「ねえ父さん、ちょっと大事な話があるんだけどさ・・・」
「なんだよティミー、どうかしたのか?」
ある冬の日の午後、グランバニア城にある書斎で夫婦水入らずでイチャつき合っていたリュカとビアンカの元に、16歳になったばかりの第一王子、“ティムアル”が何やら深刻そうな面持ちを浮かべてやって来た。
ちなみにティムアルがそうやってリュカ達の元を訪れるのはここ1ヶ月の間で5回目である、流石に気になったリュカは“言いたいことがあるなら言いなよ”、“ちゃんと全部聞くからさ・・・?”と我が子に念を押すように言葉を掛けた。
「うん、でも僕はお父さんと二人きりで話がしたいんだ。だから今はちょっと・・・」
「・・・それは珍しいな。お母さんに、ビアンカには聞かせたく無い内容なのか?」
リュカの言葉にティムアルが黙って頷くが、それを見たビアンカは最初はキョトンとしていたモノの次第に
実際、リュカと二人で過ごす甘く蕩けるような時間はビアンカの全てを燃やして滾らせ、だけどとっても満たしてくれてもいたから彼女にとっては何ものにも勝る宝物だったのだ、だからこそ。
だからこそ、その時間を邪魔するモノは彼女にとっては“不倶戴天の敵”以外の何者でも無かったのである、・・・例えそれが実の息子であったとしても。
「控えなさい、ティミーッ!!!」
そんな訳であったから、ただでさえ苛立ちを覚えていたビアンカは余計に怒り、最初はそれでも“我が子だから”、“夫の前だから”と思って必死に抑えていた憤勢を思いっ切り爆発させては息子に対して鋭く叫んだ。
「いくらなんでも失礼だわっ!!?それに一々私達の邪魔をしないで、早く二人っきりにさせて。さっさとあっちへ行ってよ、もう・・・っっっ!!!!!」
「・・・ま、まあまあビアンカ?ティミーも何か深刻そうな顔をしているし。取り敢えずは話だけでも聞いてあげようよ、ねっ。ねっ?」
最愛の夫に必死にせがまれ、彼との愛蜜の一時に水を差された事と自分の面子を潰された事から激怒していたビアンカも“しょうがないわね・・・っ!!!”と告げて己を落ち着かせた後に、再び顔をリュカの胸元へと埋めた。
「・・・ねえティミー、どっちみち後で僕がビアンカに言えば同じ事なんだし。それにやっぱり夫としては妻に隠し事はしたくない、僕は君達の父である前にビアンカのパートナーなんだ。それは解ってくれるね?」
「・・・じゃあ聞くけどさ?お父さんはもし。自分の好きな人が本当は他の人を愛していたとしたなら、その時どうするの?」
その言葉にリュカは一瞬、怪訝そうな表情を浮かべて我が子を見つめ、対するビアンカは思わずビックリしてしまった、とんでもない爆弾発言が息子の口から飛び出して来たからだ。
リュカの好きな人、と言うのはこの場合ビアンカの事でありそれ故に夫婦の間がギクシャクしてしまうのを気遣ったティムアルは出来得る限り当人達の前で言う事を避けていたのだろう、多分。
「この前さ?“山奥の村”に遊びに行った時にダンカンお祖父ちゃんから聞いたんだ。お母さんは小さな頃はパパスお祖父ちゃんの事が好きだったんでしょう?だけどお祖父ちゃんにはマーサお祖母ちゃんがいたし。それに、その・・・。途中で魔物に殺されちゃったから!!!」
「・・・・・っ。ティ、ティミーッ。なんて事を言うの?あなたはっ!!!」
「でも、だって・・・。それじゃお母さんが一番好きだったのはパパスお祖父ちゃんだったって事になるじゃないか、それなのに何でお父さんと結婚したの?まさかパパスお祖父ちゃんがいなくなっちゃったから、それで雰囲気や容姿が似ていて優しかったお父さんと仕方なく結婚したんじゃないのかよ。それってお父さんが凄く可哀想じゃんか!!!」
予想外の言葉を息子から突き付けられて戸惑うビアンカは“ち、違う。違うの!!!”、“あなた、信じて・・・?”と悲しそうな顔付きのまま必死にリュカに懇願するが、当のリュカは全く涼しい面持ちで極めて落ち着き払っていた。
「あなたお願い、信じて?私はそんなつもりであなたと結婚したんじゃ・・・!!!」
「・・・解っているよ?ビアンカ」
尚も自らに縋り付く愛妻の姿に、リュカはちょっと困ったような顔をしてあやすように彼女に応えた。
「ねえティミー、君がなんで急にそんな事を言いだしたのかは解らないけれど・・・。ビアンカは確かに僕を愛してくれていたんだよ?この子はね、昔っから自分の気持ちに嘘をつけるような女の子じゃなかった。それにさ?本当に好きな人がいなくなっちゃったからその代わりに誰かを愛するような、そんな器用な真似が出来るような子じゃないんだよビアンカは」
「でも、それじゃあ・・・。なんで急にお父さんと結婚したの?だって小さな頃のお母さんは、お父さんじゃなくてお祖父ちゃんに憧れていたんでしょ?それなのに・・・」
「それはね?僕にも解らないよ、それに関する事をビアンカに直接聞いた訳では無いからね。だけどね?ティミー。これだけは信じてあげて欲しい、お母さんは間違っても好きでも無い男に抱かれるような女の子じゃないんだよ?それに自分の生涯を捧げるような真似が出来る子でも無いんだ、それだけは解ってあげてよ・・・!!!」
リュカの静かな、しかし凜とした力強さを感じる口調が部屋中に響き渡るが、それを聞いたティムアルは少しの間何かを思案していたモノの、やがて部屋から出て行ってしまった。
その直前に。
「ティミーッ!!!」
リュカが咄嗟に彼を呼び止めた。
「もう知っている、とは思うけど・・・。“天空の勇者の子孫”であるお母さんや君達には、生まれ付き“天空の力”が備わっているんだ。これは自分の思い、取り分け“純粋なる愛情”に対して強い反応を示すように出来ている。これがある限りビアンカの純潔は運命のレベルで守られるようになっているんだよ?例えどんなに凶悪な魔物だろうと、屈強な荒くれ者だろうと。意に沿わぬ相手はこの子と
「・・・じゃあ父さんは?違ったって言うのかよ!!!」
「僕はね?ビアンカに選んでもらえたんだよ、それは絶対に間違いない。そうじゃなければそもそも論として、僕達は結ばれなかっただろうし・・・。それになによりこうして君達がこの世に生まれて来る事は出来なかっただろうからね?」
それを聞いたティムアルは、少しだけ疑念が晴れたような顔を見せつつリュカの書斎を後にするモノの、一方で。
「・・・・・っ。あなた、あなたっ。わたし!!!」
「良いんだよ?ビアンカ。ちゃんと解っているから・・・」
尚も悲しそうな面持ちを浮かべて自分にしがみ付いて来る愛妻に対してリュカは優しく微笑みながら言葉を返した。
「もし君がね?本当にお父さんの事を真に好きだったとしたならば。僕は多分、君とは結婚しなかったと思うし・・・。第一出来なかったと思うよ?他人への思いを無理矢理に忘れさせたり、踏み
「・・・リュカ、それって」
「僕はね?ビアンカ。君が大好きだったんだ、まだ小さい時分に初めて会った時からね。君が微笑んで接してくれている時も、怒って文句を言っている時も。全部が大切な思い出だよ?掛け替えのない宝物なんだ・・・」
柔らかい雰囲気を身に纏いつつもそう言ってくれるリュカの言葉に、嘘は無い事をビアンカは心から感じていた。
「ちょっと恥ずかしいけど言わせてくれよ?ビアンカ。君はね、僕に初めて愛を教えてくれた人なんだ。恋を教えてくれた人だったんだ!!!君への気持ちを自覚したのは奴隷生活をしている最中の事だったけれど。だけど君の事を考えている瞬間だけはとっても幸せで、物凄く満たされた気持ちになれたのを覚えている・・・」
「・・・・・」
「前にも言ったと思うけどさ?“誰かを愛する”とは“その人の為に祈りを捧げる”事を言うんだよ?ちなみにこの“祈り”と言うのはちゃんとした形で行う場合には中々に一苦労と言うか、それなりに大変な思いをしなくてはならないんだけど・・・。だけど“それでも良いからその人を救いたい”、“その人にいつまでも笑っていて欲しい”と本気で
ビアンカの頭を撫でながら、リュカが続けた。
「これは強がりでもなんでも無くて、本当に本心から言うんだけどさ・・・。僕はね?ビアンカ。今はメチャクチャに幸せなんだよ?だってこの果てしない宇宙の片隅で、広大な世界の只中において君と言う一番大好きな人に巡り会えたのだから。そして一生に一度の忘れられない恋をして、結ばれて。共にある事が出来るのだから!!!その人の為に祈る事が出来ているのだからさ、それって凄く尊い事なんじゃないのかな?素晴らしい事なんじゃないのかな・・・」
「それは・・・っ。でもリュカ、私は!!!」
「例え君が他の誰かを好きになっても関係ない、振り向いてくれなくたっていい。僕が二番目以下だって構わない!!!そんな事は関係ないんだ、自分の一番大好きな人に、嘘偽り無き誠意を尽くす。それこそが僕の見つけた愛し方、愛の形だからね・・・」
そう言ってリュカはビアンカを慈愛に満ちた瞳で見つめるモノの、その時の彼は凄くしんみりとしていて何とも言えない“良い男の顔”をしていた。
それは幼い頃から彼を知っているハズのビアンカも初めて垣間見る、大人な男の面構えだったのだ。
「・・・・・っ!!?」
(うそっ。リュカってこんな顔をするんだ、全然知らなかった・・・!!!)
内心でそう思い、改めて自らに惚れ直していた“天空の花嫁”に対してリュカは尚も言葉を綴った。
「何度も言うけれどビアンカ、僕はね?本当に幸せだったんだよ。例え君の心が父さんにあったのだとしても、そんな事は関係ないよ。だって僕は自分の一番大好きな人に、可愛い人に巡り会えたのだから。その人の為に祈る事が出来ていたのだから。ただしね?ほんの少しだけお父さんよりも不幸せだっただけさ・・・。少なくともそう思っていたんだよ、君と結婚するまでは!!!」
「・・・・・?」
「さっきもティミーに言ったけど。僕はね?君がもし本当に父さんの事が好きで好きでどうしようもなかったとしたのなら、忘れられないでいたのなら。君への思いは秘めたまま絶対に君とは、いいや誰とも結婚しなかったと思うよ?だって自分の中で本当に好きな人がいるのにそれを隠して誰かと
“だけどね?”とリュカはビアンカの眼を真っ直ぐに見つめながら話を続けた。
「君と再会して、旅をして。結婚する前にも“ルーラ”で色々な場所に連れて行ってさ?それで話を聞いたり君の様子を見たりする内に解ったんだよ。“ああそうか”、“ビアンカは純粋な人なんだな”って。愛を偽ったり誤魔化したりが出来ない人なんだってね?だからそれに関しては全く心配して無かったよ、父さんじゃなくて僕を見てくれていたのはちゃんと伝わって来ていたからね!!?」
「・・・・・っ。リュカ、あなたっっっ❤❤❤❤❤」
“嬉しいっ!!!”と叫んで涙を流しつつ、ビアンカがリュカに抱きついて来た、唐突にティムアルから突き付けられた言葉に余程不快感かつ不安感を覚えたのであろう事がその様子からも充分に伺えるが、さて。
「ウッ、グス・・・ッ。ね、ねえあなた。覚えてる?結婚した後でアルカパの宿屋に寄って、お互いに初めてを捧げ合った夜のこと・・・!!!」
「・・・うん、それは勿論。ちゃんと覚えているけれど?」
「あの時ね?本当は私、色々な事が頭を過っていたんだ。楽しかった昔の事や友達同士で遊んだ時の事。それに・・・。パパスさんの、ううん。お父様の事も最後に思い出そうとしていたんだけど」
「・・・・・?」
「それが全然出来なかったの、たくさんのキラキラした思い出も憧れも懐かしさも。みんなみんなある男の子の事で霞んじゃって、頭がいっぱいになっちゃって。私の中から追い出されちゃったのよ・・・?」
「・・・ある男の子って?」
「・・・もうっ。ニブチンなんだから!!!勿論あなたのことよ?リュカッッッ❤❤❤❤❤」
そう言ってビアンカはまたリュカに強く抱き着き、その逞しい胸板に顔を埋めた。
そんな愛妻の頭をソッと撫でながら、最初はポカンとしていた青年は程なくして自分を取り戻し、そして彼女に心の底から礼を述べた、“有り難う・・・”とそう言って。
「私はね?その時に全てを悟ったの。“ああ私は”、“子供の時からあなたをこんなにも愛していたんだ”って。ずっとずっとあなたと一つになれる日を待ち侘びて来ていたんだって。だからね?リュカ。あの・・・っ、これからもよろしくお願いしますっっっ❤❤❤❤❤」
「・・・ああっ、勿論だよ。ビアンカッ!!!」
よく通るテノールの声でそう応えながらもリュカはしっかりと“天空の花嫁”を抱擁し、その額に口付けをするとビアンカは嬉しそうに全身を彼に押し付け、顔を擦り寄せるモノのしかし、本当は彼女はもう一つだけどうしても夫に伝えておきたい事があった、それは。
まだ6歳だったビアンカがリュカに初めて出会った時の事である、まだ
その時のビアンカはまだあまりにも小さくて、自分に起きたこの奇跡が何を意味していたのかを十全に理解する事は出来なかったのだけれども、だけど今ならばハッキリと解る。
ビアンカはあの時から、否、生まれて来る前からリュカを知っていてお互いに繋がっていたのだと、お互いにお互いを愛し続けていたのだと。
それから今世に於ける彼女の全ては本格的な始まりを迎えたのだが、それはまた別のお話・・・。
「前にも言ったと思うけどさ?“誰かを愛する”とは“その人の為に祈りを捧げる”事を言うんだよ?ちなみにこの“祈り”と言うのはちゃんとした形で行う場合には中々に一苦労と言うか、それなりに大変な思いをしなくてはならないんだけど・・・。だけど“それでも良いからその人を救いたい”、“その人にいつまでも笑っていて欲しい”と本気で希えるだけの、いじらしいまでの健気さや暖かさ。例え自分を一時犠牲にしてでもその人の為に尽くそうとする、愚直なまでの直向きさ。それこそが“純粋なる愛”の本質なんだ・・・!!!」
今回のお話ではこの言葉が改めてリュカの口から放たれましたが多分、何人かの方々は“そんなモノはただの奇麗事だ”とか言って否定されるかと思われます。
ですけどね?私はその方々に敢えて言いたいです、問い掛けたいです。
“これを奇麗事で片付けてしまえるあなた方は多分、本当に人を愛した事が無いんじゃないかですか?”と←例え一時でも良いから大切な人々の為に自分の都合や立場・心情等を脇に追いやり、一心に祈りを捧げた事がありますか?と。
だってそもそも“愛”とは“奇麗なモノ”だからです(勿論“変な意味”では無くて“良い意味で”ですが)、真摯なる“祈り”がもたらす“紛う事無き誠実さの光り輝きの結実”だからです。
それはどんな障害にも負けず、様々な誘惑にも決して惑わされる事無く、どこまでもどこまでもただひたすらに、“その事だけ”に向き合って来た結果として、物事を突き詰めて行った結果として現れる、もうそれ以上刮ぎ落とす事が出来ない“偽りなき真心の顕現”であり“純粋なる思念エネルギーの塊”、それそのものに他ならないのです。
そしてだからこそ、“愛”とはこの上なくピュアで真っさらなクセに、恐ろしい程にまで強くて確かなモノなのです。
私の中ではね?リュカはそれを知っていると思います、そしてだからこそ本文中のような愛し方が出来るんですよね(つまりは一番大好きな女の子に対する“秘めたる思い”と言うよりも“無償の愛”が保てるんですよね)。
例えビアンカに振り向いてもらえなかったとしても関係ない、自分が二番目以下でも良い、それでも自分はビアンカが好きだ、誰よりも何よりも←彼はもうそうやって自分自身の愛を確立させていたのですね、ところが。
いざ結婚してみるとビアンカは自分に熱烈な思いを向けて来てくれたのであり、女として自分を受け入れてくれたのであり、それどころか二人の“愛の結晶”まで孕んでくれました。
そして子供が産まれ、お産の消耗の回復もままならない内から攫われてしまい、人質にされてしまいます、それでも。
ビアンカは挫けませんでした、彼女は愛するリュカの為になり振り構わず“天空の力”を発動させてジャミのバリアーを打ち破り、見事にリュカを守り抜いてその勝利に貢献したのです(後は原作ゲームをプレイしたり、小説版を読まれたりした方々ならお解りでしょう)。
つまりビアンカもまた、リュカに対する“比類無き一途さ”を持っていたのです(どんな困難にぶち当たっても決して折れる事の無い“確かなる気持ち”を秘め宿していたのです)、そんな二人が本気で愛し合ったとしたら、どんな事になるのかは想像すら出来ません(きっととても深い領域まで甘く蕩けて愛欲と快楽でグチョグチョになるのでしょうね)。
そう言う事で御座います。