環太平洋機構召喚 【リメイク前:自由連合召喚】 作:暁司令官
皆様 お久しぶりです。暁司令官です
この頃どうもモチベーションが上がらない、もしくは上がっても別な作品に移ってしまう事がありこちらに手をつける間がありませんでした。
連休最終日になり、今回だけの投稿になりますがどうぞ宜しく頼みます。
リメイク前で頓挫した原因の要素でまた一つ作ってみましたので、そちらもよかったら是非ご覧ください↓
https://syosetu.org/novel/421698/
イージス艦"いぶき"の司令室には内々に陸海の上層部が集結していた。
陸自を纏める土居一佐が応接ソファに座り、向かいに座る蕪木に重い口を開いた。
土居「表向きは平静を保ってるようですが、やはり内心動揺は広がってますよ。例の"
じろりと蕪木の横に座る加藤二佐に目を向けるが、その目は睨んでいると言ってもいい。
彼らとの自衛隊間での会談はひとまず問題なく終える事はできた。
ただそこで得られた情報というのはこの世界に来たとき以上に衝撃を与えた。
そして
挙句、彼らの言い分曰く自分達のいる異世界がさらに別の世界……すなわち彼らのいる異世界に召喚されたのだと………
土居「全く……何がなんだか分からねえ……‼︎ただでさえ考える事が山積みだってのに……」
頭を掻きむしる土居の言う通り、彼らにとって嬉しいともそうとも言えない要因がもう一つあるのだ。
蕪木「例の……"第三次世界大戦"の事か…」
彼らと邂逅する少し前に会談中に加藤が発言した一言が彼らの頭の中にずっと引っかかっていた。
陸自の中でも先述した内容に相殺される形とはいえそれなりの動揺を陸自内では呼んでいる。
蕪木「……彼の軽率な発言は申し訳ない。首席幕僚としては配慮が足らなかった」
蕪木は土居に謝罪するが、当の加藤はその様子は無くずっと何かを考えている様子だった。
加藤「その件についてですが……もしかしたら変わるかもしれません」
土居「なに?」
蕪木「どういう事だ、加藤」
二人の反応を他所に加藤は大きく深呼吸をして天井を見上げて、目を閉じた。ややあって土居の方に居住まいを正すと、口を開く。
加藤「彼女は言ってましたよね?世界の影響力がそれぞれの世界に災いをもたらすと……つまり世界には影響力の許容値みたいなものがあって、それに余裕がある方に余裕のない方の影響を移す…分かりやすく言えばここにある紙コップのように」
机に置いてある紙コップを自分と横の蕪木の分を手にして加藤は説明を続ける。
加藤「この紙コップをそれぞれの"世界"と仮定します。一方の世界の影響力…この場合はコップに入っている水がそうだとします。そしてコップのフチが許容値。ここにさらに水を出したとすると水は溢れる…すなわち世界の崩壊……だからそれを…こちらのコップに移してその影響を相殺して来た……これが今までの世界の在り方だとします」
加藤は追加で水を注いで一方を半分以上満たす。
加藤「ですが、双方共にその余裕が無い場合…片方どちらかにその影響力を分け与えた場合、与えられた方は受け止め切る事ができずに溢れて……」
蕪木「世界の崩壊……と」
土居「それが第三次大戦だったアンタは言うのか?」
質問に加藤は黙って頷き、眼鏡を上げて話を続ける。
加藤「このように世界にはそれぞれの影響の許容値があり、それを超えるとなんらかの形でその世界は崩壊する……しかしその一方の許容値が突然大きくなったとしたら……どうなると思います?」
蕪木「つまり……この紙コップを例えばバケツに入れる、とかの場合か」
加藤「はい。この容積一杯の紙コップをバケツに入れてさらに水を足しても紙コップからは溢れるがバケツの中に溜まって外に溢れ出る事はない……」
するとそこで土居はようやく合点がいったように立ち上がった。
土居「そうか‼︎つまりアンタの言ってた紙コップ…つまりはこの世界がより大きな世界に飲まれた事で……」
加藤「我々の世界で第三次大戦が起こるリスクがもしかしたら低くなる可能性がある……」
蕪木「……なるほど。確かにそう言われると納得はいくが。それはまだ仮説にしか過ぎないのだろう?」
その問いに加藤は何処か居心地が悪そうな目つきだった。
少しして再び口を開いた。
加藤「……はい。まだ仮説に過ぎないのは事実です、それにこの話自体に落とし穴…世界ごとの許容値の大きさが関わってくるのでなんとも言えません……」
土居「だとしてもまだそうなる、そうならないとも言えないんだろう?だったらアンタが直にその"大賢者"に聞きに行けばいいんじゃないのか?」
土居はそう言いながらライターを取り出して泰然と構えていた。
内心彼の説明を聞いて変人だと半分は思いつつも、その内容や説明を聞いて一目置いてるようにも見えた。
蕪木「そうだな。そういうのは専門家に聞いた方が一番早かろう、それに君もここのところ艦にすし詰め状態で頭が回っとらんのかもしれんぞ?
半ば処分とも取れる内容に加藤は特に意見する事なくゆったりと立ち上がって室内で行うような、十度の敬礼をして部屋から退出した。
蕪木「……あの仮説、どう思います?」
土居「さぁ…でも内心あの説明の通りであってほしいとは思ってますよ」
翌日、私物の入った鞄を持って加藤は作業艇の待つ舷梯へと向かった。
海自幹部の白い夏制服に制帽姿だ。
彼として私服かせめて作業服で上陸できないものかと思ったが、異世界とはいえ外国の地に上陸する以上そういった無礼はできない規則だった。
「おや加藤二佐、珍しいですね上陸ですか?」
甲板に出ると、ずらりと作業服姿の乗員達が釣り糸を垂れている光景が目に飛び込んできた。
年季の入った釣り用の折り畳み椅子から振り返ったのは”いぶき”の掌帆長だ。
加藤「まあね。みんなは"F作業”かい?」
加藤はまさか仕事を干されたとは部下に言えず、曖味に答えて話題を変えた。
海自では暇な時間に釣りをするのを"F作業”と呼ぶ。単に"Fishing”の頭文字を取っただけの雑作業である。もっとも、長期の航海になってくると護衛艦は必然的に魚などの生鮮食品が食卓に上がらなくなるので、献立の充実のためにもバカにできない作業だった。
海猫の鳴く声がのどかに聞こえる。加藤は蒼い南国の空をなんとなしに見上げながら、作業が出るまでの時間を釣りでも眺めて過ごそうと思った。
「そうなんですが、実は……お!」
掌帆長は自分の竿に来た当たりを引き上げる。釣り上げたのは、手のひらにも満たない小さな魚だった。掌帆長の釣りの腕前は、そこまでではないようだ。
舌打ちし、これもフライにでもすれば立派な食材だと呟いてバケツに放り込む。と、そこへ、突然そのバケツの隣に、五十センチは超えるであろう大きな魚が飛び込んできた。
加藤「うわあ⁉︎」
ビチビチと元気よく跳ね回る魚に、加藤が驚き慌てふためく。
海上自衛官でありながら、魚などの生き物にあまり馴染みがないのが彼だった。
慣れた手つきで、掌帆長がハンマーで魚を気絶させ、バケツには入り切らないので後ろに置いてあるクーラーボックスへ収納した。これだけ大きければ、刺身か、あるいは豪快に丸ごとホイル焼きにでもすれば、きっと美味しいだろう。
加藤が、一体この魚はどこから飛んできたのかと、海を確認すると一「そっちの方がおっきいよー!」海面に、見知った顔があった。
加藤「クリスティア⁉︎」
人魚の国、水底の王国のお姫様だ。加藤とは少なからぬ縁がある少女だった。
クリスティア「あっれー?カトー様も魚釣り?」
加藤「い、いや、僕は違うけど、何してるの君ら?」
よく見れば、クリスティア以外にも時折、人魚達が海面に浮上してきては、魚を甲板に向けてブン投げている......乗員達が時間をかけて釣った魚よりも、どれも大きいし、数も多そうだった。
釣るというより、直接潜って捕獲してきているのだから、それも当然だろう。そのていたらくに学帆長が、若い隊員達を叱咤する。
「お前らもっと気張ってデカいの釣らんかい!」
「無茶いわんといてくださいよ掌帆長お………」
魚とともに生活しているような人魚達相手に、趣味程度の釣りスキルで対抗しようというのがどだい無理な話だった。
「”イブキ"様のために新鮮なお魚が要るんでしょー?だから私達も手伝う
のー!」
クリスティアは役に立っているつもりで嬉しいらしく、満面の笑みである。掌帆長に加藤が視線を移す。
「………いや、最初に”F作業"を艦に重要な任務だと冗談で説明したら、彼女ら真に受けてしまいまして」
どうやら、彼女らがこの護衛艦”いぶき”を神体扱いしているのを軽く考えていたらしい。
彼女ら人魚達にしてみれば、お供え物をする感覚で魚を捕っているのだろう。さしずめ、投げ込まれる魚は、神社のお賽銭といったところか。
今までも何度か、人魚達は“イブキ”様のためにイカダに海産物を載せてお供えにきており、それをありがたく艦内で調理して食べていた。ただでさえ異世界という情勢不安定な環境にいるため、食料は可能な限り現地調達し、元の世界から持ち込んだ保存食品類は節約すべしという方針が早々にとられていた。"F作業”もその一環である。
毎日、暇があれば甲板から釣り糸を垂らして魚を釣っている乗員達を見た人魚達の中で、奇妙な理解がされるのに時間はかからなかったのだろう。
クリスティア「ねーねー!カトー様!今日は大漁だよ!"ヤマト"様にも分けて来ていいかなー?」
クリスティアは海面から"いぶき"の奥に停泊する巨大な船体を見て加藤に尋ねる。加藤は彼女の言う"やまと"に目を向ける。
加藤「やまと……か」
初めて間近で見たときに夢でも見てるのではないかと疑ったのはまだ記憶に新しい。やまとの"砲雷長"から話されたスペックを加藤は脳内で反芻させる。
加藤(全長263m、基準排水量6万8000トン、主砲は60口径46cm砲を九門搭載、その上イージスシステムにVLSにトマホークや最新の純国産巡航ミサイルまで搭載……か)
改めて加藤はやまとの強大さを感じた。
かつての日本海軍、現在の海上自衛隊の原型となったその組織が保有した最強の戦船が、技術という新たな力を得て現代に適応しさらにその強さを増した。この"いぶき"が正面から……いや全ての面において"やまと"の方が上だとは誰もが納得せざるを得ない。
「海の民なら、漢なら、みんな一度は憧れた……か。まさかあの大和を生きてる内に…それも異世界でお目にかかれるなんて光栄ですな」
掌帆長が首を回して加藤と同じように"やまと"に視線を送っていた。
加藤「日本人の誇り……か」
すでに知っていたことだが、それを改めて感じたのである。
海上から見上げる護衛艦の存在感は相当なものである。現代人でさえ、初めて見たときは、護衛艦がこんなに大きなものだったのかと気づかされる。それが一昔前の戦艦ならさらに大きいと感じるだろう。
その"やまと"の艦内。ここでもまた一つの結論が出ようとしていた。
士官室には沖合の母艦からやって来た各国の指揮官らが所狭しと座っておりここ数日間での交流から得られた情報を精査して、衛星通信で繋がったハワイの本部とやりとりをしていた。
「まず視認できる範囲、および上陸して得られた情報から転移して来たのが我々が脅威として認識してきた"古の魔法帝国"とは程遠い存在であると結論付けられました」
アメリカ人参謀の言葉に異を唱えたり、反応する素振りを見せる者はおらずそのまま話を聞き入っていた。
「このマリースアを含む近隣諸国の文明レベルは中世紀レベル。転移当時のクワ・トイネと同等です。国家技術レベルはC」
《国家技術レベル》
PRTOが定めた一種の判断基準でありAを21世紀レベルとし、Bを20世紀レベル、Cを中世紀かそれ以前のものとして区分している。
他にも《法制度レベル》というものがある。
これはAを帝国、独裁主義。Bを社会主義、共産主義。Cを民主主義、立憲主義とするものである。
これらの情報を統合して《国家脅威度》として図る事もでき、これにはABCの判断基準と共に《+.-》が付く事で脅威度を見極める事ができる。
A+.交渉不能。侵略国家もしくは独裁国家と断定すべし
A-.交渉困難。聞く耳を持たず傲慢で非人道的、非民主的である事。
B+.交渉困難。国家としての改善の要あり。
B-.交渉可能。比較的友好的ではあるが油断はできない。
C+.交渉可能。しかし伸びしろは注視すべし。
C-.交渉可能。友好国として認定すべし。
「よってこれらの情報から出された国家脅威度はC-。比較的友好であり国交の開設には問題はありません。ですがさらなる情報収集で得た"継承帝国"なる国は別です」
資料をめくって説明が続く。
「この帝国は国家技術レベルこそBといった具合てすが、法制度レベルは最悪のA。国家脅威度はA-、良くてB+ですが……これはあくまでも何事もなく接触できた場合です」
「どういう事だ?」
高官達がざわつき始める。参謀が場を沈めて説明を再開する。
「それというのも彼らがこの世界へ来る前、もといた世界でそちらに転移した自衛隊と戦闘を起こした影響で彼らを含む周辺諸国に敵対心に火をつけたのです。もっとも彼らの戦闘の理由が人道的な点が多分に含まれている為やむを得ないものもありますが……」
話を聞いた高官達はうーんと唸り声を上げる。
つまりまた一戦交える事がほぼ確定したのだ。前回は特殊な条件下で異世界と別の地球世界が繋がっていたということもあって身を引いても問題は無かったが、今度ばかりはそうは行きそうにもない。
「話がずれるようだが、ところで転移して来たのは魔法帝国とはどういう関係があるんだ?」
海自側の指揮官である深町司令が疑問を口にする。確かに魔法帝国でないことは分かったが、状況証拠から見て魔法帝国であるのは確実だが蓋を開けてみれば別物なのだ。
「それについては我々から」
彼の疑問に答える形で名乗りを上げたのは同じく海自の幕僚だった。
「我々は情報収集を行い歴史や文化の観点から魔法帝国との関連性を調べて見たのですが、確かに帝国とは程遠い存在ではありましたが、そうではないとも言い切れません」
「詳しく聞いても?」
「はい。つまりは"成れの果て"です」
「「成れの果て?」」
高官達は思わず口を揃えて同じことを口にした。
「かつて魔法帝国は
「有翼人?」
「読んで字の如く、翼の有る人。どちらにも翼が共通しています。この共通点と先に述べた情報から我々はこう推測したのです」
首席幕僚はモニターを切り替えて別の資料を映し出す。
「帝国はかつて魔力によって未来に飛ばされた……のでは無く厳密には別の世界に転移させられた、もしくは別の空間に幽閉された。その先で彼らは奴隷や資源を得る為の餌となる国家が存在しなかった。それにより徐々に資源や奴隷は数を減らしていく。次第に彼らは同族間での責任転嫁を始め、傲慢な態度が災いして幾つかの派閥に別れて対立しやがて戦争へと発展。長期化した事で様々なインフラや設備が失われて技術を維持できなくなり、技術・文明レベルは低下。そして戦争によって光翼人は数を減らして同族間でも信用できなくなる、逆に運良く生き残った奴隷達は互いに団結し合って頃合いを見て叛乱を起こす。それによって自由を勝ち取ったかつての奴隷達が各地に散ってそれぞれの形で国家を再建し……現在へ至り、魔法の効力が切れてこの世界にやって来た……と仮定した訳です」
合点を得られたように高官達は頷く。
深町「なるほど……つまり奴らは帝国であって帝国でない……その成れの果てと……よく分かったよ」
「はい。ただあくまでも仮説の域を出ないのでまだなんとも言えませんが」
深町「十分さ。この説をある程度纏めてハワイに転送しろ、そこから各国の軍首脳部に見てもらおう」
しかしそれから一週間と経たない内に彼らにも予想外にして最悪の事態が起こった。
"シーホーク2墜落"
その短い一文が"いぶき"を通じて全体に伝わった後の行動は流れるようにスムーズだった。
米艦隊の中に含まれる揚陸艦に分乗していた陸軍装甲歩兵師団の指揮官が一個分隊を用いての救出を提案。"いずも"から指揮を取っていた深町司令は特殊作戦群と台湾陸軍特殊部隊も付ける事も含めてこれを快諾し、揚陸艦"おおすみ"から3個小隊計18名を乗せたUH-2が3機発艦した。
「まさか我々特戦群の久方ぶりの任務が
UH-2の中で松原一佐はHK416の握る手に力が入る。
万一に備えて艦隊に同行していたとはいえ、こういった任務は想定外であった。無論自衛隊にも専門の救難部隊はいるがそれをいちいち本邦から呼ぶ程能天気ではないし、敵地に降りても高確率で生き残れる技量を持った自衛官となると自分達しかいない。
それに対象が別の世界とはいえ同じ自衛官なのだ。
これを黙って見ていたとあっては、上から何も言われないはずがないし自衛官としての感性も問われる。ならば尚のこと黙って見過ごす事はできない。
『あーあー聞こえるか?こちらコールサイン"ジェロニモ"。パイロットの小山今朝松一等陸尉や。そちらの救難部隊の指揮官さんはおるか?』
インカムを通して聴こえて来た関西訛りの声に松原は動揺する事なく返答した。
松原「こちら救難部隊指揮官の松原一佐だ。"ジェロニモ"よく聞こえるよ」
遠目に見えるAH-64DとOH-1に視線を送る。
攻撃ヘリが護衛付きとは中々豪勢だと松原は思った。
小山『おー同じ自衛官か!ならよかったわ松原はん良いニュースと悪いニュースあるけどどっちから聞く?』
松原「いい方から聞こう」
小山『せやな。まずパイロットやけど猿渡一尉っちゅうパイロットが一人生きとった。で悪いニュースやけどその猿渡はんが敵に捕まったみたいなんや』
松原「……そうか」
冷徹とも取れる返答だが相手の方が階級は上である為小山は話を続ける。
小山『それでや松原はん、ワイらが敵を蹴散らすきその間に猿渡はんの救助を「だめだ」は?』
松原「一尉、それは難しいとしか言いようがない。考えてみろ相手は軽装だったとはいえシーホークを叩き落とした連中だ。こちらも確かに重装とはいえ着陸してから敵を掃討しつつ負傷者の救出、そしてヘリへ乗せるとなると幾らアパッチがいるとはいえ3機のUH-2を護りながら戦うのは無理だ」
小山『せやけど松原はん…』
松原「……まぁ聞け。だから君たちが敵を蹴散らし、そこに着陸する。そこまでは良い、だがそこからUH-2は退避させる代わりにおおすみからハリアー2機とオスプレイを要請する。君たちはハリアーが着くまでに上がるであろう敵のドラゴンを引きつけて欲しい」
小山『なるほど…そないな事やったら任せとき。その代わり猿渡はんを頼むで?』
松原「ふ…任せてくれて当たり前だ。我々は"特戦群"だからな。交信終了」
最後に聞いたワードの重大さに小山は思わず息を飲んだ。
小山「池田三佐……特戦群て……」
小山は前部座席に座る池田三佐に話しかける。
池田「あぁ……あの空挺団を超える……精鋭中の精鋭と言われる陸自の特殊部隊……がお出ましとは……」
小山「大船に乗ったつもりでおれ言うつもりやったのに……大船に乗ったのはワイらやないか……」
彼らの世界にももちろん特戦群は存在するがそのワードだけでも存在感をアピールするには充分すぎる程だった。
松原「もうすぐだ。台特*1は墜落地点で搭乗員の収容とヘリの爆破処分。それが終わり次第我々と合流してくれ。装歩は我々と共に敵地へ降下、直ちに猿渡一尉の確保だ」
『收到!』
『yes sir』
AH-64DとOH-1を先頭に3機のUH-2が後に続く。
松原は慣れた手つきでナイトビジョンを下す。
村の広場に、捕らえられた村人達が集められていた。数は五十人は下らないだろうか。
「サワタリと言ったな・・・・・・・」
負傷と出血で荒く息をしている猿渡は、辛うじて返事をする。
猿渡「ああ」
その様子を、少し離れた場所で、愛騎のヴァリフとともに、竜騎士リウは苦虫を噛み潰したような顔で眺めていた。
リウ「……我が言う通りに、お前の仲間をここへおびき出せ。一切抵抗させずにだ」
猿渡「言っただろう、断る!」
猿渡は、たとえ自分が死ぬことになろうが、これ以上、自分のせいで仲間の命を危険にさらしたくはない。
「そうか、ならば仕方ない」
暗魔兵団長ザラームはあっさり応じ、配下の兵士に指を鳴らして合図をした。すると、兵士は集められた村人から一人の中年男性を引きずり出すと、島と島を繋ぐ滑車乗り場がある崖のそばへ連行する。
猿渡は、一体何を始めるつもりだと、呆然とその様子を見守った。
「な、何をすんだやめてくれえ!」
兵士は、彼の首に縄をくくりつける。
一体何をしようとしているのか理解した猿渡が声を上げるよりも早く、兵士は何の躊躇いもなくその男を崖の下へと突き落とした。
男の短い悲鳴が、猿渡の顔を凍り付かせた。
リウも、思わず目を逸らす。
リウ「むごいことを……」
だが、ザラームは一切感情に変化もなく、落ち着き払った様子で再び猿渡に質問していた。
ザラーム「……さて、考えは変わったか?」
猿渡「お、俺は………」
猿渡が頭が真っ白になって何も答えられないでいると、ザラームは再び指を鳴らした。
集められた村人の中から、兵士が新たな生け贄を物色しはじめる。村人達が泣きながら命乞いをする様子は、猿渡から冷静さを奪うに十分だった。
猿渡「や、やめろ!やめさせてくれっ!」
ザラーム「やめさせてもいい。ただし、貴様次第だ、サワタリよ......今度は二人だ」
親子だろうか、若い女性と、幼い女の子が引き立てられてきた。
「嫌あ助けてぇ!」
「お母さん!」
処刑台と化した滑車乗り場に、兵士達が連行していく。二人が泣き叫ぶ声に、猿渡は耐えられなかった。妻の姿と彼らの姿が重なってしまったのだ。猿渡は、良き人であるが故に、弱さを持った男だった。
ほとんど懇願するように、猿渡は叫ぶ。
猿渡「分かったっ!分かったからやめてくれ!頼む!」
ザラームが、能面のような顔を猿渡に近づける。
ザラーム「お前達は、自身が死ぬよりも、他人が死ぬことに心を痛めるらしい。実に興味深い性質だ………」
ザラームには、闘技場で剣奴を救い、自身を疎む者まで見捨てなかった"聖戦の炎の英雄”の姿が思い出されていた。
自身の危険を顧みないのならば、逆に考えれば良い。守るべき者の命を危険に晒すのだ。
ザラームが、リウの方を向く。
あの魔道具を持ってこいと促しているらしい。リウは舌打ちをしてザラームのもとへ向かう。
ザラーム「では、やってもらおうか」
ザラームは猿渡に無線機を渡した。
猿渡は、自分が迂闊なことをすれば、すぐさまあの親子が処刑されるという恐怖心に突き動かされ、無線機のトークボタンを押した。もはや、冷静な判断など望めようもなかった。
猿渡「…こちら"シーホーク2”機長、猿渡。”ジェロニモ"聞こえるか?」
しばらく待ってみるが、無線機からは応答はない。
猿渡「こちら"シーホーク2"……聞こえるか?」
砂嵐のようなノイズが聞こえてくるだけだった。
まさか、と猿渡は戦慄した。
敵の支配圏にこれ以上深入りはできないと、撤退命令が出たのでは。
ザラーム「努力が足りないようだ」
ザラームが指を鳴らし、滑車乗り場であの親子の首に兵士達が縄をかける。
猿渡「待ってくれ!通信が繋がらないだけだ!もう少し時間をくれっ!」
ザラーム「時間がないのは我らも同じだ」
ザラームが冷酷に応じる。
兵士達がーの上に二人を立たせた。
リウは、その瞬間を見たくないために、背を向けて愛騎の元へと戻る。
リウ「……ヴァリフ?」
だがリウは、愛騎の様子がおかしいことに気づいた。
低いうなり声を立てつつ、低く構えて周囲を警戒している。まるで、恐ろしい何か”が間近に潜んでいるかのような、まさに臨戦態勢のときしか見せない仕草だった。
リウ(何かが来るのか⁉︎…ヴァリフ!)
リウが直感的な危機を抱いた瞬間だった。
猛烈な風と、けたたましい"音”が辺りに響き渡る。
咄嗟に振り返ると、哀れな生け贄達の足下から、まるでせり上がってくるかのように、"何か"が崖下よりゆっくりと姿を現してきた。
緑色や茶色の体表を持つ、この世のものとは思えぬ角張った外見の異形の物体。せり上がってきたように見えたそれは、なんと空中に静止した姿勢のまま上昇してきたのだ。
リウ「なっ⁉︎… 何だあれはっ‼︎」
リウが巻き上がる砂埃に顔を覆う。
圧倒的な存在感を纏って目の前に浮遊するそれが、異世界の戦闘兵器AH-64Dアパッチ・ロングボウであるとは、彼には知る由もなかった。
小山「おーおー。ぎょうさんおるわ」
機体をホバリングさせながら、小山は後部パイロット席で、一見するとキョロキョ口としているかのように首を回した。彼の被るヘルメットに取り付けられた、
IHADSSは戦闘ヘリのパイロット特有の装備で、コンビナー・レンズと呼ばれる、画像投影眼鏡を片方の目に当てる。すると、そこに戦闘ヘリのアローヘッド・システムと呼ばれる、機首の高性能カメラ類を収めたセンサーターレットから得た高解像映像を投影してくれるシステムである。肉眼に頼ることが多かった従来のヘリ戦闘においては画期的なシステムだ。
小山の日の動きに合わせて、ヘリの機首の先端に装備されているセンサーターレットが動く。
人間の目が、高倍率望遠、あるいは赤外線解像や暗視装置を介した映像とリンクする。さながらそれは、獰猛な肉食獣が獲物を探し出すべく研ぎ澄ました知覚を、人間が機械の力で代用しているかのような、科学が作り出したハンターだった。
小山「外道なことしてまんなぁ」
小山は口調こそ軽いが、村を焼き、人を吊るしたその惨状を前に、目は一切笑っていなかった。ホバリング状態を保つ操縦桿を握る手が震える。小山とて、目の前で人が殺されているのを見るのは初めてだ。
だが、今はそんな感傷よりも優先すべきことがある。
「猿渡一尉おったでよ!」
前部の射手席で池田が叫ぶ。
小山は、高感度カメラを猿渡の方位に向け、拡大して彼の姿を確認した。
血だらけで、憔悴し切った顔のパイロットが確かにいた。
ぎり、と小山は奥歯を噛みしめる。敵の目をかいくぐるために、偵察ヘリのOH-1と連携しながら、それもUH-2を誘導しつつ死角から迂回しながら超低空の匍匐飛行をしてきたため、時間がかかった。
アパッチのような最新鋭のヘリには、生存性や奇襲性の向上のために飛行音の静音化も図られている。隠れて飛べば、音からでさえ簡単には見つからない。
四枚のメインローターブレードの先端にわずかに後退角が付けられていたり、テールローターがX字型に回転しているのは、このための新技術である。だが、もう少し早ければ!
小山「救助対象を確認!松原はんやるで‼︎」
松原『了解』
短い返事の後遅れて2機のUH-2が崖下から競り上がりドアガンとしてつけられたGAU-21が照準を合わせる。
松原「救助対象と村人には当てるな、斉射開始っ‼︎」
単調な命令がインカムを伝たわり、ガンナーがトリガーを引くと同時に一方的な"掃射"が始まる。
小山「往生せいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
そのとき起こったのは、まさに"鉄の嵐”だった。
凄まじい勢いで何かが横殴りに飛んでくる。地を摂り壮絶な土壁を撥ね上げ、人に当たれば木っ端微塵に粉砕していく。まさに人が血煙と消えるに等しい光景だ。
逃げ惑う兵士達だが、まるで呪いのように彼らを"鉄の嵐”が襲う。かすめただけで手足や首が吹き飛ぶほどの威力に、地上にいる者は誰一人抗いようもなかった。攻撃というよりも、天災のごときものが現出している。
断続的に続く耳を購く爆音と衝撃波が島全体に響き渡り、野鳥が鳴き喚きながら一斉に空へと逃げ出していく。この光景はまさに地獄絵図だった。
リウ「うおおっ‼︎」
何だ⁉︎何が起こっている⁉︎
土煙と爆風、悲鳴と怒号が巻き起こり、何かが重く、しかも高速でかすめ飛ぶ恐ろしい音色を前に、リウはなす術がない。ほとんど本能的に、地面に伏せていた。騎土として、最も恥ずべき姿であることを気にする余裕さえなかった。
松原「着陸許容時間は15秒が限界だ‼︎その間に全員降りろ‼︎」
掃射を完了したUH-2が広場の空いたスペースに着陸するとヘリの内部から特戦群6名と装歩6名が降り立ち、間をおかずにUH-2は急いで離脱する。
土煙を払いながら松原達は素早く猿渡の元へ駆け寄る。
松原「猿渡一尉だな⁉︎救助隊だ‼︎」
猿渡「あ……あぁ……」
突然現れた迷彩服の隊員に困惑しながらも猿渡は彼らが味方であると理解して安堵の表情を浮かべる。
松原「よし…早く安全な…⁉︎」
突然目の前に立ちはだかった黒い影を前に松原達は立ち竦んだ。
ザラーム「その男を渡せ。さもなくば貴様ら全員死ぬことになるぞ」
言い終えた直後、松原のすぐ後ろでボンという爆音がした直後にザラームは大きく吹き飛ぶように仰け反りその場に倒れた。
「渡せって言われて渡すヤツが何処にいる?バーカ‼︎」
すぐ後ろで発砲したのはGM-6 リンクスを私物として購入した宮田二尉であった。
松原「バカやろお…宮田!鼓膜が破れたかと思ったぞ⁉︎」
宮田「下手にドンパチやるよりはマシでしょう?早く猿渡一尉を安全なところへ!」
松原「ったく。ジェイク大尉!ここは任せていいか⁉︎」
「No problem!さ、行きな‼︎」
猿渡を抱えた特戦群の隊員らは安全な物陰を探してその場を離れる。
ザラーム「小癪なことを……」
ザラームは何事も無かったかのように起き上がると米兵達を睨みつけた。
「WTF⁉︎死んでねぇのかよコイツ‼︎」
ジェイク「怯むな‼︎むしろ奴らに教えてやれ‼︎自分達が何を敵に回したかってよ‼︎」
「「yes sir‼︎」」
ザラーム「貴様達もルーントルーパーズの一味か?」
迫るザラームと兵士達を前にジェイクは高らかに答える。
ジェイク「Rune Troopers?その答えはNoだ。俺たちは……」
「「
マスク越しからでも分かるような叫び声と共にストーナー63とスマートガンを乱射しまくり暗魔兵団のアサシン達を次々と薙ぎ倒し、撃ち終わった空薬莢がカランカランと音を立てながら転がる。
松原達が猿渡一尉の安全を確保した頃。
「こちら”ジェロニモ"!敵と交戦、突入する!」
ー異世界の海と、突岩が林立する光景が眼前に広がっていた。
小山は叫び、アパッチが出せる最高速度に近いスピードで敵の懐の中へと単機で突入していく。
刹那、帝国軍の竜が三匹、すれ違いにかすめ飛んでいく。
あの中のどれかに、無線で話したリウとかいう長格がいるはずだ。
…………コヤマ、お前に出会えた運命を、神に感謝したい。
奴は確かにそう言った。
正気か?
敵に出会うことのどこが嬉しいというのか。
小山には理解できなかった。理解できないが、何故かリウの言葉が気になった。だが、今はその理由を考えているどころではない。
急激に風景が変化する中、眼下に撃墜されたシーホーク2の残骸が肉眼で視認できるが、速度を落としたり、ましてやホバリングしてじっくり観察する余裕はない。周辺に数人の人影があった気がするがそれも気にしてる暇はない。
小山は、松原一佐達が無事に猿渡一尉を確保した事を祈ることしかできなかった。
そして、アパッチ・ロングボウの特徴の一つである、素敵レーダーの情報画面を見て申く。
別の空域から監視しているOHI1偵察へりから送られてくるデータリンク情報である。敵機の捕捉漏れはおそらくないはずだ。
小山「あかん、思っとったより敵さんの立ち上がり早いで!」
敵がこちらの指示に従わず人質を取った以上、戦闘は不可避と判断。
地上にいる段階でもっと数を減らしておくべきだったが、拘束されていた猿渡一尉を救出するためにもUH-2と共に30mmチェーンガンで周囲の敵兵の掃討をするのが先だった。
その後、離陸した瞬間の一匹を91式ミサイルで撃墜。
対地索敵モードで事前にレーダー捕捉した数は十匹だ。これで敵の残りは九匹。
だが、彼らの動きには躊躇いがない。地上にいるよりも空に上がって戦闘態勢に移ろうとする流れは見事の一言だった。アパッチの強みである奇襲性能はこれで薄れることになった。
それについては、小山の誤算だった。
実戦という状況に混乱はつきものだ。訓練では補えない限界というものがある。
小山は、後部パイロット席で、彼の被るヘルメットに取り付けられた、統合ヘルメット表示照準システムを巡らせた。彼のバイザーカバーに描かれた鷹の羽が動いているように見える。
『やぁジェロニモ。お手伝いは必要かい?』
突然無線に入って来た声に2人は慌てて周囲を確認すると遠くから2つの影が近付いてくるのが見えた。
竜のように羽ばたいていないそれを見て小山は奮い立った。
下方向に傾斜の付いた高翼位置の主翼と尾翼、バブルキャノピーとその横に大きく口を開けたように広がるエアインテーク。そして機首と主翼の先端に大きく描かれた赤い丸。
『こちらコールサイン"スパイダー01"及び02。機体はFV-1BJ ハリアーⅡだ。作戦通り君たちの支援に来た』
小山「こちら"ジェロニモ"感謝するで"スパイダー01"スパイダー02"。敵は9騎や、そちらさんの弾は大丈夫か?」
『問題ない。AAM-3とAAM-4が2発ずつ2機合わせて8発、腹には25mmもあるし充分さ。ノルマは1人あたり3騎といったところか』
小山「せやな…ほな行くで‼︎」
『教えてやろうじゃないの、
空戦は疾空竜騎士団の惨敗とも言っていい結果に終わった。
1騎を除いて空に上がった竜はミサイルと機関砲の餌食になった。
間も無く制空権確保の報告を受けたオスプレイが救助に降りた部隊と猿渡一尉、そして"シーホーク2"の残りの"パイロット達"も収容。
墜落した機体は爆破処分された。