大魔王ミルドラースを討伐した後、普段は王族としての公務に追われつつも基本的には愛妻ビアンカと共に甘く蕩けるような日々を送っていたリュカは、それでも時間の許す限りで“エルヘブンの長老達”や“マスタードラゴン”の元で厳しい修行をこなしていた。
マスタードラゴンから“お前の旅があれだけ長くて過酷なモノになったのはお前が中途半端に能力に覚醒した状態で放り出されたからだ”、“つまりお前はその実力を発揮する事が出来ずにいた為に苦しまなければならなかったのだよ?”と言われた為である。
・・・大切な時期にその力を伸ばしてくれる指導者に恵まれなかったのがその一因だからな、と。
つまり自分の能力はまだ完成していないのだ、と言う事を直感的に理解した彼はだから、ムキになってより高度な修行に打ち込んだ、“自分がもし最初からちゃんと力を発揮出来ていたならば”、“あれだけ大変な思いをビアンカや子供達にさせなくても済んだのだから”と言う強い悔恨の念がその根底に流れていた。
そしてそんな彼の気持ちに応えるかのように、長老達やマスタードラゴンは彼に直接関わる形で指導を行い、その結果として彼はより強靱な肉体と精神、及びエルヘブンや天空に伝わる様々な秘技や極術を己のモノとし、また色々な事柄にも精通するに至ったのだがその修行の一貫として青年国王は自分の正体を隠した上で人を選び、世界各地で情報収集の傍らに“霊能相談”や“霊力を用いた人助け”をこなすようになっていったのである。
それに気付いたビアンカは事ある毎に彼に同道したがった、誰よりもリュカに愛され、かつリュカの事を誰よりも愛し抜いていた彼女はやっぱり彼と離れているのが寂しくて我慢出来なかったし、それに生来が闊達な性分だった愛妻王妃はだから“私だってたまにはお城の外に行きたいわ!!?”とせがんでリュカに迫ったのだ。
そう言う事もあってリュカは“まあ気晴らしになるんだったら・・・”と了承し、“助手”として彼女を連れて行く事にした。
「あははっ、これでまた一緒に旅が出来るねっ!!!」
「有り難うリュカ。わたし、凄く嬉しい・・・っ。だってあなたとこうして一緒にいる事が出来るんだからっっっ❤❤❤❤❤」
自分の隣に寄り添って腕を絡め、心底嬉しそうにはにかみながらも顔を赤らめる“天空の花嫁”に対してリュカは“本当に大切な事を忘れないで”、“いつまでもいつまでも輝いていて欲しいな”と切に願い、かつ密かに祈った。
しかし。
一方でビアンカはそんな彼の気持ちを正確に感じ取り、かつ見抜いていた、毎度のように夫に激しく掻き抱かれてヒイヒイ言わされ、気絶するまで責め立てられていた彼女はだけど、同時にリュカから“
そんな愛妻王妃はだから、いつしか青年国王との間に強力な“
そんな彼等の元には毎回のように“除霊退魔”や“結界張り”、はたまた“霊能相談”等の様々な依頼が舞い込んで来るようになっていた、噂が人伝に広まって信頼と評価が確立された証である、二人は密かに手応えを感じて喜び合った。
ところが。
舞い込んで来る仕事や訪れる客人の内、大半は真っ当なモノや人であったが時折、“働きたくないニート”や“不倫している若妻”等から相談が舞い込む事があって、その度にリュカ達は胸糞の悪い気持ちにさせられた挙げ句に“お引き取り”を願う場面も何度か存在していたのである。
ただし。
その内のごく少数の人間に限っては特別に相談に乗る事にした、マスタードラゴンから“此奴の話は聞いてやって欲しい”と言われる事があった為であるモノの、得てしてそう言う場合は今世だけでなく“前世”にその問題の根幹がある事が少なくない。
例えば今世で浮気をする人、と言うのは実は前世でパートナーから浮気をされた人である可能性があり、要するにその復讐と言うべきか、“カルマの解消”の為に今世でまた同じ魂のパートナーと結婚し、今度は浮気をする側になる、と言う流れになるわけだ。
とは言っても、そもそも“浮気”や“不倫”と言うのは“神の目線”から見ても良くない事らしく、例えそれが“復讐”だろうが“ちょっとした過ち”だろうが厳しい罰が科せられるのは仕方が無い事なのだという。
「人間の世界もさ?知ろうと思えば中々に深いもんだよね?未だに驚かされる事があるよ・・・」
「“人を見る”と言うよりも、その人の魂を見ないと解らない事ってあるよね?そこがまたややこしい所なんだけど・・・」
仕事の合間にリュカはビアンカと良くそうやって、他愛もない話を繰り広げては二人で笑い合っていたのだが、そんな彼等の前に一人の“フリーター”の男性客がやって来た。
年齢は30歳になったばかりで容姿は中肉中背、やや小太りでこう言ってはなんだがお世辞にも人にモテそうな顔をしているとは言えないのだが、しかし見た目にはそれなりに気を使っているらしく、服装などには小綺麗さがある。
かてて加えてその体臭を気にしているのか“アロマビーズ”を使用している様子であり、全身から甘い香りが放たれていた。
「さて、と・・・。“ジョセフ・マンデラ”さんですね?お待たせしました、僕が今日のセッションを担当する“ダニエル”です。この子は僕の助手で“キャロル”と言います、どうかよろしくお願い致します・・・」
「どうも・・・」
ジョセフが席に着いたのを見計らってリュカが簡単な自己紹介を行うモノの一応、用心の為にここ最近はわざと偽名を使う事にしていた、下手に本名を晒してトラブルに巻き込まれた場合は泣くに泣けなくなるし、それにあまり安い値段で仕事をしていると同業他者から睨まれる事もあって、酷い時には命懸けの呪術合戦に発展する可能性も少なくない事から、あくまで“身を守る為の一貫”としての処置であったのだ。
「今日はどうなさいました?ジョセフさん、どうぞ遠慮無くおっしゃって下さい・・・」
リュカに促され、ジョセフは今までの自分の身の上を事細かに話し始めた、それによると。
自分は生まれた時から不器用で説明下手で度々他人から誤解される事がある、だけどそれだけではなくて生来気が弱く、面倒臭がりでその所為だろう、いつも皆から舐められ、一段低い立場で過ごす事を強いられて来たのだ、と言う事だった。
「俺、自分で言うのもなんだけど自分に自信が無くて。子供の頃からケンカしても誰にも勝てずに良く泣かされていたし、それが元でちょっとした対人恐怖症になっちゃったんです。それにあんまし頭も良くないし、見た目もこんなだから皆からよくバカにされて扱き下ろされて来たんだ・・・」
「・・・・・」
「それに俺、元から臆病者で怖がりでさ?だから自分に都合が悪い事が起きたり、テストなんかで悪い点数を取って来るとよくそれを隠したり、嘘を付いて誤魔化したりして来たんです。で、そんな事を続けていたから親からもすっかり呆れられて、信頼を無くしてしまって・・・。ちなみに彼女も出来た試しが無いんです、どうしても自分に自信が持てなくて・・・」
そこまで話を聞いたリュカは“そうですか・・・”とだけ告げて取り敢えず、この“ジョセフ”と言う男に“見極めの術”を掛けて見る事にした、その結果。
見えて来たのは彼の前世の惨状、および今世での課題であった、どうやら彼は前世では中々の美女として生まれ、更にはその美しさや華やかさを生かして“花魁”をやっていたらしく、今で言う“サラボナ”の南東に存在していた“モンバーバラ”と言う街で勤務していた為に時折、荒くれ者や外国人用心棒の相手をさせられた事もあって、色々と酷い目に遭って来た様子である。
その反動だろう、彼は今世では男として生まれて来た上に“自分はもうセックスはたくさんだ”と言って色恋沙汰を拒絶して転生して来ていた為に、今世では死ぬまで“異性との出会い”が全く存在せず、女の子に縁がない人生を余儀なくされている次第であった。
しかし。
(問題はそれだけじゃない、この人はヤバいな。元から優しい人だからなのか良い人だからなのか、とにかく色んな
その事を見て取ったリュカはまず、ジョセフに許可をもらって身心の浄化及び“除霊退魔の儀”を執り行う事とした、ビアンカの力を借りて二人で互いに結界を張り、それが済んでから後、ジョセフに取り憑いた魔霊を一体残らず除去するのである。
大半は成仏させ、一部はこの宇宙から完全に消滅させて事は3分程で終わったが、ジョセフの体には変な霊魂が300体は入っていたから色々と大変な目に遭って来たのだろうな、等と理解する。
「さて、と“魔霊の除去”は終わりました。改めてあなたの相談に乗らせていただきますが、ジョセフさん。今の体の感覚は如何ですか?」
「ああ、なんだか凄いゾクゾクして重たいモノが出て行ったよ。俺、いつの間にかあんなヤツらに纏わり付かれていたんだなぁ、助かったよ・・・!!!」
そう言って礼を言うジョセフの顔付きはみるみる内に変わっていった、目には明るい光が満ちて顔にも爽快さが漲っており、また体には気力か溢れていた、もう全く心配は要らないであろう事が見て取れたのだが、さて。
「ジョセフさん、あなたはね?優しくて良い人なんです。だから色んな存在から頼られちゃうんですよ、いいえ。それだけじゃないです、たくさんの人々から
「う・・・っ。そう言われてみれば確かにね?“生きてる”って実感出来た事って、あんまり無かったなぁ・・・っ!!!」
リュカの言葉にジョセフが頷いた。
「俺さ?ダニエルさん、親からクチャミソに扱われて来たんだ。それは今に始まった事じゃ無い、昔からそうだった。例えばご飯の時についうっかり手を滑らせてスープのお椀をこぼしちゃうだろ?そうするとさ、ふつう“こら、食べ物が勿体ないだろう!!!”って怒られるじゃん?だけど俺の場合はそうじゃなかった、“お前は食べたくないからわざとこぼしたな”って怒鳴るんだよ。俺が違うと言っても聞き入れてくれないんだ!!!」
「・・・・・」
「一時が万事、そうだった。そうだよ、親は昔から俺の事を嫌っていたんだ!!!だからいつも俺の事を“コイツは悪だ”、“どうしようもないヤツだ”、“クズだ!!!”としか見てくれなかったんだ。何かあるといつも俺の欠点ばかり指摘して、俺の持っている“可能性の光り輝き”や“善良な部分”を見てくれなかったし。そもそも“見よう”とさえしてくれなかった!!!」
頭の霧が晴れたように脳ミソをフル回転させながら、ジョセフが怒声を放った。
「俺は1回だって、心行くまで親に褒めてもらった事が無い。“ジョセフよくやったな”、“偉かったぞ?”って言って抱き締めてもらえた事なんか、1回だって無かったよ!!!いいや、親だけじゃ無い。俺の周りにいた誰も彼もが俺の事を見下し侮蔑し、踏み躙っていった。時には暴力を振るわれた事だってある、そんで以て俺が傷付いたり怒ったりすれば途端に憐れみの視線を向けてきたり、皆で小バカにするような態度を取って嘲笑って来たんだ!!!」
「・・・それで?どうなさりたいのですか、ジョセフさんは」
「そりゃ・・・。出来るなら復讐してやりたいよ、もう2度と舐めた真似が出来ないようにしてやりたいんだ!!!」
ジョセフの泣き言とも取れる言葉をビアンカは涼しい顔で聞き流し、リュカはリュカで興味深そうに聞き耳を立てていた。
「ハッキリ言っておきますが、止めておいた方がよろしいです。大変申し訳ないのですがあなたは人を殴れないでしょ?あなたは優しくて感受性がある方ですので仮に誰かを殴ろうとしたなら、相手の痛みや肉が拉げる感覚がたちどころに自分の体に跳ね返って来て擬似的に脳幹にまで伝わってしまうでしょう。とてもそれには耐えられないハズです・・・」
「・・・た、確かに。それはそうなんだけど!!!だけどなんでそんなのが解るんだよ」
「ジョセフさん、まずはあなたの今日の目的から先に果たさせましょう。あなたは今後の人生を好転させる為にはどうしたら良いのかを、聞きに来たのですよね?今まで関わって来られた人々への復讐では無くて・・・」
リュカの言葉にジョセフが黙って頷いた。
「だとしたらもう、本願は達成しているハズです。あなたの人生は今日、これから始まるのです。復讐なんてバカな事は止めてもう一度、自分の人生をやり直すんですよ?」
「・・・だけど、俺。俺はね?ダニエルさん、今まで誰にも愛してもらった事が無いんだ。親や友人知人含めてね、皆俺を拒絶していた。俺はさ?誰かの成功話を聞くのが苦痛だった、それは何故かと言うとそれを聞いても心から祝福出来なかったからだ。“おめでとう”と言ってあげられなかったからだ!!!だけどその理由も今、解った。俺は心が満たされるまで褒めてもらえた事が無い、だから祝福の仕方が解らないんだ。喜び事に共感が出来ないんだよ!!!」
「・・・・・」
(全くもう、面倒臭いな。この人は・・・!!!)
“色々と拗らせているな”とリュカは思った、なるほどこれではあの世で神々に後ろ向きな人生しか選ばせてもらえなかった理由がよく解ると言うモノだ。
「俺はね?誰かの成功体験や自慢話を聞いても羨ましさと妬ましさしか感じない。そりゃ確かに?そう言う話を聞いて本人が喜んでいるのを見ると、なんだか心がポカポカしてくるような気がするから嫌いじゃ無いけどさ・・・。だけど大半は嫉妬と羨望だ、何故かって言うと成功体験者は誰もがみんな運と実力、そしてガッツを持っている。特に壁にぶち当たっても“なにくそ”って頑張る根性をね?だけどさ。それが俺には無いんだよ、だからそれを持っている人を見るとさ?羨ましくて妬ましくて、同時に悲しくなるんだよな。“どうして俺にはガッツがないんだろう”って、“なんで俺は頑張れないんだろう”って。焦っちゃうんだよな・・・!!!」
「いやまあ、それはね?ですけど・・・」
「それだけじゃない、許せないのは親の事だよ。実はさ?ウチの両親はどっちも自分達の両親、まあつまり俺から見たら祖父ちゃんと祖母ちゃんなんだけど。その人達と仲が良くなかったんだって、だからさ?いつも聞かされていたんだよね。“自分達はあんな親にはならない”って思っていたんだって、ハッキリ言うけどさ。俺はね?なんでウチの両親が今まで俺の面倒を見てきたのかが解ったよ、それは主に二つの理由からなんだけど・・・。一つ目は下手に俺を追い出したら行った先で何をされるか解らない、それよりはこのまま家に置いておいた方が被害が少なくて済む。で、二つ目は自分達の両親への反骨精神の現れだ、“自分達は絶対に親のような適当な子育てはしない”、“こんなヤツでも自分達の息子だから最後まで責任を持って育てる”。どうだ?あながち間違いではないだろう!!?」
“これは愛情とは似て非なるモノだ”、“俺の両親は俺の事を愛してなんかいなかったんだ!!!”等と鼻息荒くも捲し立てるジョセフに対してリュカはあくまで冷静に“落ち着いて下さい”と語り掛ける。
「ジョセフさん、よく省みて下さい。今のあなたはあなたが最も毛嫌いして侮蔑しているお父さんとお母さんと、全く同じだと思いませんか?御両親の善意を何一つとして評価せず、悪辣な部分だけを見て勝手に怒りまくっている。御両親の愛を信じず、自分の怒りや憎しみを優先させてしまっている・・・」
「それは・・・。いや、だけどな?それはそれこそが、俺が両親から与えられて来た“愛の在り方”であり“愛の形”だからだ。だから俺は・・・!!!」
「だとしても、です。あなたがいまやっている事はなんなのですか?曲がり形にも今まであなたを育ててくれた御両親に対して感謝よりも不平不満を優先させてしまっている。それがあなたの愛の全てなのですか?それなら結局は、あなたは御両親の見立て通り“悪”だった、と言う事になりますが・・・!!!」
その言葉に、思わずジョセフはハッとなった。
「・・・世の中お金じゃ無いですけどね?それでもジョセフさん、御両親があなたを一端になるまで育てるのにいくら掛かったか知っていますか?一般的な家庭で大体、35万~40万ゴールドは掛かります。それだけの食い扶持や生活費を御両親は何も言わず、ただただあなたの為だけにせっせと稼ぎ出したんです。自分の人生を使い、命を削り、運を摩耗させてでもね。これを愛と言わずして何を愛と言うのですか?」
「・・・・・」
「ジョセフさん、これは私の私見なのですが・・・。基本的に親を悪く言う人間に、大したヤツはいません。自分一人で大きくなったような気持ちでいるヤツは世の中が見えていない事が多いです。あなたはこれからようやく自分の足で立って生きて行かなくてはならないのだから・・・。こんな所で躓かないで頑張って下さい!!!」
それだけ言ってリュカはジョセフを帰路に就かせた。
今回は主に“親子愛に関する話”なのですが、皆様方。
子供が親に伝える言葉の中で、特に大切なのは“有り難う”と“ごめんなさい”です(基本的にこの二つをしっかりと伝えていれば余程のことが無い限りかは親は満足してくれるハズです←“良く育ってくれた”と思ってくれるでしょう)。
ちなみに親に対する“有り難う”には3種類あります、“生んでくれて有り難う”、“愛してくれて有り難う”、そして“愛を教えてくれて有り難う”です(この中のどれか一つでも“素直に言えない”と感じたならば、それはあなたか親のどちらかに何某かの問題があるか、または双方の間で行き違いが発生している場合があります)。
皆様方も自分の心に聞いて見て下さいね?それでは失礼致します。