ヤニカスがVRMMOにログインしました(旧題:ニコチン・オンライン)   作:ジュネープ

9 / 40
とりま次の話の導入になりそうな感じで書いときました


Yanny’s Smoking Maker

 

 

「・・・・できた」

 

部屋の中で、俺は信じられないものを見るような目で、手にした物体を凝視していた。

 

《コール》

清涼感を感じられるベーシックなハッカ葉巻。

熱耐性付与、VIT+10。

集中力急上昇、反応速度上昇。

中程度の依存性あり。

 

動いてもいないのに、心拍が乱れるような感覚がある。

 

俺は興奮していた。

 

「半年近く・・・・半年近くも待った」

 

震える声が、無意識のうちに漏れる。

 

完成したタバコを見つめているだけで、唾液が溢れそうになるのを理性で抑え、俺はそれを口に咥えた。

 

震える手で、火をつける。

 

スーーーー

 

肺いっぱいに煙を吸い込む。

 

その瞬間

 

俺は、目を見開いた。

 

驚愕したまま、口からタバコを外す。

 

「・・・・クー◯だ。あの◯ールだ」

 

メンソールタバコ第一号。

それは《クー◯》・・・・もとい、《コール》だった。

 

 

 

 

 

「フロストミント・・・・ですか?」

 

翌日。

リリィに連絡を取り、俺たちはカフェで向かい合っていた。

 

「どうやら満月の日になると、フィールド一面がフロストミントで埋まるらしい。問題は・・・・これを栽培できるかどうか、だな」

 

特定条件下でしか咲かない花を、プレイヤーの手で再現できるのか。

 

「・・・・それは、難しいと思います」

 

リリィは申し訳なさそうに、首を横に振った。

 

「プレイヤー側で気候条件を完全に再現するのは・・・・不可能かと」

 

つまり、栽培による安定供給はできない、ということだ。

 

俺は溜め息とともに、肺の中の煙を吐き出した。

 

「・・・・あの」

 

控えめに、リリィが口を開く。

 

「別に・・・・栽培しなくても、いいと思います」

 

「どういうことだ?」

 

「満月の日に・・・・先に大量に採取しておけば、いいんじゃないでしょうか?」

 

一瞬、思考が止まる。

 

「・・・・あぁ。つまり、需要を上回る量を前もって確保しておけば、問題ないってことか」

 

俺の言葉に、リリィは小さく、何度も頷いた。

 

「・・・・なるほどな」

 

それから俺たちは、次の満月の夜に再び落ち合う約束を交わした。

 

 

 

「おい、あれ見ろよ。【YSM】じゃねーか」

 

「・・・・本当だ。こんな夜更けに何やってるんだ?」

 

通りがかったプレイヤーたちが、俺たちを見て小声で話している。

 

俺は特に気にも留めず歩き続けていたが、隣を歩くリリィは、若干赤くなった顔で俺についてきていた。

 

「おい、リリィ。聞いたか?知ってるやつは知ってるもんなんだな」

 

「やっぱり、あのギルド名・・・・少し主張が強すぎませんか」

 

【YSM】

Yanny’s Smoking Maker

 

安直この上ない名前だが、俺はこのギルド名に特別な思い入れがあるわけじゃない。

必要になったから作った。それだけだ。

 

厨二臭い名前を考える時間があるなら、俺はタバコの煙に包まれていたい。

 

そんな気持ちで付けたこのギルド名だ。

相当な物好きでもなければ、生産者の名前なんて気にしないはずだ。

 

それなのに、俺たちの名前を知っていたということは・・・・

 

「きっと、あいつらは俺たちのタバコを吸ってる連中なんだろうな」

 

「・・・・なんだか、恥ずかしいです」

 

「俺と出会って、もう半年以上経つってのに。お前、相変わらず奥手だなぁ」

 

「言わないでください・・・生まれつきなんです」

 

思わず笑いがこぼれ、俺はそのまま歩き続けた。

 

しばらくして、サチから教えられていた地点に到着する。

 

周囲は崖に囲まれ、地面が少し窪んだような場所だった。

他のプレイヤーは、まず気にも留めないだろう。

 

空を見上げると、月は雲に隠れている。

だが、雲がゆっくりと流れるたび、夜空に浮かぶ満月が少しずつ姿を現していった。

 

「・・・・これは」

 

「綺麗ですね」

 

目の前に広がる光景に、俺たちは思わず息を飲んだ。

 

何もないと思っていたフィールド。

そこに、無数の草が土を割って顔を出し、満月に向かって一斉に花弁を開いた。

 

「これは・・・・・絶景だな」

 

月光に照らされ、空間全体が幻想的な色に染まっている。

俺たちはその中へ足を踏み入れ、ストレージが限界になるまで葉を採取し続けた。

 

「リリィ、どれくらい取れた?」

 

「・・・・200束、みたいです」

 

「そうか。俺は1000束だな」

 

「せ・・・1000束?!」

 

「スキルのおかげだな」

 

「な、なるほど」

 

正直、これだけあれば当分は持つ。

だがもう少し余裕はあった方がいい。

 

「この流れをあと2〜3回は繰り返そう。そうすりゃ、しばらく困らん」

 

そう伝え、俺たちは並んで街へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄さん頼む!!ワイはこれしか持ってないんや!!」

 

必死な声が、夜の通りに響いた。

 

「そう言われましてもねぇ、お客さん。うちだって商売でやってるんですよ。出すもん出してもらわんと、こちらとしても困るんですが」

 

ここはタフトの風俗街。

一人の男が店先でボーイに向かって土下座していた。

 

「そこをなんとか頼む!!一生のお願いや!、あと100コル負けてくれたら払えるんや!!」

 

目をウルウルとさせ、ボーイの脚にすがりつく男。

 

「・・・・分かりました。今回だけ特別です。100コル、割引します」

 

「兄ちゃん!ホンマありがとな!!」

 

さっきまで涙目だった男の顔は嘘のように満面の笑みに変わり、そのまま店を後にした。

 

 

 

 

彼の名は【ボウ】。

 

中層と最前線を行き来し、日銭を稼いで生きている男だ。

 

スキップするような足取りで街を歩くその姿を、通行人たちは怪訝そうな顔で避けていく。

 

だが、ボウは気にも留めない。

 

「さーてと!お金を稼がんと」

 

鼻歌交じりに、ボウは夜のフィールドへと向かっていく。

 

その背中を、物陰から静かに見つめる影が1つ。

 

深くフードを被った人物はただ一言

 

「・・・・今晩の獲物は、こいつだ」

 

低く漏らされた呟きは、街の喧騒に溶け込み、誰の耳にも届くことはなかった。




そろそろフェイタルバレッドに集中したいから少し間隔開くかも?
目指せ!
トゥルーエンド!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。