指揮官が惚れたのは加賀だけどプロポーズしたのは加賀じゃないほうの加賀だった   作:麦果

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第八話

 

 

「──これはどういうことか、詳しく説明して貰えるのだろうな?」

 

 

 本日の秘書艦、グラーフ・ツェッペリンからの問い。

 

 その声はとても冷たく、けれどもたしかな怒りの感情が込もっていた。

 

 まあ……そりゃ真面目な彼女からしたら、今の俺の状態はだらしなさの極みみたいなものだろうし、さすがに軽蔑されても仕方ないか……。

 

 けれど、俺が弁明の言葉を返すよりも先に、傍らのエンタープライズが口を開いた。

 

 

「どうやら、あなたは何か誤解しているようだな、グラーフ・ツェッペリン」

 

「……ほう。誤解、か。私には、卿が両脇に女を侍らせ職務中にも関わらず堕落に耽り、鼻の下を伸ばしているように見えるのだが、それは違うのか?」

 

「ふっ」

 

 

 と、エンタープライズは鼻を鳴らしながら彼女、ツェッペリンの言葉を一笑に伏してみせた。

 

 そして。

 

 

「その通りだ!」

 

「どの通りだ!? デタラメな相槌を打ってんじゃねぇ!! ──というか俺そんな風に見えてんの!? そんなにデレデレしてるように見える!? ねえ!?」

 

「あ……あの……誇らしきご主人様。シリアスをご所望でしたらいつでも準備は──」

 

「お前はお前で自重しろ似非ポンコツエロメイド! 余計に話が拗れるだろうが!!」

 

「ご安心を。シリアスはいつ如何なるときも勝負下着です」

 

「いや聞いてないが!?」

 

 

「──と、冗談はさておき。グラーフ・ツェッペリン。私たちは別に、指揮官とはなにもやましい関係にはないぞ? 我々が指揮官の傍に控えているのは、彼に直接、護衛役に任命されたからだ」

 

「護衛、だと……?」

 

 

 仕切り直すようなエンタープライズの言葉に、ツェッペリンが訝しむように眉を寄せる。

 

 そして彼女ら顎に手をやると、わずかに逡巡する動作を見せた。

 

 が……。

 

 

「──ふん。そんなものは必要ない」

 

 

 ──と。

 

 彼女はそう、キッパリと言い放ったのだった。

 

 そのまま彼女は言葉を続ける。

 

 

「卿の護衛の役目は、本来その日の秘書艦が執務の補助と同時に担うべきモノだ。加えて、母港では各陣営の持ち回りで昼夜問わず徹底した哨戒を行っており、基地の警戒体制は万全に敷いてある。そこには到底敵の付け入る隙などなく、ゆえに秘書艦の他に二人もの護衛を付ける必要性があるとはどうにも思えん」

 

「………………」

 

 

 ……うん。彼女の言葉はまさしく正論だった。

 

 そもそも、元を辿ればシリアスを護衛艦に任命したのだって完全にその場の勢いであったし、彼女の言う通り、母港の警備は常に万全だ。

 

 ゆえにわざわざ護衛など付けずとも、職務中はその日の秘書艦が常に傍に控えているのだから護衛の役割などそれだけで事足りるのである。

 

 と、そんな風にツェッペリンの言葉にうんうんと頷く俺だったが、どうやら傍らのエンタープライズにとっては不服だったらしい。

 

 

「そんなことはない。指揮官は母港に居ても常に危険と隣合わせだ」

 

「……ほう。では何か? よもや貴様は、他ならぬこの母港の中に、卿の命を狙う間者がいるとでも言うつもりか? 仲間を疑っていると?」

 

「いやそれはない。少なくとも、この母港の中に指揮官に対して危害を加えようという輩は存在しないだろう。……だが、指揮官は別の意味で多くの艦船にその身を狙われているからな」

 

「別の意味……?」

 

「ああ。この場合は、主に指揮官の肉体(カラダ)目当てという意味だな」

 

「なっ……!?」

 

 

 エンタープライズの言葉に、ツェッペリンの顔が一瞬で真っ赤に染まった。

 

 なぜだか、ぼふんっ、という擬音まで聞こえてきた気がする。

 

 それぐらい、彼女はそれはもう見事なまでの赤面を見せたのだった。

 

 ……その反応はまさに初な生娘のソレである。

 

 

「な、ななな、なにを言っているんだお前は!? か、カラダ目当てとか、ええいこれだからユニオンの艦船どもは! 恥を知れ恥を! ……そ、そもそも、そういうのは、だな……。その……、ちゃんと互いに両思いになって結ばれてからで……」

 

 

 ……と。後半になるにつれてもごもごと声がか細くなっていくツェッペリン。

 

 隣でシリアスがボソッと「初々しいですね」と呟いていた。

 

 うむ、同意する。ツェッペリンは見た目は大人っぽく見えるが、中身は極めて純真無垢だからな。

 

 ふとしたときに見せる反応がいちいち可愛くてとても和むのだ。

 

 あと声だな。特に声が良い。

 

 愛宕やレナウンもそうだが、とても俺の好きな声質をしている。

 

 実に素晴らしい。

 

 

「──つまり! 互いに好き合ってもいない男女がそんな破廉恥な行為に及ぶなど決して許されんのだ! 立派な軍規違反だ!」

 

「……ふむ。ということは、指揮官と両思いならば好きなだけ睦み合ってもいいということか? たとえばこんな風に──」

 

「──ッ……!?」

 

 

 ──ぎゅむっ。

 

 ……と。エンタープライズが突然俺に抱きついてきた。何の脈等もなく、それは完全な不意打ちだった。すごく柔らかいです。

 

 

「……!?!!?!??!?」

 

 

 見ればツェッペリンが顔を真っ赤にさせたまま信じられない物を目にするように手で目元を覆い、僅かな指の隙間越しにこちら見ていた。……乙女である。

 

 

「ふふっ、やはり指揮官の背中は大きいな」

 

「………………」

 

 

 ……うーむ、しかし。

 

 それにしてもこのグレイゴースト、スキンシップに対する抵抗がまるで無いな。それに遠慮もない。だがとても柔らかいので良しとしよう──って、いやいや! 何をその場の勢いに流されようとしているんだ俺は!

 

 

「はぁ……はぁ……、では、シリアスも……!」

 

「待て、お前は本当に待て。エンタープライズはなんというか、ユニオン的なライトな雰囲気があるが、お前に関しては性的な意味合いを強く感じるのでさすがにアウトだ」

 

「そんなご無体な!?」

 

「ふっ、つまり指揮官への抱きつきはこのエンタープライズだけに許された特権だということだな」

 

「断じて違う。お前もさっさと離れろ」

 

「なんだ? 照れているのか、指揮官? まったく素直じゃないな」

 

 

 そう言ってエンタープライズは抱き締める力を強め、さらに密着してくる。

 

 ふっ、だが甘いな。

 

 少し前までの俺ならいざ知らず、今の俺は既に女体を知った身。昨日は不覚を取ったが、この程度の触れ合いで心を乱すほど未熟ではないのだよ。

 

 心音だってこんなにバクバク激しく脈を打って──って、え?

 

 ……おかしい。俺の心は至って平静だ。

 

 ならばこのターボエンジン並みに加速しまくっている心音はいったいどこから──あっ……。

 

 そうして俺は全てを察するのだった。

 

 なぜなら──。

 

 

「…………っ」

 

 

 ──俺にしがみついているエンタープライズが物凄く顔を赤くさせていたのだから……。

 

 ──いやお前もちゃんと恥ずかしいんかい……。

 

 自分からしてきたくせに何なんだこいつは……。

 

 

「……くっ、おのれ、エンタープライズ。いつまでそうしているつもりだ! 早く卿から離れろ!」

 

「断る。YOMERYOKUを磨く為にも、私はもっと指揮官と親睦を深める必要があるんだ」

 

「……意味がわからん。いいから離れろと言っているッ!!」

 

「NO!」

 

geh weg(離れろ)!!」

 

「NO!!!」

 

 

 ……という、「離れろ」、「嫌だ」、の問答が彼女たちの間でしばらく続き。

 

 

 そこから色々あって最終的には──。

 

 

「いいから離れろばーかばーか!!」

 

「ふん!お前の言うことなど聞くかばーかばーか!!」

 

 

 ……と。ほとんど幼い子供同士のケンカのような有り様になっていた。

 

 ……これはひどい。

 

 

「くっ……このままでは埒が明かん。しばし待っていろ」

 

 

 言って、ツェッペリンは執務室を出て行った。

 

 ──それから数分後。

 

 

「聞いたよ姉ちゃん! 何やってるのさー! 指揮官の仕事の邪魔なんて良くないよ! って、いうかさ。──私から離れないでよ

 

「エンタープライズは私の光。暗い水底に沈んだ私を照らしてくれるたった一つの希望。──だから、私たちはずっと一緒よ

 

「ふふっ。──エンタープライズちゃんは私の言うことだけ聞いていればいいんですよー?

 

 

「なっ!?ホーネットにヨークタウン姉さん、それにヴェスタルまで! ──くっ。……って、おい、こら、離せホーネット──ひゃぁっ! ちょっ、どこを触ってるんだヴェスタル……!? や、やめろ離せ、私は指揮官ともっと──指揮官、指揮k──あぁぁぁぁ……!」

 

 

「ってわけで、姉が邪魔してごめんね。バーイ、指揮官!」

 

 

 突如として執務室に押しかけてきたエンタープライズの姉妹艦である“ホーネット”、“ヨークタウン”そして、エンタープライズ付きの工作艦の“ヴェスタル”の計三名。

 

 通称、ユニオンの家族愛がヤベーやつら。

 

 そんな彼女たちの手によって、エンタープライズは()(すべ)もなく連行されていったのだった。

 

 

「──さて。これで邪魔者は一人消えたな」

 

「グッジョブでございます、グラーフ・ツェッペリン様」

 

「そして、次はお前だ。シリアス」

 

「え……?」

 

 

 シリアスが戸惑いの声を上げる。

 

 それと全く同時に……。

 

 

「失礼します害ちゅ──いえ、ご主人様。シリアスが手空(てす)きとの報告を受けましたので、身柄の回収に参りました。午後から執り行われる陛下主催の茶会(パーティー)の準備に人手が足りないので手伝ってください」

 

「シェフィールド様……ですがシリアスは誇らしきご主人様の護衛が……」

 

「そちらに関してはグラーフ・ツェッペリン様のほうで対応していただけると伺いましたが?」

 

「っ……!?」

 

「うむ。指揮官の事は我に任せ、お前は自分の本来の職務を全うするがいい」

 

「お、お待ちください! シリアスはご主人様より直々に──!」

 

「人手が足りないと言っているでしょう。貴重な労働力を遊ばせておく余裕はありません」

 

「えっ、あっ、ご主人様、ご主人様ぁぁぁぁ──……!!」

 

 

 シェフィールドに手を引かれながら、シリアスが断末魔にも似た悲鳴を上げて執務室から消えていった。

 

 ……まあ、メイド隊の仕事があるなら仕方ないか。……うん。頑張れシリアス。

 

 

「──フフッ、これで二人目の邪魔者も消えた」

 

 

 と。見ればツェッペリンが勝ち誇った顔をして達成感に満ちた笑みなんかを浮かべている。

 

 そして机の下に隠れている俺の膝が削岩機の如き勢いで盛大に震えている。

 

 別にツェッペリンに対して苦手意識があるわけではない。むしろ彼女とはそれなりの信頼関係を築けているという自負もある。

 

 ……が、べルファストやエンタープライズの件があったので、このツェッペリンもまた彼女たちのように突然暴走しないかと気が気ではないのだ。

 

 どうも最近の俺はなにかとネガティブになってしまっているらしい。

 

 ……いや、不穏なことを考えるのは()そう。

 

 でないとストレスで俺の身が持たなくなる。

 

 頼むぞ。信じてるからな、ツェッペリン……!

 

 

 

 

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