ネタ帳   作:タロットゼロ

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4月7日--対人屋内訓練青山優雅編

廃ビルを模した訓練場の廊下

二人の距離は、十歩ほど。

少し離れた位置で、その様子を見守っているのは モニタールームのオールマイト だった。

 

先に動いたのは 青山優雅 。

胸を張り、片手をひらりと振る。

「Bonjour(ボンジュール)! マドモアゼル!」

腰を突き出す。

「僕のキラキラに跪きたまえ! 先制のプレゼントだよ!」

次の瞬間。

閃光が走った。

ネビルレーザー。

眩い光が一直線に玄麗へと放たれる。

だが――

玄麗は動かなかった。

足はその場に据えたまま。

上体を、ほんのわずか横へ傾ける。

それだけ。

光線は鼻先をかすめ、背後の壁へ突き刺さった。

焦げた匂いが立つ。

青山の眉が跳ね上がった。

「ノン!?」

信じられない、という顔。

大きく飛び退いたわけでもない。

一歩も動いていない。

ただ体を逸らしただけで、レーザーが外れたのだ。

「かわしたのかい?」

一瞬の沈黙。

そして、すぐに口元をつり上げる。

「ならば――これならどうかな!」

再び腰を突き出す。

「メルシー!」

閃光。

二発目のレーザー。

今度は先ほどよりも速い。

だが。

玄麗の足は、やはり動かなかった。

上体がわずかに左へ流れる。

同時に、腰がひねられる。

体が斜めに回り込むように動いた。

光線は胸元の前をかすめ、

空気だけを焼いて通り過ぎる。

玄麗は静かに立ったままだった。

まるで最初から、そこに当たらないと分かっていたかのように。

 

その様子に、モニタールームの オールマイト が腕を組む。

「……ほう」

低く、感心したように呟く。

「今のは“回避”というより、“最小動作の偏差”だね」

視線は玄麗から外さない。

「レーザーそのものを見てから避けているわけではない」

「撃つ前の体の動き――」

「腰の突き出し、重心の移動」

「その予備動作を読んでいる」

わずかに口元が上がる。

「だから一歩も動く必要がない」

光の焦げ跡が壁に残る。

その前方、玄麗は変わらず立っている。

オールマイトは続けた。

「青山くんのネビルレーザーは非常に速い」

「しかし、“撃つ瞬間”には必ず体が開く」

「そこを見抜かれているのだろう」

そして小さく息を吐く。

「ふむ……」

「素晴らしい体捌きだ。」

 

 

青山優雅 の表情が引きつる。

「ノン……」

信じられない、という顔。

「ノンノンノン! なぜ当たらない!」

再び腰を突き出す。

閃光。

ネビルレーザーが放たれる。

だがその瞬間。

玄麗の体が、わずかに動いた。

前へ。

斜め前へ、半歩。

同時に上体が傾く。

光線は肩口をかすめ、背後の壁を焼いた。

青山の目が見開かれる。

「まだだよマドモアゼル!」

二発目。

三発目。

連続して放たれる光。

だが玄麗の足が、また静かに滑った。

斜め前。

半歩。

さらに半歩。

光はすべて空を切る。

右をかすめ、

左を抜け、

背後で床を焦がす。

撃つたびに、玄麗は近づいてくる。

一歩。

また一歩。

まるで光を縫うように。

青山の声が裏返った。

「ノンノンノン! なぜ当たらない!」

さらにレーザーを撃つ。

だが玄麗はまた、斜めに体を流す。

光線は頬の横を通り過ぎた。

その時だった。

玄麗が、初めて口を開いた。

「……別に不思議じゃないよ」

また半歩、前へ出る。

もう距離はかなり近い。

「本当に光速なら」

わずかに首を傾ける。

「さすがに避けられないけど」

次のレーザーが放たれる。

玄麗の体が斜めに滑る。

光は空を裂くだけ。

そして静かに言った。

「それくらいの速さなら」

もう、青山のすぐ手前。

「避けれるやつは避けれる」

 

その様子をモニター越しに見ていた

オールマイト 唸る。

「なるほど……」

低く、感心したような声。

「今の接近は見事だ」

モニターには、先ほどまでの動きが繰り返し映し出されている。

「青山くんのネビルレーザーは非常に速い」

「だが――」

一拍。

「“撃った光”を見てから避けているわけではない」

指で画面の一点を示す。

そこには、レーザー発射直前の青山の姿。

腰を突き出し、体がわずかに前へ傾いている。

「ここだ」

オールマイトが言う。

「ネビルレーザーは腰の動きと重心移動が大きい」

「つまり、撃つ前に必ず予備動作が出る」

モニターの中で、玄麗の体がわずかに動く。

光が放たれるよりも、ほんのわずか早く。

「彼女はその“予備動作”を読んでいる」

腕を組んだまま、静かに続ける。

「だからこそ、一歩も無駄に動かずに回避できる」

そして小さく息を吐いた。

「さらに興味深いのは……」

モニターに映る軌跡。

玄麗の足取り。

斜め前。

斜め前。

また斜め前。

「回避と同時に、必ず距離を詰めていることだ」

口元がわずかに上がる。

「避けるだけでは終わらない」

「次の有利な位置へ移動している」

画面の中では、すでに二人の距離はほとんどない。

「結果として――」

オールマイトは結論を言う。

「青山くんは“遠距離個性”にもかかわらず」

一拍。

「自分から接近戦の距離に追い込まれてしまった」

モニターの中。

玄麗が、青山の目の前で静かに立っている。

オールマイトは小さく頷いた。

「実に理にかなった戦い方だ」

 

モニターの中。

玄麗は 青山優雅 の目の前で止まっていた。

距離は、腕一本。

これ以上ないほど近い。

青山は腰を引いたまま固まっている。

レーザーを撃つ体勢は取れる。

だが――

近すぎる。

玄麗が、わずかに首を傾けた。

「こうやって接近された時」

静かな声。

「アンタはどうする?」

青山は数秒、黙っていた。

視線が泳ぐ。

玄麗。

自分のベルト。

そしてまた玄麗。

やがて、肩の力が抜けた。

「……どうにもならない」

小さく息を吐く。

どこか自嘲気味に笑った。

「僕の輝きは」

視線を上げる。

「君には届かないんだね」

玄麗は少しだけ目を細めた。

それ以上言葉はない。

ポーチから確保テープを取り出す。

ぱしり。

乾いた音。

次の瞬間。

青山の両手首は、まとめて拘束されていた。

抵抗はない。

青山は苦笑する。

玄麗はテープの端を軽く引き、固定を確認する。

それから淡々と言った。

「……はい、終了」

廊下に静寂が戻る。

少し離れたモニタールームでは

オールマイト がゆっくり腕を解いた。

「うむ」

静かな声。

「良い訓練だった」

モニターの中では、

青山優雅が拘束されたまま、

玄麗が静かに立っていた。

 

拘束されたままの 青山優雅 が、少しだけ肩を落とした。

「キラキラだけじゃ……ダメなんだね」

どこか自嘲するような声だった。

玄麗は、その様子をしばらく黙って見ていた。

それから、ふっと小さく息を吐く。

「キラキラ、か」

少し首を傾げる。

「キラキラがそんなに悪いとは思わないな」

青山が顔を上げる。

玄麗は続けた。

「キラキラも良いけど」

 

「泥臭い努力ってのも悪くないんじゃないかな?」

廊下には二人の声だけが響く。

玄麗は静かに言った。

「ホントのキラキラってのは」

「泥の中でもキラキラしてるもんだろ」

 

青山の目が、わずかに見開かれる。

「……泥の中でも、キラキラ……?」

彼は今まで、自分を美しく飾ることでしか、周囲と並び立つ方法を知らなかった。

お腹を壊しながらレーザーを撃つことも。

それを悟られないよう、派手に振る舞うことも。

彼にとっては、隠すべき“泥臭さ”だったはずだ。

沈黙。

ほんの短い時間。

やがて、青山の瞳にじわりと熱いものが浮かびかける。

だが――

彼はぐっとそれを押しとどめた。

持ち前のプライドで。

そして、いつものように胸を張る。

「……ふ、ふふ」

かすかに震える声。

それでも、ポーズは崩さない。

「君は、言うことがいちいちドラマチックだね」

口元に笑みを浮かべる。

「メルシー」

その表情は、先ほどまでの自嘲とは違っていた。

どこか憑き物が落ちたような、柔らかいもの。

青山は、縛られた手を少しだけ持ち上げる。

そして玄麗をまっすぐ見つめた。

「泥にまみれたボク……」

肩をすくめる。

「想像しただけでシャワーを浴びたくなってしまうけれど……」

 

それでも、はっきりと言う。

「……悪くない」

「そう、悪くないかもしれないね」

青山の目が、少しだけ強く光る。

「ボクが本当の意味で――」

胸を張る。

「“最高に眩しいヒーロー”になった時」

玄麗を見据える。

「その言葉の意味を」

わずかに笑う。

「ボクがボク自身に証明してみせるよ」

 

その姿を見て、玄麗はほんの少しだけ目を細めた。

(……前に進む気はある、か)

小さく息を吐く。

「そうか」

短く言う。

「頑張りな」

そして、ふと思い出したように付け加えた。

「……ああ、そうだ」

青山が首を傾げる。

玄麗は一歩近づいた。

「さっきの」

「“こうやって接近されたらどうする?”の答えだけど」

青山の前で立ち止まる。

「こんなのもあるよ」

玄麗は右手を上げた。

人差し指を伸ばす。

そして――

青山の腹部。

鳩尾とへその中間。

ベルトの少し上。

そこに、そっと指先を当てる。

青山が目を瞬かせる。

「……?」

次の瞬間。

玄麗の肩が、ほんのわずかに沈んだ。

「ふっ」

短い息。

同時に。

指先が、わずかに押し込まれる。

 

どん。

鈍い衝撃。

ほんの数センチの動き。

だがその瞬間、青山の体がくの字に折れた。

「――ッ!?」

空気が肺から押し出される。

足が浮く。

体がそのまま数歩後ろへ弾かれ、床を滑った。

玄麗はその場から一歩も動いていない。

腕も、ほとんど振っていない。

ただ、指先を握られていただけ。

「……ワンインチパンチ」

小さく言う。

「こういう距離でも、やりようはある」

床の上で青山が咳き込む。

玄麗は肩をすくめた。

「まあ」

少しだけ笑う。

「これは体術だけどね

 

青山が腹を押さえて蹲る。

「ぅ……」

震える声。

「少し強く打ちすぎたかな」

玄麗が首を傾げる。

青山が顔を上げる。

青ざめた顔で一言。

「……漏れちゃいそう」

 

一瞬の沈黙。

玄麗が目を瞬かせる。

「それは――」

少しだけ眉を寄せる。

「さすがにまずいことになりそうだね」

 

ぱりっ。

大急ぎで確保テープを剥がす。

青山は一瞬固まったあと――

目を見開いた。

「メルシー!!」

 

そのまま廊下を全力疾走。

曲がり角の向こうへ消えていく。

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