ヤニカスがVRMMOにログインしました(旧題:ニコチン・オンライン) 作:ジュネープ
商工会からの許可は、拍子抜けするほどあっさりと下りた。
現実のそれとは違い、運営しているのがゲーマーだからか話はトントン拍子に進んだ。
俺の提案を聞いた彼らは、即座に所属する商人たちへ連絡を回してくれたが……
「ヤニーさん。出店についてですが……予想以上に立候補が集まっておりまして……」
額に汗を浮かべた事務員の報告に、俺は思わず眉をひそめる。
「予想以上って……どれくらいだ?」
「……50店舗です」
「50?!」
思わず声が上ずる。
多くても2〜3店舗程度だと思っていたが、ゲーマーの『イベント』に対する熱量を、完全に見誤っていたらしい。
結局、抽選を行うことになり、選ばれた商人にのみ出店許可を出す形で落ち着いた。
「さて……次は内装だな」
場面は変わり、ギルドホームの広場。
ホーム設定メニューを開き、レイアウトをどうするか思案していたが、偶然通りかかったリリィの助言もあり、なんとか形になった。
「グランドホールを設置したことで、かなり高級感のある内装になりましたね!」
「……ゾンビが出てきそうな間取りだな。いや、何でもない。いい出来だと思う」
視線を巡らせる。
大階段は一直線に上階へと伸びているが、中腹に差し掛かったあたりで、幅が不自然なほど広がっていた。
単なる踊り場ではない。
階段の流れを維持したまま、中間部分だけを広場のように拡張した構造により、十分な奥行きを実現する事が出来ている。
それはまるで――
階段の途中に、舞台だけが差し込まれているかのようだった。
「ここに機材を設置すれば、どの席からでもステージが見えるな」
これで、動線も視界も問題ない。
こうして、準備は一通り整った。
あとは、明日を待つだけだ。
俺はそのまま、自室へと戻り、翌日の仕事に備えて静かに眠りについた。
まだ人の動きもまばらな時間帯に、ギルドの門を叩く音が響いた。
対応に出てみれば、訪ねてきたのは商工会から派遣されたプレイヤーだという。
話を聞いた俺は、とりあえずメンバー全員を招集し、出店とライブに関する配置の打ち合わせを行うことにした。
円卓を囲み、イベントの簡単な説明を終えたところで
「ひとつ、よろしいでしょうか?」
商工会の男が、律儀に手を挙げて席を立つ。
そのまま一歩前に出ると、やけに堂々とした口調で話し始めた。
「出店の配置についてですが、出入り口付近にはドリンク店を配置し、軽食系は奥へ回すべきかと」
「そりゃまた、なんでや?」
ボウが即座に反応する。
俺たちも同じ疑問を抱いていたため、自然と視線がその男へ集まった。
男は一つ咳払いをし、淡々と説明を始める。
「まず、出入り口付近に軽食店を配置した場合、入場するプレイヤーと購入待ちの列が重なり、動線が著しく阻害されます」
言葉を区切り、さらに続ける。
「特に今回は想定以上の来場者が見込まれます。入口周辺での滞留は、そのまま全体の混雑へと繋がります」
一通り説明を終えると、彼は勢いよく長髪をかき上げた。
「……なるほどです。つまり、受け渡しが早いドリンクを入口に置いて、流れを止めないようにする、ということですね?」
おずおずと確認するリリィに、男は軽く指を鳴らす。
「その通りです」
「……クセが強いな」
思わず漏らすと、
「ヤニーはん。アンタがそれ言うたらあかんやろ」
間髪入れずにボウが突っ込んできた。
それからも、細かな配置や導線について議論を重ねていく。
ステージ周辺の人の流れ、出店の間隔、待機列の処理など、一通りの段取りを詰め終えた頃には、全体の構図はほぼ固まっていた。
「では、今回はこの辺りで数時間後に再会しましょう」
商工会のプレイヤーはそう言い残し、ギルドを後にする。残された俺たちは、いつも通りの営業へと移行した。
数時間後――
広場は、観客で埋め尽くされていた。
商工会から派遣された屋台では様々な軽食が振る舞われ、人々はその時を今か今かと待ちわびている。
やがて広場の明かりが、ふっと落ちた。
ざわめきが一瞬で止まり、空間が暗闇に包まれる。
次の瞬間――
ステージにスポットライトが灯った。そこに立っていたのは、一人の少女。
「みなさん。本日は私の歌を聴くために来てくれて、ありがとうございます!!」
歓声が弾ける。
拍手と口笛が、広場いっぱいに響き渡った。
「それでは歌います――『ソード・ワールド』」
ユナがそう告げると、背後に控えるYSMのメンバーへと視線を送る。
その合図を受け、俺はスティックを構えた。
カン、カン――
軽く打ち鳴らし、リズムを刻む。
そして、演奏が始まった。
結果から言えば、ライブは大成功だった。
三度目ともなれば、こちらも慣れたものだ。
演奏を終えた俺は、疲れた体をソファへと沈める。
そこへ目を爛々と輝かせたボウが駆け寄ってきた。
「ヤニーはん!! 今日の売り上げえらいことなっとるで!! 過去一や!!」
「マジか……まぁ、こんな日もあっていいか」
軽く息を吐く。
「今後も定期的にやろうや! 金をガッポガッポ稼ぐでぇ〜!」
奇怪な踊りを始めるボウを横目に、俺は夕刊を手に取った。ページを開き、そこに書かれた文面に目を見開く
「……嘘だろ?」
思わず、声が漏れる。
《二刀流、鉄壁に敗北》
一面に、大きく踊っていた。
この話は2024年8/20日の想定で書いてます。
次回は11/6……つまりヒースクリフからの攻略参加要請の話を入れて
11/7の話は長く書いてのSAO編クリアにする予定です。
なにか間話を入れまくるのもいいですが一旦、最終局面に向かう前に人物を再度整理します。