ヤニカスがVRMMOにログインしました(旧題:ニコチン・オンライン)   作:ジュネープ

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リアルで立て込んでたもんで遅れました。
次です!


ヤニカスの死闘

夕陽に染まった荒野は、どこか不気味な色を帯びていた。

 

赤く焼けた地平線の向こうへと、攻略組の一団が進軍していく。

先頭を行くのは、聖竜連合のリーダー、ディアベル。

 

その背には、血盟騎士団、アインクラッド解放隊からなる各ギルドの精鋭が続いている。

 

 

「……なぁ。何か嫌な予感がするんだが」

 

小さく呟いたのはキリトだった。

 

周囲を警戒するその視線は、どこか落ち着かない。

 

「きっと気のせいさ」

 

見かねたディアベルは苦笑を交えつつ答える。

 

「この作戦を知っているのは、ここにいるメンバーだけだ。奴らは完全に虚を突かれた状態のはずだよ」

 

その言葉を聞いてもなお、キリトの胸騒ぎは消えない。

 

 

攻略組の面々は口々にタバコを燻らせながら足を進める。

緊張を誤魔化すための一服。立ち上る煙が赤い空に溶けていく。

 

……ピコン。

 

 

 

ディアベルの視界に、控えめなシステム音と共にメール通知が表示された。

 

「……?ヤニーさんからか」

 

一瞬だけ視線を落とすが、すぐにそれを閉じた。

 

「……無視しても大丈夫ですか?」

 

隣を歩くリンドが問いかける。

 

「あぁ。全てが片付いた後にでも確認するさ」

 

彼らは進む。

その光景を見られている事を知らずに。

 

「情報通り引っかかったな」

 

フードを被った男がほくそ笑む。

その背後には数十人のプレイヤーが男を眺めていた。

 

 

彼らは知らない。

その足取りが、すでに敵に把握されているとも知らずに――

 

 

 

 

 

 

「ヤニーはん!あとどれぐらいや?!」

 

荒野を駆ける三つの影。

その先頭を走るボウが叫ぶ。

 

「あと20分!もう少しだ!」

 

俺は走りながら答える。

隊列はボウ、ヤニー、オッタルの順で、彼らが進むたびに乾いた土が弾け飛ぶ。

 

「まったく、老骨を酷使するとは罰当たりじゃぞ!」

 

「その割に息ひとつ乱れてへんやろが!」

 

軽口を叩き合いながらも、速度は落ちない。

 

 

が、しかし、それでも20分という距離がやけに遠く感じる。

 

俺は歯痒い思いを飲み込むことしかできなかった。

 

(耐えていてくれよ……)

 

無意識に咥えていたタバコを噛み潰して、脚にさらに力を込めた。

 

「……っ!あれは――!」

 

 

最初に異変に気づいたのはボウだった。

 

遠くの地平線で砂煙が上がっていたのだ。

 

「……もう戦いは始まっとるみたいやで!!」

 

遅れて俺とオッタルも視界を凝らす。

 

複数の光や剣閃に交じり、爆ぜるエフェクト。

集団同士が衝突していた。

 

「吾輩らの距離からでは詳細は分からぬが……明らかに交戦中だな」

 

「ボウ、オッタル。武器の準備はいいか?」

 

遠目にも分かる規模の乱戦に覚悟を決める。

 

「ワイは準備万端や!」

 

トンファーを構える。

 

「吾輩も問題ない」

 

肩に背負った斧を握る手に力がこもる。

 

俺は両手の鎌を引き抜いた。

 

「……気張っていくぞ!!」

 

3人は、速度を緩めることなくそのまま戦場へと突入した。

 

 

 

 

 

それは、あまりにも唐突だった。

 

 

「っ!!!」

 

「ガァッ――!」

 

何処からともなく飛んできたナイフを喰らい、悲鳴と共に2人のプレイヤーが体勢を崩す。

 

彼らが地面に倒れ込むその一瞬。

追加で飛来したナイフが、無防備な身体に深々と突き刺さりHPバーが一瞬で消し飛ぶ。

 

次の瞬間、彼は粒子となって砕け散った。

 

 

「総員警戒!!!」

 

 

ディアベルの怒号が荒野に響く。

 

呆気に取られたプレイヤー達は正気に戻り、瞬時に陣形をとる。彼らはそれぞれの武器を構え、背を合わせ、周囲を睨みつけた。

 

 

「来たぞ!!」

 

キリトの声と同時に、四方から影が飛び出す。ラフィン・コフィンの構成員たちだ。

 

完璧な奇襲。

プレイヤーの動きを完全に、読まれていたのだ。

 

最前線で鍛え上げられた攻略組は、反射的に応戦する。だが、相手は対人戦に特化したPK集団。彼らには分が悪かった。

 

 

攻撃を前に徐々に、確実に。

攻略組の動きが鈍り始める。

 

「っ?!いやだ……死にたくな――」

 

あるプレイヤーの言葉は最後まで続かず、この世界から消滅した。

また、別の場所では減り続けるHPバーに気を取られたプレイヤーが背後から刺され、消滅する。

 

「クソ……!」

 

ディアベルは歯を食いしばる。

 

(これでは捕縛どころか、こちらが全滅する……!)

 

 

剣を振るい、目の前の敵を押し返す。

だが、視界の端に映った光景に、思わず意識が引き寄せられた。

 

 

「死ねや!!!」

 

ラフコフメンバーが繰り出す重い一撃。

通常なら防ぎきれない角度からの攻撃は

 

「ふっ……!」

 

 

容易く弾かれた。

 

「な、何?!攻撃を避けるだと?!」

 

彼が身に纏うは赤い外套。

その手に持つは巨大な盾。

 

 

「ヒース……クリフさん……」

 

思わず、その名を呟く。

彼は血盟騎士団のリーダーで、最近急速に頭角を現した男だ。

 

ヒースクリフの動きは、正確無比だった。

攻撃を受け止め、流し、最小動作で反撃へ転じる。

 

一切の無駄がない。

 

襲いかかったラフィン・コフィンの構成員が切り伏せられていく。

 

時間にしてほんの数巡だが、その動きに目を奪われた。

 

 

それが、致命的な隙となった。

 

 

「ほぅ?敵を前にして余所見とは、いい度胸をしてるじゃないか」

 

背後からの声に振り向く。

 

 

「っ!しまっ――」

 

 

振り向いた瞬間、視界を埋める刃。その隙間から見えるのは、怪しく輝く眼光。

 

ラフィン・コフィンのリーダー、プーだ。

 

彼のソードスキルの発光エフェクトが目前に迫る。

 

「イッツショータイム」

 

そんな呟きが、耳元で聞こえる距離だが、防御姿勢は間に合わない。

 

(終わった……)

 

自分の判断ミスが、死に直結する。

その事実を理解しながら、ディアベルは目を見開くことしかできなかった。

 

 

 

――次の瞬間。

 

 

「させん!!」

 

 

ギィンッ!!

 

 

激しい金属音と共に火花が視界を埋める。

ディアベルの目前で、プーの剣が止まっていた。

 

刃を受け止めているのは――

 

 

 

【草刈り鎌】

 

ディアベルはその武器の持ち主に心当たりがあった。

 

「ヤニー……さん?」

 

視線をむける。

そこには煙が、ゆらりと立ち上る。

 

「こんなのは性に合わないんだがな」

 

口に咥えたタバコの先端が、赤く灯る。

 

 

「今回は特別だ。助太刀する」

 

ヤニーは、視線を逸らさずに言った。

 

彼の瞳は、ディアベルが知っているヤニーとはまるで別物だった。

 

 

 

 

 

夕陽が沈みきる直前、戦場は完全な乱戦と化していた。

 

俺とボウは左右へ展開し、オッタルは持ち前のSTRを活かして中央を強引にこじ開ける。

 

ボウはヒースクリフと背を預け合いながらラフコフ構成員を圧倒し、オッタルはキリトへ迫った敵を一撃で吹き飛ばしていた。

 

そして俺は、ディアベルへ斬りかかった相手に、横合いから割り込む。

 

金属音が響き、火花が散る。

 

間一髪で、その一撃を受け止めた。

 

「お前……ただモンじゃねぇな?」

 

俺の問いかけに対し、目ぶかフードを被った相手が低く言う。

 

「その言葉、そのまま返す」

 

「ほざけ。大人しくお縄につくことだな」

 

鍔迫り合いのまま睨み合い、同時にバックステップで距離を取る。

 

「ヤニーさん、助かりました」

 

「礼は後だ。コイツはやばい」

 

「えぇ……ラフィン・コフィンのリーダー、プーですよ」

 

ディアベルの言葉に、改めて警戒を強める。

 

だが当のプーは、どこまでも自然体だった。

 

「お二人さん。数では勝ってるのに、俺に攻めてこないのか?」

 

「あいにく俺は生産メインでな。戦力に数えない方がいい」

 

わざと軽く言うと、プーの目が細まる。

 

「……本気で言ってるのか?」

 

「先ほどの動き、生産職のそれではありませんよ」

 

敵味方からの率直な評価に、少しだけ眉が動く。

 

次の瞬間、俺は地面を蹴った。

 

不意打ち気味の突進。

 

プーは即座に剣で受ける。

 

だが、交差した刃の死角から、もう一振りの鎌が首筋へ走る。

 

「甘い!」

 

体を捻り、半身でかわす。

 

同時に剣を引いたことで、俺の体勢がわずかに前へ流れた。

 

そこを逃さず、回転の勢いを乗せた一閃が振り抜かれる。

 

「……終わりだ」

 

視界が、ゆっくりと流れる。

 

迫る刃。

 

避けきれない角度。

 

仮面の奥の口元が、歪むのが見えた。

 

(ここまでか……)

 

その瞬間。

 

背後から、強烈な蒼い光が走った。

 

蒼い弾丸が俺の横を掠め、プーの右腕へ直撃する。

 

轟音。

 

プーの体が数メートル吹き飛ばされた。

 

「借りは返しましたよ?ヤニーさん」

 

スキルモーションを終えたディアベルが、静かに言う。

 

「……確かに受け取った」

 

短い応酬。

 

だが、倒れ込んだプーは笑っていた。

 

「フフ……ハハハハ!」

 

ひとしきり笑った後、ぽつりぽつりと呟く

 

「こりゃ俺の負けだ。だが、そのまま負けるのは癪でな……この借り、必ず返すぜ?」

 

そう言って取り出したのは小型のアイテム。

 

次の瞬間、眩い閃光が炸裂した。

 

視界が白に染まる。

 

「チッ……!」

 

数秒後、光が収まる。

 

プーの姿は消えていた。

 

周囲では、視界を奪われ動揺したラフコフ構成員が次々と取り押さえられている。

 

ディアベルの代わりに、リンドが即座に指揮を引き継いでいた。

 

「……終わった、のか?」

 

「あぁ。終わったよ、ヤニー」

 

振り向けば、キリトが立っていた。

 

疲労の色を隠さない目で、こちらを見ている。

 

俺は何も言わず、その視線を受け止めるだけだった。

 

荒野には、戦闘の残滓だけが残っていた。




↓の公式サイトを見ながらヤニーと絡めそうな出来事をピックアップしています。
https://dengekibunko.jp/title/sao/chronology/

今度は二刀流が露見する所か、ヒースクリフとの決闘あたりになりそうです。
キリトはともかく、ヤニーは元々攻撃用の武器ではない草刈り鎌で戦ってるスタイルが定着しているからバレた時のインパクトは少ないと思うのですが、伏線として張ってる奥の手をフルで使う場面を考えないと
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