指揮官が惚れたのは加賀だけどプロポーズしたのは加賀じゃないほうの加賀だった   作:麦果

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第五話

 

 

 ……指揮官。我が愛しき戦友よ。

 

 あなたは私の憧れだ。

 

 あなたのおかげで今の私、今のこの“エンタープライズ”があるのだ。

 

 何か特別なきっかけがあったわけではない。

 

 けれどあなたの屈託のない笑顔を見ている内に、自然と惹かれていったのだろう。

 

 

 戦うことでしか己を満たせなかった私が、あなたと共にいると、不思議と心が安らぎ、安心する。

 

 戦に明け暮れていた私の心を埋めてくれる唯一無二の存在。

 

 それがあなただ。

 

 

 ──“頑張ったな、エンタープライズ。またMVPを取るなんて凄いじゃないか!”──。

 

 

 あなたに褒められるのが好きだった。

 

 あなたの笑顔を見ていると、なんだか心の奥底に温かな感情が広がっていくようで。

 

 ユニオン時代には決して抱かなかった感情。

 

 それはきっと、星が落ちるような一目惚れだった。

 

 その笑顔のために私は頑張った。

 

 あらゆる娯楽を捨て、出撃以外はひたすら演習や訓練に明け暮れ──そういえば、そんな私を見て、あなたは“無理をし過ぎだ、少しは自分を労れ……!”なんて心配してくれたな。

 

 指揮官、あなたはとても優しい人だ。

 

 そんなあなたの優しさに応えるために、少しでもあなたの役に立ち、その戦果に貢献できるよう私はより一層己を鍛え、磨き上げた。

 

 たくさんたくさん努力して、いつしかユニオン最強どころか、世界最強とさえ謳われるようになった。

 

 ──全てはあなたの笑顔を見たいが為に。

 

 あなたにたくさん褒めて欲しくて、私は誰よりも強い艦船になった。

 

 ……それなのに。

 

 どうしてあなたは、私を褒めてくれない?

 

 MVPを獲っても、まるでそれが当たり前であるかのように素っ気なく“さすがだな”とか“次も頼む”と言うだけで、以前のように私に笑いかけてくれることは無くなってしまった。

 

 指揮官は私のことが嫌いになってしまったのか?

 

 私とあなたは無二の戦友だ。

 

 いつだって私とあなたの心は通じ合っていた……そのはずなんだ。

 

 ──私は、ずっとあなたの隣にいたい。

 

 戦いのない平和な世界で、穏やかな日々を共に過ごし、互いに笑い合う。

 

 そんな幸福な未来を夢に見る。

 

 いや、夢なんかじゃない。

 

 これは確定した未来の話だ。

 

 セイレーンを残らず(たお)し尽くし、あなたを手に入れ、この未来は必ず実現させてみせる。

 

 ──自己評価ではあるが、私はどちらかと言えば独占欲は強い方だ。同時にかなりの負けず嫌いでもある。

 

 ゆえに私は、たとえ相手が誰であろうが負けてやるつもりはない。

 

 たとえあなたが私以外の誰かに想いを寄せていたとしても。

 

 それが、重桜最強と名高い一航戦が片翼、加賀であったとしても。

 

 絶対に気づかせてみせる。

 

 あなたの隣に立つに最も相応しいのはこのエンタープライズであると。

 

 ──待っていろ、指揮官。

 

 私があなたを、必ず幸せにしてみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 ──俺が戦艦加賀とケッコンしてから三日目の夜が明けたその朝。

 

 今日は加賀と約束して、午後は二人で一緒に過ごそうという話になったので、俺はいつもより早い時間に出勤し、早朝から執務に取り掛かっていた。

 

 

「ふあぁー……。眠……」

 

 

 欠伸を一つこぼす。

 

 結局昨夜も自分を抑えきれず加賀と二人で激しい夜を過ごした為、あまり眠れなかった。

 

 また部屋に置いてきてしまったが、怒ってきたりしないだろうか?

 

 

「どうぞ、眠気覚ましのコーヒーでございます。誇らしきご主人様」

 

「おー、シリアス。ありがとう。気が利くな」

 

「いえ、これもご主人様の忠実なメイドとして当然の務め。勿体なきお言葉にございます」

 

 

 ぺこり、と恭しい動作で頭を下げてくるシリアス。

 

 ……?

 

 俺は少し違和感を覚えながらも、彼女から差し出されたコーヒーのカップに口をつける。

  

 芳醇なエスプレッソの香りが何とも鉄臭く、舌を貫くような壊滅的な苦味が口いっぱいに広がって最低のハーモニーを……──って!!

 

 

「ぶへぁッッ……!! し、シリアス、お前これ、たぶん何かのオイルだろ!?」

 

「はっ! 申し訳ありません誇らしきご主人様。色が似ていたもので、間違えて艦船向けの燃料を適温までコトコト温めてお出ししてしまいました」

 

「いやどんな間違え方!? お願いだからわざとミスするにしてももっと安全面に配慮してほしいんだが!?」

 

 

 ──まあ、おかげで眠気のほうはすっかり取れたけども……!

 

 

「嗚呼、シリアスはまたしても粗相をしてしまいました。誇らしきご主人様、どうかこの卑しきメイドに罰をお与えください」

 

「いや粗相とかそういうレベルの話じゃないからな!? いいから早く口をゆすぐ用の水を持ってこい!」

 

「いえその前にどうか私めに罰を──」

 

「だから、そんなのいいから早く水を持ってきてほしいんだが……」

 

「ご主人様が罰を与えてくださるまで、シリアスはここから一歩も動きません! はぁはぁ」

 

「とか言いつつ四つん這いになってじわじわ近寄ってきてんじゃねぇ!! いい! もう俺が直接洗面台に行ってくる」

 

「ではシリアスもお供致します」

 

「だったら早く水を汲んでこいよぉぉぉぉ!!」

 

 

 ……やはりいくらベルファストを抑える為とはいえ、こいつを側使いに選んだのは失敗だったかもしれない。

 

 と、今更ながら激しく後悔する俺。

 

 ……そういえば、結局こいつは俺の部屋で居眠りしていた理由を頑なに話そうとはしなかったな。

 

 しかもまるで何かにひどく怯えているような顔つきで、しつこく問い詰めたら最終的に泣き出してしまったし、ほんとに何があったんだよ……。

 

 ……と、そんなことを考えつつしっかりうがいを済ませ口の中のオイルを綺麗の洗い流した俺は、再び執務に戻る。

 

 時間的にはもうすぐ普段の始業時間。

 

 そろそろ今日の秘書艦がやってくる頃合いだろう。

 

 昨日がベルファストだったから、シフト的に今日はたしか──。

 

 

「──グッドモーニングだ、指揮官」

 

「おお、エンタープライズ。おはよう。今日は一日よろしく頼む」

 

「もちろんだ。任せてくれ、指揮官」

 

 

 と、ふわりと微笑む白い軍帽を目深に被った灰色の髪の艦船、エンタープライズ。

 

 この母港の最古参メンバーの一人で、実質的なユニオンのリーダー的存在でもある。

 

 戦闘面においては加賀や赤城をも上回る戦果を叩き出しており、名実ともに我が母港が誇るスーパーエースだ。

 

 しかし、そんな彼女の登場に、俺の傍に控えていたシリアスが顔を引き攣らせた。

 

 ……気のせいだろうか。エンタープライズの方も、シリアスに対し、まるで獲物を睨め据える猛禽のような鋭い眼差しを向けている。

 

 

「……どうしてあなたがここにいるんだ、シリアス。今日の秘書艦は私の持ち回りだったはずだ」

 

「は、はい、承知しております、エンタープライズ様。しかし、シリアスはご主人様より直々に護衛艦として身の回りのお世話を仰せつかった身でございますので……」

 

「護衛艦……? 初めて聞く役職だな。いったいいつからだ?」

 

「……昨日からでございます」

 

「指揮官、本当か?」

 

 

 若干萎縮したように震えた声で応答するシリアスから視線を外し、今度は俺のほうへ顔を向けてくる彼女。

 

 その顔はいつもと変わらないとても穏やかなものだった。

 

 

「ああ。昨日、ちょっとした成り行きでな。万が一に備えて身辺警護を付けることにしたんだ」

 

「そうか。たしかに指揮官は連合本部にとって重要人物だからな。警護の一人ぐらい付けるのは当然か」

 

 

 俺の説明に、エンタープライズは納得したように頷いた。

 

 しかし、次の瞬間。

 

 

「──よし。ではその役目、私と代わってくれ、シリアス」

 

「は……?」

 

「なんだ、駄目なのか? いいじゃないか。私と代わってくれ」

 

「いえ、エンタープライズ様……これは私が直接ご主人様から仰せつかった任ですので、私の一存では……」

 

「ならば指揮官の許可があればいいのか? では指揮官、私をあなたの護衛艦に任命してくれ。私とあなたの仲だ。別に構わないだろう?」

 

「いや……どうしたんだ、エンタープライズ? なんか少し様子が変だぞ、お前……」

 

「おいおい指揮官、私は構わないかと訊ねたんだぞ? 質問にはちゃんと答えてくれ」

 

「……ご主人様──」

 

 

 どこか様子がおかしいエンタープライズを見ながら、シリアスが何やら神妙な面持ちで俺に耳打ちで何かを伝えようとしてくる。

 

 そして、俺がそんなシリアスの声に耳を傾けようとした、その瞬間──。

 

 

「─────!!」

 

 

 ──ヒュンッ、と。

 

 何か眩い一筋の光が、俺とシリアスの間の僅かな隙間を通り抜けた。

 

 それは間違いなく艦船の艤装による特殊弾薬。

 

 眼前の空母、エンタープライズの弓形の艤装より放たれた極小の一射だった。

 

 

「近付きすぎだぞ、シリアス。まったく……気をつけてくれ。次は当たっても知らないからな?」

 

「……ッ」

 

 

 ゴクリ、とシリアスが息を呑んだ。

 

 隣にいた俺も、彼女とまったく同じ反応になる。

 

 やはり今日の彼女は、何かがおかしい──!

 

 

「どうだ? 指揮官。私ならシリアスよりもずっと立派にあなたを守れるぞ? 護衛艦にするなら、私のほうがずっと適任ではないか?」

 

「待て、お前……ちょっと落ち着け、エンタープライズ」

 

「おかしなことを言うな、指揮官。私はさっきからずっと冷静だぞ? 指揮官こそ、なにをそんなに慌てているんだ? 世界最強の戦力があなたを守る盾になると言っているんだ。護衛として、これほど相応しい存在は他に居ないと思うが」

 

「……た、たしかにお前の言うとおりだ。だがな、エンタープライズ。お前には俺の護衛なんかよりも海域攻略の方に力を入れて欲しいというか、世界最強の戦力だと言うのなら、その力を人類全体の平和の為に使って貰いた──」

 

 

「──戦場に出れば、あなたの傍にいられないじゃないか……!!」

 

 

「ッ……!?」

 

 

 突然、エンタープライズが一際(ひときわ)大きな声で叫んだ。

 

 思わず固まる俺。

 

 彼女はそんな俺にさらに言葉を続ける。

 

 

「あなたはそうやっていつも私を戦場に駆り出して遠ざけようとする。指揮官はそんなに私が嫌いなのか?私と一緒にいたくないのか?どうして前みたいに私を褒めてくれないんだ。私は他の誰よりも華々しい戦果を上げているというのに!なあもっと私を褒めてくれ指揮官、あなたが褒めてくれないと私は頑張れないんだ、あなたが褒めてくれるから私はずっと強い私のままでいられるんだ。私とあなたは最高の戦友だ。そこには単なる上官と部下の関係なんかに収まらない特別な絆があった!指揮官、私とあなたの思いは通じ合っていた。互いに惹かれ合っていた、そうだろうう!? なのに、どうしてあなたは……なぜ、私以外(・・・)の女を選んでしまったんだ!?」

 

 

「なっ……お前、それを誰から……!?」

 

 

 俺は反射的にシリアスの方へと視線を向けた。

 

 俺と加賀以外に俺たちのケッコンの事を知っているのはシリアスと明石だけだ。

 

 しかしシリアスは俺の視線に気付くとすぐにふるふると首を横に振った。

 

 となると後は明石だが、アイツが大事な得意先である俺の秘密を勝手に漏らすとは考え難い。

 

 ならばいったいどうやって……。

 

 まさか告白の現場を見られたりでもしていたのか……?

 

 

「その反応……。やはり、事実なんだな……?」

 

「あっ……」

 

 

 しまった、ブラフだったのか……!?

 

 

「……いいんだ、指揮官。あなたの一番になれなかったのは残念だが、その代わり──今ここで、私に指輪をくれ」

 

「エンタープライズ……悪いが、それは……」

 

「──ご主人様!!」

 

 

 突如、シリアスが艤装である長剣を振り抜いて俺が座るデスクの前に躍り出た。

 

 ──瞬間、ギン、という金属を弾く音。

 

 それはエンタープライズが放った一射をシリアスが剣で打ち落とした音だった。

 

 

「安心してくれ、元より当てる気はない。ただ指揮官がなかなか素直になってくれないから、少し私の熱意を伝えようとしただけだ」

 

「お逃げください、誇らしきご主人様。エンタープライズ様は普段穏やかなように見えてその実、指揮官様に対する偏愛度はこの母港でもトップクラス! まともに話が通じる相手ではないのです! 彼女はこのシリアスが食い止めます! 艦隊戦ならばいざ知らず、白兵戦であればシリアスに分が──」

 

「ん? なんだ、私とやるつもりなのか? ……嗚呼、なるほど、いったいどちらが指揮官の護衛艦に相応しいか実力で決めようという話だな? よし、そういうことならば受けて立とう。指揮官、少しそこで待っていてくれ。指輪を貰うのは、私がシリアスを片付けた後だ」

 

「っ……! おいやめろ二人とも、武器を下ろせ!!」

 

 

 と、瞬く間に一触即発の空気を纏う二人の間に、俺は慌ててデスクから立ち上がり、割って入る。

 

 ……まさかエンタープライズがここまで俺のことを想ってくれていたとは。

 

 ならば俺もここは最大限、彼女に対し誠実に向き合うしかあるまい。

 

 

「……エンタープライズ。君を不安にさせてしまったことは本当に申し訳ないと思っている。だが俺は、お前のことは今でも大切な部下であり、戦友だと思っている。お前を褒めなくなったのは、決して嫌いになった訳ではなく、わざわざ褒める必要がないぐらいお前の実力を信頼していたからなんだ。……いつしか俺の中で、君の勝利は当然のことのようになっていたのかもしれない。これは全て、君とのコミュニケーションを怠っていた俺の落ち度だ、本当にすまない!!」

 

「……指揮官」

 

 

 真っ直ぐにエンタープライズと向き合いながら深く頭を下げる俺に、エンタープライズは艤装を納めながら、静かに呟く。

 

 そうして彼女は俺の傍に歩み寄ってそっと俺の肩に手を置いて。

 

 

「頭を上げてくれ。いいんだ、あなたの気持ちはわかった。その言葉を聞けて、あなたが私を嫌いになってなどいなかったということが知れて嬉しい」

 

「エンタープライズ……」

 

「ただ──」

 

「……?」

 

「──そう思うなら早く私に指輪をくれ。あと護衛艦にも任命してほしい」

 

「……………」

 

「? どうした? 連合本部から配布された指輪はまだ残っているのだろう? 早くくれ」

 

「……エンタープライズ、俺は君をたしかに大切に思っているが、それはあくまで部下として、友としての感情だ。悪いが……君のその気持ちには応えられない……」

 

 

 と、俺がそう告げると、エンタープライズはなぜかキョトンとした表情で首を傾げた。

 

 次いで、大きく溜め息を吐く。

 

 

「はぁ……。指揮官。この期に及んでまだ素直になれないようだな。子供じゃないんだから、あまりムキになるのは感心しないぞ? ……はっ、もしやこれが、セントルイスがホノルルに対して言っていた“ツンデレ”というものなのか? ならば早くデレてくれ指揮官、私はもっと指揮官のデレが見たいぞ!」

 

「…………………」

 

 

 ……駄目だこの最強空母、まるで言葉が通じない。

 

 

「なあー、いいだろー? 早く指輪をくれー」

 

 

 と、唇をツンと尖らせながら、甘くねだるような声で俺の頬をぷにぷにと(つつ)いてくる彼女。

 

 完全にキャラ崩壊してますよあなた……。

 

 

「……ご主人様。やはりその方に何を言っても無駄です。早く離れてください」

 

「駄目だ。指揮官が素直になってくれるまで絶対に離れないぞ」

 

 

 言って、ぎゅむっ、とエンタープライズの柔らかい身体に抱き寄せられた。

 

 ──む……加賀とはまた違った感触……こ、これはこれでなかなか──って、バカ! こんな時に何を考えてるんだ俺は!

 

 ……ちなみに俺とエンタープライズはほぼ同じ身長なため、必然的に俺の顔のすぐ横に彼女の顔がある。……あっ、ちょ、やめて、頬をすりすりしてこないで……!

 

 

「ふふっ。こうして身体を密着させるのはこれが初めてだな、指揮官。もっと甘えてもいいか?」

 

「なっ、やめろ、なにを言ってるんだ……!?」

 

「ご主人様の言う通りでございます! そこはシリアスの特等席です!」

 

「いやお前も対抗してくるな、そして平然と嘘をつくな!」

 

「ゆっびーわ、ゆっびーわ♡」

 

 

 くっ……、どうにかして現状を打破しなければならないのだが、しかし、こんなエンタープライズを見るのは初めてすぎて取り扱い方がまるでわからん……!

 

 ──と、その時だった。

 

 

「──ククッ、ふははははっ! 貴様には失望したぞ、エンタープライズ。我が好敵手よ!」

 

 

 突如として執務室に響く哄笑。

 

 それは、とても聞き馴染みのある声だった。

 

 その声の主は──。

 

 

「加賀……!?」

 

 

 そう。

 

 そこにいたのは加賀。

 

 それも、俺の長年の想い人である空母のほうの加賀だった。

 

 あくまでその装束を見ての判断ではあるが、エンタープライズのことを好敵手と呼んでいるので、おそらく間違いないだろう。

 

 そして、そんな空母加賀の登場に、シリアスは驚いたように目を丸くし、エンタープライズは不快そうに眉根を寄せる。

 

 

「いきなり何を言うんだ、あなたに笑われる筋合いはないぞ、加賀。私から指揮官を奪っておきながら、(あまつさ)え失望とは侮辱にも程がある」

 

「フッ、笑い飛ばして何が悪い。亡霊よ、貴様も落ちたものだな。今のお前は、ただ親に物をねだる赤子も同じこと。──この腑抜けが! 欲しいものは力で奪ってこそ真の戦士というもの。我らが戦場での掟を忘れたか!」

 

「…………。それはつまり、あなたを倒せば指揮官の伴侶の座は私に譲る、と。そういうことか?」

 

「そうだ。無論、できるものなら(・・・・・・・)、な」

 

 

 ──と。

 

 挑発的な笑みを浮かべる加賀。

 

 

「侮られたものだ。私は演習においてこれまで誰にも負けたことはない。それはあなたに対しても同じことだ。そういったセリフは、私に一度でも勝ってから言ってみたらどうだ」

 

「ならば今日この日をもって、貴様に敗北の味を教えてくれよう」

 

「──っ……面白い。何より、これで後腐れなく私の指揮官を取り戻せる」

 

 

「お、おい……待て、二人とも! 仲間内での私闘は固く禁じられて──」

 

 

「──黙っていろ、指揮官。なに、私に任せておけ」

 

 

 そう言って加賀は俺に微笑んだ。

 

 ……加賀のあの顔、どうやら彼女なりに何か考えがあるらしい。

 

 だがどういう訳だ……?

 

 なぜ空母のほうの加賀が俺のケッコンのことを知っている?

 

 それに、なぜケッコン相手がまるで自分であるかのように振る舞っているんだ……?

 

 わからない……、俺には何もわからない。

 

 ──が。

 

 ここは彼女に任せるしかない……!

 

 そう確信した俺は、二人のことを交互に見やり、ごくりと固唾を飲んだ。

 

 

 ──斯くして。

 

 ユニオン最強空母VS重桜最強空母。

 

 この母港を舞台に、一つの頂上決戦の幕が上がろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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