祠を壊されてしまったTS娘「また、あの祠を壊したんか!?」   作:葛城

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最終話: これはせめてものお礼です

 

 

 ──彼女は激怒した。

 

 

 必ず、踏み倒された代金を回収せねばならぬと決意した。

 

 彼女には相手の事情が分からぬ、彼女はしがない個人事業主である、そして、既に契約は果たし終え、支払いの段階に至っている。

 

 それなのに、急に連絡が取れなくなった。

 

 最初はたまたまかと思ったら、二日目、三日目、その時点で彼女は察した……こいつ、踏み倒して逃げる気だと。

 

 

 仲介者が居るというのに、なんとふてぶてしいやろうなのかと彼女は思った。

 

 

 彼女は一見するばかりでは華奢でか弱そうな美少女だが、料金踏み倒しに対しては並々ならぬ情熱を持って回収する女でもある。

 

 そんな彼女は、相手が如何なる理由があろうとも手加減はしない。

 

 本来支払いを終えていなければならない期日を三日以上過ぎているうえに、連絡すら取れなくなっている。

 

 これはもうお天道様が『許してやれ』と言ったとしても、『代わりに支払ってくれるのか?』と真顔で問いかけるような話である。

 

 なので、彼女は……仲介者より、オーナーを始めとして関係者に連絡を取ろうとした──だけど。

 

 

 なんと……誰とも連絡が取れないらしいのだ。

 

 

 これには、まさか料金トラブルが起こるとはと頭を抱えていた仲介者……あまり名前をぼかすのも変なので、不動産会社の増田さん。

 

 彼もまたいきなり連絡が付かなくなっている状況を不審に思い、彼女が訪ねてきてすぐに自らの足で様子を見に行ったのだが……そこで、問題は解決しなかった。

 

 いったいどうしてって、オーナー一家が住まう家に向かったらしいのだけど、なんと数日前に全焼して焼野原になっていたようなのだ。

 

 これには、増田もしばし開いた口が塞がらなかったぐらいに驚いた。

 

 昔はともかく、今は葬儀が終わってからようやく……なんて話も珍しくはない。

 

 珍しくはないのだが、それでも、つい少し前に仲介をするために顔を会わせていたから……不幸は突然やってくるとはよく言うが、分かっていてもなお、それだけ驚いたわけだ。

 

 まあ、血縁関係にある親しい間柄とかならともかく、多少顔を会わせていたとはいえ、そこまでの関係だ。

 

 それに、オーナー一家がどうなったのかも分からない。もしも亡くなっていた場合、相続とか色々と問題が出てくる。

 

 なので、色々と調べたわけなのだが……そこで、まさかさらに驚くべき状況が発覚した。

 

 いったいなにが……簡潔にまとめると、だ。

 

 

「オーナー一家だけじゃない。彼の親族も突然死だとか不審死だとかが相次いで、現状連絡を取れる相手が存命していないのです」

「……え、それって、どうなります?」

「本当に、本当の本当に心苦しいのですが、こちらも一生懸命手を広げて探してはいるのですが……現時点では、かなり昔に遠縁になって完全に絶縁関係になっているところしか判明しておらず」

「……つまり?」

「実質、請求できる相手が全滅しておりまして……残念ながら、私たちの方も手数料その他諸々泣き寝入りするしかない有様です……」

「ガーン、だな」

 

 

 つまり、請求しようにも、請求先になる相手方が軒並み死んでいるか行方不明になっているかの消息不明で、どうにもならないのだとか。

 

 こうなると、もはやお手上げ。

 

 無い袖は振れないどころか、その袖が墓の下ともなれば……下手にそこらへんを突くと行政が目を付けてくるかもしれないから、もう泣き寝入りした方が楽だろうとの事だった。

 

 

 ──だが、しかし。増田はともかく、彼女はその程度ではへこたれない。

 

 

 彼女は執念深い女である。

 

 少なくとも、金が関わっている以上は夜間の間にこっそり忍び込んで徴収するぐらいには、徹底的な女である。

 

 そんな女が、たかが関係者一同が死んだぐらいで諦めるかと言えば……そんなわけもなく。

 

 

「あんなバカでかいマンション持っているんだ、家の地下に秘密の金庫の一つや二つはあるだろう」

『ポポポ……そういう執念深さ、嫌いじゃないわ』

 

 

 草木も眠る丑三つ時。

 

 暗闇に紛れるために全身黒づくめコーディネートで身を隠した彼女は、音を立てないよう注意を払いながら作業を始めていた。

 

 いったい何を……言うまでもなく、掘り起こしているのである。

 

 何をって、それは有るかも分からない隠し金庫。

 

 何一つ確証もないあてずっぽうだけど、このまま泣き寝入りするぐらいならば……その一心で、彼女は火事場回収に勤しんでいた。

 

 えっほ、えっほ、えっほ。

 

 スコップで地面を掘り起こす程度ならば、ほとんど消耗が無い『マッスルキャンセラー(微弱)』にて事足りる。

 

 そして、スタミナやパワーの問題も彼女の前では考えなくていいので、途中で交代する必要もない。

 

 直接見られない限りはまずバレないし、けっこう気楽なモノである。

 

 まあ、万が一見られたところで、悲鳴をあげるまえに頭筋肉下筋肉女より筋肉を吸われてデブ化してしまう恐怖によって忘れてしまうだろうから、そこはあまり心配する必要はないだろう。

 

 

『ポポポ……気のせいかもしれないけど、なんかここって騒がしくないかしら?』

「そう? 私には、自分のスコップの音ぐらいしかしないけど?」

『ポポポ……そうよね? そのはずよね?』

 

 

 そんな中で、する事も無いからポージングによる筋トレを行っていたポポポ女が、違和感に首を傾げた。

 

 違和感と表現しただけあって、ポポポ女自身、その正体を上手く言葉に表すことが出来なかった。

 

 なんとか絞り出せたのも、『騒がしい』という言葉だけ。

 

 それですら、そう思うだけで実際のところ周囲は静かだし、騒いでいる者はいないし、むしろ静かとしか表現しようがない状況なのだ。

 

 それは、スコップを動かし続けている彼女にとっても、同じであった。

 

 騒がしいなんて言うから、作業中にもこっそり耳を澄ませて感覚を研ぎ澄ませていたのだけど、ポポポ女が語る『騒がしい』というのが彼女にも分からなかったのだ。

 

 分からないのであれば、気にする理由にはならない。

 

 少なくとも、彼女の直感的なセンサーには何も引っ掛からなかったので。

 

 まあ、多少なり直感的なセンサーに引っ掛かっても、『金! 金! 金! 恥ずかしくはない!』という勢いでその注意は地下の金庫へと向けられていたので。

 

 だからこそ、彼女が気にしていないのを見て、ポポポ女もあまり注意を向けず……自分で言葉にしたソレに首を傾げ、気のせいかなと勝手に納得したのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………ちなみに、だ。

 

 

 この場に居る彼女たちは欠片も気付いていなかったが、この場が『騒がしい』のは事実だったりする。

 

 彼女たちが気付けないのは、それが契約の対価として『因果』そのものを支払われているから。

 

 既に、すべてが終わった事。

 

 常人よりそういった感覚が鋭い存在であればあるほど、終わった事そのものへと波長を合わせてしまう。

 

 言い換えれば、そういった力が無い霊感0の人ほど騒がしさに気付くことが出来て、力がある者ほど騒がしさには気付かない。

 

 

 ──じゃあ、なんでポポポ女は気付いたのかって? 

 

 ──そりゃあ、騒げば筋肉が震えるじゃん? 

 

 

 存在しない因果には気付けなくとも、筋肉は気付く。

 

 残念ながら彼女は別に筋肉を愛しているわけではないから、気付けないのも致し方ない話だった

 

 

 ……まあ、そんな事よりも、だ。

 

 

 えっほ、えっほ、一生懸命地面を掘り進めていたスコップが……カツン、と固いナニカにぶち当たった事の方が彼女にとっては重要であった。

 

 何も分からない素人なら、地面に埋まっている石に当たったとか、あるいは水道管とかそういうのに当たったのかと考えちゃうかもしれないが……彼女の場合は違う。

 

 研ぎ澄まされた今の彼女の感覚は、スコップ越しにソレが水道管の類か、石か、それとも本命の金庫か……探れるのである。

 

 そして、今回は……本命の金庫であった。

 

 こいつもポポポ女に負けず劣らず大概なやつだなと思われそうだけど、実際のところ、負けず劣らず隊が居なやつなのは事実である。

 

 

 で、だ。

 

 

 意気揚々と金庫を掘り出して彼女は、幸いにも鍵が掛かっていなかったのであっさり中を開けて──それから、おやっと目を瞬かせた。

 

 金庫の中には、お金が入っていた。だが、変な点がいくつかある。

 

 まず、キレイな10000円札が何枚かまとめて置かれている。それは良い。

 

 ただ、その隣には……妙にしわくちゃというか、財布から取り出してそのまま突っ込んだかのような、無造作な感じで紙幣が置かれている。

 

 それも、統一性が無い。綺麗に折り畳められているのもあるから、余計に。

 

 1000円、5000円、10000円の紙幣が無造作にまとめられていて、その紙幣が動かないよう大量の小銭が重し代わりに置かれていた。

 

 まるで、カンパしてもらったかのような……金庫って、こんな感じの使い方をするのだろうか? 

 

 しばし首を傾げた彼女だが……まあ、考えたところで時間の無駄なので、彼女は深く考えることはしなかった。

 

 そんな事よりも、ここにいくら入っているか……それが大事であった。

 

 

「おお、けっこうあるな……よし、回収したらプロテイン買ってやるから手伝え」

『ポポポ……やる気が湧いてきたわ』

 

 

 そして、それはポポポ女も同様で。

 

 

『──っ(つまらん、帰りたい)』

 

 

 祠に至っては、欠片のやる気も出していなかったので──あっ。

 

 

 その時だ。

 

 

 嬉しさのポージングを取ったポポポ女の肉の波動を受けた祠……己を封印している外側部分が破壊された。

 

 これには、祠もびっくり……だが、逃げたりはしない。

 

 周囲にTS出来そうな男がいないし、下手に逃げ出したら恐ろしい目に遭うのが分かっていたから、そのまま大人しくしていた。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そうして、ふと。

 

 彼女が気付いてポポポ女に怒る、それまでの間……ふと、祠は不思議に思っていた。

 

 祠は、その性質からTSを行うために男の気配を察知できる。ついでに、女の気配も察知できる。

 

 それは当人だけでなく、物を通じてサイコメトリーな感じで察知することもできる。

 

 

 その能力によって、祠だけが気付いていた事が一つある。

 

 

 それは、金庫の中に入ってあるお金。そのお金から感じ取れる気配が一つだけでなく、もっと大勢なのだということを。

 

 言うなれば、数十人以上の人たちが個別にお金を持ってきて金庫へ入れたかのような……いったい、どういう事なのだろうか? 

 

 この金庫は地中に埋まっていた。

 

 わざわざ、何十人という人たちが集まって皺くちゃの紙幣や小銭を入れてから埋めたりするのだろうか? 

 

 その理由に関して、祠は欠片の興味も抱かなかった……のだけど。

 

 

『──っ(口惜しや、TSを逃してしまった)』

 

 

 それだけは、惜しいと思ったりしたのであった。

 

 

 

 

 

 

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