ヤニカスがVRMMOにログインしました(旧題:ニコチン・オンライン) 作:ジュネープ
「・・・・なるほどな。ってことは、事件は一件落着ってことでいいわけか」
あの連中が去った後、俺はキリトから大まかな経緯を聞かされた。
圏内で発生したPKを調査していたこと。
そのPKが、実はフェイクだったこと。
そして、その裏でPKギルド・・・・ラフコフに襲われたこと。
聞けば聞くほど、こいつの周囲には何かしらの補正でもかかっているんじゃないかと思えてくる。
思わず、苦虫を噛み潰したような顔になった。
「じゃあ、俺が出てきたのは完全な無駄足ってわけか・・・・」
「いや、増援が来るってハッタリの信憑性が増したから正直ありがたかったよ」
「そうかい」
咥えていたケンタの煙を吐き出し、そのまま地面に捨てる。
踵で揉み消すと、俺は背を向けた。
(クソ、完全な無駄足だったな)
キリトはフォローしてくれたが、あのままでも戦闘は回避できた。
俺の要らない参戦で下手をすれば、人が死んでいてもおかしくなかった。
「ガキに気を遣われるなんて情けねぇ」
ふと現在時刻を確認する。
パーティ開始までは、まだ余裕がある。
俺はそのまま、ダンジョンへ向かうことにした。
「っふ!!!」
掛け声と同時に鎌を突き刺す。
モンスターは悲鳴を上げる間もなく粒子となって消えた。
武器を振り抜いた直後を狙って、周囲のモンスターが一斉に攻めてくる。
回し蹴りで一体を怯ませ、もう片方の手に持つ鎌を逆手に持ち替える。
裏拳の要領で振り抜き、二筋の裂傷を刻む。
膝をついた敵の眼球めがけ、両手の鎌を突き刺す。
引き倒すと同時に、HPはゼロになった。
「やっぱ、気分が沈んだ時はダンジョンに限るな」
心なしか、表情も軽くなっている。
俺だけが持つオリジナルスキル
《スモークメイカー》
熟練度を上げれば、戦闘スキルの成長以外でもタバコ葉の採取効率も上がる。
そのため、攻略組と遜色ない頻度でモンスターを狩っていた。
「なんだ、この匂いは・・・タバコ?」
微かに漂ってくる煙の匂い。
何百、何千とタバコを作ってきたせいか、匂いだけで銘柄の傾向が分かるようになっている。
しかし、この匂いは俺が作ったものではない。
かといって、ショップで売っている粗悪な葉巻の匂いでもない。
違和感を覚え、匂いを辿る。
行き着いた先は、行き止まりの壁だった。
「ここで止まってる?・・・・まさか」
壁に手を伸ばす。
指先が、抵抗なく壁をすり抜けた。
「隠し通路か」
念のため、バフ効果の高い希少な高品質葉巻に火をつける。
煙を吸い込みながら、慎重に進む。
入り組んだ通路を抜け、曲がり角を曲がった瞬間。
俺は即座に元来た道へと引き返した。
暗闇の奥で、かすかに光る点がある。
顔だけを出して目を凝らす。
「あれは・・・・タバコの火?」
最大限の警戒をしつつ、再び通路を進む。
光はどうやら、広間の中心にあるらしい。
本来なら閉じているはずの扉が、その時に限って開いていた。
一歩、また一歩と近づいた瞬間。
背後で、重い音が鳴り響いた。
反射的に振り返る。
開いていた扉は、完全に閉じていた。
次の瞬間
薄暗かった広間が、一斉に光に照らされる。
明るくなった視界の中央に、嫌でも目が向いた。
「なにこれ・・・いや、マジでなんだ?」
広間の中央に鎮座していたのは1体のキャラ。
分厚い毛皮と鉄鎧を纏った、ヴァイキングの戦士を思わせる巨躯。
床に突き立てられた大斧に片手を掛け、玉座に腰を下ろしたまま、微動だにしない。
その口元には
ゆらりと赤く灯る火種。
煙を燻らせる1本の【タバコ】
ただソイツはジッと俺を見つめていた。
ソイツは、口から大量の煙を豪快に吐き出した。
「この広間に閉じ込められて幾百年・・・・とうとう吾輩に挑むに値する傑物が現れたか」
低く、重みのある声が広間に響く。
「お前は誰だ?」
俺の問いに、ソイツは手に持った葉巻を再び吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
「吾輩はオッタル。海の覇者ラグナルの息子だ」
そして、そのまま俺を射抜くように見据える。
【次はお前が名乗れ】
言葉ではなく、視線だけでそう訴えているのが分かった。
俺は口に咥えていた葉巻を外し、煙を吐く。
「俺はヤニー。タバコを愛し、タバコに愛された――」
「いや、ちょっと待て」
「・・・・なんだ?」
「名乗りというものは、自分の名の後に父の名を続けるものだ」
「個人情報をゲームの世界で言うわけねぇだろ。アホかこのキャラ」
呆れたように眉をひそめるオッタルに、思わず本音が漏れた。
その後、しばしの押し問答が続いた結果
「あー・・・・俺の名はヤニー。大地の覇者?オーティンの息子だ」
完全に架空の肩書きをでっち上げる羽目になった。
存在しない父親設定を満足げに受け入れ頷くオッタル。
その様子を冷めた目で眺めながら、俺は気になっていたことを口にする。
「お前・・・・普通のNPCじゃないな?」
「NPCとは何だ?」
オッタルは鼻で笑うように煙を吐いた。
「吾輩は海の覇者の息子、オッタル!!幾百年もこの地で我に挑む者を待っていた!・・・・という設定のAIだ」
どうやら、茅場はこの世界に複数の観測用AIを紛れ込ませているらしい。
特定条件下で作動するこのフロアのボスには、かなり自由な裁量が与えられている――そんな仕様だという。
「ともかく!!我に力を示せば、相応の報酬を授けよう!」
「ほぅ・・・・ボス戦ってわけか」
「いや、殺しはせん。死ぬ間際まで体力を削ったら、テキトーなことを言って逃がすだけだ」
「・・・・そうさせた俺が言えた口じゃないが、せめて世界観は守れよ」
「ごちゃごちゃうるさいぞ!!」
オッタルは大斧を握り直し、立ち上がった。
「・・・・では、行くぞ!!」
こうして
オッタルとの戦闘が始まった。
早いところ新居購入パーティに移動させたいところ。
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