ヤニカスがVRMMOにログインしました(旧題:ニコチン・オンライン)   作:ジュネープ

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原作キャラを2人以上出すと語彙をどうするか迷いますね。
それはともかく次の話出せました。


内部抗争

戦闘が終わった荒野は、勝利の余韻とは程遠い、重苦しい空気に包まれていた。

 

ポーションを切らした仲間に慌てて分け与える者。

状況を記録しようと駆けつけたいつぞやの情報屋から取材を受けるヒースクリフ。

 

戦勝の余韻に浸る彼らを見て俺は、視線を逸らす。

 

地面に膝をつき、崩れ落ちているプレイヤーたち。

 

「ディーコン……いや、勝也。なんで死んじまったんだよ……! 現実に帰ったら一緒にカラオケ行くって約束しただろ……!」

 

肩を震わせ、叫ぶ男。

 

「嘘よ……サイファが死ぬわけないわ……そうよ、きっとドッキリなんだわ……こんなの趣味の悪い冗談でしょ……?ねぇ……隠れてるなら……出てきてよぉ……」

 

縋るような女性の声が、無情にも乾いた大地に落ちる。

 

誰かの友人で

恋人で

仲間だった人間の慟哭。

 

死者は5人。

 

数字だけ見れば、少ないとすら言える。

だが5人分の人生と、その背後にある交友関係を思えば、軽いなどと言えるはずもない。

 

俺は煙を吐き、視線を上げた。

 

YSMの面々は沈んだ表情をしているが、取り乱してはいない。

 

ボウは何考えてるのか分からない表情で、無言で腕を組み、

オッタルは……あいつはAIだ。取り乱すわけない。

 

「ヤニーさん」

 

振り向くと、ディアベルが立っていた。

 

いつもの整った表情は影を落とし、指先に挟んだタバコが微かに震えている。

 

「……なんだ」

 

「今、あなたから届いていたメッセージを確認しました……もっと早く開封すべきでした」

 

「気負うな」

 

短く返す。

 

「もしあの内容を事前に見ていれば、撤退案も浮かんでいたはずです。奇襲を警戒する布陣も敷けたかもしれない」

 

「起きちまったことを、今さら並べてもどうにもならんだろ」

 

攻略組は、これまで死者を出していなかった。

自慢じゃないが、俺が作ったタバコのバフと、月夜の黒猫団……つまりは有望株の保護により積み上げてきた死者0人神話。

 

それが脆くも崩れさった。

 

自責の念がディアベルを苛むのは当然だ。

 

俺はアイテムボックスから葉巻を取り出した。

特別な時にしか吸わない一本だ。

 

火をつけ、深く吸い込む。

 

「いずれこうなる事は分かっていたはずだ……もっとも、人間同士の争いでここまで削られるのは想定外だったがな」

 

「“想定外”で済ませていい問題じゃないんですよ!」

 

ディアベルの声が荒野に響く。

 

周囲の視線が集まり、彼ははっと息を呑んだ。

 

一瞬だけ俺を見る。

そして小さく会釈すると、転移結晶を取り出した。

蒼い光が彼を包み、次の瞬間、姿は消えていた。

 

 

残されたのは、ただ無言でタバコの煙に想いを乗せる俺と呆気に取られた表情のプレイヤーだけだった。

 

それから数日後。

 

発行された《ウィークリー・アルゴ》の記事で、俺は知ることになる。

 

――ディアベル、聖竜連合リーダー辞職。

 

短い見出しの裏にある重さを、理解できないメンバーは存在しなかった。

 

 

 

 

 

「ヤニーはん。ちょっとええか?」

 

「どうした?」

 

 

ラフコフ討伐から一ヶ月。

 

YSMギルドホームのエントランスを見下ろせるテーブル席で、俺はいつも通りタバコを燻らせていた。

 

隣に腰掛けたボウの声は、珍しく軽さを欠いている。

 

 

 

「最近な。行商しとると聖竜連合のメンバーがやけにピリついとるんよ」

 

「……ピリついてる?」

 

煙を吐きながら視線を向ける。

 

「右腕に青いスカーフ巻いとる連中と、赤いスカーフ、それから緑のスカーフ。なんや知らんけど、顔合わせるたびに喧嘩腰や。あれは普通やない」

 

ボウ自身、理由は掴めていないらしい。

 

だが、その場の話で済ませるには妙な違和感がある。

 

「……分かった」

 

俺は短く答え、その日のうちにアルゴへ連絡を入れた。

 

 

 

待ち合わせに指定されたのは路地裏の古びたカフェ。入店と同時に、奥の席で待ち合わせ相手を見つけた。

 

「ヨッ、久しぶりダナ」

 

俺は無言で席に着いた。

 

「あの時の取材以来か。早速だが――」

「まぁまぁ、そう急がずに。少しは世間話でもしようじゃないカ」

 

 

「……帰るぞ」

 

立ち上がろうとすると、慌てて手を振る。

 

「あーゴメンゴメン!オネーサンが悪かったヨ!ちゃんと話すヨ」

 

世間話に乗れば、いつの間にかこちらの情報を抜かれるとはキリトから忠告だ。

俺は口を閉ざしたまま、アルゴの話を待った。

 

 

 

「聖竜連合はナ、第1層攻略を指揮したディアベルの提案で結成されたギルドだ」

 

 

「そこまでは知っている」

 

 

「途中でキバオウが離脱して《アインクラッド解放隊》を作ったケド、二大ギルドとしては平和にやってたんダ」

 

 

「そして、ラフコフ討伐で出た死者の責任を取ってディアベルが辞任して、後釜にリンドが就任したんだろ?」

 

続けて話した俺の言葉に同意を示し、彼女は続ける。

 

 

「だが、強いカリスマの後任ってのは難しいもんサ」

 

アルゴは指を三本立てた。

 

 

「赤いバンダナはリンド体制に不満を持つ排斥派」

 

指が1本閉じる。

 

「緑のバンダナは《アインクラッド解放隊》との統合を主張する融和派」

 

2本目の指が閉じる。

 

「青いバンダナはリンドを支持する保守派」

 

全ての指が閉じた。

 

「三つ巴………ってことか?」

 

 

 

「そーゆーこと。内部抗争状態ってワケだナ」

 

 

話を聞き終え、俺はカップに口をつけた。

 

「大きいギルドだしな。そういう事もあるだろうよ」

 

その言葉を聞いたアルゴが目を細める。

 

「ヤニっちは何かするつもりかい?」

 

「いや。商売に影響が出たら困る。それだけだ」

 

肩をすくめ、コーヒーを啜る。その様子をアルゴが、じっと見つめる。何事かと思い目で問いかけると彼女は口を開く。

 

 

「……アンタがタバコ以外のモン口にしてるの、初めて見たヨ」

 

「何飲もうが俺の勝手だろ」

 

ぶっきらぼうに言い、残りを一気に飲み干す。

 

 

 

「用は済んだ。じゃあな」

 

コーヒーカップをテーブルに置き、席から立ち上がるとそのまま店を出た。

 

近くの公衆喫煙所に向かう道中、外の空気はどこかきな臭かった。

 

聖竜連合の内紛。

 

それは、やがて今後語られる事になるSAO事件のターニングポイントとなる事をその時の俺は知る由もなかった。




基本公式サイトの年表準拠なので、今回はヒースクリフとの決闘までで一区切りつける予定です。
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