環太平洋機構召喚 【リメイク前:自由連合召喚】 作:暁司令官
中央歴1648年 7月7日
帝国復活から一夜明けるや各国の新聞は次のような記事を掲載していた。
『魔帝復活⁉︎』
『古の帝国復活なる。帝国陸海軍臨戦態勢へ』
『The Magic Empire Resurrected!! The Trans-Pacific Treaty Organization Issues DEFCON 1.』
アメリカのタイムズ紙にある通りPRTOは同盟国及び加盟国全域に対し直ちに『デフコン1』を発令、防衛省は統合緊急侵攻対処計画――JOINRAPーー正式名:Q号計画を1994年以来初めて発令準備に入った。
内容は「Q-5A」が想定されていた。
これまでの情報の統合により古の魔法帝国ー以降ラヴァナール帝国ーに住む光翼人ー地域によって有翼人ーは傲慢な態度で多種族を見下す傾向がある事から、帰還早々に核兵器に相当するコア魔法を全世界に向けて放ってもおかしくないとの判断からであった。
だが待てど暮らせど相手側からは何のアクションもなかった。
政治、軍事あらゆる面においてだ。
何かがおかしいと感じた各国軍首脳部はハワイに集結させていた戦力の内、優秀な潜水艦を偵察として現地に派遣する事にした。
その時点で日付は7月18日になっていた。
「トリム上げろ」
潜航長の命令が響いた。艦がわずかに振動する気配が感じられ、続いて気味が悪いほどの静寂に包まれた。
通信長が言った。
「定時受信時刻まで30秒。艦長、通信アンテナ上げます」
「よろしい」
佐伯一等海佐は祖父譲りの毛深い手を掻きながら応じた。
彼らの乗るたいげい型反応動力潜水艦じんげいはラヴァナール帝国領内に侵入、地形や海流のデータを採取しつつ敢えて浮上航行してみせたり無電による通信等敵の目を引くような行動を取っていた。
「受信開始――終了」
通信機のディスプレイを見ていた通信員が報告した。ハワイの司令部から発信された電波が、一秒にも満たぬ長さに圧縮されて、〈じんげい〉の通信暗号解読機へと流れ込んだのだ。
「受信確認」
通信長が報告した。
「アンテナ収容します」
佐伯「潜航深度50」
佐伯艦長はすかさず命じた。
「聴音探知ないか?」
「現在探知なし」
佐伯は潜望鏡用モニターを凝視し、軽く息を吐いた。
誰もが似たような動作をしている。
潜水艦にとって、浅深度に上がって通信アンテナやヴイを海面へ突き出す瞬間は、最も緊張の高まる時間の一つだ。
司令部からの命令を受けるためには仕方がないし命令が命令とはいえども、せっかく隠れているのに、レーダーで探知され得る海面へ頭を突き出す気分は良いものではない。さすがに完璧な位置を敵に捕まれてしまう発信は滅多に行う必要が無いので助かるが、それでも、出来うる限り行いたくない行動の一つではあった。
「深度50。トリム、とります」
「艦長、ハワイからの通信を解読しました」
佐伯はそれを手持ちのタブレット端末の画面に表示して見た。
『引き続き調査/示威行為を続行せよ』
佐伯はため息を吐いた。
ここのところ命令は殆ど同じ内容で今回も半ば内容は分かっていたつもりだった。
佐伯「全くやりきれんな」
艦内にはなんとも言えない微妙な空気感が漂っていた。
敵勢力圏内(仮)という事もあって皆緊張はしているがここまで何もないと普通の航海と大して変わらない為、交代で当直をする余裕すら出てくるので程よい緊張感が乗組員らには見られた。
そんな彼らをここ数日間眺めていた佐伯はふと祖父の事を思い出した。
祖父はかつて《あちら側》の海軍の保有する反応動力潜水艦に乗っていたと言っており、祖国統一の戦いでも海自の空母と合衆国の戦艦に攻撃を加えたと言われているがそんな彼の孫である自分が敵対した海自に入隊しているのはなんとも皮肉が効いているなと佐伯は思った。
そんな彼は思い出したように祖父から譲ってもらった腕時計に目をやる。
一二三五時だった。
それからまた数日が経った頃、それは起きた。
夜中に突然ソナー音を探知したと聞き佐伯は慌てて飛び起きてCDCへと向かった。
作業服のままベッドに横になってたせいかシワがよっているがこの際それは捨ておく。
佐伯「ソナー音が聞こえたって。数は?」
「一隻です。それも我々海自の使っているものと同じ音響パターンです」
最後の一言に佐伯は疑問を感じずにはいられなかった。
敵がたまたま似通った音響パターンだと思えば何も不思議ではない為、彼はその事を後回しにしてさらに情報を得る。
佐伯「位置は?」
水測からの報告では、目標の位置は深度90mに潜む〈じんげい〉から約40浬。方位は1-7-5。
佐伯「一隻……か」
やはり気掛かりだ。普通対潜警戒をするなら複数隻でソナーやヘリから下されたソノブイで捜索するものだが相手側はその気配すら見せない。
「艦長。突発音を探知…航行音…魚雷です‼︎」
水測からの突然の報告にCDC内の空気は一気に張り詰める。
佐伯「慌てるな。最大速力!緊急回避!」
佐伯の的確な指示で操舵手の的確な操艦によってどうにか魚雷を回避するが目標は反転して再び〈じんげい〉に向かって突進してくる。
佐伯「水雷長デコイ発射‼︎」
「一番発射菅デコイ発射‼︎」
発射されたデコイには〈じんげい〉のエンジン音がインプットされており、魚雷は見事それに食いついた。
「接触まで3…2…1…インパクト。敵魚雷消失を確認」
「ヒヤヒヤしましたね……」
佐伯「あぁ…しばらくしたら潜望鏡深度まで浮上だ」
平静を装っている佐伯だったがここでもやはり不可解な敵の行動が気になる。戦意旺盛なはずの敵なら追撃を仕掛けてくるはずだがそれがない、上からは敵の情報もしくは可能であればその写真を捉えて戻るよう出港前のブリーフィングで通知されていた為、彼は敵の情報を得ようとゆっくりと〈じんげい〉を浮上させる
潜望鏡を水面に上げる各方向をカメラ越しに確認すると奇妙なものが写っていた。
「なんです……コイツ…」
佐伯「まるでウチのいぶき型じゃないか…?」
画面に映っていたのは〈こんごう型〉にシルエットがよく似た海上自衛隊の護衛艦だった。
ただ大きさから見て〈いぶき型〉と同等クラスだと佐伯は考えたが、やはりそこでも違和感を感じた。
佐伯「なぁ副長。ウチのいぶきはこんなに艦橋が高かったか?」
「え?」
副長は佐伯に言われて改めて画面を凝視する。
確かに艦橋というか前部構造物の形状が〈こんごう型〉にそっくりだった。
「ナンバー180…?〈まや〉なら横須賀の筈なのに…⁉︎」
佐伯「これはいよいよ変だぞ。潜望鏡下せ、深度95。速力10ノットでこの海域を抜ける」
「貴重なVLAを使っても沈められませんでしたね」
薄暗いCICの中で眼鏡をかけた若い男が司令官と思われる、横に座る男に言う。
「ようやく
司令席にもたれかかった男はそれよりも何処から残念そうな様子だった。
「それにしてもまた貴重な燃料を使ったな」
「まぁこの程度ならまだ大丈夫ですよ。蕪木司令」
「もう一度来るようなことがなければいいがな。加藤二佐」
眼鏡の男ー加藤二佐ーの言葉に司令席の男ー蕪木司令ーは不安げに答える。
加藤「まぁ。彼ら…久世三尉が良い報告を持ち帰ってくれる事を待ちましょう」
蕪木「うむ…」
彼らの乗る艦ーイージス艦いぶきーは追跡を諦めて進路を反転して海域をそのまま離脱していった。
たいげい型反応動力潜水艦
日本が南北統一後に建造した海自初の反応動力搭載艦。
合衆国のロサンゼルス級/シーウルフ級を参考にしつつ、《あちら側》から無傷で鹵獲した八月十五日級反応動力潜水艦《真岡》や豊原で発見された《タイフーン型》の設計図やその改良型に搭載する筈だったとされる《反応炉》等の様々なデータから作られた潜水艦。
外観はアメリカのロサンゼルス級によく似た外観をしている。