祠を壊されてしまったTS娘「また、あの祠を壊したんか!?」 作:葛城
──ただ住むだけでバイト代が入る。
そんなラクチン過ぎて詐欺を疑うかのような仕事に飛びついた彼女だが、やはりというか、どうにも不穏な気配が早くも表に出てきた。
まず、寝泊まりする管理人室だけど……前任者の趣味なのだろうか、とにかく、物が多い。
招き猫とか、ミミズがはい回ったかのような文字が書かれた札とか、独特なセンスが感じられる人形とか、なんか呪われているっぽいお面とか。
他にも、数え上げると両手両足の指では足りない数の様々な私物(?)が、押し入れの中に保管されていた。
さすがに傍に呪われているお面があるのはうっとうしいので「破ァ!」の掛け声で呪いを消滅させてから、暇つぶしがてら、それらを調べてゆく。
「……前任のセンスが分からん、なんで西洋も東洋も関係なくごちゃごちゃに集めているんだろ、そういうコレクターか?」
「ポポポ……これ、プラスチック。鑑定に出しても1000円行かないのではないかしら?」
「だよね……もしかして、物を捨てられない症候群の人だったとか?」
筋トレに余念が無いクソでか肉&肉バカ女も、なんか今は筋肉を一休みさせているとかで、付き合ってくれている。
こいつは、筋肉関連さえ絡まなければ、怪異の中では比較的冷静というか、かなり穏便な方なのだ。
基本的に怪異は『力』が無い者には見えないのだが、意外と見るだけなら可能な程度の『力』を持っている者は探せばいる。
いわゆる、霊感はあるけど、霊能力は無いってやつだ。
特に、『七つまでは神のうち』という言葉(世界にも、似たような言葉はある)が古来よりあるように、幼い子供は波長というやつが合いやすい。
善にも悪にも無自覚に染まりやすい無垢な性質であるがゆえに、本来ならば近寄ってはならない亡者の気質に魂を寄せてしまうからだ。
なので、怪異の中でも、見た目はともかく穏便で子供にはかなり甘い性格のポポポ女を視認してしまう子供はけっこういる。
ポポポ女も、筋肉が一切関わってこない子供に対しては、損得感情抜きにしても、けっこう可愛いと思っているようで、接する時は身だしなみに気を付けているらしい。
この前、柄にもなく念入りにお風呂に入っていたし、なんなら香水を振っていたのは記憶に新しい。
ちなみに、どこでそんなのを手に入れたのかって聞いたら、邪な輩より奪った筋肉を対価にして、お金を無より生み出したのだとか。
……?
……??
……???
まあ、とにかく、だ。
筋トレをしていない時は、どこで仲良くなったのか、子供たちと遊んだりしているそうな……彼女の視点だと、即座に警察を呼ばなきゃ案件だったりするけど。
初見時はけっこう怖がられやすいらしいのだけど、慣れるとずいぶんと懐かれるらしく、見えなくなる頃合いにはいつも子供が大泣きして……話が逸れたので、戻そう。
とにかく、マシな時はマシな対応をしてくれる。そういう時は純粋に手が足りない時なので、けっこう有難かったりする。
「──あっ」
「おま、力入れすぎだろ、加減しろバカたれ」
ただし、このクソでか筋肉頭駄目女は、物に対してはとにかく加減が下手である。
当人(?)曰く、この世の物はだいたい脆くて柔らかくて壊れやすいから困る、らしい。
それなら加減しろよバカって彼女は思ったわけで、言っていることは正論極まっているので、ポポポ女は何も言えなかった。
実際、このクソでかバカでか女は筋トレ器具を壊すなんてことはしないのだ。
つまり、力加減はちゃんと出来ている。
それじゃあ、なんで壊してしまうのか……答えは、一つ。
要は、己の筋肉の自慢である。
チラチラと、常人には重い物を軽々と持って、『いやぁ、ちょっと鍛えていますんで……』みたいなアレだ。
私としては軽く持ったつもりだけど、私の自覚以上に鍛え抜かれた己のボディのせいで……そんな、遠回しかつ傍迷惑な自慢をしたいだけである。
「ポポポ……申し訳ないわ、この筋肉の蠕動に免じて許して」
「それで許すのは特殊な性癖の持ち主だけでしょうが……」
それを分かっているから、彼女がポポポ女に向ける態度は辛らつであった。
そりゃあ、誰だって筋肉自慢のために物を壊されたら、私物でやれやってキレちらかすのと同じ……むしろ、拳が飛ばないだけ、彼女は優しい方であった。
まあ、それはそれとして、だ。
なんか高く売れそうなやつは目星を付けておこうと彼女は思っていたわけなのだけれども、壊されてしまうのはさすがに忍びない。
というか、普通に弁済を求められそうで嫌だし……しかし、もう既に壊されてしまった以上は、彼女にもどうすることは出来ないので。
「仕方がない、代わりに私お手製のお札を貼っておこう……」
これだけオカルト系グッズが置かれているのだ。
何か物が壊れていたとしても、すっとぼけてしまえば分からないだろうし、逆に見知らぬ札が増えていたら、怖がって見なかったことにするかもしれない。
こういう時、オカルトは便利である。
まあ、それはそれとして、なんかこのマンション……変な気配というか、どうにも表現し難いナニカを感じてはいたので、事前に祓っておこうとは考えていた。
基本的に、戦いとは先手必勝、相手が迎え撃つ構えをしていたならともかく、それ以外なら、だいたい先手を取った方が勝つのだ。
実際、どれだけ屈強に鍛えた格闘家でも、意識の外から不意を突かれてしまえば、子供相手でも容易く失神させられてしまうのと同じように。
悪霊や怪異の類でも、不意を突いてしまえば、たとえこちらが格下だとしても意外と倒せたりするわけである。
まあ、彼女の場合は格下ではなく、ヤベーぐらいに格上なんだけれども。
「ポポポ……懐からとんでもない量の霊力を込めた札を無造作に取り出すの、やめてね?」
「元はと言えば、壊したお前が悪い」
そう答える彼女だが、実のところ、この場合は彼女の方が悪かったりする。
例えるなら、懐からいきなり火の付いたダイナマイト(マンションすべてをぶっ飛ばす量の)を取り出したようなものだ。
彼女自身は時々そういう事を無造作に行う。
ポポポ女でなければ、これまでにうっかり60回ぐらいは祓ってしまっているところだ。
そう、クソでか筋肉達磨女ばかりが見た目からして目立つから分かりにくいのだが、『名無子心霊相談室』で一番ヤバいのは名無子だったりする。
さて、と。
思わず飛びのくポポポ女をしり目に、彼女は……画鋲を使うと後で突っ込まれそうなので、霊的なパワーにてピタッと貼り付け……ヨシっと札のパワーを発動させた。
──瞬間、ビリビリビリ、と。
まるで、マンションそのものが震えたかのような……はて、地震かなと彼女は首を傾げ……ふと、隣を見やる。
「ポポポ……ごめんなさい、筋肉がお腹を空かしたようで……」
そこには、お腹を摩るポポポ女の姿があった。
「あんた来る前にプロテインバー食べてたよね?」
筋肉が腹を空かせるってなんだよ……そう言いたげな……ん?
怪異なのに、食事をするのかって?
不思議に思うだろうけど、するんだよ、このクソでか頭たんぱく質女は、たんぱく質だけはキッチリ取る。
効率性を考えてプロテインを摂取しているが、無い時は牛乳をがぶ飲みしている。
それも無い時は、なんか悪いやつを懲らしめるついでに、筋肉を奪ってプヨプヨボディにしてしまうらしいけど……まあ、それはそれとして。
「……??? お腹が空いているというのは、たんぱく質が足りていないって話じゃないわよ」
「は? じゃあ、なんなの?」
「ポポポ……自らを追い込み、苛め抜くのが足りていないって、訴えている筋肉からの抗議よ……飢えているのよ、負荷が足りていないのね」
「知らねえよバカたれ」
やっぱコイツ思考がとんでも過ぎて分からねえなあ……と、彼女は思ったのであった。
……。
……。
…………で、だ。
押し入れ探索も終わったし、テレビをダラダラ見るのもなんなので、部屋で休む前にかる~くマンション外、敷地内をぐるりと歩いてみる。
なんでそんなやる気を見せているのかって?
上手くやれたら、ボーナス貰えるかなって、ちょっと考えちゃったからである。
とりあえず、蛍光灯とか切れていたら、替えられるなら替えといてって話らしいけど……使っていないなら、切れることもないのでは?
そう思いつつも、えっちらおっちら……ゴミとかあったら掃除しとこうかな……そんな感じで、歩いていると。
「ポポポ……3階のところに、誰かいるわね」
「え、マジ?」
視点の位置が高いからなのか、いち早く気付いたポポポ女に指差された先には……確かに、誰か居た。
見たままを語るなら、女だ。見覚えは、当然ながら、無い。
場所は3階のベランダで、何号室かは知らない。ただ、時間帯的に日当たりは良いようで、日差しが女を照らしていた。
何が楽しいのか、満面の笑みで手を大きく振っている。
それはまるで、待っていた友達を見つけて手を振っているかのような、そんな無邪気さすら感じ取れた。
ただ、よ~く見てみると……どうにも、それだけではないように思える。
というのも、その女だけど……笑っているように見えるけど、よく見たら笑みを浮かべているのは口元だけで、じ~っとこっちを見てきているのだ。
最初は気のせいかと思ってちょっと歩けば、女の向きがそれに合わせて動く……偶然ではなく、やはり、こちらへと手を振っているようだ。
……そうして、だ。
その姿を見て、ふと……彼女は考える。
(……あいつ、不法侵入じゃねえの?)
そう、このマンションには現在、入居者は居ない。
同時に、自分以外に誰かが来るだなんて話は聞いていないし、そもそも、あのような満面な笑みで手を振られるような間柄の女性にも心当たりはない。
……つまり、だ。
あの女は、入居者でもないのに勝手に敷地内に入るだけでなく、鍵が閉められているはずのどこかの部屋に侵入し、ベランダから手を振っている……ということになるわけだ。
これって、かなりヤバい状況では……と、彼女は思う。
敷地内は、まだ良い。
いや、厳密には良くない。
だけど、企業とか工場の敷地内ならともかく、大きなマンションとかだと子供とかが入り込んだり、学生とかが近道したりとかあるから……まあ、本来はダメなんだけどね。
それでも、さすがに勝手に部屋に入り込むのは、そういった法律を知らない彼女も、アウトだと一発判定するレベルである。
普通は、こういう時はさっさと警察に電話をするのが良いのだが……しかし、ここで彼女は臭いを嗅ぎ取った。
(……待て、ここで警察を呼んで大事にしてしまったら、バイト代を貰えないのでは?)
そう、失う可能性が出始めた金の臭いである。
交渉して貰えたとしても、今日一日分の給料しかもらえないのは割に合わない……ならば、どうする?
「──逃がさんぞ」
「ポポポ??」
首を傾げるクソでかビッグマッスル女を他所に、彼女は……両手で印を組むと、素早く力を練り上げ……敷地を囲うように結界を張り巡らせた。
「ポポポ……え、なにこれ?」
「結界を張った。これで、あの女は逃げられんぞ」
「ポポポ……聞きたいのはそこじゃなくて、なんで結界を張ったってことなんだけど?」
「そんなの、あの女を……いや、あの女のほかに居るかもしれない、侵入者を逃がさないためだ……!!!」
突然のことに困惑するクソでか鈍ちん筋肉女に、そう説明をした彼女は……たまたま足元に転がっていた石ころを拾うと、大きく振りかぶって──投げた。
石ころは、轟音と共に空気の壁を打ち破って──女の顔面にぶち当たって、石が砕けた。
女は、真後ろにのけ反ってから、ごかん、と窓に頭をぶつけたかのような……「よっし! 大命中!!!」でもまあ、彼女は気にしていなかった。
直撃の瞬間、満面の笑みを浮かべていた女の表情が『えっ!?』ってな感じで引きつったような気がしたけど……仰向けでぶっ倒れたために、彼女の位置からは確認できなかった。
「行くぞ!! あいつが逃げる前に、捕まえておかねば!」
「ポポポ……死んでいるんじゃないの?」
「大丈夫だ、あいつは初めから生きていないから。だから、気にする必要はないのだ」
ゆえに、呆気に取られているポポポ女をしり目に、彼女は足早に3階へと向かったのであった。
……。
……。
…………まあ、当然と言えば、当然の話であって、少しばかり冷静に考えたら、向かう前に気付いたことなのだけど。
「──むむ、鍵が閉まっている! 開けろ、管理人だ!!!」
「ポポポ……どうするの?」
まず、生者の類ではないから、律儀に玄関扉が開いているわけもなく。
「あいにく、このタイプのカギは針金では開けられない……さすがは新築マンション、セキュリティ対策もばっちりってことか。今回は、やつの勝ちということにしておこう」
「ポポポ……それじゃあ、プロテインを買いに行きましょうか」
その女を捕まえたところで、生きている者ではないのだから、不法侵入者を捕まえた……なんて話を伝えたところで、余計なトラブルを生むだけだということに。
この時の彼女は、ちょっとばかり考えが足りていなかった。
※ 裏話
名無子とポポポ女は、互いに自分の方が思慮深く冷静に考えている方だと思っていて、相手の方に対しては、もう少し考えて動くべきだと思っている。