環太平洋機構召喚 【リメイク前:自由連合召喚】 作:暁司令官
He is coming
"異世界での戦闘において初の自衛官の死者が出た"という事実は衝撃を伴って各所を駆け巡った。
状況が状況であったとはいえ、今度ばかりは敵が容易ならざる者であると楽観的な雰囲気が漂っていたPRTO軍とその現地にいた調査艦隊のそれを払拭するには充分であり
いずも 士官室
広々とした士官室のテーブルを挟んで二人の海将補が向き合って座り、片方は険しい目つきでもう片方は視線を落として自責の念に駆られた目をしていた。
深町「蕪木司令。私が言いたいことは、おおよそ検討がついていると思います」
この部屋に二人が入って30分余りにが経ってようやく深町が口火を開いた。
蕪木「はい。今回の一件は私の認識の甘さが招いた事態だと…」
深町「それだけではない。怠慢ではないにしても…貴方方には何処か浮ついた様子があった………違いますか?」
それは否定できなかった。
確かに別の世界の、それも同じ名前の組織があると聞いて気が舞い上がっていたというのもある。それは素直に認めるべきだ。
蕪木「……否定はしません」
深町「……蕪木司令。貴方の従属する日本と我々の世界の日本と違うのはよく分かっている。ですが今回の一件で上も黙ってるつもりはない」
反対側に向けて一枚の資料が渡されると、蕪木はそれを手に取り目を通した。
深町「貴方達が元の世界に帰還できるまでの間、我々の管理下で行動してもらいます。勿論全てにおいてそうしろとは言いません。言い換えれば…"貴官らの行動にPRTOも随伴、互いの軍事作戦にも有無を言わさず強制参加する"…といった所です。まぁ元の世界に帰れるという保証があればの話ですが…」
蕪木は黙ってその指示を受け入れるしかなかった。
もし仮にこれ以上戦闘が起きる場合は今回以上の死傷者が出るのは間違いないと言っていい。味方が増えるのと引き換えに行動の自由度はやや制限される事になる。
深町「…ところで帰れる前提で聞きますが、ご遺族への訃報はどう書くつもりで?」
蕪木「……なんと書いたものか。バカ正直に"竜騎士と戦って殉職した"と書くべきか、"現地の武装勢力との武力衝突により殉職"とすべきかで」
深町「書くべきです。事実を」
蕪木が言い終わるより早く深町が言葉を遮って言った。
深町「蕪木さん、遺族の方には知る権利があります。自分の息子が、あるいは父が、どうして何があって死んだのかを。それをあたかもそうだったかのような嘘で取り繕うべきではない。嘘は万民を欺く事はできない、勿論逆もそうだ。真実でも万民を納得させられる訳ではない」
深町は何処か遠くを見るような目をして話を続ける。
深町「しかしもし真実を語らなかったら私は一生悔いる。嘘を真実として信じて…やがて時間と共にうやむやになって風化する……それでは死んだ者への弔いにならない‼︎」
怒りで拳を机に叩きつける深町。
彼もベテラン、異世界へ来る前の世界でのアフガニスタンや各地の紛争地域へ派遣されてはそこで死んだ自衛官の訃報を数えきれない程書いてきた。
深町「文章だけでは納得してくれない?ならば納得させるべき物的証拠も持ち持ち帰れば良い、自分達が異世界に行ったという証拠を‼︎生物の肉片、異世界の硬貨、探せば幾らでもある」
蕪木「ですが…そんな事をしたら…」
深町「世界は少なからず混乱する……確かにそうかもしれない。だが嘘を伝えて一生を悔いるのと事実を伝えて責任を果たすのと、どちらが自衛官として……部下の命を預かる者としての責務を果たせるのか……よくお考えになるといい」
その一言を最後に深町は制帽を被って部屋を退出するも再び士官室を静寂が支配した。
だが蕪木の考えを改めさせると同時に覚悟を決めさせるにはそこまでの会話で十分だった。
政治的な面でも大きく動いた。
事態を知った日本政府は直ちに防衛出動を下令。内容は『転移してきた地域に魔法帝国と同等の危険度の国家の存在を確認。各国と連携し、世界秩序と国家の独立と自由を防衛せよ』という内容で下された。
類似の行動は日本帝国、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、台湾でも見られた。
各国は直ぐに戦力をハワイ諸島へと集結させた。
その内訳*1は【歩兵50万人】【重砲1000万門】【車輌20万輌】【航空機1万5000】【艦艇5000隻】が集結していた。実際は非戦闘員や空中給油機、輸送機に補給艦などの直接戦闘に関わることのないものも含まれている為より細かくすると直接戦闘に関わる数は少ないがそれを踏まえたとしても充分以上の何ものでもない。
勿論ハワイ諸島でただ待つばかりではない。移動可能な兵力と物資は既に移動を開始しており、第一陣として現地ー《ニホンレットウ諸島》ーへと向かっていた。
「レッドホーク1。間も無く目的地に到着」
『了解レッドホーク。こちらペガサス22。そちらの誘導に入る』
「レッドホーク1コピー」
付近を航行する航空護衛艦から発艦した警戒機が合流した。
パイロットは無線をOFFにするとヘルメットのバイザーを開けて周囲を見渡す。
「全く慣れんな…ハワイでさえ遠いってのに、こんな長距離飛行は御免被りたい」
疲れた様子で岡 甚哉一等
何故わざわざハワイからここまで長距離飛行する必要があったのかは彼らの乗る機体にあった。
それもその筈、彼らの乗る機体は空自で使われるF-15CJ改やF-35に比べてると大振りで西側にはない流線型のデザインが特徴的な《Su-27J フランカーJ》だからだ。
岡一佐の指揮する第二飛行教導群は当初ハワイでの行われる予定の軍事演習でアグレッサー役として現地にいたが、魔帝の復活が起きた事により待機命令が出ていた。結果として魔帝ではなかったが、それに類する強力な敵と分かると直ぐに現地に戦力を派遣する必要があるとされ、即時出発可能で長距離飛行も可能な部隊…という訳で彼らに白羽の矢が立ったのだ。
操縦桿を捻って部下達を先導するように飛行する。
島の裏側に特設滑走路があると聞かされていた岡一佐はその滑走路を見て「やっぱりな」と呟いた。
幾ら陸自の施設科が優れているとはいえ短期間で空港並みの滑走路を完成させるのには無理があるためか、米軍が持ってきた
誘導灯は間に合ったのか緑と赤のLEDが滑走路端から光っているのが見える。
岡「レッドホーク1からペガサス22へ。これよりアプローチに入る」
操縦桿をゆっくりと前に倒すのと同時にエンジンの出力も絞る。
段々と地表が細かく、くっきりと見え始める。視界の両端に滑走路が広がり、地面と並行になった感覚がしたのと同時にズンと重い振動がきた後に若干だが小刻みな揺れが伝わってくる。
岡「やっぱ急造だと振動が酷いな。まっ不純物吸い込むよりはマシか」
Su系に留まらずロシアの一部の機体は不整地での離着陸を想定して、エンジンの吸気口に石や砂といった不純物が入らないようにフィルターを展開できるようになっている。ただそれができるのはそういったロシア系の機体をもつ第二飛行教導群だけであるため、後から来るであろう他国の機体にも配慮して一旦はマーストンマットで妥協しているのだ。
誘導員の指示に従って機体を滑らせていると岡はこの仮設基地の周辺に野次馬と思しき異世界の人間がいるのを確認した。
最も警備の自衛隊員が周辺を固めているため顔は細かく見えないが、それらが異世界の人間ーこの島に移り住んだ人々ーだという事を理解するまでに時間は掛からなかった。
駐機場に機体を停止させてハッチを開けると昇降ハシゴが掛けられて岡はそこから降りる。
「お疲れ様です」
岡「おう。お疲れさん」
下で待っていたベテランの整備員に軽く挨拶をしながら岡はヘルメットを脱ぎ、フライトジャケットの首元を緩める。
岡「参ったよほんと。ハワイからここまでの長距離飛行は!幾ら空中給油が一回で済むとはいえこれはないぞ」
「即時展開が求められる以上、やむを得ませんよ」
岡「あの連中は?」
岡は遠くに見える島民を顎をしゃくって指す。
「あぁこの島の住民ですよ」
岡「それは分かるよ。なんでここに?」
「どうも我々の到着が噂となって広かったみたいです。"ルーントルーパーズの鉄の竜が来る"って」
岡「ルーントルーパーズ?なんだそりゃ?」
岡のもっともな疑問に整備員は場が悪そうに答える。
「知りませんよ。彼らの自衛隊に対する呼称というぐらいしか」
岡「な る ほ ど ね」
その後も続々と飛行教導群は着陸を続ける。
この日到着した機体は【Su-27J×16機】【MiG-29J×14機】合計30機がニホンレットウ諸島へとやってきた。
それから数日の間に空と海の両方からある程度の物資や車輌、武器に弾薬類が運び込まれる。
そしてこの日は珍しくC-2輸送機が降りて来た。
物資の中身はパトリオットミサイルを駆使して防空を担う第1高射群第2高射隊が車輌と共に降り立つ。
そんな中、複数の自衛官に続いて最後に一人の陸上自衛官が降り立つ。
「あ〜っ!やっと着いた〜‼︎」
荷物を下ろして大きく背伸びをする彼だが、その立ち姿は何処となく頼りなさが感じられる。
「まったく……"日本に行け"って言われて行けば次は"ハワイに行け"と…そしてまさかこんな所に来させられるとはな……まぁ
その独り言の内容には妙に違和感を感じる内容が多く含まれる。
「さてと…!とりあえず、挨拶しに行きますか」
彼の肩にある階級章は"二等陸尉"を示している。
そして胸の刺繍名札には"