ネタ帳   作:タロットゼロ

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5月18日--ヒーロー名考案--近天大聖孫玄麗

 

「えー、今日の“ヒーロー情報学”、ちょっと特別だぞ」

 

 

 

 『ちょっと特別』。相澤教諭の言葉にクラスの緊張感は一段階増し-

 

 

 

「『コードネーム』ヒーロー名の考案だ」

 

「「「「「胸ふくらむヤツきたぁぁぁぁぁっ!!」」」」」

 

 

(このノリにはまだついていけないな)

玄麗がやや困った表情で頬杖ついてる中

 

 ボルテージが一気に高まるが、相澤の一睨みですぐに鎮静化する。

 

 

 

「というのも、先日話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる。指名が本格化するのは、経験を積み即戦力として判断される2年生以降…」

 

「つまり今回来た“指名”は、将来性に対する“興味”に近い」

 

「卒業までにその興味が削がれる様な事になれば、一方的にキャンセル…なんて事はよくある話だ」

 

「大人は勝手だ!」

 

 

 

 相澤教諭の説明に、峰田が愚痴っていた

 

「頂いた指名が自身へのハードルになるんですね!」

という葉隠の言葉に

 

 

 

「そ、 でその指名の集計結果がこうだ」

 

 

 

 直後、黒板に表示された集計結果に全員の視線が集中する。

 

 

轟 3.953

爆豪 3.056

孫 1.381 

常闇 358

飯田 288

上鳴 252

八百万 108

切島 68

麗日 20

瀬呂 14

 

「例年はもっとバラけるんだが三人に注目が集まった」

 

これを踏まえ、指名の有無に関係なく、いわゆる…職場体験に行ってもらう。」

 

プロの活動を経験してこいという話なようだ

 

 

 

「それでヒーロー名か!」

 

「俄然楽しみになってきたァ!」

 

 

 

「まぁ、仮ではあるが適当なもんは…」

 

「付けたら地獄を見ちゃうよ!!」

 

「この時の名が! 世に認知され、そのままプロ名になってる人多いからね!!

 

 

 

 相澤教諭の言葉を遮る形で教室に入ってきたミッドナイト教諭は、そのまま相澤教諭からバトンタッチするように教壇に立つ。そして相澤教諭は

 

 

 

「その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。俺はそういうの出来ん。」

寝袋を取り出しながら話が続く

「将来、自分がどうなるのか名をつけることでイメージが固まりそこに近づいていくそれが「名は体を表す」ってことだ。オールマイトとかな。」

その言葉とともに寝袋に入るのを眺めながら

 

(なるほどね)

 

どうでもいいので適当に名付けようかという考えを改めた

 

教室の空気が、それぞれの将来を形作る「名前」への悩みと興奮で白熱していく。

 

そして15分後

「じゃ、そろそろ出来た人から発表してね!」

 ミッドナイトの促しに、教室中がまだ迷いと筆走る音に包まれる中、迷いなく席を立った影があった。青山優雅だ。

(……ほう。この状況で初手を取るとは、大したものだ)

 玄麗は、手元の白紙のボードに視線を落としたまま、内心でわずかに舌を巻いた。

 プロの指名数という現実を突きつけられ、将来を決定づける「名」を刻む重圧。クラスの誰もが慎重にならざるを得ない場面で、真っ先に名乗りを上げるその度胸。目立ちたがりな性格もあるだろうが、迷いのなさは一つの才能だ。

 だが、その感心は、彼が掲げたボードの文字を見た瞬間に霧散した。

「輝きヒーロー『I can not stop twinkling.(アイ・キャン・ノット・ストップ・トゥインクリング)』(キラキラが止められないよ)」

 「短文!!」

教室に響き渡るツッコミの嵐。そんな中、玄麗だけは一人、あえてその文字列を頭の中で律儀に音読してみた。

(……。……舌、噛みそうだな)

 流暢に発音しようとすればするほど、口内がもつれる。緊迫した戦闘の最中、連携を取るために名前を呼ばなければならない味方の苦労を考えているのだろうか。

 「アイ・キャント……」と呟きかけたところで、玄麗はそっと口を閉じた。これは、呼ぶ側にとっても一種の試練だ。

 

「そこはIを取ってcan'tに省略したほうが呼びやすい」

ミッドナイト教諭の添削を聞きながら

 

(どっちにしろ長すぎてあまり呼びたくないな)

と考えていた

 

 

 青山が「省略してもキラキラは変わらないよ!」と満足げに席に戻るのと入れ替わりで、勢いよく教壇へ向かったのは芦戸三奈だった。

「はいはーい! 次はアタシ!」

 彼女が迷いなく掲げたボードには、その弾けるようなビジュアルにぴったりの、どこか禍々しくもキャッチーな名前が踊っていた。

「リドリーヒーロー! 『エイリアンクイーン』!!」

ミッドナイト教諭曰く

「2!!血が強酸性のアレを目指してるの!?やめときな!!」

 

(エイリアンクイーン……。ふむ、僕はいいと思うけどな)

 確かに元ネタの映画を知っていれば、その凶悪なイメージに尻込みするのも分かる。だが、彼女の個性である「酸」の性質や、常人離れした身体能力、そして何より戦場を支配しそうな力強さを表すには、これ以上ないほど「名は体を表す」名前に思えたのだ。

 

 ミッドナイトの無慈悲な却下に、芦戸が「えーっ! カッコいいのに!」と頬を膨らませて席に戻っていく。

 その様子を眺めながら、玄麗は再び自分の手元に視線を落とした。

芦戸が肩を落として戻る中、代わって教壇に立ったのは蛙吹梅雨だった。

 彼女は落ち着いた様子で、指先を頬に当てながら口を開く。

「私は小学校の頃から決めてたの」

 掲げられたボードには、どこか懐かしさを覚える響きの名前があった。

「梅雨入りヒーロー『フロッピー』」

 その瞬間、教室の空気が柔らかく波打った。幼い頃からの憧れをそのまま形にしたような、気負いのない、けれどもしっかりと根を張った決意。ミッドナイトも「可愛らしいし、親しみやすくていいじゃない!」と満面の笑みで太鼓判を押す。

 そんな中、玄麗は一人、その響きを脳内で反芻していた。

(フロッピー……)

 ふと、どこかで見た記憶の断片が脳裏をよぎる。磁気テープを収めた、あの四角い記録媒体。

(……ディスク?)

 一瞬、読み込みが遅そうだとか、今時なら容量が少なすぎるのではないか、といった的外れな思考が顔を出す。

(……バカか、僕は)

 すぐに首を振って自嘲した。今は記録媒体の話をしているのではない。

 彼女の「蛙」という個性をこれ以上なく端的に、かつ愛嬌たっぷりに表現した素晴らしい名前だ。

(フロッピー、か。……うん、良い名なんじゃないかな)

 奇をてらった青山や、禍々しすぎた芦戸とは違う。自分の本質を理解し、それを世間にどう受け入れられたいかまで見越したような、静かな納得感がある。

 クラスメイトたちが「梅雨ちゃんっぽい!」「ケロケロ!」とはしゃぐ声を耳にしながら、玄麗は自身のボードに目を落とした。

 

蛙吹の発表で和んだ空気を切り裂くように、「押忍!」と威勢の良い声が上がった。

 教壇へ向かったのは、赤髪を逆立てた熱血漢・切島鋭児郎だ。

「これしかねえと思ってました! 剛健ヒーロー『烈怒頼雄斗(レッドライオット)』!!」

 掲げられたのは、往年の武闘派ヒーロー「紅頼雄斗(クリムゾンライオット)」へのリスペクトが詰まった名前。ミッドナイトも、その古風で硬派な響きに「憧れを背負うのね。……相応のプレッシャーになるわよ?」と、期待を込めた笑みで受理した。

 玄麗は、その力強い四字熟語のような当て字が躍るボードを、じっと見つめていた。

 

(憧れを背負うか)

ボードに書こうとした時

「ジャミングウェイ」

 

「ヘミングウェイもじりか」

 

「折角強いのにすぐ、ウェイってなるじゃん…!?」

 

 

「ぷふっ……っ」

 静まり返っていた思考の海に、突如として放り込まれた直球の阿呆。

 そのあまりの語感の「それっぽさ」と「意味のなさ」のギャップに、玄麗は耐えきれず、つい吹き出してしまった。

「えふんっ、エフン……っ」

 慌てて拳で口元を覆い、小さく咳き込んで誤魔化す。

 

(ジャミングウェイって)肩を震わせ、玄麗はどうにか呼吸を整えた。

 その後も、教壇では次々とクラスメイトたちの名が決まっていく。

「ヒアヒーロー『イヤホン=ジャック』」

「触手ヒーロー『テンタコル』」

「テーピンヒーロー『セロファン』」

 どれも自身の個性を的確に、あるいはスタイリッシュに表現したものばかりだ。

 ミッドナイトが楽しげに受理していく声を遠くに聞き流しながら、玄麗は手元のボードに視線を落とした。

 ボードの右側には、既に迷いなく三文字が書き込まれている。

『天大聖』

 それは、切島が掲げた「ライオット」へのリスペクトと同じ。あるいはそれ以上に重く、避けがたく自分に付きまとう伝説の断片。

 残された左側の空白を、玄麗は持っていたペンでトントンと無意識に叩いた。

(……僕は、なんだろうな)

 天に斉(ひと)しき大いなる聖者――「斉天大聖」。

 かつて天界を騒がせ、釈迦の掌で踊らされたあの猿の王。その名をそのまま名乗るには、今の自分はあまりに未熟で、そして何よりそれは父の称号だ

(誰のための『聖』だ。何を守るための『大』だ)

 指名数1381。それは期待の数だ。だが、その期待に応えるだけの「看板」を、自分は用意できているのか。

 

 「名は体を表す」という相澤の言葉が、耳の奥でリフレインする。

 自分が目指すのは、ただの「ヒーロー」ではない。かといって、過去の模倣に終始する「孫」でもない。

 トントン、と刻まれるペンの音が、徐々に速くなる。

 

思考の波に呑まれながら、無意識にペン先が動く。空白の左側に、つい力が入った筆致で一文字、書き加えてしまった。

『聖天大聖』

 書き終えた直後、玄麗は自らのボードを見て、冷や汗が出るのを感じた。

(……聖天大聖。バカか、僕は。何様だ)

 天に斉(ひと)しきどころか、自ら「聖」を重ねる傲岸不遜。父の称号をなぞるどころか、それを塗り潰すような不遜な並び。玄麗は慌ててその「聖」の字に二本の線を入れ、自ら没にした。

「テイルマン!」

「シュガーマン!」

「ピンキー!」

「チャージズマ!」

「インビジブルガール!」

 教壇では、迷いのない、あるいは妥協と決意の混ざった名前が次々に受理されていく。

 玄麗は指先で器用にペンを回しながら、再び思考の海へと潜った。

(憧れを背負う……。切島はそう言った)

 その言葉が、澱のように胸に溜まっている。

「クリエイティ!」

「ショート!」

「ツクヨミ!」

「グレープジュース!」

「アニマ!」

「爆殺王」

「そういうのはやめた方が良いわね」

 轟の「ショート」という、本名をそのまま背負う極限の削ぎ落とし方。常闇の「ツクヨミ」という、自身の闇を定義する力強い響き。

 それらを聞きながら、玄麗はペン回しをピタリと止めた。

(……憧れに、近づく)

 背負うのではない。今の自分が、その巨大な伝説に真っ向から挑み、一歩ずつ距離を詰めていく。その過程そのものを名にするべきではないか。

 空白の場所に、迷いなく「一文字」を書き入れる。

『近天大聖』

(……近天大聖。……ふむ、良さそうだ)

 天に斉しき存在へ、少しでも「近く」。

 父の背中を見上げ、伝説の影を追いながら、いつか自らの手でその空を掴み取る。今の自分には、この「近」という文字こそが、最も誠実で、かつ野心的な響きに思えた。

「私は、考えてありました!」

 麗日お茶子が晴れやかな顔で「ウラビティ」と宣言する声を合図に、玄麗はふっと息を抜いた。

(……決まったな)

 

「……出来ました」

 喧騒が続く教室で、その声は驚くほど静かに、けれどもしっかりと響いた。

 

 玄麗は迷いのない足取りで教壇へ向かうと、手元で温めていたボードを、事もなげに置いた。

『近天大聖(きんてんたいせい)』

 墨痕鮮やかなその四文字に、教室が一瞬しんと静まり返る。

「近天大聖。……まだまだ、あの『斉天』にはほど遠い身だけど。……一歩ずつでも、それに近づこうと思ってる」

 さらりと言ってのけた玄麗の言葉に、ミッドナイトは一瞬、息を呑んだ。

 

「……『近天大聖』。いいわ、凄くいいわよ。孫さん」

彼女は鞭を軽く肩に預け、教壇をゆっくりと歩きました。

「『斉天大聖』……言わずと知れた西遊記の英雄、孫悟空の称号ね。個性がその神話に近いから、リスペクトを込めての命名かしら? でも、あえて『斉天(天に等しい)』ではなく**『近天(天に近い)』**を選んだ。その謙虚さと、けれど確実に天を目指そうとする気概……」

ミッドナイトの瞳が、妖しく、けれど鋭く光っていた。

「今のあなたには少し重すぎる名かもしれない。でも、ヒーローコードネームは『なりたい自分』への誓いでもあるの。あなたがいつかその『近』の一文字を外せる日が来るのか、それとも『近天』として独自の高みに至るのか……。ゾクゾクするわね! 承認よ!」

彼女は勢いよく扇を広げ、玄麗を指し示す。

「古風で堅苦しいかと思ったけれど、あなたの佇まいがその名に説得力を与えているわ。1-Aの『大聖』、期待してるわよ!」

 

 「近天大聖」――その名が受理され、玄麗が席に戻った後も、ヒーロー名考案は佳境を迎えていた。

 だが、まだ決まりきっていない者が数名。その中の一人、飯田天哉が静かに教壇へと向かった。

 彼が掲げたボードには、飾り気のない文字が並んでいた。

「『天哉』」

 本名をそのままコードネームにする。それは、兄であるインゲニウムの影を追う自分を、一度更地に戻すかのような、悲壮なまでの決意に見えた。

 

 玄麗は、背筋を伸ばして席に戻る飯田の横顔に、言葉にできない重みを感じた。かつて自分が「聖天大聖」の文字を没にした時と同じ、あるいはそれ以上の葛藤がそこにはあるのかもしれない

 そして、最後の一人。

 緑谷出久が、震える手でボードを掲げた。

「『デク』。……今までずっと、バカにされてるみたいで嫌だった。でも、ある人に意味を変えられて……。僕にとっては、それが凄く嬉しかったんだ」

 教室中が息を呑む。

(蔑称を、誇りに変えるか。……凄いな)

 玄麗は小さく吐息を漏らした。

 自分は「天に近づく」ために名を選んだ。飯田は「己の名」を背負うために。そして緑谷は「弱さ」を「強さ」へと再定義するために。

 形は違えど、全員がそれぞれの覚悟をその名に刻みつけた。

「よし、全員決まったな」

 寝袋から這い出した相澤教諭が、平坦な声で告げる。

 教室の空気は、15分前とは明らかに違っていた。ふわふわとした浮ついた高揚感は消え、代わりに全員の胸には、世間に公表される「名」に相応しい自分にならねばならないという、重い責任が根付いていた。

「職場体験は一週間。明日までに、希望する指名先のリストを提出しろ。指名が来ていない者は、こちらが用意した40の事務所から選んでもらう」

 配られたプリントを受け取りながら、玄麗はそこに記された膨大なヒーロー事務所の名前を指でなぞった。

 指名数1381。

 「近天大聖」としての初陣。その舞台をどこにするべきか、玄麗の視線は既に次の戦場へと向けられていた。

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