がフードを深く被り、素顔を窺い知ることのできない集団だった。

 

「何をしてるんだ、お前ら」

 

俺はキリトを援護する位置取りを選び、フードの男たちの背後へ回り込む。

これで挟み撃ちだ。

 

「あの時の・・・・」

 

小さく漏れた声。

聞き覚えがある。

 

「この声、聞いた事があるな」

 

「この人、知り合いなんですか〜?」

 

間延びした口調で口を挟む男。

 

「以前、PKを仕損ねたプレイヤーと、一緒にいた連中だ」

 

男が口を開いてるが、俺の視線はそちらには向いていなかった。

 

 

中央に立つ、ただ一人の無言の男。

 

 

(こいつの立ち振る舞い・・・・只者じゃない)

 

どこか覇気を感じる佇まいに、意識せずとも冷や汗が背中を伝った。

 

「・・・・・・行くぞ」

 

短い一言。

 

その声に応じるように、二人の男が動く。

俺の横をすり抜け、霧の向こうへと歩き出していった。

 

「いつか、絶対、ころす」

 

すれ違いざま。

耳元で囁かれたその声を最後に、彼らの姿は霧の中へと溶けて消えた。

 




シリアスは苦手なのに文体がシリアスになる不思議
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