ヤニカスがVRMMOにログインしました(旧題:ニコチン・オンライン) 作:ジュネープ
「ヤニーはん、どこ行ってたんや?もう会は始まっとるで!!」
「本当ですよ。もう来ないかと思いました」
開始時刻から十分遅れて戻ってきた俺は、正門前で待っていた二人に小言を食らった。
「すまん。少し野暮用でな」
「もう、ゲストの人たちは揃ってます。早く行きましょう!」
「わかったわかった」
正面玄関へと続く扉を開くと、そこには見覚えのある顔ぶれが揃っていた。
「ヤニーさん、おかえりなさい!」
ディアベルを筆頭に、アインクラッド解放隊。
聖竜連合、風林火山。
最近迷宮攻略に参加し始めた月夜の黒猫団のメンバーまで顔を揃えている。
「ほな、主役が来たところでグラスを持とうか!」
ボウの一声で、集まった面々が一斉にグラスを手に取った。
視線が自然と俺に集まる。
「・・・・・こういうのは、正直苦手なんだがな。今回は特別だ。」
咳払いを一つして、俺はぽつりぽつりと語り始めた。
「本来なら、俺は自分で楽しむためにタバコを作ってただけだ。
それがいつの間にか、攻略組に売るようになり・・・・気づけば仲間が増えて、YSMを立ち上げることになった」
一度、言葉を切る。
「お前たちが買ってくれたタバコのおかげで、俺たちは拠点を持てた。ここに集まってくれた全員に、感謝してる」
少しだけ間を置いて、続ける。
「長話は好きじゃない・・・・・乾杯だ」
「「「乾杯!!」」」
一斉に声が上がり、グラスが打ち鳴らされる。
その後は各ギルドのリーダーが挨拶に回ってきて、俺はそれに応じる係になった。
リリィは、普段から接点のあるプレイヤーが多いせいか、いつもより饒舌に話している。
ボウはというと、本場関西人のキバオウと漫談のようなやり取りを始め、それを肴に周囲がゲラゲラと笑っていた。
(・・・・・いい光景だな)
そんな事をしみじみと感じてる中
「よう、ヤニー」
声をかけてきたのは、数時間前にも顔を合わせたばかりのキリトだった。
「さっきぶりだな」
「あの時はありがとな。その・・・・お前に紹介したい人がいるんだ」
「紹介?俺に興味を持つような物好きがいるとはな」
軽く返すと、キリトは背後に視線を向けた。
「ヨゥ。アンタがヤニーかい?オイラはアルゴ。情報屋をやってる」
現れたのは、小柄で頬に猫のひげみたいなマークをつけた女性プレイヤーだった。
「情報屋だと?・・・俺に何の用だ?」
「おれっちが出してる新聞、知ってるカ?
ウィークリーアルゴってやつ」
「ああ。SAOの情報を分かりやすくまとめてるって評判だ。ウチでも購読してる」
「そっか。なら話は早いナ。取材させてくれないカ?」
「構わんが、ちゃんと代金はもらうぞ?」
「ニャハハ。しっかりしてるんだナ」
そういうわけで、俺はアルゴを執務室へと案内した。
「で、何を聞きたい?」
「ズバリ、アンタらYSMとタバコについてダ」
「たしか半年前か、未成年の喫煙問題を記事にしてたな。それ関連か?」
少し警戒して視線を向けると、アルゴは肩をすくめた。
「んや。あの記事は問題提起ダ。現実世界でも同じことは起きてるし、システムに従って商売してるアンタらに非はない」
それを聞いて、俺は内心ほっとする。
タバコに火をつけ、一服した。
「じゃあ、何が聞きたい?」
「YSMについて特集させてほしいンダ」
「・・・・・それだけか?」
「それだけダ」
特に何かが起きたわけでもないので、その後の細かいやり取りは割愛する。
パーティーも終盤に差し掛かり、各々が小さな輪を作って話し込むようになった。
俺はそれを見計らって声を張り上げた。
「みんな、聞いてくれ!」
ざわついていた空気が、一斉にこちらへ集まる。
「本来なら、ここで締めの挨拶の予定だった。
だがその前に、一つ重要な発表がある」
事前に話していたリリィとボウへ、目線で合図を送る。
「拠点を持ったことで、YSMは大量生産の設備を導入できるようになった。今までは生産数の都合で、攻略組にしか販売できなかったが・・・・」
一度、深呼吸。
「YSMは店舗販売を開始する」
一瞬の静寂。
次の瞬間、ざわめきが走る。
「攻略に参加していないプレイヤーも、気軽にタバコを手に取れるようにする。このフロアは、店舗フロアとして一般開放だ」
その言葉を合図に、攻略組以外のプレイヤーたちから、地を割るような歓声が上がった。
リリィ達は嬉しそうな顔でプレイヤー達を眺めていたのが印象的だった。
「いやぁ、楽しかったなぁ!!」
「ほんとですね、ボウさん」
「お前ら、喋ってないで会場の片付けがまだ残ってるぞ」
パーティー終了後。
飾り付けられていた装飾を外し、テーブルを拭き、元の状態に戻す作業をしていた俺たちは、つい雑談に花を咲かせている2人にに見かねて声を掛ける。
「そんな堅いこと言わんでええやん。ここはもうちょい気楽にやろうや」
「そうですよ。どうせシステム操作で全部撤去もできますし」
その時だった。
「お主らは分かっておらぬな」
低く落ち着いた声。
俺と同じく、黙々とテーブルを拭いていたオッタルが顔を上げた。
「システムに頼らず、己の手で片付けを行うことで、道具に感謝の念が宿る。吾輩はそう思っておる」
(・・・・良いこと言うじゃねぇか)
オッタルの言葉に、俺は小さく頷く。
「オッタルの言う通りだ。分かったらお前らも手を動かせ」
「ホンマに真面目やなぁ・・・・ところでヤニーはん」
「なんだ」
「・・・・こいつは誰なんや?」
「誰って・・・・オッタルだが」
「いや、だから誰やねん!!」
ボケとツッコミが完全に逆転している状況に、内心少しだけ驚きつつ、俺は一度手を止めた。
「そういえば、ちゃんと紹介してなかったな。
こいつはオッタル。新しいギルドメンバーだ」
「はぁぁぁ?!」
「・・・・・」
ボウは目を見開き、リリィは言葉を失ったまま固まる。
その反応を意に介さず、オッタルが一歩前に出た。
「吾輩はオッタル。海の覇者ラグナルの息子だ」
「あ、どーも。ワイはボウって言います。よろしゅう」
「わ、わたしはリリィです」
二人は一応、礼儀正しく挨拶を返す。
しかし次の瞬間、視線が俺に集中した。
「なぁヤニーはん。オッタルって・・・・もしかして、そーゆープレイが好きな人なんか?」
「いや。あいつはこれがデフォだ」
「・・・・中々の変わり者やな。リリィはんはどう思う?」
「えっと・・・悪い人では、無さそうです」
十分だろ、と言わんばかりに、俺は二人から少し離れ、オッタルの隣に立った。
「こいつはタバコを作れる希少な存在だ。今後は店舗販売と、タバコ製作の補助を任せるつもりでいる」
「吾輩は右も左も分からぬ身。各々方、どうかよろしく頼む」
深々と頭を下げるオッタル。
ボウとリリィは引きつった笑みを浮かべつつも、その場で頷いた。
そうして、この場は一応の収まりを見せた。
夜
灯りのついた執務室。
俺とオッタルは並んで座り、タバコを燻らせながら夜空を眺めていた。
「ヤニー殿、これで良かったのか?」
「あぁ。お前がAIだってことは、今出すと余計な混乱を生む。だからしばらくは黙っておく」
「ヤニー殿がそう言うのであれば、それに従おう。今後とも、よろしく頼む」
そう言って、オッタルは再び頭を下げた。
俺は何も言わず、ただ煙を吐き出しながら、静かな夜空を見上げていた。