祠を壊されてしまったTS娘「また、あの祠を壊したんか!?」   作:葛城

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※ 今回、人によっては下品かもね
注意ね


第6話: ラスボスは二段構えが常識

 

 

 

 ──決戦のバトルフィールドは、お世辞にも趣味の良さを感じられる空間ではなかった。

 

 

 まず、見たままを語るのであれば、室内の広さは大したモノではない。外の印象どおりの広さしかなかった。

 

 あと、照明器具の類が一つもない。

 

 窓が一つもないうえに、今が夜間なのもあって、常人ならば真っ暗な空間が広がっているだけで、すぐ近くに何があるのかすら分からなかっただろう。

 

 だが、しかし、そこは問題ない。

 

 何故ならば、彼女は夜目が利く。この程度の暗闇は、彼女にとっては昼間と変わらないぐらいに感知が可能で、うっかり足を取られて……なんて問題はなかった。

 

 

 ……だが、本当の問題はその先……室内に置かれている様々な……その、あまりにも趣味の悪いモノにあった。

 

 

 一言で言うなれば……人体の部品といった感じだろうか。

 

 まるで、ホルマリン漬けの瓶。謎の液体に浸された人体の一部と思われる臓器などが瓶に入れられ、それが床に置かれている。

 

 それもただ置かれているわけではない。おそらく、置き場所や置くモノになにかしらの意味があるのか、規則正しさを感じ取れる。

 

 いや、というか、よく見たら、瓶は五芒星のマークに合わせて置かれている。勘の鋭い彼女は、目ざとくその部分に気付いた。

 

 そして、床一面……いや、床だけではない。

 

 四方の壁も、天井すらも、まるでペンキの代わりに使いましたと言わんばかりに真っ赤な液体が……すぐに分かった、その液体の正体は血だ。

 

 なんで分かったのかって、臭いだ。

 

 鉄臭さが、むせ返ってしまう程に充満している。

 

 そりゃあ、すべての面に隙間なくべったり血を塗り込んでいるうえに、換気口が一つもないのだ。

 

 その手に臭いには慣れている彼女ですら、思わず咳き込んでくしゃみが出たぐらいには酷い有様であった。

 

 特に酷い悪臭の出所は、床に……そう、床に置かれた瓶の下に描かれた五芒星のマーク。

 

 何を使ってマークを書いたのかは分からないが、とにかく臭い。血の臭いに混じって、なんかこう……腐敗臭にも似た、なんとも表現し難い刺激臭を放っていた。

 

 あと、なんか禍々しい空気も満ちていた。

 

 それは全面の血の臭いが生み出すのか、それとも床に置かれたホルマリン漬けの瓶から立ちのぼるのか、あるいは両方か……は、さておき。

 

 防塵マスクをしていても貫通してくるぐらいなのだ……もしも何の装備もせずに入ったら、おそらく彼女とて無事では済まなかった。

 

 強烈な目のかゆみに、蛇口の壊れた鼻水、止まらない喉のイガイガ感……そう、重度の花粉症にも似た症状に苦しんだだろう。

 

 しかし、幸いにも防塵マスクとゴーグルという業者スタイルのおかげで、彼女はギリギリのところで耐えられたのであった。

 

 

 ……ポポポ女と祠? 

 

 

 ポポポ女は怪異なので血の臭いなんて空気の臭いも同じで感知できないし、そもそも祠には鼻なんて部分も無い。

 

 鼻が無ければ臭いが分からない、それは古事記にも書いてある当然の事であり、わざわざ説明する必要のないことである。

 

 で、話を戻すが、さすがにこれは彼女にとって想定外だった。

 

 

「くっ、さすがにガソリンは使えない……!!」

『どうするの? 壊す?』

「そんな事をしちゃったら、損害賠償を請求されちゃう……こういう時は、これしかない!」

 

 

 その言葉と共に、彼女は不思議なパワーで道具を異空間より取り寄せ……その手には、2度拭き要らずの住居用洗剤のスプレーボトルが。

 

 それは、つい先日特売で購入した税込み108円の使い古し……半分ぐらいしか残っていないが、その効力は大勢のレビュアーが保証している優れものだ。

 

 しかも、今回はなんと詰め替え用も準備してある。つまり、実質的には1本半分……が、しかし。

 

 

「くっ、さすがにこれだけでは全面をキレイには出来ない……!!!」

 

 

 残念ながら、それをもってしても、眼前に立ち塞がる汚れの前ではあまりに弾不足であった。

 

 多少なり薄く延ばして頑張ったところで、さすがに全面べったり汚れている室内をキレイにするには量が足りなさ過ぎた。

 

 しかし、新たに用意をしようにも、今の時刻は夜。

 

 当然ながら、ホームセンターなども閉まっている。コンビニは開いているだろうけど、コンビニは……お値段が高いのだ! 

 

 ましてや、こんな時刻に全身作業服状態で突入するのは、下手したら不審者扱い……なにより、着替えるのが面倒くさい、面倒過ぎる。

 

 ならば、どうするか……彼女は、重大な決断を迫られる。

 

 面倒だという思いを受け入れてコンビニへ向かうか、約1本半分の洗剤に賭けて挑むべきか……が、そんな彼女の苦悩を見捨てはしない、頼れる仲間が彼女にはいたのだ。

 

 

『ポポポ……こういう汚れ物のお掃除が三度の飯より好きな怪異が居るのだけど、力を借りるかしら?』

「──っ! そんなのいるの?」

 

 

 そう、彼女には……くそボケ全身筋肉ポポポ女という、頼れる仲間がいるのだ! 

 

 

『ポポポ……でも、そいつらって基本的にドン引きするレベルの変態なの。その代わり、掃除という一点に関しては誰もが太鼓判を押す専門家よ』

「背に腹は代えられない、力を借りたい! 時給250円でどうかな?」

『ポポポ……お金はいらないわ。あいつら、頑固な汚れを掃除するだけで射精したり股をビシャビシャにする変態だから』

「え、なにそれは? (ドン引き)」

 

 

 しかし、言葉通り、本当に背に腹は代えられない。

 

 なのでお願いすれば、ポポポ女は一つ頷いてから……誰もいない屋上へ向かって、むんっとポージングを取ると。

 

 

『ポポポ……ああ、なんて事かしら! 私のポージングでも落ちない汚れがあるだなんて……こんなの、業者に頼むしかないわ!!』

 

 

 そう、夜の虚空へと叫んだ──瞬間だった。

 

 気付けば、ポポポ女の前に……少年と少女が居た。

 

 どちらも美人と誰もが断言する美貌であり、街中を歩けば人々の注目を集めても不思議ではない美少年と美少女であった。

 

 そう、本当に美人な二人であった。それこそ、この場に芸能関係者がいたら、是が非でも話しかけるぐらいには。

 

 ……ただし、注目を集める理由はそれだけではない。

 

 有り体に言えば、二人とも……明らかに様子がおかしかった。

 

 頬は赤らみ、息が若干荒く、何やら足がわずかばかり震えていて……というか、なんだろう、ビクッとケイレンする様が、不気味だった。

 

 

『ポポポ……お久しぶりね、小豆洗い』

「汚れは、汚れはどこだ!?」

「あんたすら根をあげる汚れ、どこにあるの!?」

 

 

 そして、不気味な印象どおりに、発言というか会話がおかしい。

 

 さすがの彼女もドン引きする……しかし、そんな彼女を他所に、ポポポ女は慣れた様子で先ほどの部屋を指差せば、二人は走って──なんか、腰がヘコヘコしてはいたけど、とにかく二人は室内へと顔を突っ込み──瞬間。

 

 

「おっ♡ くっさ♡ こんなの疼いちゃう♡」

 

「きったね♡ 掃除キャンセルしてんね♡」

 

 

 なんかこう、思っていた反応と違って、彼女はさらにドン引き──しかし、そんな彼女を他所に、小豆洗いたちは──パッと、作業着姿になった。

 

 合わせて、様々な道具をどこからともなく出現させた二人の怪異は、鼻息荒く室内に入っていき──直後。

 

 

 

 ──んほぉぉおぉぉぉおぉ!!?!?? しゅ、しゅごいのぉぉぉお!!!! 

 

 ──汚れ! 頑固な汚れ、落ちちゃううぅうぅ!!! こんなのらめぇぇぇえええ!!!! 

 

 ──あへぇぇえええ!!??? バカになっちゃう!! こんなしぶとい汚れ、癖になっちゃうぅぅ!! 積年の怠惰を悔いるがいい。

 

 ──あひぃいぃぃいい!! だめぇ、頭バチバチしゅりゅぅぅ!! こんなのママになっちゃうよぉぉ!!! 所詮は汚れよ、現代化学の力を知れ。

 

 

 

 なにやら、室内からとんでもねえ雄叫びというか、嬌声というか、いったい何が起こっているのかまるで分からない言葉が……?? 

 

 これ、私も手伝いに行った方が良いのだろうか? 

 

 珍しくオロオロしている彼女の肩を、ポポポ女が優しく掴んで止める。振り返れば、ムキッと第胸筋を震わせたポポポ女が、静かに首を横に振った。

 

 言葉にしなくても、彼女には伝わった。

 

 アレは、常識の外に居る存在だと。正気の沙汰の外に居る存在だと。

 

 なればもう、自分たちが立ち入ってはならない領域……餅は餅屋、専門家にお任せするのが一番なのだということを。

 

 彼女は、言葉ではなく心で理解し……そして、約30分後。

 

 

「お、おお……すごい、ここまでピカピカになるとは……!」

 

 

 よほど疲れたのか、今にも崩れ落ちんばかりに腰から下を震わせている二人が出て来たので、中に入って確認した彼女は……素直に感動した。

 

 

 それは──なんという光景だろうか。

 

 

 床どころか四方の壁、天井すらも隙間なくべったり血で塗られていたそれらが、まるで初めから無かったかのようにキッチリ落とされているではないか。

 

 血がペンキの役割を果たし、一切人の出入りが無かったことで劣化が抑えられたのか、むき出しのコンクリート面はみずみずしい光沢を放っている。

 

 床に置かれたホルマリン漬けの瓶も、足を取られて転んでは危ないということで、部屋の隅にまとめて置かれている。

 

 しかも、ただ置かれているだけではない。

 

 その瓶の一つ一つもしっかり洗浄されて光沢を放っており、禍々しい気配を放っていたそれらはもう、ただのホルマリン漬けになっていた。

 

 そう、小豆洗いの真骨頂は、洗うことで邪気を流してしまうという力。

 

 特性洗剤と特注機械の相乗効果によって、かつての頃よりも何千倍、何億倍もその力を増している小豆洗いたちにとって、たかば瓶に込められた邪気を浄化するなんて、朝飯前であった。

 

 ──ただし、一つだけ。

 

 床に描かれた五芒星は汚れの類ではなく、概念的なアレなので、自分たちではどうにもならないから貴方達でなんとかしろ……とのことだった。

 

 

「……ふ、ふふ、枯れるかと思ったよ」

「そうね、私ももう一滴も濡れそうにないわ……」

 

 

 でも、最後の最後まで、二人はプロであった。

 

 お金の請求などせず、これほどの汚れと出会えた幸運に感謝の言葉すら残して……二人は、フッと音も無くその場から消えたのであった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………後に残された彼女は、作業服……ではなく、いつもの巫女服へと着替えてから、ヨイショっとハンマードリルを構えて、突撃する。

 

 そこには、変わらず五芒星がある。

 

 禍々しい気配がいくらか薄れ、臭いも消えているおかげか、最初の時よりもだいぶ印象が変わっていた。

 

 

 しかし──彼女は騙されない! 

 

 

 無言のままに、彼女は懐より祠を取り出すと、それを五芒星へと投げつけた──いったい、何故か? 

 

 それは、見た目がキレイになったとはいえ、さっきまですげー臭かったそこに愛用のハンマードリルを刺したくなかったからだ。

 

 あと、単純に──五芒星に対して、特攻的な相性が祠にはあるからだ。

 

 

 と、いうのも、だ。

 

 

 まず、五芒星とはすなわち、♂マークが五つ集まったマークである。つまり、♂が五つ……ならば、祠が勝てぬ道理が無いわけだ。

 

 実際、祠は自信満々かつ余裕綽々な感じでTSビームを放った。それは寸分の狂いもなく、バチッと五芒星に直撃した。

 

 

 ──だが、五芒星はビクともしなかった。

 

 

 依然変わらず五芒星はそのままで、これには祠ももちろん、様子を見ていた彼女も、ポポポ女もビックリした様子を見せた。

 

 いったい、どうして……答えは、すぐに出た。

 

 単純に、五つの♂たちが互いを助け合う形で結束し、祠のTSビームを以てしても、♀に変える事が出来なかったのである。

 

 いちおう、TSビームは効いている。だが、効いたそばから隣の♂たちが、TSした元♂を鼓舞して♂の心を取り戻させ……結果的にTSビームを無力化しているのだ。

 

 これには、さすがの祠も初めての事に、どうしたものかと頭を悩ませた。

 

 互いを信頼して力を合わせた五芒星(♂)を前に、生半可なTSビームでは……しかし、忘れてはいけない、祠は一人(?)ではないのだ! 

 

 

「──ならば、私が打って出るしかあるまい」

 

 

 そう、祠には仲間がいた。

 

 ハンマードリルを片手に突撃してくる、頼れる巫女が! 

 

 そう、読者はうっかり忘れているかもしれないが、ハンマードリルとは……穴を開けるための道具でもあるのだ! 

 

 そのハンマードリルを、彼女は五芒星の真ん中に突き刺し──稼働する。

 

 すると、どうなるか? 

 

 答えは、♂たちの結束に穴が開くのだ。

 

 悲しいかな、結束に穴が開くのは不思議な事ではない。そして、結束が緩んだ五芒星にはもはや、TSビームを防ぐ力は無かった。

 

 そして──五芒星は♀に──いや、それも違った。

 

 皆様もご存じのとおり、♂は穴が一つ。そして、♀は穴が二つ。穴を開けられた時点で、五芒星(♂)は五芒星(♀)になっていた。

 

 すなわち──TSではなく、即死ビームを受けてしまった五芒星は、断末魔の悲鳴をあげて……塵となって消えたのだった。

 

 

 ──だがしかし、戦いはまだ終わってはいない。

 

 

 穴が開いたそこには──異界へと繋がる『穴』が出現した。

 

 そう、五芒星はあくまでも契約の証。本来の、諸悪の根源の傍らともいえる相手は、この先にある異界そのもの。

 

 すなわち……次こそが、ラストバトルである!! 

 

 

「逃がさん……おまえだけは……!!」

『ポポポ……小腹も空いてきたし、補給の時間だわ』

『──(異界にも、穴はあるんだよなあ……)』

 

 

 これで、すべての因縁に決着を……そう、覚悟を決めた彼女たちは、えいや──っと、『穴』の向こうへ飛び込むのであった。

 

 

 

 

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