ヤニカスがVRMMOにログインしました(旧題:ニコチン・オンライン) 作:ジュネープ
それはともかく、資料として見てるU-NEXTのSAO第1期が今月末で配信終了するかもなので、今月末までにSAO編終わらせないと!!
第39層ノルフレト――血盟騎士団本部。
中世ヨーロッパを思わせる上品な造りの廊下を、俺は歩いていた。
磨き上げられた床と静まり返った空間。視界に入る範囲に、人影はない。
すれ違う者すらいない廊下を進み、目的の場所へと向かう。
事の発端は、アスナからの呼び出しだった。
「血盟騎士団本部に来てほしい」
それだけの簡潔な文面。
会議を早めに切り上げた俺は、そのまま本部へと足を運び、今こうして内部を歩いている。
やがて、目的の部屋が目の前に現れた。
軽くノックし、扉を開く。
そこに立っていたのは、見慣れた装備の女性――アスナだった。
「ヤニーさん。お待ちしていました。団長はこの先の執務室です」
そう言って、彼女は目の前のもう一つの扉を指し示す。 どうやらここは、執務室前の待機部屋らしい。
「なぁ。俺がアンタらの団長に呼び出されるほどのこと、やらかした覚えはないんだが」
そう切り出すと、アスナはわずかに困ったような笑みを浮かべた。
「……私も、詳しい話は聞いていません」
要領を得ない返答。
だが、それが本心なのだろう。
「……そうか」
短く返す。
「あ、ヤニーさん」
扉に手をかけたところで、アスナが再び口を開いた。
「キリト君も先に呼ばれていて……団長から勧誘を受けていました」
「勧誘?」
「はい。詳細は言えませんが、それを断ったら決闘で白黒つける、って話になって……」
――面倒な流れだな。
内心で舌打ちする。
「……俺らにはAUGがついてる。何か言われても、どうにかなるだろ」
自分に言い聞かせるように呟き、俺は扉を押し開けた。
その先にいたのは――
“鉄壁”の異名を持つプレイヤー、ヒースクリフだった。
「ヒースクリフ団長。ヤニーさんをお連れしました」
「ありがとう、アスナ君。君は下がっていたまえ」
血盟騎士団。
聖竜連合、アインクラッド解放隊と並び立ち、時に【三大ギルド】とまで評される組織。
その頂点に立つ男――ヒースクリフは、まさに理想のリーダー像を体現したかのような落ち着きを纏っていた。
「久しぶりだな。最後に顔を合わせたのは……ラフコフ戦か?」
「おや? そうだったかな?」
「直接話したわけじゃない。覚えてなくても無理はないか」
当たり障りのない言葉を交わす。
いわば様子見だ。
だが
ヒースクリフの声を聞くたびに、胸の奥に引っかかる“違和感”が少しずつ膨らんでいく。
正体は掴めないまま、会話は本題へと移った。
「さて……そろそろ本題に入ろうか。君の率いるYSMだが――我々の専属として活動する気はないかな?」
一瞬、言葉が詰まる。
だが、答えは最初から決まっていた。
「それは無理だ」
間を置かず、言い切る。
「うちのタバコは、ただの嗜好品じゃない。今じゃ攻略に組み込まれてる。特定のギルドに独占させるようなもんじゃねぇ」
言葉を区切り、無言でタバコを取り出す。
軽くジェスチャーで許可を取り、火をつけた。
「……それに、専属なんて形にしたらプレイヤーの反発を買う。俺らにはAUGがついてるってことも、忘れちゃいけねぇ」
煙を吐きながら、視線を逸らさずに続ける。
「リスクに見合わない話だ」
「……なるほど、理解したよ。この件はあくまで打診に過ぎない。断られても仕方がない」
あっさりと引くヒースクリフ。
話は、それで終わるはずだった。
だが、先ほどから燻り続けていた違和感が、形を持って浮かび上がる。
「……なぁ、アンタ」
「……なんだね?」
「どこかで聞いた声と話し方だと思ってたが」
一歩、踏み込む。
「おまえ――茅場晶彦、だろ?」
一瞬の間。
だがヒースクリフの表情は揺らがない。
むしろ、予期していたかのように静かだった。
「……その問いに、どう答えるべきかな?」
「回りくどいのは嫌いでな。単刀直入に聞いてる」
視線を逸らさず、言葉を重ねる。
「アスナを通すこともできたはずだ。それをわざわざ一対一で呼び出した……何が目的だ?」
張り詰めた空気。
だが、ヒースクリフは微動だにしない。
そして――
「そうだ。私が茅場晶彦だ」
あまりにもあっさりと、肯定した。
「……そうかよ」
拍子抜けするほどの展開に、思わず息が抜ける。
「それで? 話って、それだけか?」
「……そうだが?」
「なら、用は済んだな」
タバコを灰皿に押し付け、席を立つ。
背を向けた瞬間、声がかかった。
「……待ちたまえ」
「まだ何かあるのか?」
「いや。君が何かしらのアクションを起こすと思っていてね。……少々、期待外れだった」
その言葉に、鼻で笑う。
「前にもあったよな。第一層攻略前、アンタが俺に声をかけてきた時」
振り返らずに続ける。
「俺の方針は変わらねぇ。この世界にいた方が、現実の肺にも優しいくらいだ」
「……随分なエゴだな。君には英雄願望はないのか?」
「最初からヒーローになるつもりでこのゲームに来たわけじゃねぇ」
扉に手をかける。
「全員が全員、『英雄になりたい』なんて思ってるわけじゃないってことだ」
それだけ言い残し、今度こそ部屋を後にした。
「……これは、たまげたな」
YSMのギルドハウスへ戻った俺は、思わず足を止めた。
建物内の中庭。
そこではオッタル、ボウ、リリィ――そしてユナが、即席のライブを行っていた。
バイトとしてユナから提示された条件は、【適当な時間帯にライブを開かせてほしい】というもの。
それ自体は想定内だった。
だが――
「……多すぎだろ」
観客の数が、明らかにおかしい。
この広場に収容できる人数は、せいぜい30人程度。
にもかかわらず、今この場にいるのは――軽く100人を超えている。すし詰め状態だ。
「ご清聴、ありがとうございました〜!!」
曲が終わり、拍手の嵐が巻き起こる。
その中で、満面の笑みで手を振っていたユナの視線が――こちらと合った。
「あ、ヤニーさん!!」
「……嫌な予感しかしねぇ」
小さく呟き、踵を返す。
そのまま静かに離脱しようとした――その瞬間。
がしっ。
「……どうした?」
振り返ると、すでにユナの手が俺の肩を掴んでいた。
「せっかくヤニーさんも来たことですし! あの時のライブで披露した曲、やりましょ!!」
「いや、俺は疲れて――」
「……なんか言いました?」
にこやかな笑顔。
だが、逃げ道はない。
「……やるぞ」
半ば諦めたように呟く。
気づけば、俺は舞台に設置されたドラムの前に座らされていた。
視線を上げると、どこか虚ろな目をしたYSMの面々と目が合う。
「……同じ境遇か」
小さく息を吐く。
「それでは!! この場を貸していただいたYSMリーダー、ヤニーさんが加わったことで!! あの伝説のライブで披露した曲をお届けします!!」
「ワァァァァァーー!!!」
歓声が広場を揺らす。
「……うるせぇ」
呟きは、幸いにもユナには届かなかったらしい。
当の本人は上機嫌のまま、マイクを握る。
「それでは聞いてください――『鋼と星空の誓い』」
その言葉と共に、再び演奏が始まった。
「つ、疲れたぁ……!!」
ボウの声が、プライベートエリアに響いた。
業務終了後。
俺たちは、ギルドハウス内のソファに体を投げ出し、ぐったりとしていた。
ライブ終了後も、事態は終わらなかった。
ギターソロバージョンだの、生歌だの――ユナによるファンサービスの連続。
その結果、俺たちの体力は見事に削り取られていた。
「にしても……あのライブ、人が多すぎましたね」
「然り。あの人数をよく収容できたものじゃ」
「……足の踏み場もない満員電車みたいだったぞ」
それぞれが疲労混じりに愚痴をこぼす中――
ぽけっとした顔のボウが、突然立ち上がった。
「なぁ。これ、商売にできへんか?」
「……どういうことだ?」
俺が食いついたのを見て、ボウは一気に饒舌になる。
「あのライブに出店を出すんや。出店するギルドから、売上の10%をもらう」
「……利益、出るのか?」
「軽食と飲み物に絞れば、買うやつはおるやろ。それに――」
指を立てて、続ける。
「席を分けるんや。プレミア席、通常席、あと無料の立ち見席」
そこまで聞いた瞬間。
オッタルとリリィの目が、明らかに輝いた。
「先ほどの混雑具合を見るに、スペースの拡張は必要じゃが……良い案だ」
「……確かに悪くはない」
俺は一度頷きつつ、続ける。
「だが、その間のタバコ販売はどうする? それに人の整理も必要だ」
俺の質問に、それも織り込み済みかのように言葉を続ける。
「そんなもん、商工会に協力を仰げばええんや」
即答だった。
「祭りの出店なんて、多少高くても売れるもんは売れる。今回もいけるはずや!」
(……問題はなさそうだな)
「……ものは試しだ。商工会に掛け合う」
「ホンマか! ほなワイは知り合いの店に声かけてみるわ!!」
勢いよく動き出すボウ。
その様子を見ながら、俺は小さく息を吐いた。
「成功したら御の字か?」
こうして――
俺たちYSMの、新たな試みが動き出した。
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あ、それと次回は説明パートが多いかもです