ヤニカスがVRMMOにログインしました(旧題:ニコチン・オンライン)   作:ジュネープ

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長くなりそうなので前編/後編に分けます。
・・・2000文字程度を想定してましたが、ペラッペラになるんで長く書いちゃいました


ターニングポイント:前編

「さて、今月の売り上げを確認する」

 

「まず、タバコの臭いをフローラルの香りにした完全オリジナルタバコ――《リリウム》の開発により、従来タバコを嫌っていた層の取り込みに成功した。売り上げは全盛期の6割まで回復している」

 

「あれは名案やったな。タバコの匂いに慣れとるワイらやと気づけへん視点や」

 

「然り。これはリリィ殿の功績であるな」

 

「えへへ。私の視点が役立ったのなら嬉しいです」

 

報告を聞きながら明るく会話する三人を見て、俺は満足げに頷いた。

 

《リリウム》は従来の葉と複数のフレーバーを組み合わせて製造する都合上、どうしても製造難易度が高い。だが、その分価格を上げても問題はないだろう。

 

2ヶ月前のラフコフ討伐戦以前。

リリィの意見をもとに始めたこの開発は、想像以上に難航した。フレーバーになり得る素材と葉巻の葉を何百通りも組み合わせ、試行錯誤を繰り返す日々。ようやく完成に至った時の達成感は、今でも忘れられない。

 

「でもヤニーさん。《リリウム》の種類を増やすのはいいと思いますが、カレー味は如何なものかと……」

 

 

おずおずとした様子で、リリィが口を開く。

 

「リリィちゃん、分かってへんなぁ。あのフレーバーがあるからこそ、独自の価値を見出せるんや。つまりな、“好きで吸う層”とは別に、“ネタで買う層”も取り込めるっちゅうことや」

 

 

「ボウ殿の言う通りじゃな……。もっとも、煙の匂いに引っ張られて味までそれっぽくなるのは勘弁願いたいが」

 

「そ、そうですか……」

 

「にしても《リリウム》っちゅうタバコ、中々ええ代物よな。攻略組が使うには微妙なバフやし、聖竜連合に対して販売規制する必要もないしな」

 

「然り。この《リリウム》の特徴はスモークフレーバーだけではない。付与されるバフ効果が極めて限定的である点も重要じゃな」

 

原料に使用している水性植物の影響により、どのフレーバーでも一律で「釣りの成功率が上昇する」という、攻略とは無関係な効果しか得られない。

 

「確かにそうですね。おかげでバフアイテムとしての価値が低いタバコとして、AUG――アインクラッド商人連合議会からのお墨付きがもらえたのも大きいと思います」

 

リリィがそう締めくくる。

その言葉を聞きながら、俺は一つの提案を切り出した。

 

「当初は売り上げが3割まで落ち込んだが、ここまで回復した以上、金策目的の迷宮探索は今日で終わりにしようと思う」

 

間を置き、話を続ける。

 

「せっかくだ。最後に――YSM全員でパーティを組んで、最前線に出てみようと思うが……どうだ?」

 

「さ、最前線……不安はありますけど……皆さん強いですし、なんとかなると思います。私は賛成です」

 

意外にも最初に賛成したのはリリィだった。

この2ヶ月で何かが変わったのか、迷宮に対する躊躇はもはや感じられない。

 

「ワイはOKやで。YSM全員の【本当の実力】ってやつ、この目で見ときたいしな」

 

「然り。吾輩も異論はない」

 

他のメンバーからも次々と了承が得られたため、会議はそこで打ち切られた。

 

その日

 

珍しくYSM本部の門は固く閉ざされ、入口には「本日休業」の掛札が掲げられることとなった。

 

 

 

 

「っふ!!」

 

片手の鎌を振り下ろし、もう片方を振り上げる。4体のうち1体を切り裂いた。

仰け反った瞬間、体術スキルで吹き飛ばし、そのまま撃破する。

 

「よっと、クロス・バレット!!」

 

ボウのトンファーがスキルエフェクトで輝き、インファイトで無数の打撃を叩き込む。敵は吹き飛ばされた先で粒子となって消えた。

 

「残りはッ!!」

 

「吾輩たちに任せろ!!!」

 

残る2体へ、オッタルとリリィが同時に突撃する。

《ヴァルキリー・チャージ》と両手斧スキル《アイロニー・アックス》が交差し、最後のモンスターも消滅した。

 

「……にしてもリリィ、強くなったな」

 

「はい!それもこれもボウさんとレベリングしたおかげです!」

 

屈託のない笑顔で返され、わずかに引きつつも、そのまま迷宮を進む。

 

「この迷宮に入る前に決めた条件【回復ポーションが10個を切ったら撤退】という条件だが、俺たちはまだ一度も使ってないよな?」

 

「せやな。リリィちゃんの装備の効果で雑魚のダメージはほぼ軽減されとる。せいぜい20層のフィールドボス程度やな」

 

「そのダメージも自動回復で即座に帳消しじゃ。我ら……チームを組めば攻略組トップと並ぶ戦力になるのではないか?」

 

「「「…………」」」

 

三者三様の反応を前に、リリィは気恥ずかしそうに頬を染めている。

 

正直ドン引きだ。

 

 

そんなやり取りをしながら、迷宮内に設置されている安全ポイントへと足を踏み入れた。すると、目の前に剣呑な空気を纏った集団がいる。

 

「なんだあれは……キリトとアスナ、それに風林火山か」

 

「ヤニーはん。もう片方の連中に目を向けたほうがええで」

 

ボウが低い声で言うので視線を向ける。

 

「……融和派の連中じゃねぇか」

 

「せやな。それに一部、アインクラッド解放隊のメンバーもおる」

 

その言葉の直後、聖竜連合側から1人の男が前に出た。

 

 

「俺たちは聖竜連合融和派。俺の名前はジョシュアだ」

 

「……キリト。ソロだ」

 

キリトたちの警戒は明らかだった。

無理もない。派閥争いで経済制裁を受けた連中と関わるメリットはなく、エンジョイガチ勢で知られる風林火山の面々も、険しい顔で睨みつけている。

 

「尋ねたい。お前たちはボス部屋まで攻略したか?」

 

「あぁ。ボス前まではマッピングしてある」

 

「なるほど……」

 

 

ジョシュアは一度頷き――

 

「そのマッピングデータを寄越してもらおう」

 

「なッ!?」

 

空気が一変する。

当然だ。命を懸けて得た情報は、相応の対価で取引される。それが暗黙の了解だ。

 

「タダで寄越せだと!?テメェ!!」

 

クラインが声を荒げるが、ジョシュアはそれを手で制す。

 

「まぁ待て。タダとは言っていない。内紛を鎮圧した暁には、後払いで10万コルを支払おう」

 

「後払いだぁ!?ふざけてんのか!!前金で寄越せ!!」

 

「尤もな要求だ。だがAUGの経済制裁で我々の資金は逼迫している。今出せるのは2千コルが限界だ」

 

「2千コル……アナタねぇ!」

 

アスナの声にも怒りが滲む。

通常、マッピングデータは即決でも5万コルが相場だ。

 

「貴様らにも利はある。我らが一枚岩になれば、攻略速度は元に戻る。その恩恵を考慮してほしい」

 

不遜な態度に、場の空気が張り詰める。

 

その時。

 

「……よせ」

 

キリトが口を開いた。

 

「どうせ街に戻れば公開する予定だったし、それを生業にする気はない。それに……彼らの言う通り、メリットがあるのも事実だ」

 

「おいおい、甘すぎるぜキリト」

 

クラインの制止を無視し、キリトがコンソールを開く。

データ譲渡を実行しようとした――その時。

 

 

「お前たち、何をしてるんだ」

 

思わず俺は口を開いた。

 

 

 

 

「……YSMの連中か。生産系ギルドが来ていい場所ではないだろう」

 

「久しぶりだな、キリト」

 

ジョシュアの言葉は流し、キリトに声をかける。

 

「なんでお前らがこんな所にいるんだ?」

 

「息抜きがてら迷宮に潜ってただけだ。偶然だよ、偶然」

 

そう答えながら、少し苛立った表情を浮かべているジョシュアへと向き直る。

 

「……話は聞かせてもらった。お前ら融和派はボス攻略を手土産にして主導権を握るつもりなんだろ?」

 

「……その通りだ。この不毛な争いを終わらせなければデスゲームの攻略は進まない」

 

そこまで言って、ジョシュアは何かに気づいたように目を見開く。

 

「まさか……貴様らYSMが、我々のボス攻略を支援するつもりか?それなら内紛終結後、特別価格でタバコを――」

 

「違う」

 

「……なんだと?」

 

見当違いな提案を切り捨て、ストレージから《七星》を取り出す。

火をつけ、ゆっくりと煙を吐き出した。

 

聖竜連合の連中は、露骨にその煙を目で追っていたがそれを無視して話を続ける。

 

「勘違いしてるな。タバコのバフを欲しがってるのはお前ら攻略組の方だ」

 

再度煙を吸い、吐き出すと同時に次の言葉を紡いだ。

 

「俺たちは売ってやってる側だってこと……理解しとけ」

 

誰かが息を呑む気配がしたが構わず続ける。

 

「それとフレーバーテキスト、読んでるよな?このタバコには依存性がある……実際、お前らの仲間、何人か目がイってるぞ」

 

「そんな馬鹿な――っ?!」

 

反論しかけたジョシュアが、振り向いたまま言葉を失う。

 

仲間たちの視線は、完全に俺の手元――タバコに釘付けだった。

 

アインクラッド解放隊の連中は各々で吸っているが、聖竜連合の連中だけは違う。

 

禁断症状からか血走った目で、煙を追っているのだ。

 

「それと、ジョシュアだったか?自分の手、見てみろ……震えてるぞ」

 

言われて初めて気づいたように、ジョシュアは自分の手を見る。

指先が、小刻みに震えていた。

 

 

「……黙れッ!!もういい!!お前ら、進むぞ!!ボスを倒して、この経済制裁をひっくり返す!!その後なら好きなだけ吸わせてやる!!」

 

「は、はい!」

 

ジョシュアは叫ぶように言い放つと、そのまま部下を引き連れて奥へと進んでいった。

 

 

 

「えーっと……ヤニー。ありがとう?」

 

「すまない。外野が首を突っ込んでしまった。完全に蛇足だったな」

 

キリトの礼を、手をひらひらと振って受け流すと、視線を場の面々へと移した。

 

「……それよりも、ソロで動いているお前にしては妙な顔ぶれだな」

 

「ヤニーさん、でしたっけ?こうして話すのは初めてですよね。私は血盟騎士団副団長、アスナです」

 

礼儀正しく名乗ったのは、攻略組でも名の知れた人物――アスナだった。

 

「噂には聞いてたけど、えらい別嬪さんやんけ!」

 

現実と同じ外見が反映されるこの世界では、その容姿の整い具合は一目で分かる。

案の定、ボウが食いついた。

 

「えぇっと……あなたは確か、ボウさんですよね?」

 

「せやで!ワイの名前はボウや!よろしゅうな!!」

 

若干引き気味のアスナに、やたらと元気よく応じる。

 

そのやり取りに、背後の男連中がざわついた。

 

「おい、アンタ……もしかして、【パンチングマシーン】のボウか?」

 

恐る恐る声をかけてきた男に、ボウは胸を張って頷く。

 

「せや!」

 

「……時間を取って親睦を深めたいところだが、今は情報交換を優先した方がいい」

 

キリトの一言に全員が小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 

「……大体は理解した」

 

「俺もだ」

 

情報交換と言っても、実際はキリトたちの経緯説明に時間を取られた形だ。

聞けば聞くほど、面倒な火種に首を突っ込んだと実感する。

 

「ヤニーはん。キリトはん。ちょっとええか?」

 

「どうした?」

 

ボウが、少し言いづらそうに口を開く。

 

「確証はないんやけどな……商工会の連中と風俗行った時の話や」

 

「――おい待てコラ、女性がいるんだぞ」

 

「あ、すんまへん」

 

一瞬、空気が止まる。

女性陣に視線を向けると、アスナは赤面し、リリィは完全にハイライトの消えた目でボウを見ていた。

 

その視線に気づいているのか、ボウは脂汗を浮かべながら続ける。

 

「まぁなんや……さる筋から聞いたんやけどな」

 

「融和派の連中、実はキバオウ離脱の時に聖竜連合に残った隠れシンパで、裏でアインクラッド解放隊から支援受けとるらしいんや」

 

その言葉に、その場の空気が凍りついた。

 

「……この混乱に乗じて、思想で分裂したギルドをまとめ直すつもりなんちゃうかと思う。実際、さっきの連中の中に解放隊のメンバーおったやろ?」

 

「あぁ……いたな」

 

キリトが低く応じる。

 

「さっきの状況から見ても信憑性の高い話だと私は思います」

 

「オレも同感だぜ。こりゃあきな臭いな」

 

一瞬の沈黙の後、キリトがこちらを見る。

 

「ヤニー。俺たちはあいつらを追うが、君たちはどうする?」

 

俺はYMSのメンバーを見る。

若干不安そうながらも覚悟を決めた目のリリィ

ワクワクとした表情を浮かべるボウ

目を瞑り瞑想しているオッタル

 

「乗りかかった船だ。俺たちも行く」

 

 

「助かる」

 

こうして

黒の剣士キリト。

閃光のアスナ。

YMS。

そして風林火山。

 

SAO史においてのターニングポイントを見届ける事になるチームが結成された。




間話で書く話は何がいいですか?
SAO編はあと少しなので。ゲームクリアするまでの間に何か間話を入れようかなって。
オリキャラを主役としてその人となりを描くか、第三者視点で各キャラと交流した際の話をどっかにぶち込もうかと思ってます。

間話で書く話

  • オリキャラ主体の話
  • 第三者視点での話
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