ヤニカスがVRMMOにログインしました(旧題:ニコチン・オンライン) 作:ジュネープ
どうやら、紙に包む葉の量によって、作られるタバコが変わってくるらしい。
例えば、高品質な葉を少し減らすと【ケンタ】、さらに減らすと【ボーロ】といった具合に、出来上がるタバコの種類が変化する。
正直、銘柄に強いこだわりがあるタイプではない。
だが、どうせ吸うなら、うまいタバコがいい。
ある程度の数が揃ったところで、俺は最前線の街へタバコを売りに出かけた。
「よぅ、ヤニカス。待ちわびたぞ!」
「いつものことながら、俺を見つけるのが早いなぁ、お前」
声をかけてきたのは、最初にタバコを買ってくれた男プレイヤーだった。
名前はリンドというらしい。
「いや、ヤニカスさんのタバコの味を知っちまったらな。そこらのNPCが売ってる葉巻なんて、比べ物にならないくらい美味いからな」
「ちょうどいい。新しい商品を開発したんだ。よければ見ていってくれ」
「新商品? 一体なんだ?」
俺はアイテムボックスから、数種類のタバコを取り出し、目の前に並べた。
「これが最近完成した【ネイティブ】。それから【ボーロ】。こっちが【ケンタ】だ。名前は現実世界のタバコに似てるが、味も大体そのイメージ通りだと思ってくれていい」
「マジかよ。じゃあ今まで買ってたキャ◯ルもどきとはおさらばだな。ケンタを三箱くれ」
「一応、あれにも【ケニー】って名前はあるんだがな。ケニーより少し高くて、一箱四百コルだ」
「それでも現実より遥かに安い。それに、あんたのタバコは吸えばバフが入るって噂だ。ガチで攻略してる連中からの需要も高いんだよ」
「そういや攻略といえば、今どこまで進んでるんだ?」
俺の質問に、リンドは少し考え込んだ。
「・・・・・今は迷宮を発見して、攻略を進めてる途中だ。まだボス部屋までは辿り着いてないが、それも時間の問題だろうな」
「そうかい。まぁ、頑張れよ」
その後も最前線のプレイヤーたちが次々と集まり、タバコを買っていった。
気づけば、持ってきた在庫はほとんど残っていない。
俺はそのまま、帰路についた。
宿に戻ると、さっそくリリィを呼び出し、今日の売り上げを計算する。
「えーと・・・・・ケニ15箱は完売。他のタバコも、ほぼ完売か。合計売り上げは28500コル。材料費を差し引いて・・・・・24500コルだな」
「け、結構儲かったんですね・・・・・」
「そうだな。リリィがたくさん栽培してくれたおかげで、作れる本数も増えた。ほら、約束通り半分渡すから・・・・・12250コル。お前の分だ」
「わ、わぁ! こんなにもらっていいんですか!?」
「最初からそういう約束だろ。遠慮すんな」
その日、俺たちは稼いだ金を使って、少しだけ豪勢な食事を取ることにした。
数日後。
ここはダンジョン最深部。
ボス部屋の前。
目の前に集うのは、死をも厭わぬ勇士たち。
彼らを束ねるのは、勇者ディアベル。
優美な容姿、計算され尽くした戦術、そして人を惹きつけるカリスマ性。
まさに、先頭に立つにふさわしい男だった。
そして彼らは皆、覚悟を決めた瞳で【タバコを吸っている】
その姿は、決して喫煙を楽しんでいるようには見えない。
場の空気は、異様なほど張り詰めていた。
「これから、強大な敵と戦うことになる」
青髪の男・・・ディアベルが語りかける。
「この中の誰かは、ダンジョンの中で命を落とすかもしれない」
彼の手元で、タバコがジリッと音を立てる。
だが、誰一人として視線を逸らさず、その言葉に耳を傾けていた。
「俺から言うことは、ただ1つ・・・・・」
ディアベルは、燃え尽きかけたタバコを最後まで吸い切る。
「勝とうぜ!」
周囲から、雄叫びが轟いた。
最前線のプレイヤーたちが、【犠牲者を一人も出すことなく】第一層の攻略を完了したらしい。
その知らせを持ってきたのは、満面の笑みを浮かべたリンドだった。
彼は、最前線のプレイヤーたちのためにも、俺にも次の階層へ進んでほしいと要望を伝えてきた。
俺自身も、これまで作ってきた通常のタバコもそうだが、メンソール入りのタバコも作りたいと考えていたところだ。
新しい素材が眠っているであろう第2層へ向かう。
ちょうどいいタイミングだ。
「ヤニカスさん。情報屋曰く、この後の階層…第3層ではギルドシステムっていうものが使えるらしい。よければだが、俺が作るギルドに入ってくれないか?」
「気持ちはありがたいが、断る」
即答だった。
「俺はあくまで、このゲームをエンジョイしたいだけなんだ。あんたらみたいなガチ勢の中に、俺みたいなのがいたら風紀が乱れるだろ?」
そう言って、その場は穏便に引き取ってもらった。
その晩
宿の自室で、俺は一人考え込んでいた。
現状では、生産にかかる時間があまりにも大きい。
このままでは、需要が増えるほど首が締まる。
それを打破するには、人手が必要だ。
それも、ただの数合わせじゃない。
(できれば、俺に並ぶか、それ以上の技術を持つ人間が欲しい)
「・・・・・ギルド、か」
ガチ勢のギルドに入るのはごめんだ。
だが、自分で作るという選択肢なら話は別だ。
深夜にもかかわらず、俺はリリィにメッセージを送った。
【いつかギルドを作ろうと思うんだが・・・・・お前、俺のギルドに入るか?】
一区切りついた感