ネタ帳   作:タロットゼロ

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1月13日--デオの乱

一月の風は、鋭い刃物のように頬を撫でていく。

年が明けてからというもの、雄英高校の冬の空気は一段と厳しさを増していた。そんな中、冬休みを終えて寮生活に戻った生徒たちの中には、寒さを口実に「温かい室内での娯楽」を貪欲に求める者たちがいた。

「……いいか、上鳴。今日という日は、俺たちの『冬の陣』だ」

厚手のダウンジャケットに身を包んだ峰田実が、鼻をすすりながらも決然とした目で隣を歩く男を見上げた。

「冬の陣って……。単にデオに円盤借りに行くだけだろ?」

上鳴電気は寒そうに首をすくめ、マフラーに顔を埋めた。

一月十三日。成人の日を過ぎ、正月気分もすっかり抜けた平日の午後。放課後の自由時間を利用して、二人は最寄りのレンタルショップ『DEO』へと足を運んでいた。

「バカ言え! 寮のデカいテレビ、高画質のスピーカー。あれをフル活用しないで何がA組だ。いいか、女子たちが寝静まった後の深夜、リビングで観る『最高の贅沢』を今日は仕入れるんだよ!」

峰田の鼻息は荒い。彼の言う「最高の贅沢」が、一般的な映画やアニメの類でないことは、付き合いの長い上鳴には容易に想像がついた。

「まぁ、確かに最近ちょっと暇だったしな。……でも、あんまり攻めたやつは借りるなよ? こないだみたいに孫に見つかったら、今度こそ社会的に消されるぜ」

「……わ、分かってるよ! あの時の『音読事件』はオイラのトラウマなんだからな!」

ふと、昨秋の深夜に孫玄麗にエロ小説を淡々と読み上げられた悪夢を思い出し、峰田がガタガタと震えた。それは寒さのせいだけではない。

「孫は……あいつは油断ならない。今日も『新刊の古典解説書が出るから』とか言って、どこかの古本屋に行ってたはずだ。今ここにはいない。つまり、今がチャンスなんだよ!」

「はいはい。じゃあ、サッサと済ませようぜ。寒くて耳がちぎれそうだ」

上鳴は苦笑しながら、自動ドアの向こう側――暖房の効いた、そして男たちの欲望が渦巻く禁断の棚がある店内へと足を踏み入れた。

まだ、自分たちの身に降りかかる「冤罪」という名の巨大な災厄を知る由もなく、二人は意気揚々と黄色い看板の下を潜り抜けたのである。

暖房の効いた店内に一歩足を踏み入れると、冷え切った身体が緩み、緊張感もどこかへ霧散していく。上鳴と峰田は、一般客の目に付かないよう、しかし足取りは軽く「禁断のコーナー」へと続く通路を曲がった。

その時だった。

「おっと……!」

「うわっ、危ねぇ!」

角を曲がった勢いそのままに、二人は対面からやってきたスーツ姿の男と正面衝突した。

中年のサラリーマンだ。手にはパンパンに膨らんだレンタル用バッグを抱えていたが、その衝撃で腕からバッグが滑り落ち、中身の円盤が数枚、床に景気よくぶちまけられた。

「あ、すみません……! 大丈夫ですか?」

上鳴が咄嗟に謝りながら手を差し伸べる。

相手はよろめきながら眼鏡をかけ直すと、目の前の二人の顔をまじまじと見つめた。その視線は、彼らの胸元にある雄英高校のロゴや、テレビで何度も放送された体育祭の記憶を辿っているようだった。

「あ、君たちは……雄英の……」

「あ、はい。……すみません、怪我はないっすか?」

峰田も気まずそうに声をかける。

しかし、次の瞬間、男の顔がみるみるうちに真っ青に染まった。まるで、指名手配犯が警察官に出くわしたかのような、あるいは自分の全財産をドブに捨てた直後のような、絶望の色。

男は床に散らばった円盤を一瞥し、それから二人の「清らかなヒーロー候補生」としての顔を交互に見た。

「い、いや……! 僕は、その……! 違うんだ! それは……!」

「……え?」

「あ、あげます! いや、捨ててくれ! 僕は知らない! それは僕のじゃないんだぁぁ!!」

「ちょ、ええっ!?」

男は地面に落ちた円盤を回収するどころか、バッグすら放り出したまま、脱兎の如く店外へ走り去っていった。その速度は、全盛期のプロヒーローも驚くほどの瞬発力だった。

「……なんだあいつ。不審者かよ」

上鳴が呆然とその後ろ姿を見送る。

「おい上鳴、置いていかれたぞ。忘れ物……ってレベルじゃねーな」

「だな。……まぁ、放っておくのもヒーロー志望として寝覚めが悪いし。拾ってレジに届けてやろうぜ」

「そうだな。まったく、いい迷惑だぜ」

二人はため息をつきながら、しゃがみ込んだ。

そして、床に散らばった円盤のジャケットを、なんの警戒心もなく手に取った。

――それが、彼らの日常を木っ端微塵に破壊する「核弾頭」であるとも知らずに。

最初に手に取ったのは、峰田だった。

そのタイトルを見た瞬間、彼の思考は停止した。

『カエル娘とぴょんぴょん生活 ~舌先から始まる恋のネバネバ~』

「……は?」

峰田の手が、微かに震える。

その横で、上鳴もまた別のパッケージを拾い上げていた。

『プラグ接続・感電少女 ~痺れるほどの中出し十連発~』

店内の明るい照明が、ジャケットのあざといピンク色を冷酷に照らし出している。

「……上鳴」

「……峰田」

二人の間に、かつてないほどの死の静寂が訪れた。

その背後、自動ドアが開き、聞き慣れた、しかし今は世界で一番聞きたくない声が響いたのは、まさにそのコンマ数秒後のことだった。

「……おや。君たち、そんなところで何をやっているんだい?」

静かな、凪のような声。

ゆっくりと振り返ると、そこには学校指定のコートの上に半纏を着込みモコモコとした孫玄麗が、黄金の瞳を輝かせていて立っていた

「何だ? レンタル円盤を落としたのかい? しょうがないね」

玄麗は、呆れを含んだいつもの穏やかな溜息をつきながら、膝を折った。彼女の視点からは、まだジャケットの裏面しか見えていない。

「ほら、次からは気を付けなよ。」

そう言って、彼女が何気なく一番上にあった一枚を拾い上げた、その時だった。

『凛々しき仙女の乱れた作務衣:その帯が解かれる時』

「……は?」

玄麗の喉から、今まで聞いたこともないような困惑の音が漏れた。

思考がコンマ数秒、凍結する。「凛々しき仙女」。そして、自分自身のシンボルでもある「作務衣」。その直後に続く、あまりにも卑俗な言葉の羅列。

ピリ、と周囲の空気が一変した。

上鳴と峰田の顔面は、すでに血の気が引いて土気色を通り越し、白を通り越して透明になろうとしていた。

「そ、孫! それは違うんだ! 今のはリーマンが……!」

「そ、そうそう! オイラたちが今、ちょうどゴミ箱に捨てようとしてたところで……!」

二人は死に物狂いで残りの円盤を腕の中に隠そうとした。だが、その動きはあまりにも鈍かった。

「……見せな」

「え?」

「全部、出せと言ってるんだ」

電光石火。

玄麗の腕が、目にも止まらぬ速さで二人の懐に潜り込んだ。抵抗する間も、言い訳を完遂させる隙もありはしない。彼女の手には、奪い取られたばかりの「特級呪物」たちが扇状に広げられていた。

『カエル娘とぴょんぴょん生活』

『創造の拘束・マトリョーシカの罠』

『ふわふわ無重力浮遊地獄』

『プラグ接続・感電少女』

玄麗は、それらを一枚一枚、検品するかのように丁寧に、しかし冷酷なまでの無表情で確認していった。

静かだった。静かすぎて、店内のBGMさえ耳に届かない。

彼女の黄金の瞳が、深海のような暗い色へと沈んでいく。

「……あんたら」

玄麗はゆっくりと立ち上がった。その手から、円盤がパラパラと無造作に床へ落ちる。まるで、触れていることすら耐え難い汚物であるかのように。

「孫……あの……」

 

「……僕だってそんな上等な存在じゃないから、人の趣味にとやかく言う気はないよ。だけどさ」

玄麗の声は、怒鳴るよりも恐ろしい、芯から冷え切った響きを帯びていた。

「これはあんまりだろ。正直、吐き気がするよ」

 

彼女は、蛇に睨まれた蛙のように硬直する二人を、心底から軽蔑しきった目で見据えた。

「当分僕に話しかけないでくれ」

くるりと背を向ける。

その足取りには、いつもの余裕も「やれやれ」といった風情もない。ただただ、汚れを避けるような、拒絶に満ちた背中だった。

「ま、待てぇぇぇ!! 話を聞いてくれぇぇ孫んん!!」

「冤罪だ! 世紀の冤罪なんだってばよぉ!!」

夕暮れのデオに、二人の魂の絶叫が虚しく響き渡った。

 

「待ってくれ、行かないでくれ孫んん!!」

「見捨てないでくれぇ! 俺たちのヒーロー生命が、人間としての尊厳が死んじまう!!」

上鳴と峰田は、もはや周囲の客の目など気にする余裕もなかった。二人は全速力で玄麗を追い越し、彼女の進行方向を塞ぐようにして、硬い床へダイブした。

「頼む、話を聞いてくれ! 本当に、本当に違うんだ!!」

「信じてくれ! オイラたちはあんなもの借りようとしてない! 誓って、神に誓って、あのリーマンが勝手に落として逃げていったんだぁぁ!!」

額を床に擦り付け、必死に言葉を紡ぐ二人。その姿は「土下座」というより、何かの宗教の懺悔か、あるいは死刑執行を待つ囚人のようでもあった。

玄麗は足を止め、無表情のまま見下ろした。

その黄金の瞳には、哀れみすら宿っていない。ただ、極寒の吹雪のような静寂があるだけだ。

「……話?」

低く、温度のない声が降る。

「……いいよ。そこまで言うなら、遺言代わりに聞いてあげるよ。一分で済ませな」

その言葉に、二人は一瞬だけ希望を見出した。しかし、彼女の瞳が「もし嘘だったら、その瞬間にトドメを刺す」と告げていることに気づき、再び背筋を凍らせる。

「あ、あのな! さっき、そこでサラリーマンとぶつかったんだ! 彼は俺たちが雄英の生徒だって気づいた途端、顔を真っ青にしてその円盤を放り出したまま逃げていったんだよ!」

「そうなんだ! オイラたちはただ、落とし物だと思って拾っただけなんだ! ジャケットの中身なんて知らなかったんだ! 本当なんだ、孫信じてくれ!!」

二人の必死の弁明を聞き終えても、玄麗の眉はピクリとも動かない。

「……なるほど。見ず知らずの他人に罪をなすりつける、というわけだ。君たちがそこまで卑怯な人間だとは思わなかったよ」

「違う! 冤罪だ! 嘘だと思うなら、防犯ビデオを確認してくれ!!」

上鳴が、涙目で叫んだ。

「ビデオだ! ビデオを見れば、俺たちがただぶつかっただけだって分かるはずだ! 店員さんに頼んでくれよ、孫!!」

玄麗は、数秒の間、沈黙した。

二人の必死すぎる表情、震える声、そして「防犯ビデオ」という客観的な証拠を提示してきた姿勢。

(……もし、これが本当に『白』だとしたら)

玄麗はふう、と短く息を吐いた。

そして、ユックリ瞳をとじて(どうやれば確認できる。)のかを黙考する

 

「……分かった。そこまで言うなら、少し此処で待ってな」

「えっ、本当か!?」

玄麗は二人に背を向け、店内の死角となる通路へと歩き出した。

「少しそこで待っていろ。……いいかい、動くんじゃないよ。もし僕が戻る前に逃げ出したら、その瞬間に君たちの罪を確定とみなすからね」

「逃げない! 絶対に逃げないから、早く戻ってきてくれぇ!!」

二人の切実な叫びを背中に受けながら、玄麗は人気のない物陰へと消えていった。

 

 

 

「七十二の仙人技の一つ……『変化(へんげ)』」

淡い光がその身を包み、一瞬にしてその輪郭を書き換える。

そこに現れたのは、どこにでもいそうだが、どこか凛とした空気を纏った若手の女性警察官だった。制服のシワ一つなく、腰の装備品まで完璧に再現されている。

彼女は迷いのない足取りで、震えながら待機していた二人のもとへ戻った。

「君たち」

凛とした、しかし聞き慣れない女性の声。

上鳴と峰田は、心臓が口から飛び出す勢いで飛び上がった。

「ひ、ひぃぃぃ! 警官!? なんで!? さっきまで 孫がいたはずなのに!」

「終わった……。オイラたちの人生、この場で現行犯逮捕で幕引きだぁぁ……!」

顔を真っ青にしてガタガタと震える二人に対し、女性警官は呆れたように片眉を上げた。そして、その口からいつもの、低く落ち着いた声が漏れる。

「……僕だよ、孫玄麗だ」

「……え?」

「そ、孫……? なんだその姿、本物かよ!?」

「いいから、その円盤を持ってついてきなよ。……店側には僕が話をつける。それからバックヤードで防犯ビデオを確認させてもらう」

玄麗は制服の襟を正し、黄金の瞳で二人を射抜いた。その目は、慈悲など微塵も感じさせないほど冷徹だった。

「……いいかい。僕がわざわざこの姿にまでなって、店側に掛け合うんだ。これでビデオを見て『黒』だったなら……その時は、絶対に許さないからな」

その言葉の重みに、二人は唾を飲み込んだ。

「白であってくれ」という祈りと、「もし万が一、あのリーマンの仕業じゃなかったら」という、ありもしない恐怖が二人の背中を突き動かす。

「わ、分かった……! 行くよ、行けばいいんだろ!」

「頼む……ビデオの中のオイラたち、どうか善人でいてくれぇ!!」

三人は、訝しげに見つめる店員に連れられ、運命のバックヤードへと足を踏み入れた。

 

玄麗は迷いのない足取りでカウンターへと向かい、困惑する店員の前でピシッと背筋を伸ばして、非のうちどころのない敬礼を繰り出した。

「失礼します。近隣を巡回中の者ですが、学生がいかがわしい物を借りようとしているとの通報、および自己申告を受けて参りました」

その凛とした声と、本職そのものの制服姿に、店員は圧倒されて直立不動になる。

「この二人が言うには、通りすがりの男が落とした物を拾っただけとのこと。真偽を確かめる必要があります。お手数ですが、数分前の入り口付近の防犯ビデオを確認させていただけますか?」

「あ、は、はい! ただいま!」

店員の案内でバックヤードのモニターを覗き込む。

画面の中では、慌てふためいたサラリーマンが二人に激突し、円盤をぶちまけたまま全速力で逃走する様子が克明に記録されていた。二人はただ、呆然とそれを見送り、親切心で拾い上げているだけだ。

(……確かに白だ。一点の曇りもない、完璧な冤罪だね)

玄麗は心の中で小さく安堵の息を吐いた。

彼女は店員に向き直り、再び丁寧な会釈をする。

「お手数をおかけしました。間違いなく、彼らは拾っただけだったようです。こちらの品は落とし物としてお預けします。適切に処理、あるいは保管をお願いします」

「わかりました。ご苦労様です、お巡りさん!」

「では、私はこれにて」

もう一度鮮やかな敬礼を残し、玄麗はバックヤードを後にした。

背後で「よかった……」「命拾いしたぁ……」と、魂の抜けたような声を漏らす二人の気配を感じながら、彼女は一足先に店の外へと踏み出した。

 

店外へ出ると、玄麗は迷わず夕闇の濃い建物脇の死角へと滑り込んだ。

「……ふぅ。慣れない格好をするものじゃないね」

ふっと息を吐きながら術を解けば、淡い光と共に、窮屈な警官の制服は霧のように消え去る。そこに残されたのは、いつもの着慣れた制服の上にコートを着込み更に黒い半纏を羽織った少女の姿だ。

彼女は着崩れた襟元を軽く整え、何事もなかったかのように店の正面入口へと戻った。

一月特有の冷え込んだ空気が、火照った頬に心地よい。

数分後。

自動ドアが開き、そこから「この世の終わり」を体験してきたかのような、幽霊のように真っ白な顔をした上鳴と峰田がふらふらと現れた。

「……あ、孫……」

上鳴の声は、もはや蚊の鳴くような細さだった。

二人は玄麗の前にたどり着くなり、その場に力なく膝をつきそうな勢いで立ち止まる。

玄麗は、その黄金の瞳を穏やかに細めると、二人に向き直った。

そして、何の躊躇いもなく。

「さっきは悪かったね、このとおりだ」

そう言って、彼女は腰を深く折り、頭を下げた。

「……え?」

「そ、孫……?」

予想だにしない謝罪に、二人は呆然と立ち尽くした。

冷たい冬の風が、三人の間を静かに吹き抜けていく。

 

二人の必死な、それでいてどこか気の抜けた叫びを、玄麗は頭を下げたまま静かに聞いていた。

「ちょ、ちょっと孫! 頭上げてくれよ!」

上鳴が慌てて玄麗の肩を掴もうとして、その凛とした空気に気圧されて手を止める。

「俺たちの方こそ、紛らわしい場所にいたのが悪いんだし……っていうか、さっきの警官姿マジで綺麗だったっていうか……いや、そんなこと言ってる場合じゃねえ! 疑いが晴れたならそれでいいんだ! 孫に謝られるなんて、俺、なんか逆に罪悪感すごいんだけど!?」

その横で、峰田はもはや崩れ落ちる寸前だった。

「孫んんん!! 信じてくれたんだな!? オイラたちが、あんな……あんな『プラグを挿して』なんてタイトルの円盤を借りるような、そんな節操なしじゃないって分かってくれたんだな!?」

実際は似たようなものを物色しに来たはずなのだが、今の彼にそんな後ろめたさを思い出す余裕はない。

「あ、謝るなよぉ! 孫にそんなことされたら、次ミスった時にマジで消される気がするだろ!? 分かればいいんだ、分かれば! でも当分話しかけないなんて言わないでくれよ、オイラの数少ない『分かってくれる女子』なんだからさぁ!」

二人の騒がしい声を聞き届け、玄麗はゆっくりと頭を上げた。その表情からは先ほどの氷のような冷たさは消え、いつもの超然とした、それでいてどこか温かみのある顔に戻っている。

「……ホントにごめんな。それじゃ、僕は買い物の途中なんで」

短く、しかし心のこもった声で告げると、玄麗は今度こそ自分の用事を済ませるべく、軽やかな足取りで再び店の中へと消えていった。

残された二人は、寒空の下でしばらくその背中を見送っていた。

「……孫ってさ、怒ると怖いけど、ちゃんと話聞いてくれるよな。……いい奴だよな」

上鳴が、ポツリと、心の底から出たような言葉を漏らした。それに対して、峰田はまだどこか魂が半分抜けたような顔で、深く、深く頷く。

「ああ……。でも、あの黄金の瞳で『許さないからな』って言われた時、オイラ、本気で来世の心配したぜ……」

冷たい風が吹き抜け、二人の背筋を再び震わせる。

彼らはようやく自分たちが「社会的な死」の淵から生還したことを実感し、深く長い溜息を、一月の空へと吐き出すのだった。

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