リュカとビアンカ・日常編   作:アロンの杖

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進化の聖典

 ある日の事、グランバニア城の最奥にある王族専用の居住スペース、その書斎で愛妻王妃であるビアンカ本人をモデルに二人で談笑しつつ、のんびり油絵を描いていたリュカの元に愛息子にしてグランバニア王国第一王子であるティムアルがやって来た。

 

「・・・父さん、最近さ?絵が明らかに上手くなったよね」

 

「絵は描けば描くほど上手くなり、頭は使えば使うほど賢くなる。そう言うもんだよ・・・?」

 

 如何に息子とは言えどもせっかくの“夫婦水入らず”な一時を邪魔される形となった為に、思わずムッとする表情を浮かべるビアンカだったが“これある事”を察していたリュカがすかさず間に割って入って事無きを得た。

 

「どうしたんだい?ティミー。今日は剣術の稽古があったハズだけど・・・」

 

「・・・対戦相手が逃げちゃったんだ、なんでも“僕が怖いんだ”って。意味が解んないよ!!!」

 

 納得が行かなさそうな顔を覗かせていた我が子に対してリュカは思わず苦笑してしまった、今年で16歳になるティムアルは筋骨も隆々として来て精悍で、やはり全体的な佇まいは父親であるリュカに似てきていたのだ。

 

「・・・それで。なんの用があってここに来たんだい?ティミー、何が話があるんなら聞くけど」

 

「最近さ?現実世界で凶悪な事件が増えてるじゃん。いいや、それだけじゃないよ。ちょうど今、お父さんがお母さんの絵を描いているけれど・・・。“幻想の世界”でも“グロテスクな表情”とか“異種姦”って言うのかな?そう言う系のイラストが増えてる来ている気がするんだけど・・・。お父さんはそれについてどう思っているのかなって、ちょっと気になってさ?」

 

 するとそんな息子の問い掛けに対してリュカは一旦筆を置き、座ったまま彼に向き直った。

 

「それはね?ティミー。ある意味では仕方が無い事なんだよ・・・」

 

「・・・仕方が無い事?」

 

 キョトンとして聞き返して来る息子の言葉にリュカは“そうだ”と応えてゆっくりと頷いた。

 

「これは知り合いの霊能者の人に聞いた話なんだけど・・・。今はね?一応は世界平和が保たれている事に加えて医療の発達や食料自給率の上昇等の影響により以前に比べて“人間が死ににくくなっている”そうなんだ。いいやそれだけじゃないよ?“人間の数自体があまりにも増え過ぎている”と言う問題も併発しているんだけど・・・。これは何もこの世だけの問題では無いんだよね、あの世でもちょっとした騒ぎになっているらしいんだ」

 

「・・・・・っ。どう言うこと?あなた、どうして人間の数が増えている事が問題になっているのかしら」

 

「そうだよ父さん。それにあの世までも巻き込んでの騒ぎってなんだよ、そんな話は初耳なんだけど・・・?」

 

 気を逸らせる愛妻と息子に対して、リュカはあくまでも落ち着き払って説明を続けた。

 

「“純粋なる人間の魂”の数が足りなくなってしまっているそうなんだよ、さっきも言ったけれども“人の数が増え過ぎてしまった”事がその根底にあるらしいんだけど・・・。その結果として神々は、仕方なしに“苦肉の策”に出ざるを得なくなったんだ」

 

「・・・・・っ。苦肉の策って?」

 

「神様が、何かを為されているの?」

 

「本当はね?あんまり気は進まないらしいんだけど・・・。人間の肉体に動物や爬虫類の魂を封入してこの世に送り出しているんだって、だから彼等は人として普通は持ち合わせるべき最低限度の愛情や暖かさをも持ち合わせていないのだそうだよ?ただただひたすら自分の“生存本能”と“基本的欲求”の赴くままに行動しているらしくてね。その影響でここ最近は以前ならば考えられなかったような凶悪な事件や残虐な問題が生じて来ている上に、“幻想の世界”でも“グロテスクな表現”だったり“異種姦”のような気持ちの悪いイラストが増えて来ているのだそうだ」

 

「・・・・・っ。つまりはそう言う連中は人間としての感性や良識を持ち合わせてはいない、と言う事なのね?だから平気で」

 

「そうだ」

 

 ビアンカの声にリュカが頷いて続けた。

 

「いま君が察したように、そう言った連中はね?平気で“グロテスクな表現”や“異種姦”のような破滅的な愛欲や歪んだ快楽に端を発するイラストを連発させるんだ。元が動物の魂を持っている連中だから、人間が他の生物とセックスしているような絵を描く事に抵抗が少ないのだろうね。否、それどころか酷いものになると“自分の恋人や愛妻を魔物に襲わせ”、“寝取らせて悦に浸る”と言う“愛の破虐”を平然と発信する輩もいる。ま、ここまで来るともう完全に“魔道に堕ちた”状態になっているから。そう言う魂はやがては宇宙から消滅して行く定めなんだよ・・・?」

 

「・・・・・?」

 

「消滅って・・・。どう言う事なの父さん、だって魔物や妖怪、それに鬼や悪魔でも無い限りかは人間や生き物達には霊魂が宿っていて。それは永遠不滅のモノだって、何度死んで生まれ変わろうとも消える事は無いって・・・」

 

 ティムアルが疑問を投げ掛けるとすぐにリュカが応じた。

 

「それは普通の場合は、ね。だけどビアンカもティミーも聞いた事があるだろう?“これから世界が大きく変わって行くのだ”と言う話と“性質(たち)の悪い悪霊や悪鬼の類いを”、“その本質生命体ごと滅ぼしてしまう呪術がある”と言う事を。この“消滅”と言うのはその呪術の上位交換版とでも言うべきモノで、世界が大きく変わって行く節目でどうしても救われない魂にだけ適応される刑罰なんだ。詳しく説明するとね?単にその魂自体が滅ぼされるだけでなくソイツがそれまで歩んで来た軌跡やおよぼして来た影響なんかも全て纏めてリセットされる。要するに“最初からいなかった”事にされるんだ、当然と言うべきか。みんなの記憶からも消えてなくなるのさ、“残留思念”も何も残る事は無い・・・」

 

「・・・なにそれ、メッチャ怖いんだけど!!?」

 

「ううっ。なんだか僕も背筋が冷たくなって来た・・・!!!」

 

「あははっ、それなら大丈夫だよ。二人とも」

 

 自分の話を聞いて驚愕すると同時に恐怖を覚え、不安がる愛妻と我が子にリュカは笑いながら続けた。

 

「この話を聞いて“怖い”と思えたり“不安”に感じるならまだ大丈夫だよ?それは至って正常な反応だからね、一番ヤバいのは全く何も感じてない場合だよ。これはね?もう準備万端で新たな世界に進める魂か、もしくはもうどうあっても救いようが無いために消滅されるのを待っている霊魂かのどちらからしいよ?宇宙は無駄な事はしない、だからもうどう足搔いても救われない魂にわざわざ恐怖を感じさせる事は無いんだって。ま、宇宙からの最後の慈悲と言う訳だね・・・」

 

「・・・そ、そっか。それならちょっと安心だけど!!!」

 

「でもさ、父さん。一体どう言った魂が消滅刑に処されるの?今後の為に一応、聞いておきたいんだけど・・・」

 

「それなら一応、言っておくけれど・・・。誰にも愛を伝えられなかった存在が対象になるらしいよ?話を聞く限りではね」

 

 淡々とした口調のままリュカが続けた。

 

「まあ、そんな存在は宇宙にはそうそういないハズだから?“消滅刑”が適応される事自体が非常に珍しいケースらしいんだけど・・・。取り敢えずは“この宇宙においてちゃんとした形で愛を体現せず”、“無駄な苦しみや悲しみをばら撒き続けて関係した全てを汚染し続けた者”。そういう輩は選ばれる可能性がある、との事だったかな?まあ普通に生きているのならまず問題は無いよ、特に君達は魂が凄く輝いていて軽いからほぼ間違いなく大丈夫だろうさ・・・」

 

「・・・ね、ねえあなた?それは嬉しいんだけど。だけどあなたはどうなの、大丈夫なんだよね?そうだよね!!?」

 

「あははっ。僕も大丈夫だって言われたよ?魂が“光属性”だし、それに軽いらしいから“このまま行けば問題は無いだろう”って言われた・・・」

 

 夫からもたらされたその言葉に、不安な表情をしていたビアンカはようやく落ち着く事が出来た上、それまで怖さを感じていた分、反動で一層ハッチャけてリュカに抱き着き、撓垂れ掛かる。

 

「な~んだ、じゃあ何も心配いらないじゃないっ!!?ビックリしちゃったんだから、もう・・・っっっ❤❤❤❤❤」

 

「・・・ね、ねえ父さん。それはまあ、良いんだけどさ?ちなみに今までに“消滅刑”ってどの位の回数が発動されているの?」

 

「解らない」

 

 喜びに満ち溢れながらも心底愛しそうに自分に抱き着いて来る“天空の花嫁”をしっかりと抱擁しつつ、我が子の問い掛けにリュカが応じた。

 

「・・・わ、解らないって。一体どうして?」

 

「さっきも言ったけれども・・・。“消滅刑”と言うのはそれが発動されると対象者は本質生命体を含めてソイツに関わる何もかもが抹殺されるんだ、今まで歩んで来た魂の軌跡も周囲に及ぼして来た影響もね・・・。そして人々の記憶からも消えてなくなるのさ、だから“消滅刑”の痕跡が何も残らないんだよ」

 

「・・・そっか。だって消滅刑を受けた存在は“最初からいなかった”事にされるんだもんね?」

 

 ビアンカの言葉にリュカが“そう言うこと”と頷いた。

 

「一応、この宇宙全体を作られた“始源の超神”から“創造神”までの根本的な神々の記憶には残る可能性はある。あの方々は“何でも自由に出来る”上に“ありとあらゆる世界線の始まりから終わりまでが瞬時に見通せる”力を持っているからね?だから“今の宇宙はこうだけど元はこうだった”みたいな感じになるんじゃないかな?まあ“意識的な違和感”とか“有り得たかも知れない可能性の世界の一つ”として、そうした根源神達の頭の中にだけは残る感じになるのだろうね・・・」

 

 そこまて話し終えるとリュカは“はぁっ!!!”と一息入れた後で愛妻の黄金色の頭髪を撫で、その額にソッと口付けをした、すると。

 

「あんっ❤❤❤もうあなたったら・・・っ。こっちっ!!!」

 

 そう言ってビアンカが瞳を閉じつつ唇を突き出して来たから、それにもう一度キスを施し愛らしい彼女の容に自らの顔を寄せる、そうしておいて。

 

「ちなみにね、ティミー。君はいま幸せかい?」

 

「・・・なんだよ急に。なんでそんな事を聞くのさ?」

 

「・・・・・っ。憐れなっ!!!」

 

 ティムアルに視線を送ったリュカはそんなやり取りの後で我が子に“良く見ておきなよティミー”、“これが幸せってモノだから!!!”と言い放ち、ビアンカをタップリと愛で始めた。

 

「・・・幸せ?ビアンカ」

 

「・・・・・っ。もうっ、恥ずかしいんだから!!!でも幸せ、私。うんと幸せだよ?あなたぁっっっ❤❤❤❤❤」

 

「・・・・・」

 

 その様子を見ていたティムアルは両親のそんな姿になんだか気恥ずかしくなってしまったのと、“自分はお呼びじゃないんだ”と悟った為に黙ってその場を後にしたのだが、何もリュカもビアンカも悪戯に我が子に“親のイチャつき”を見せ付けていた訳では決して無かった。

 

 真実はむしろ逆であり、確かに“お互いが愛しくて仕方が無い”と言う“確かなる熱烈さ”を相手に抱いていた故の仲睦まじさではあったモノの、それに加えて彼等はあくまでも息子に“夫婦としての正しい在り方”を敢えて示し、今後の参考にして欲しいと考えていたのである。

 

 元々が“真っ当な魂”として宇宙から創造されたリュカとビアンカはそれ故に最初から本質的な部分では“愛”を知っていたし、またちゃんとした優しさも兼ね備えていた、その属性は“光”であり要するに“善の善なる者”だったのだ。

 

 そんな彼等は長い輪廻転生を繰り返す内で大半を“恋人”として“夫婦”として、そしてまた“一般的な善人”として過ごして来たのであり時には“武道”や“軍隊”に入って体を鍛えたり、はたまた“修験道”に参加して心や能力を磨いたりしていたのであるモノの、ところが。

 

 ある時期から何をやってもそれ以上、前に進めなくなってしまい“進化”が停滞してしまった事があった、何も知らない“純粋無垢なる善”としての限界に達してしまったのである。

 

 当然、彼等は悩みに悩んだのだがその末に、思い切って“悪”として生きてみよう、と言う発想に行き着いた、“善とは異なる視点で善を観察する事で新たな発見があるかも知れない”、“善とは違う生き方や在り方を体験して自分達に刺激を与えてみよう”と考えたのだ。

 

 ・・・そうして改めて自分自身や宇宙の理を見直してみるのも良いかも知れない、と。

 

 そんな訳で一時期的にわざと“悪人”としての人生を繰り返した事があった、そしてその結果、散々な目に遭ったり遭わされたり、傷付けたり傷付けられたりを何度となく反復して行く内に、リュカもビアンカも遂に“悪とは無意味で無駄なモノである”、“どれだけ経っても何の進歩も祝福も得られない”と言う事に気付いてその瞬間、彼等は“悪”を手放した、要するに“卒業した”のである(ただし彼等は間違っても“魔道”に堕ちたりはしなかった、第六感的に“それはなんか違うだろうな”と言う違和感と共に“それをしてしまったらとんでもない事になる”と言う危惧を覚えていた為である)。

 

 そして。

 

「これからどうしよう?」

 

 二人で再び話し合った結果、彼等は元の“善”に戻る事にした、最初から善であり光であった彼等にはその方が性に合っていたし、また“それが正しい”と確信もしていたからの行動であったが、“悪”として生きてきた反動からか、それから暫くの間は中々に目敏(めざと)いと言うか、狡賢(ずるがしこ)い事やヤンチャな事もやってのけたりしていたモノの、程なくして彼等はそんな自分達の在り方や行動を見つめ直して反省し、やがてはそれらを乗り越えて一層強くて激しい光りを放つ、“より進化した善”としてこの世に顕現する事が出来た、つまりはこの時を持って二人は完全に“悪を超越した善”となってそれ以降の“魂の旅路”を歩む事となったのだ。




 この“進化の聖典”や前々話の“魂の旅路は時を超えて”でリュカとビアンカが辿って来た“輪廻の軌跡”が大まかにではありますけれども描かれてまいりましたがその中で、“何も知らない純粋無垢なる善としての限界に達してしまった”と言う表現が出て参りました。

 あれはより正確に言い表すならば“まだ経験不足で無知だけど”、“それ故にピュアな心根を持つ一般的善人としての限界”と言う意味でして“既に完成された混じりっ気の無い善”が進化に行き詰まった、と言う意味ではありません。

 何度も申し上げますがリュカとビアンカはその事が切っ掛けで“じゃあ今度は悪になってみよう”、“今までとは違った視点から善を見てみよう”と思い切り、全く異質の道に飛び込みました←だけど元からが“良き人々”で“確かなる暖かさ”を持っていた彼等は大切なモノは失う事無く“悪”を学び、その結果見事に卒業しました(決して魔道に堕ちる事無く自然の内に悪を手放したんです)。

 そして再び“光の世界”に戻って来た彼等は悪として生きてきた頃の己の所業を見つめ直し、反省して乗り越え、その結果“悪を超越した善”となってこの宇宙に顕現したのでした←それもより強くて激しい、純真なる光を放つ存在として、です。

 そう言う事で御座います。
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