祠を壊されてしまったTS娘「また、あの祠を壊したんか!?」 作:葛城
──足を踏み入れた『異界』、それは少し前に彼女たちがエレベーターより降り立った、あの空間、あの世界によく似ていた。
もしかしたら、同じ世界かもしれない。
あるいは、とてもよく似ているだけで別の世界かもしれない。
残念ながら、それを知る術は彼女には無い。ただ、明らかに彼女たちが住んでいる世界とは異なっているのが分かった。
まず、空は夕焼けで赤黒く、なのに太陽の姿を確認できない。そして、建物を始めとして様々な造形物の形がおかしい。
電柱っぽい柱があるけど、まっすぐ伸びていない。ぐねぐねと曲がっていて、逆にまっすぐ伸びた電線が異様な雰囲気を放っている。
おそらくは住宅と思われる建物も意味不明。
木造住宅っぽい建物の外壁の一部が畳が使われていて、遠目にも分かるぐらい、畳が湿気で腐っているのが分かった。
また、『かぶとむし』と大きな字で書かれた看板があって、その下には『目玉、あります』という文字が。
あと、よくよく見ると、建物の並びもおかしい。
彼女が出現した場所……そこはおそらく住宅街のどこかなのだろうけど、とにかく通路が直線なのだ。
左右に建物が立ち並んでいて、通路は前と後ろだけ。それが、突き当りが見えない先にまで延々と伸びている。
彼女たちの背後に、元の世界へと繋がる『出入口(空間の穴)』が無かったら、自分たちがどちらの方向へと向いていたのか分からなくなるぐらい……とにかく、どこまでも通路が伸びていた。
そして……おそらくは、異界の住人と思わしき存在がチラチラと彼女たちの様子を伺っているのが……ん?
なんで異界の住人と思ったのかって?
それは、誰が見ても一発で分かるぐらい、明らかに人間とは思えない形をしていたからだ。
たとえば、シルエットが『▼▲』みたいな女。
比喩ではなく、見た目が本当に『▼▲』。
腰は彼女の小さな手でも指が回り切るぐらいに細いのに、肩回りと尻回りが彼女が3人掛かりでも腕が回り切らないぐらいに大きい。
他には、一本足の男。片足が無いのではなく、傘のような体形の男。
横幅が30cmも無さそうなのに、高さが3m近くはある細長い巨人。
他にも、色々と……非常に気になるけれども、今はそこが問題ではない。彼女たちの狙いは、この世界そのもの。
そう、この空間、この『異界』そのものだ。
なんでかって、『異界』には意思があるということを、既に彼女たちは察知しているから。
ある程度の脳を搭載した知生体のような明確な代物ではないし、思考原理が一般的な知生体とは異なっていた……けれども、そこには確かに意思があるのだ。
「ここが、諸悪の根源か!」
それが分かった時点で──彼女が取る手段は一つだけ。
「ポポポ女! 祠! 油を撒け、火を放つぞ!!」
『ポポポ……あいあいさー』
『……(初手で火計を使う主人公とは、これ如何に?)』
そう、古来より破邪の力を持つとされる、火の力。
彼女が異空間にて保管してある大量のガソリンを用いた、多目的言語である。
この有用性は語るまでもない事だが、何も分からない読者が居るかもしれないので、ちゃんと説明しよう。
まず、悪霊に限らず怪異的な存在は、基本的には破邪の力そのもの、あるいは破邪の性質を帯びたモノ、もしくは同質なれど攻撃に変えた力に対して弱い傾向にある。
ある。破邪の力そのものは、彼女が使っている霊能力といったモノ。
破邪の性質を帯びたモノは、鍛えて錆びていない刃物や、魔除けとして信仰されているモノなど。
最後のは、ポポポ女のように同質なれど相手を倒すこともできる……言葉を変えるなら、幽霊同士でも殺し合いは可能ということ。
そして、彼女が使おうとしている『火』は、この中では信仰された事で破邪の力を帯びた代物に該当する。
たかが信仰と侮るなかれ。
『火』というのは、それこそ神話に登場するぐらい昔から神聖なモノとして恐れられていた歴史がある。
人知の及ばぬモノ、見えざるモノを阻み、穢れを祓うとして様々な場面で登場し、時には『神』すらも滅ぼす力として称えられることもあった代物だ。
そんな代物だから、信仰が薄れた現代に至ってもなおその力は衰えず、今もなおあらゆる魔を祓う力があるとされ、実際に効果があるのであった。
──ゆえに、彼女は火を使う。
一昔前のように薪を使って火を焚くだなんてまだるっこしいやり方はせず、ガソリンを使う。
非常に取り扱いが難しく、静電気一つで発火してしまう危険性の高い燃料だが、使い方さえ誤らなければ、その有用性は語るまでもない。
実際、ドボドボとタンクより引き延ばしてゆくガソリンが染み込んだ地面という名の導火線にマッチを放り投げれば、あっという間に火は伸びて──。
「悪霊退散!!」
その先にあった家屋へと引火し、瞬く間に炎上した。
屋内より異形の存在が慌てた様子で飛び出してくるが……それで怯む彼女ではない。
何故ならば、ガソリンはまだまだある。
個人所有の場合は色々と制限があり、現在使用している量のガソリンを個人で所有している時点でヤバいのだけど、忘れてはいけない。
ここは日本ではない、どれだけ着火しようが、周囲一帯を火の海に変えて浄化しようが、罪にはならないのである。
それに、彼女は既に察していた。
この異形の者どもは、被害者などではない。間違いなく、こいつらは人間を玩具みたいに使い倒して遊び倒していた──そのうえ、だ。
最初にエレベーターでこの世界に来た時、こいつらは邪魔者になると判断して彼女を殺そうとしたのだ。
ならば、手加減の必要は皆無。少なくとも、彼女の中ではそれで充分であった。
どぼどぼどぼ、と。
ぎゃーとか、うわーとか、混乱と恐怖に逃げ惑う異形の者たちを他所に、彼女は追加のガソリンを撒いてゆく。
燃え広がる家屋より立ちのぼる熱気によって、空気が歪む。飛び散る小さな火の粉が周囲に広がり、あるいは風によって遠くへと向かう。
赤黒い世界を、炎の光が照らしてゆく。その光はぽつぽつぽつ、とあらゆる場所に生まれ、新たな火種となって、次々に火の手が増えてゆく。
その中には、一部気化したガソリンより引火した場所もあるが……それでも、まだまだ燃えていない場所はある。
「ポポポ女! 火を放て!」
『ポポポ……えいや』
ムキッと膨れ上がった筋肉が生み出す、フィンガースナップ。それは大きな火花を生み、そして、撒かれたばかりのガソリンを引火させる。
──瞬間、爆発が起こった。爆風によって一部の家屋が吹き飛んだが、火の手はますます広がってゆく。
「薪を作るぞ! 後に続け、ポポポ女!!」
『ポポポ……その前に、筋肉への補給をしないとね』
逃げ惑う異形の者どもへと、頭と身体筋肉女はポージングを取る……いや、それは違う。
良質な筋肉は、良質なたんぱく質を求める。そう、鍛えに鍛え抜いた身体は、相応に腹を空かせるのである。
みょんみょんみょん、と。
ポージングを変えるたび、異形の者たちから筋肉が失われてゆく。そう、彼ら彼女らは例外なく、デブになっていった。
これには、異形の者たちも震え上がった。
冷静に考えて、なんでポージングを取ると筋肉が吸収されてしまうのかまるで意味が分からない話だと思う。
理解しているのはポポポ女だけで、言い換えれば、ポポポ女以外は誰も理解していない未知の領域であった。
……なお、未知の領域に陥ったのは、当の異形の者たちも例外ではなかった。
何故ならば、デブはすぐに息が切れる。
鍛えに鍛え抜いたRIKISHIや、RIKISHIの頂点であるYOKODUNAならばともかく、デブは普通に息が切れる。
贅肉という余分な重しを全身にまとっているからだ。
普段からトレーニングを積んでスタミナがある人でも、全身に約50kgの重りを身にまとった状態で走れば、すぐに息が切れて当たり前。
そのうえ、膝への負担も半端ない。
これではどう足掻いても逃げられず、異形の者たちは全身から脂汗を掻きながら、そのまま膝の痛みに転倒するモノが続出した。
糞デカ全身筋肉女に筋肉を奪われるということは、そういう事なのだ。
「──薪が出来たぞ、ガソリンチャージ!!」
『ポポポ……あいあいさー』
そして、騒音問題として訴えられない環境にこそ、彼女の愛用武器であるランマーが真価を発揮するのだ。
そう、ランマーは地面を踏みしめて平らにするばかりではない。
壁に打ち付ければヒビが入り、木造住宅にて使用すれば、瞬く間に大量の薪を生み出すのである。
そこへドボドボと流し込まれるガソリン。フィンガースナップによって着火──爆発。
爆風と共に飛び散る破片が新たな火種となり、火災の範囲をどんどん広げていく……そんな彼女に対して、異形の者たちはただ見ているわけではなかった。
それは、この世界において警察の役割を持った存在──だったのかもしれない。
かもしれないと表記したのは、出番が無かったから。
そいつらは姿を見せると同時にポポポ女の手で瞬く間に筋肉を吸われ、「贅肉を平らにしてやる!」という彼女の猛攻によってあっという間に潰されてしまったからである。
誰も──彼女たちを止められなかった。
異形の者たちにとって、もはや彼女たちは一つの災害であり、自然現象のように見えていた。
……それゆえに、被害が広がり続けるにつれて……異形の者たちの怒りと憎悪が、ソレ以外へと向けられ始める。
そう、どうして彼女たちがこの世界に来たのか……その原因へ。
もちろん、それは完全なやつ当たりである。
忘れてはいけない、最初のキッカケはお互い合意の結果だとしても、彼女を巻き込んだりちょっかいを掛けたのは……その時であった。
『──っ! (むむ、TSした気配……滅ぶべし!!)』
これまでやる気なく沈黙していた祠が、夕焼け空へとTSビームを放った──直後、どこからともなく世界が震えた。
それは、この世界の……異界の悲鳴であった。
さすがに前回の異界騒動の時に比べたら規模が桁違いなので即死はしなかったが、相当に苦しいのか……まるで世界がケイレンしているかのように、何もかもが震え始めた。
いったい何が起こったのか──忘れてはいけない(Part.2)、異界は♂である。
♂とは、雄である。
雄という漢字は、隹《とり》が翼を広げて威張る様から生まれたらしい。そして、異界は広い。
威張りくさって広い異界も、縦横無尽に暴れまわる彼女たちの前に翼を畳む。つまり、小さくなるわけだ。
雌という漢字は、古代中国において小さいを意味する『此』に隹が合わさって生まれたとされている。
つまり、翼を畳んで小さくなってしまった異界は、その時点で♀なのである!!!!!!!!!!
ましてや、女でありながら男が裸足で逃げ出す筋肉の化身を前に圧倒され、ランマーによって丁寧に畳まれてしまえば……そう。
異界は、女の子になっちゃったのである!!
女の子になっちゃった以上、祠より放たれたTSビームは特攻……のたうち回りたいほどの痛みを前に、ついに耐えきれなくなってなりふり構わず異物の排除に動いた。
なんでそれをすぐにしなかったのか……それは、二次的な被害があまりにも広範囲に渡るからだ。
世界そのものが動くということは、その内部の者たちはタダでは済まない。
立つことすら難しい地響きと共に大地は砕け、空には雷鳴と豪雨が、突如吹き荒れる突風にて炎が舞い上がり、建物が倒壊してゆく
火が消えてゆく、だが、幾度となく落とされる雷と、どちらがマシか……阿鼻叫喚と化した、その場所で。
「いかん、逃げるぞ!!」
『ポポポ……腹八分目といったところかしら』
『──っ(まあ、今回はこれでいいか)』
彼女たちは、素早く脱出したのであった。