ヤニカスがVRMMOにログインしました(旧題:ニコチン・オンライン) 作:ジュネープ
システムが指定している喫煙所で、タバコを吸っていた時の話だ。
周囲には白い煙が幾重にも立ち上り、まるで薄い霧に包まれているかのように視界が覆われていた。
周囲のプレイヤーたちを一瞥すると、皆一様に苦虫を噛み潰したような表情で、まずそうにタバコを吸っては吐き出している。
それに対して俺は、自分で作ったタバコを心底うまそうに味わっていた。
その様子を不思議に思ったのだろう。
一人のプレイヤーが声をかけてきた。
「なあ、あんた。ずいぶんうまそうに吸ってるけど、俺らとは別のモン吸ってないか?」
「ああ。これは俺の自家製なんだ・・・・・どうだ、一本吸ってみるか?」
箱から一本取り出し、差し出す。
訝しげにそれを見つめていた彼は、物は試しとばかりに口に咥え、火をつけ、煙を吸い込んだ。
次の瞬間、彼の目が驚愕に見開かれた。
肺の中に入った煙をじっくり味わうように一瞬黙り込み、そして勢いよく吐き出す。
「な、なんだこれっ!!完全にキャ◯ルじゃねぇか!。一箱……いや一本でいい!売ってくれ!」
「残念だが、これは売り物じゃねぇ・・が。今回だけ特別だ。三百コルでどうだ?」
「ありがてぇ!!あんた恩人だ!」
彼は即座に三百コルを差し出し、俺はその代価としてタバコ一箱を渡した。
そのやり取りを見ていた他の喫煙者たちも、我先にと俺の元へ集まり・・・・結果、十箱ほどが一気に捌けた。
その後、俺は葉巻の葉が群生している森へ向かい、採取を行いながら自分用のタバコを作り続けていた。
数日後。
同じ喫煙所で一服していると、以前タバコを売ったプレイヤーの一人が、苛立った表情でこちらを見ているのに気づいた。
「なあ・・・・・あの時のタバコ、もう一度売ってくれないか?」
「そんなに欲しいなら、定期的に余った分を売ってやるよ」
このやり取りをきっかけに、俺は自作のタバコを本格的に販売するようになった。
どうやら俺のタバコは、市販品と比べて味だけでなく、ステータス面でも恩恵を受けるらしい。
フレーバーテキストには具体的な数値こそ書かれていないが、
・迷宮に挑む前に一服
・フィールドボス攻略前に一服
といった使われ方が広まり、攻略組の利用者が徐々に増えていった。
そんなある日。
いつものように葉を採取していると、見慣れないアイテムが手に入った。
《中品質の葉巻の葉》
宿に戻り、早速その葉を使ってタバコを作ってみる。
《七星》
仄かで優しい甘みのフレーバー。
集中力上昇、DEX上昇、疲労軽減、反応速度向上。
中程度の依存性あり。
「・・・・七星?」
試しに一本取り出し、火をつける。
スゥーーーーーハァ。
「・・・・・セブン◯ターじゃねぇか!!」
この葉を、もう一度手に入れなければならない。
すぐに採取した場所へ戻るが、いくら探しても同じ葉は見つからなかった。
「今日は一旦休むか」
その日は諦め、宿に戻ることにした。
翌日。
昼過ぎに起床し、フィールドへ向かおうとしたところで回復ポーションが切れていることに気づく。
「おっと、命がかかってるんだ。準備は怠れねぇな」
雑貨屋でポーションを購入し、メニューを閉じようとした時。
ふと、ある商品が目に留まった。
《草刈り鎌》
ガーデニングで用いられる草刈り鎌。
耐久性を気にせず除草・採集を効率的に行える。
敵に対してもダメージを与えることが可能。
「・・・・もしかして」
「店主、この草刈り鎌、いくらだ?」
購入した鎌をアイテムボックスにしまい、草の生い茂るフィールドへ向かう。
「・・・・やっぱりだ」
草刈り鎌で採取すると、十回に一回の割合で中品質の葉が手に入った。
必要分を回収し、その日は早めに切り上げた。
森を抜け、街へ戻る途中。
俺はタバコを一本取り出し、火をつける。
現実なら山火事を心配する場面だが、この世界では吸い終えれば粒子となって消える。
その気楽さが、少しだけありがたい。
のんびり歩いていると、森の奥から剣戟音が聞こえてきた。
(誰か、戦ってるな)
気になって音のする方へ向かう。
(・・・・女の子?)
木陰から覗くと、一人の女性プレイヤーが、二体のダイアウルフに追い詰められていた。
明らかに劣勢で、その瞳には怯えが浮かんでいる。
「このままだと死ぬな」
助ける義理はない。
だが、目の前で人が死ぬのは寝覚めが悪い。
アイテムボックスを開く。
回復ポーションと、草刈り鎌だけ。
耐久値が存在しない農具。
使えるかどうかは、賭けだ。
「・・・・・やるしかねぇか」
タバコを咥えたまま、俺は駆け出した。
吸った直後の世界が、少しだけスローモーションに見える。
反応速度向上の効果かもしれない。
大きく口を開けて少女に噛みつこうとしたダイアウルフの口内へ、草刈り鎌を突き込む。
暴れる狼を引き倒し、そのまま投げ飛ばした。
もう一体が唸り声を上げ、俺の喉元へ飛びかかってくる。
再び口内に鎌を差し込み、予備で買ったもう一本を装備。
異物を咥え込んだ狼がもがく隙に、左右の腕に力を込め、口を切り裂いた。
クリティカル判定が入ったのだろう。
ダイアウルフは粒子となって消えた。
・・・・が、安心する暇はない。
死亡エフェクトに紛れ、もう一体が突撃してきた。
鎌の柄を突き出して噛ませ、もう一本の鎌を振り下ろす。
数度の刺突の末、二体目も粒子となって消滅した。
「終わったか」
その瞬間、口に咥えていたタバコも光となって消える。
「クソ・・・そんなに吸ってねぇぞ」
少し残念に思いながらも、
俺は振り返り、助けた少女へ声をかける事にした。
誤字脱字報告ありがとうございます!
マジで助かります