ヤニカスがVRMMOにログインしました(旧題:ニコチン・オンライン) 作:ジュネープ
「にしてもヤニーはん。ゲームの中と全然変わらへんなぁ!!」
「……ッフ。それはお互い様だろ」
翌日。連絡先を交換した俺たちは、待ち合わせ場所として昨日の喫茶店を選んだ。
「まさか再会できるとは思わんかったわ!」
アメリカンカジュアルな服装のボウ――野田洋介のSAO時代と変わらない姿に思わず笑みがこぼれる。
「ヤニーさん……本物、なんですね」
「リリィ……すまなかったな」
パンッ!!
乾いた音が店内に響いた。
シンプルながら質の良い服に身を包んだ女性――リリィこと桜田翠の平手が、俺の頬を打ち抜いた。
痛みに顔を顰めた次の瞬間。
「心配……したんですよッ!」
勢いよく、体当たりのように抱きつかれる。
「……すまなかったな」
潤んだ瞳のまま胸元に顔を埋める彼女に、何とも言えない空気が流れる。
――コホン
「……あー、感動の再会で悪いんやが、周りの迷惑になってるで?」
ボウの一言で我に返る。
周囲を見れば、温かい……いや、生暖かい視線がこちらに集まっていた。
「……とりあえず、座るか」
俺たちは慌てて席に着いた。
「さて……まず聞きたいんだが、なんでお前ら一緒に行動してるんだ?」
「あー、それはやな。ワイとリリィちゃん、同じ病院やったんや」
どうやら、入院先が同じで互いの存在を知り、退院後にオッタルのニュースを見て、俺と同じように居ても立ってもいられず、北海道まで来たらしい。
「……本当に無鉄砲な奴らだな」
「お互い様やろ?」
「……違いねぇ」
しばらくは他愛のない話で盛り上がっていたが――
話題が俺に移った瞬間、空気が重くなった。
記事の件、退職、住所バレ。
客観的に見れば、人生が詰んでもおかしくない状況だという自覚はある。
「……タバコの件はともかくとして」
リリィが口を開く。
「須賀さんって人、私たちに何をさせるつもりなんでしょうか」
「そこなんよなぁ」
ボウが腕を組む。
「ワイは大学生やったけど、SAOで除籍。リリィはんも高校中退やろ?渡りに船ではあるんやけど……仕事で使えるスキルなんて無いで?」
「……お互い大変だな」
俺は小さく呟いた。
学生としての時間を奪われた連中の境遇は、理不尽そのものだ。
そう考えながら、無意識に懐から煙草を取り出す。
ラクダのマークが入ったそれに火をつけ、深く吸い込んだ。
「その点、ヤニーはんは社会人やったんやろ?使えるスキルとかあるんちゃうか?」
「……俺だって復元作業なんてやったこともねぇ。何も通用しねぇよ」
「「「……はぁ」」」
3人のため息が、同時に重なった。
ピピピピ、ピピピピ。
スマホの着信音が鳴る。
画面を見た瞬間、自然と表情が険しくなった。
「……誰からや?」
「須賀だ。仕事の話かもしれん……出るぞ」
通話ボタンを押し、耳に当てる。
『ヤニーさん。昨日の件ですが――準備が整いました。オフィスに来てもらえますか?』
「……わかった。すぐ行く」
簡潔に返し、通話を切る。
「あの……何て言ってたんですか?」
「仕事らしい。内容は聞けなかったが……とりあえずオフィスに向かう」
コートを羽織りながら立ち上がり、彼らに声をかけた。
「行くぞ」
俺たちはそのまま席を立ち、店を後にした。
「やぁ。待っていたよ」
にこやかな笑みで迎えた須賀に、俺は間髪入れずに問いをぶつける。
「……いったい、俺たちに何をさせたい?」
昨晩と同じオフィスに足を踏み入れた俺たちに、周囲の社員たちは怪訝な視線を向けていた。だが須賀はそれを意に介さず、社長室からこちらへ歩み寄ってくる。
「まぁまぁ。立ち話も何だ。奥へどうぞ」
促されるまま通された部屋。
そこには――3台のデバイスが並んでいた。
その形状は、俺たちがよく知るものに酷似している。
「……座ってくれ」
須賀は指を組みながら、ゆっくりと口を開いた。
「さて、君たちの仕事だが――率直に言おう。ゲームで遊んでもらう」
「……は?」
思わず声が漏れる。
だが須賀は、そんな反応など想定内だと言わんばかりに話を続けた。
「まず、君たちにプレイしてもらうのは――レクトが運営するVRMMO、《アルヴヘイム・オンライン》だ」
「……何を言いたいんや?」
ボウが眉をひそめる。
「まぁ焦るな。順を追って説明しよう」
須賀は淡々と続ける。
「数ヶ月前、このALOで奇妙な事象が発生した」
「……どんな事象ですか?」
リリィが身を乗り出す。
「SAOクリアと同時に、高度に暗号化された謎のアセット群がALOへ流入した」
須賀は一度、間を置いた。
「解析の結果……それは、SAOの破片データだった」
――その瞬間。
俺は理解した。
ボウも同じだったのか、ちらりと視線が合う。
だが、リリィだけがまだ状況を掴めていない様子だった。
「昨晩話した通り、我々はそのデータの解析と復旧を進めている」
須賀はゆっくりとこちらを見渡す。
「問題は未回収データ。その中に――オッタルの修復データが含まれている可能性がある」
「えっ……!? 本当なんですか!?」
リリィが目を見開く。
「……つまり」
ボウが腕を組む。
「ALOに入って、そのデータを探せってことやな?」
「その通りだ」
須賀は満足げに頷いた。
俺はテーブルの上に置かれたデバイスへと視線を落とす。
「……そのための機器、ってことか」
手に取り、観察する。
「見たところ……ナーヴギアじゃなさそうだな」
「それは《アミュスフィア》だ」
須賀が即座に答える。
「ナーヴギアとは別系統のデバイスでね。性能はやや劣るが――安全性は段違いだ」
「……安全性?」
「ゲーム内で死んでも、現実で死ぬことはない」
「……それは、安心ですね」
リリィが小さく息を吐く。
「言いたいことは分かったんやが」
ボウが口を挟む。その目はやはり、どこか警戒しているかのようだった。
「まさか、何のサポートも無しで放り込むわけちゃうやろな?」
須賀は胸を張り答える。
「もちろんだ」
その言葉は自信に満ちた声だった。
「SAO時代の君たちのユーザーデータはすでに抽出済みだ。それをALOへコンバートし、同等の能力値でスタートしてもらう」
「……随分と都合がいいな。出来すぎてる」
須賀は、ただ静かに微笑んでいた。
俺はデバイスを手に取り、そのまま立ち上がる。
「……とりあえず、やるしかねぇか」
ボウとリリィも無言でそれを受け取った。
俺たちはそのままオフィスを後にし、ホテルへと向かった。
さて、これでALOにぶち込むことができます。
問題はYSMのキャラはどの種族にするか……