ヤニカスがVRMMOにログインしました(旧題:ニコチン・オンライン) 作:ジュネープ
「……なぜ返信が来ない?」
会合場から少し離れた公衆喫煙所。
口にネイティブを咥えたまま、俺は視界の時刻表示を睨んでいた。
17:40。
あと二十分で制裁が発効する。
にもかかわらず、ボウからの返信どころか既読もつかない。
煙を深く吸い込み、吐き出す。
(……嫌な予感がするな)
「……行くしかねぇか」
まだ半分以上残っているタバコを地面に落とし、迷宮へ向けて駆け出した。
side:ボウ
「よってらっしゃい見てらっしゃい!本日は早仕舞い覚悟の大放出やでー!!」
迷宮入口前。
いつもの露店だが、今日は声の張りが違う。
「お? ボウやんけ。こんな時間に営業か?」
トゲトゲ頭――キバオウと、その背後に控えるアインクラッド解放隊の面々。
「今日は特別営業や! 兄さんらも立っとらんと、さっさと買うたってや!」
威勢よく売り込む。
制裁が始まれば、販売は禁止となる為、そうなる前に売り切る事にした。
露天の周りにはいつも以上に人が集まり始める。
「今回だけ特別や! ケンタ1カートン購入で、なんと10%オフ!!」
「マジか!? 2カートン!くれ!!」
「俺も!」
「まいどおおきに!!」
在庫がみるみる減っていく。
キバオウが眉をひそめた。
「……ボウはん。何考えとるんや?」
「気分や気分。そーゆー日もあるやろ?」
にやりと笑う。
その時、迷宮奥から金属が擦れる音が響いた。
青いバンダナを腕に巻いた集団――保守派の聖竜連合だ。
「お、タバコ売ってるじゃん」
「最近消費激しいからそろそろ補充しないとな」
(……しめた)
「おっと保守派の皆様やないか! 現体制を守るならSTRとVITを底上げするストライクがオススメや! しかも今日に限り10%オフやで!」
「いつもはボーロなんだが……まぁいい。2カートンくれ」
「まいどおおきに!」
売れる。
そう確信したその時――
「おぅおぅ、誰かと思えば保守派じゃねぇか」
低く、荒れた声。
振り向けば、赤いバンダナを右腕に巻いた急進派の連中が登場し、空気が一瞬で張り詰める。
「今日の迷宮当番は俺たち保守派のはずだろ?」
「は? リンドをリーダーと認めてない俺らに、その決まりが通じる思ってるのか?」
「貴様――!」
今にも刃が抜かれそうな空気。その真ん中で、俺は手を叩いた。
「ちょい待ち!! ここで提案や!」
全員の視線が集まる。
「急進派の皆様には七星がオススメや! VIT底上げに経験値ボーナス付き! しかも今日限定、1箱買うたらもう1箱つけるで!!」
「マジか!? 七星くれ!」
「ちょ、待て!! 俺らは10%オフだけだったぞ!?」
保守派が怒鳴る。
「そんなん知らんがな! 商売はタイミングや!」
胸ぐらを掴もうと保守派が一歩踏み出す。
その瞬間。
「――何やってる。ボウ」
静かな声だが、その場の誰もが、空気すらも凍る。
壊れた機械の様にボウが振り向くと、迷宮の入口に1人の男が立っていた。
「……ヤニーはん」
ずんずんと近づいて無言でワイの腕を掴んでいたヤニーはんの表情は形容し難い恐ろしい表現をしていた。
「……俺の忠告を無視した理由を聞こうじゃないか」
迷宮内の小部屋。
そこで俺はキレていた。
SAO特有の大げさな感情表現を差し引いても、はっきりと分かるほどに怒っている。
原因は、目の前にいる男。
ボウだ。
「そんな怒らんといてや〜。こーゆー売り方って儲かるやろ?別にええやんか〜」
その言葉に俺の眉間の皺がさらに深くなる。
「何アホ抜かしてるんだ。俺の言ったことは分かってるだろ?なのに何故、あんな真似をした」
問い詰めるがボウは黙ったまま視線を逸らすだけだ。
(埒があかないな)
そう思って踵を返した、その瞬間――
「アンタに何がわかるんだ!!」
怒鳴り声が小部屋に響いた。
空間が一瞬だけ揺れたような錯覚を覚える。
いつものエセ関西弁は消え、感情を発露していた。
「……わからねぇよ」
思わず目を見開くボウ。
「俺はお前の保護者じゃねぇ。分かるはずないだろ」
距離を詰める。
「……だが、その様子を見る限り、相当溜まってるみたいだな」
「……何が言いたい。ギルドから追い出したいのか?」
「いや」
ゆっくりと口元が歪む。
「言葉にできないなら……決闘しよう」
SAOでは珍しくもない。プレイヤー同士の衝突を収めるためのシステム――決闘。
ルールは単純でHPを半分削った側の勝利だ。
カウントダウンが始まる。
両者同時に互いに距離を取り、武器を構えた。
「本当にやるのか?」
数字が減っていく。
10
両者、武器を握る手に力を込める。
「あぁ。いつでも来い」
3
両者、獲物を持った手で器用にストレージを開き、同時にタバコを咥える。
ボウはVIT強化の《七星》。
俺は全ステータス強化の《革命家の葉巻》。
それぞれのタバコに火が灯る。
1
「オレが先制だ!!」
「させるか!!」
次の瞬間、両者は煙を残したまま同時に踏み込んだ。
黄色を基調とした服のボウ。
ワインレッドの海賊装束の俺。
迷宮の空間で、黄色い稲妻と赤黒い塊が激突する。
互いに手数型のため、三次元の軌道で無数の一撃を打ち込みあう
「死ねやオラァ!!」
トンファーが首を狙って振り下ろされる。
俺は逆手に持った草刈り鎌で受け止め、そのままもう一振りで脇腹へカウンターを繰り出した――だが。
予測していたかのように、下段払いで弾かれた。
ボウが踏み込み、打突を狙う。しかし、俺は足を振り上げ蹴りで距離を作る。
「はぁ、はぁ……!」
「なかなか……やるじゃないか、ボウ」
互いに呼吸を整える。両者、今までの攻防でそれぞれのHPバーは僅かに削れただけ。その状況にボウが動いた。
「パンチングマシーンの二つ名は伊達やないぞ!!」
次の瞬間。
ボウの動きが変わった。
視認が困難な速度で踏み込む。
「食らいやがれ!!――クロスバレット!!」
トンファーが輝き、左右からの高速連撃を繰り出す。
1撃目は受けてしまったが、かろうじて2撃目を防ぐことに成功した。しかし、スキルによる後方回転キックにより顎を打ち抜かれ、俺は吹き飛ばされた。
「クソが……俺だってヤニカス背負ってるんだぞ!」
「何がヤニカスだ!!蔑称だろうが!!!」
鎌を構える。
「言ってろ!――スモーキング・リーパー!!」
着地と同時にソードスキル発動し、一瞬で間合いを詰める。
十字斬撃の連続による攻撃が始まる。
「な……!?」
ボウが硬直したその一瞬が勝敗を分けた。
全ての斬撃が叩き込まれたのだ。
ボウは1メートルほど吹き飛ばされた。
「オレと同じオリジナルスキルだと!?……ッ?!なんだこの煙は!」
迷宮の小部屋を満たす煙。
ユニーク武器《スモーキング・リーパー》の特殊効果である煙幕だ。
視界を奪われ、動揺したボウの背後に回る。
鎌を十字に構える。
「……終わりだ」
「何!?」
十文字の斬撃によりボウのHPバーが半分を割る。
「………負けた……だと?」
上空に表示された勝利ログを横目に、俺は手を差し出した。
「………オレを許すのか?」
「どうせお前の過去は重いんだろ?そんなもん今聞く気はない。現実世界に戻ってから聞かせろ」
一歩、出口の方を見る。
「それより先に、聖竜連合に謝りに行くぞ」
その言葉にボウが苦笑する。
「……話の持っていき方、不器用すぎやろ」
「うるせ」
ボウの過去は知らないし、知る必要もない。
知ったら同じ沼に引きずられるだけだ。それよかSAOから解放された時に酒を飲みながら話を聞くのもいいかもしれない。
そんな事を考えながら、オレとボウは出口に向かって歩き出した。
この話、ボウの過去回を途中まで書いてたのですが、ヤニーがそんな事気にするわけないかと思い削りました。SAOから帰れたら最後に書いてる通り、居酒屋とかで話すんでしょうね。