祠を壊されてしまったTS娘「また、あの祠を壊したんか!?」   作:葛城

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※ ホラーが書きたくなった、これはホラーです


祠を壊されてしまったTS娘「また、あの祠を壊したんか!?」

 

 ──だれも住んでいないマンションの管理を期間限定で行ってほしい。

 

 

 そんな風変わりな依頼が『名無子心霊相談室』に来たのは、初夏を通り過ぎて本番に差し掛かろうとしていた時期である。

 

『名無子心霊相談室』とは、その名の通り、心霊に関する相談を全般的に受け付けている事務所であり……要は、オカルト系の問題を解決して報酬を得る、という会社である。

 

 まあ、会社とは言っても、小規模の中の小規模と言っても過言ではないぐらいに小規模で、実質的には一人親方みたいな感じである。

 

 それ自体は、日本全体を見渡せば、特に珍しいことではない。

 

 心霊相談室なんていう風変わりな事業内容を除けば、やっていることはフリーランスみたいなものだからだ。

 

 けれども、この相談室に限り、他とは決定的に違う点がいくつかあった。

 

 それはまず、生きている従業員が、社長を兼任している名無子という名の少女しかいないということ。

 

 それの何が他とは違うかって、なんといっても少女の見た目である。

 

 具体的には、見た目が比喩抜きで幼いのだ。

 

 身長は、ギリギリ11歳女子の平均に届くかどうか。顔立ちも整っていて、客観的に見たら和服美少女といった感じの印象を抱かれる少女である。

 

 しかし、彼女の実年齢は見た目よりもはるかに高い。

 

 身長が11歳相当ならば、見た目もまた11歳相当。

 

 けれども、その実年齢は成人を超えているのは確実であり、誰も本当の年齢を知らないのである。

 

 なんで不詳なのかって、中年男性にもなると自分の年齢なんていちいち気に留めなくなるし、免許証を見返して現在から逆算しないと年齢が出せないからだ。

 

 だから、年齢は不詳だ。

 

 ただし、実際に見た目通りの年齢かと問われたら、先述したが、ちゃんと成人しているので……ん? 

 

 

 ──今、中年男性と言わなかったかって? 

 

 

 意味不明に思うかもしれないが、言った。そして、実は、理由がちゃんとある。

 

 実は、今でこそ和風美少女といった風貌をしている彼女だけど、一昨年までは日本では掃いて捨てるほどに居る中年男性というカテゴリーの中の1人だった。

 

 だったのだが、『とある事情』から、女の子に姿が変わってしまい、今の仕事に就かざるを得なかった……という、異色の経緯を持っている元男の美少女なのである。

 

 ちなみに、めたくそに強い。

 

 分かる人が見たら、思わず腰を抜かして動けなくなるぐらいに強い。それも、『とある事情』が関係している。

 

 この、『とある事情』を話すと無駄に長くなるので、知りたい方は前話を読もうね! 

 

 なお、呼んだところでそこまで話に関わってくるわけではないので、読まなくてもなんとかなる。

 

 さて、話を戻すが、この相談室が他とは決定的に違う点はまだあって、それは名無子を除いた従業員……実質的には1名しかいないけど、そいつが人間ではないということ。

 

 

 そいつを、名無子はポポポ女と呼んでいた。

 

 

 他には、クソでか脳禁筋トレバカ女だとか、筋肉に魂を売り渡した女だとか、プロテインの血液が流れているとか、色々な呼び方をされているが……その正体は、怪異と呼ばれる存在である。

 

 怪異とは、言うなればオカルト的存在と思っていただいて問題ない。

 

 あるいは、時に実体となって害をもたらす悪霊の一種……悪霊よりも一段階凶悪になった悪霊と言えば、想像しやすいだろうか。

 

 刃物で刺してもビクともしない(そもそも、負傷しない)のに、難しい漢字で書かれたお札には大ダメージを受ける……そういう感じの存在である。

 

 

 が、しかし。

 

 

 このクソでかムキムキ思考バカ女を一番具体的に言い表す言葉は、怪異ではない。

 

 その名の通り、筋肉。

 

 そう、このクソでか筋肉バカポポポ女がどういうやつなのかを表すのに一番相応しい言葉は、筋肉である。

 

 

 と、いうのも、だ。

 

 

 身長、約2m40cm強。

 

 体重、約240kg。

 

 女と呼ぶだけあって、男とは違っておっぱいもお尻も大きい。いや、それは大きいを通り越してデカいの領域なのだが、そこではない。

 

 それ以上に目立つのが……ダイヤモンドのように凝縮されたその身体はその実、推定240kgの筋肉を搭載した女……あん? 

 

 体重240kg強で、筋肉が240kg……それって、文字通り全身が筋肉で……難しい事を考えてはいけない、そういう怪異だと納得するしかない。

 

 ムキッと力を入れたら、それはもう力瘤に挟んで人が殺せそうな、それは見事な上腕二頭筋が隆起し、脈打つ血管の太さと来たら、惚れ惚れする。

 

 ぶっちゃけ、クソでかプロテインバカ女が、何気なくこぶしを握り締めたら、惚れ惚れするを通り越して大半の者が恐怖を覚えてしまうだろうが……まあいい。

 

 とにかく、今にも破裂せんばかりに鍛えこまれた筋肉を搭載した上半身ときたら、まるで鋼のようだ。

 

 腹筋に力を入れたら、もはや刃物はおろか弾丸すら皮を削るのが精いっぱいではと思ってしまう、見事に割れた筋肉が盛り上がり、今にも弾けそうなマグマを想起させる。

 

 背中を見せてポージングを取れば、放たれる強烈な肉圧によって周囲を威圧し、並みのマッチョ耐久力では成す術もなく倒れ伏してしまうほどの重圧を生み出すほどだ。

 

 下半身もまた、並みのソレではない。

 

 ボディビルダー界隈では、チキンレッグというスラング言葉がある。

 

 それは、鳥のように細い足=上半身に比べて下半身が細い、アンバランスな体系という意味で、見栄えばかり気にして下半身を疎かにするビルダーへの戒めにも似た言葉である。

 

 それが、ポポポ女にはない。

 

 まるで、今にも弾けて冷水を熱湯に変えてしまいそうな筋肉を搭載した足ははた目にも分かるぐらいに太く、機関車を思わせる力強さがそこにはあった。

 

 実際、その筋肉は見掛け倒しではない。

 

 体格に見合う5Lサイズワンピースで見えないが、腹部は分厚いタイヤを想起させるシックスパックが搭載されていて、生半可な拳では逆に痛めてしまうほどに固い。

 

 その握力はリンゴはおろか、栓の空いていないアルミ缶を容易く握り潰し、腕力はフライパンを捻じ曲げ、その蹴りは猛獣をも一撃で仕留める。

 

 そう、それが、ポポポ女だ。

 

 そして、これが『名無子心霊相談室』が他とは最も異なる部分であり、この異常さに比べたら、他のやつらなんて霞んで透明になるぐらい存在感が無いのであった。

 

 ……ちなみに、だ。

 

 

「……待て、そこのクソでかバカアホ筋肉女、おまえまた『祠』を壊したんか……???」

「ポポポ……壊したんじゃないわ、たんぱく質を補給した腹直筋が喜びのあまり震えてしまい、その魅力に押されてしまっただけよ」

「そもそも、室内で筋トレするなと言っただろクソボケ!! てめえの汗の臭いで飯が不味くなるんだよ!!!」

「ポポポッ!? こ、この鋭いボディブロー……私の腹筋を貫く、見事な右ストレート……!!!」

 

 

 そんな、色々な意味で自己主張の激しい怪異を拳一つで黙らせるばかりか、マジ切れした時は、ポポポ女をマジ反省させる怪物的なやつが、名無子であり。

 

 そんな一人と一体とは別に、この相談室のメンバーは他に一つ。

 

 それは、『男を強制的に違和感を覚えさせずTS(つまり、女性化)させる』という、頭にカビでも生えているのかと疑ってしまうような呪いを振りまく。

 

 

『……TSを……特に、脂ぎったオジサンを熟女に変えたい……』

 

 

 現在は、牛乳パックとセロテープで構成された『祠』である。

 

 この『祠』は説明すると長くなるので省略するが、ヤバいのは『祠』の中に収められている核だ。

 

 ただ、核がむき出しになることは無いので、実質的には核を覆っている物を総称して、『祠』と呼んでいるわけだ。

 

 で、この『祠』だが……とにかく金を使わずチラシとかそういうので作られているので、非常に壊れやすい。

 

 それこそ、名無子とポポポ女との喧嘩の余波で壊れるし、ポポポ女が筋トレした時の肉圧で壊れるし、時々うっかり名無子が蹴とばして壊す時もある。

 

 今回の喧嘩も、だ。

 

 苛め抜いた筋肉にたんぱく質が補給された、その喜びの筋肉の震え……そこから放たれるポポポ女の肉圧により、うっかり『祠』を壊したのが原因である。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、冗長にも程がある前回のあらすじ的な話はここまでにして、冒頭に戻ろう。

 

 

 ──始まりは、名無子と付き合いがある不動産会社の増田さんより持ち込まれた依頼である。

 

 

 内容は冒頭に書いたとおり、『だれも住んでいないマンションの管理を期間限定で行ってほしい』というものだ。

 

 なんでそんな変な依頼をしてきたのか……詳しく聞けば、これがまあ、さらに変な話なのだ。

 

 マンション自体は、別に街から遠く離れた僻地というわけではない。

 

 駅からは少し距離はあるけど、近くにバスが通っているし、スーパーもコンビニもあるし、郵便局もあって、なんなら銀行もある。

 

 なんなら、商店街があって、専門性の高い商品でなければだいたいそこで揃えることができるし、飲食店なども相応に点在している。

 

 また、マンション自体が古いというわけでもない。

 

 むしろ、マンション自体は築5年と経っていない新築物件であり、誰も住んでいないだけあって、ほとんどの部屋の内装は新品同然なぐらいに真新しかった。

 

 

 ……そんな好条件な立地に建てられたマンションなのに、どうして誰も住んでいないのだろうか? 

 

 

 事故物件なのか──いちおう、事故物件ではある。

 

 そう、いちおうは、事故物件……というのは少し違うけど、そんな感じの曰く付きになった結果、ついに5年と経たない間に、新規の入居希望者が来なくなったのである。

 

 いったい、何が……具体的に言うなれば、行方不明者が出たのだ。

 

 それも、一人や二人ではない。

 

 毎月、最低でも一号室分がごっそり消える。

 

 単身者でも、家族で入居していても、関係ない。そこを借りて住んでいる者全員が、突然行方をくらましてしまうのである。

 

 これがまあ、家賃を滞納しているとか、そういう場合ならまだ話は違ったのだが……行方不明になったのは、直前まで何の問題も起こしていない者たちばかりだった。

 

 そう、家賃なんて滞納していないし、近隣トラブルも起きていないし、生活に困っているといった話も出ていなかった。

 

 そんな人たちが、前触れもなく突然、しかも、勤め先はおろか家族(実家、あるいは恋人や友人など)にも一切行方を知らせず消息を絶つという、とんでもない事が毎月起こったのだ。

 

 さすがに、警察沙汰にもなる。

 

 しかし、手掛かりは結局一つも見つからないままに終わり……それが、毎月ごとに起こって……終いには、管理人すらも行方不明になり……後は、言うまでもない。

 

 最終的には新規入居希望者は0となり、最後に入居していた者は怖がって退去してしまい……後には、好立地なのに入居者0の、新築マンションだけが残されたわけである。

 

 

 ……とはいえ、だ。

 

 

 無関係な第三者からしたら、『あら~、怖いわねえ、近寄らないようにしましょう』で済む話だが……マンションのオーナーからしたら、堪ったものではない。

 

 なにせ、マンションである。その建築費用は、一軒家の比ではない。

 

 幸いにもオーナーは他にも多数の物件を始めとして多大な資産を保有しているので、首が回らなくなる……なんて事態にはなっていないが、ソレはソレ、コレはコレ。

 

 条件によって変わるけど、一般的に新築マンションを建てて元が取れるようになるまでは、おおよそ10年は掛かると言われている。

 

 もちろん、その間に管理費などが入れば伸びるわけだけど、とにかく、最低でもそれぐらいは必要だと言われている。

 

 

 そんな中で、既に約5年。

 

 

 まともに入居者が入らず、初期投資分の回収すらままならない状況が続くのは、いくら資産家のオーナーとて、コレはまずいと思うのは当然の結果なわけで。

 

 なんとか、色々と対策を取ったわけだ。

 

 CMを出したり、新聞広告に入れたり、ネットに載せたり……終いには、ご利益があるとかの謎なオブジェを置いたり、お祓いを行ったり……とにかく、色々したわけである。

 

 でも、結果は変わらなかった。

 

 最終的には他所へ売却しようともしたらしいけど、どうにも交渉の折り合いが付かず……結局、ひたすら税金を取られ続けるだけの物件が、そこに残される事となった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、だ。

 

 

『ポポポ……それで、一時的にとはいえ、どうして管理人になってほしいって貴女に連絡が来たの?』

「なんでも、あまりにも誰も住まないままだと、『特定空家』とかいうやつに指定される可能性があるらしくて、そうなると税金が跳ねあがるんだってさ」

『ポポポ……なるほど、誰かが住めば、ひとまず放置しているわけじゃないって言い訳が立つわけね』

「そのとおり……そこらへんの法律は分からんけど、マンション経営も大変ってわけだ」

 

 

 電車とバスを乗り継いで、えっちらおっちら歩いた名無子と糞デカ馬鹿筋肉女……ちなみに、ポポポ女は怪異なので、常人には姿が見えないし触れることも出来ない。

 

 話を戻し、全体的に真新しいマンションを前に、名無子は思わずため息を零した。

 

 事前に話を聞いてはいたが、実物は、想像以上に綺麗なままだった。

 

 敷地内の地面は整地され、綺麗に舗装されている。

 

 車の侵入を防ぐポールはピカピカに光を反射していて、エレベーターホールはもちろん、エレベーターも、共用廊下も、何もかもが、遠目からでも新品具合が分かった。

 

 約5年なら相応に汚れが現れるが、途中から入居者が減った影響だからだろうか……汚れの度合いが素人目にも分かるぐらい、少なかった。

 

 ……マンションの名は、『グランドホール』。

 

 ここの1階にある管理人室にて寝泊まりし、蛍光灯の交換や見回り、敷地内のゴミ拾いなどの清掃作業以外は自由にしてよい……という内容の依頼である。

 

 とにかく、誰かが住んで管理しているという実績が欲しいわけで、危なくて不安に思うなら蛍光灯の交換はしなくてよい、とのこと。

 

 

「やれやれ、今日は疲れた……明日から、管理人をさせてもらおうかな」

 

 

 とても気楽な仕事でラッキー……そんな思いで、管理人室へと向かおうとした……そんな時であった。

 

 

『ポポポ……覗きは良くないわ』

 

 ──フン! と。

 

 

 エレベーターへと向かう途中、いきなりポポポ女が立ち止まったかと思ったら、急にポージングを取った。

 

 ……糞デカ筋肉バカ女の、鍛えに鍛えぬいた肉体が織りなすポージングは、ただのポージングではない。

 

 はるか昔、日本神話において、ヤマトタケルが倭姫命(やまとひめのみこと)より授かった、三つの神器。

 

 

 一つ、草薙の剣。

 

 一つ、八咫鏡(やたのかがみ)

 

 一つ、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)

 

 

 それら神の力を帯びた神器など、我の前では無意味と言えるほどに鍛え抜かれた筋肉によって生み出されるポージングである。

 

 誰が何と言おうが、筋肉バカデカポポポ女のポージングには神が宿り、後光が差すほどに力強さがあると、一部で囁かれているほどで。

 

 ムキムキ、ピクピク、と。

 

 たっぷりたんぱく質を補給して一段と力を増した胸筋の震えは、破邪のパワーを帯びており。

 

 エレベーターホールの端にポツンと置かれていた、なんか良く分からない美術品の石像が、いきなりひび割れ、崩れ落ちたのであった。

 

 

「──ばっ、おまえ、何を……」

『ポポポ……あんな貧弱で欠食な雑魚に、格の違いを見せただけよ』

「そういう事を聞いてんじゃねえよ、壊すなって話なの!」

 

 

 なお、その直後、ズドンと鈍い音を立ててポポポ女の腹筋に拳が食い込んだのだけど……結局、名無子は見なかったことにして、その場を後にしたのであった。

 

 

『……TSは?』

「不審者が居たらTSさせていいから、それ以外は大人しくしておけ」

 

 

 なお、名無子のカバンの中で、『祠』が不満そうにしていたけど……疲れている名無子は、相手にはしなかった。




※ 戦わなければ、生き残れない……
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