ヤニカスがVRMMOにログインしました(旧題:ニコチン・オンライン)   作:ジュネープ

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次の話でSAO編は終わらせます。絶対に。
予約投稿って機能を使って投稿してみます。通勤中にでもどうぞ


明日は明日の風が吹く

「ヤニーはん。なんか様子が変やで?」

 

「……あぁ。ちょっとタバコを吸いすぎただけだ。気にすんな」

 

「ヤニー殿。今日は無理せず休んでもバチは当たらんと思うぞ?」

 

あの葉巻を作ってから。

 

【一口だけ吸ってみたい】という欲望と、

【今吸うのはもったいない】という理性が、延々と頭の中でせめぎ合っていた。

 

気づけば朝になっていた。

 

気だるさを隠しきれないまま会議に参加していたが、どうやら他のメンバーにはバレバレらしい。

 

「ヤバかったら適度に休憩を取る。気にする必要は――」

 

言いかけたその時。

 

目の前にダイアログが浮かび上がった。

 

差出人――ヒースクリフ。

 

「ヤニーさん? どうしたんですか?」

 

「……ちょっと待て。ヒースクリフからメッセージだ」

 

「アイツが? ……なんか嫌な予感しかせぇへんな」

 

「同感じゃ」

 

三者三様の反応を横目に、メッセージを読み進める。読み終える頃には、自然と眉間に皺が寄っていた。

 

「あ、あの……ヤニーさん?」

 

恐る恐る声をかけてくるリリィに視線を向ける。続いて、オッタル、ボウへと目をやり、重い口を開いた。

 

「ヒースクリフが……YSMに、迷宮攻略の応援要請を送ってきた」

 

「「「……は?」」」

 

その場の空気が凍りつく。

 

 

 

 

 

第55層・グランザム

血盟騎士団本部。

 

「偵察隊が全滅だと?!」

 

キリトの声が響く。

 

「来たるボス戦に備え、五ギルド合同で二十名の偵察隊を送り込んだ。だが――」

 

ヒースクリフは淡々と続ける。

 

「最初の十人が部屋中央に到達し、ボスが出現した瞬間、入口の扉が閉じた」

 

YSMの面々、そしてキリトたちは会議室でその説明を受けていた。

どうやら応援要請は、YSMだけに送られたものではないらしい。

 

「――そして、5分後。扉が再び開いた時には……部屋の中には何もなかった。10人の姿も、ボスも……すべて消えていた」

 

「バカなッ!」

「……これは骨が折れるな」

 

キリトと俺の声が重なる。

 

ヒースクリフの左右に座る幹部たちの視線は真剣そのものだ。冗談や誇張ではないことは、嫌でも理解できた。

 

「だからといって攻略を諦めるわけにはいかない。可能な限りの戦力を投入し、突破する」

 

その言葉に、空気がさらに張り詰める。

 

「なぁなぁ、ヤニーはん」

 

ボウが脇腹を小突いてくる。

 

顔を寄せ、声を潜める。

 

「これ、下手したら負けるで。断った方がええんちゃうか?」

 

「そうですよ……明らかに分が悪すぎます」

 

「然り。闇雲な突撃は戦士ではなく、ただの死兵じゃ」

 

全員が同じ結論に達していた。

チラリとヒースクリフを見る。

こちらには視線を向けていない。

 

「……わかった。断る方向で話す」

 

小さく呟き、全員を落ち着かせる。

タイミングを見計らい、口を開いた。

 

「悪いが、俺たちYSMはこの戦いには参加しない」

 

――瞬間。

幹部たちの視線が突き刺さる。

殺意と錯覚するほどの圧。

 

だが、構わず続ける。

 

「うちは商業ギルドだ。戦闘能力があっても本質は商人だ。そんな連中を前線に出したら――AUGが黙ってねぇぞ」

 

ヒースクリフは一瞬、思案するように目を細め――

 

「……AUGには、すでに話を通している」

 

「なっ……?!」

 

「嘘やろ?!」

 

俺とボウの声が重なる。

 

「彼らも一刻も早く攻略を進めたいと望んでいる。戦力があるのに使わない理由はない、という判断だ」

 

「……ヒースクリフ。AUGに工作を仕掛けたのか?」

 

「人聞きの悪いことを言わないでくれたまえ」

 

淡々と返す。

 

「ドロップ品を安価で買い取る契約を条件に、諸君らを『リース』した。それだけの話だ。正当な対価だよ」

 

「なんやそれ……ふざけとんのかワレ!!」

 

「やめろ! ボウ!!」

 

掴みかかりそうになるボウを制止する。

胸の奥で、怒りが渦巻く。

 

だが――飲み込む。

 

「……要請は受ける」

 

絞り出すように言う。

 

「だがな。これは【貸し】だ。忘れるなよ」

 

ヒースクリフはわずかに頷いた。

 

「……勇戦を期待するよ」

 

 

こうして俺たちは――

望まぬ形で、歴史の渦へと巻き込まれていくことになった。

 

 

 

 

 

YSMのギルドハウス。

 

本日は休業の札が掲げられ、室内は静まり返っていた。いつもは人で賑わう空間も、今は重苦しい空気に支配されている。

 

「……ワイら、死ぬんかな?」

 

ぽつりと漏れたボウの言葉。

 

「滅多なことを言うでない。なんとしても生き残るのじゃ」

 

「もっと……お父さんとお母さんに親孝行しておけばよかったです」

 

それぞれが、悲壮感に沈んでいた。

 

「…………」

 

かく言う俺も同じだ。

ヒースクリフから聞かされた話が、何度も脳裏にフラッシュバックする。

 

ソファに体を沈め、天井を見上げたまま、思考がまとまらない。

 

「……リース、か」

 

どれだけそうしていたのか。

やがて俺は、ゆっくりと立ち上がった。

 

「お前ら、遠出するぞ」

 

「なんでやねん……集団自殺でもするんか?」

 

自嘲気味に呟いたボウの胸ぐらを掴み――

 

パァンッ!!

 

容赦なくビンタを叩き込む。

 

「な、何すんねん!?」

 

「しけたツラしてんじゃねぇ」

 

吐き捨てる。

 

「こんな時は気分転換だ。……全員、ついてこい」

 

そのまま踵を返し、ギルドの門を開ける。

外へ飛び出すと、背後から慌てた足音が続いた。

 

「あ、あの……ヤニーさん。どこに向かうんですか?」

 

リリィの問いに、俺は振り返らずに答える。

 

「……とっておきの場所だ」

 

 

 

 

 

転移門を抜け、第40層フィールドへ。

 

植物系モンスターが多く生息する階層。

俺たちのレベルなら、脅威にはならない。

 

「な、なぁ……どこまで行くんや?」

 

「もう少しだ。ついてこい」

 

歩き続ける。

気づけば何時間も経ち、辺りはすっかり夜に沈んでいた。それでも足は止めない。

 

野を越え、山を越え――

 

「……着いたぞ」

 

「な、なんやこれ……?」

「綺麗……」

「なんと……」

 

辿り着いたのは、小高い丘だった。

 

一面の草原。敵の気配はない。

だが、本当に見るべきものは――上だ。

 

見上げれば、満天の星空。

街の灯りに遮られることもなく、無数の星が夜空に広がっていた。

 

俺たちはその場に寝転がる。

川の字のように並び、誰も言葉を発さず、ただ空を見上げていた。

 

「……お前らとの思い出に、俺のお気に入りの場所を見せたくてな」

 

静かに呟く。

 

「どうだ?」

 

「……最高や」

 

ボウの声は、少し震えていた。

その顔は見ない。

視線は、ずっと空に向けたままだ。

 

「俺はな……人間不信で、本当は一人でやってくつもりだった………でも、この世界でお前らと出会った」

 

誰も口を挟まない。

 

「どうせ死ぬなら、好き勝手やって死んだ方がマシだと思ってた……でもな」

 

「お前らと出会って、全部変わった」

 

夜風が、静かに吹き抜ける。

 

「人の温もりってやつが、こんなにも――」

 

言葉が、少しだけ詰まる。

 

「……すげぇもんだって、初めて知った」

 

迷った末に、口にする。

 

「俺を受け入れてくれて……ありがとな」

 

星空を見上げたまま、呟いた。

 

どんなに突き放しても。

どんなにぶっきらぼうに接しても。

 

こいつらは、ずっとついてきた。

 

気づけば、俺は――

生きたいと思うようになっていた。

 

「水臭いこと言うなや、ヤニーさん……!」

 

ボウの声が響く。

その時ばかりは、いつもの関西弁も消えていた

 

「俺らは生きて!! プログラムなんかに殺されてたまるか!!」

 

声を張り上げる。

 

「生きて帰る……! 帰ったら、一緒にカラオケ行って、飯食って……笑い合うんだ!!」

 

やがて、嗚咽に変わる。

 

「……私は」

 

今度は、リリィが口を開いた。

 

「ずっと……周りに流されてばかりでした」

 

声が震えている。

 

「学校でも、ただ笑って頷くだけで……本当は、全部嫌で」

 

一度、息を吸う。

 

「でも、この世界で……本当に仲間だって思える人に出会えて……嬉しかったです」

 

「若者は良いものじゃのぉ」

 

オッタルが静かに言う。

 

「吾輩にも、守る理由ができてしもうたわ。ボスを倒して伝説になろうではないか!」

 

場違いな言葉に、誰からともなく笑いが漏れた。

さっきまでの空気が、嘘みたいに軽くなる。

 

「……お前ら」

 

最後に、俺が呟く。

 

「明日は明日の風が吹く」

 

夜空を見上げたまま、続ける。

 

「……生きて、その風を浴びに行くぞ」

 

その言葉は、静かに――

星空の向こうへと溶けていった。




SAO編はいよいよ大詰め!
正直オッタルのAI設定的に感動的なレスポンスより場違い感のあるレスがいいかなって思ってこんな感じにしてみました。
……いつカミングアウトしよ。
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