祠を壊されてしまったTS娘「また、あの祠を壊したんか!?」   作:葛城

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第2話: なお、背中側から横乳が確認できた

 

 

 ──あまり周りから知られていない話だが、基本的に名無子という女(元・男)は、ぐうたら気質である。

 

 

 今の姿になるまでは、特にこれといった犯罪行為に走るわけもなく、せいぜい歩行者信号(赤)を無視して渡ったり、未成年時に酒を飲んだり、それぐらい。

 

 そんな彼女が今の姿に至ったキッカケは、人生に嫌気が差してからの自殺……つまり、一度はもう何もかもが嫌になって来世にワンチャン首吊りを遂行したわけである。

 

 結果的には第二の人生が幕を開けたわけだけど、一度は実際に死んだのは事実。

 

 そんな彼女にとって、頑張るとか努力とか、もう過去の話である。

 

 金を貰えば仕事はするけど、自分からわざわざ仕事を増やそうとは思わないし、仕事が増えそうな気配があれば、率先して目を逸らす。

 

 おまえ、もう少し真面目にやれよって言われそうだけど、それは致し方ない。

 

 なにせ、一度は死んだのだ。

 

 それも、色々と世の不条理に疲れ果て、嫌気が差して、その果てに自ら命を絶ったのだ。

 

 

 そんな彼女が、幸か不幸か二度目の生を得て……果たして、心機一転して生きようとするだろうか? 

 

 

 少なくとも、名無子と名を改めた彼女は、そう思わなかった。

 

 請け負った仕事上にて必要ならば、そりゃあ元社会人だったこともあって、真面目に取り組むが……だからといって、報酬以上の仕事をする気は欠片もない。

 

 はっきり言えば、いちいち雇用主に連絡を取って仕事を増やすような選択を、彼女が選ぶわけがないのである。

 

 実際、ベランダに出現していたナニカの正体をそれ以上調べようとは思わなかったし、こっちにちょっかいを掛けて来ない限りは無視することに決めていた。

 

 

 そもそも、だ。

 

 

 このマンション『グランドホール』は、どうにも気配がおかしい……ということに、彼女は到着したその瞬間から気付いていた。

 

 それを口に出さなかったのは、依頼内容にソレについて何も書かれていなかったからだ。

 

 書いていないのであれば、それ以上のサービスをする気はびた一文無い。

 

 これがまあ知り合い等から懇願されたならばともかく、いちおうそっちから来ているとはいえ、顔すらまともに知らぬ他人からの依頼だ。

 

 せめて、子供などが影響を受けるなんて話だったら、『いやいや子供はダメだろ』って感じでやる気を見せていたところだが……今回は、そうではない。

 

 誰も住んでいないマンションなのだから、誰かに気を使う理由もないわけで。

 

 時折、誰も住んでいないはずなのに、管理人室のインターホンが鳴らされるという不思議かつイライライベントが発生するにせよ。

 

 おおむね、彼女は正月の三が日の再来のように、ダラダラと日がな一日過ごし、時々思い出したようにマンション内を軽く見回りする……それを繰り返していた。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………ちなみに、だ。

 

 

「フン、ヌッ! フン、ヌッ! フン、ヌッ!」

「…………」

「フン、ヌッ! フン、ヌッ! フン、ヌッ!」

「…………」

「フン、ヌッ! フン、ヌッ! フン……ヌァァ!!!」

 

 

 そんな彼女の傍、というか、同じ室内にて、全身から汗を滴らせながらスクワットをしている、筋肉もりもりマッチョウーメン女が居たけど、それは些細な問題である。

 

 何故ならば、その女は人間ではない。

 

 この世ならざる霊的存在、常人にはその姿を認識できない、『怪異』と称されている、性質の悪い悪霊の一種である。

 

 なんで性質が悪いと言われるのか、その理由は、ほとんどの場合人間に対して害をもたらすからである。

 

 その害のレベルは、それこそ怪異によって様々だ。

 

 いわゆる、一夜の夢みたいな感じで気付いたら初めから何も起こっていなかったみたいなやつもいれば、その命を奪ってしまうようなやつもいる。

 

 しかし、見方を変えたら、程度が違うだけの話。

 

 どちらも対象者に対して肉体的、精神的、あるいは両方の面で負担を与えたり、あるいは外傷を与えたり、損をする事はあっても得をする事はない、それが『怪異』なのである。

 

 もちろん、中には人間に対して味方になってくれる『怪異』も居る。

 

 けれども、そういった『怪異』はほとんどの場合『神様』だとか『善神』だとかで称されていて、味方になるのも無差別に……というわけではない。

 

 よくある、幼少の時から神社にお参りしていたとか、血筋的に加護を受けていたとか、ほとんどはそういう前提があったりする。

 

 人を襲う怪異は無差別なのに、人に味方する怪異は非常に細かくえり好み……まあ、人間だって見知らぬ他人のために身体を張るやつなんて稀だし、仕方ないと言えば、仕方がない。

 

 そして、話を戻すが、このポポポが口癖な頭ポポポ女は……非常に希少価値の高い、『無差別に人を襲わない怪異』である。

 

 何故ならば、ポポポ女にとって、人を襲う時間があれば、自らの筋肉と対話し、時に苛め抜き、愛でる……その方がはるかに大事であるからだ。

 

 

「──シャアッ!!」

 

 

 現に、(こいつ、外でやれよ……)という感じの視線を名無子から向けられても、ポポポ女は素知らぬ顔。

 

 誤解している人が多いと思うので先に訂正しておくが、名無子が色々な意味でヤバいやつなら、このクソでか頭筋肉女も同レベルでヤバいやつなのである。

 

 そんなわけで、知りませんなそんな些細な事はと言わんばかりに、ダメ押しのワンカウントを決めたポポポ女は、全身から湯気を立ち上らせながら……ん? 

 

 

 霊的存在なのに、なんで湯気が……って? 

 

 

 そんなの、ポポポ女がクソでか筋肉バカアホ女だから、としか言いようがない。

 

 普通はそんなこと起こらないのだけど、この頭の先から足先まで筋肉の事しか考えていないポポポ女は、どういうわけかトレーニングをしている時に限り、生きている者と同様の現象が起こる。

 

 つまり、激しいトレーニングをすれば汗を掻くし、息切れするし、発熱して蒸し暑くなるし、筋肉に血流が回ってパンプアップするし、全身がムキムキムキキっとなるわけだ。

 

 そこに、意味など無い。

 

 ただ、筋肉の導きに従っているだけ……らしい。

 

 まるで意味が分からないとは名無子の弁だけど、理解出来ているのは、ポポポ女だけだから、気にするだけ無駄──っと、その時であった。

 

 

「──あ、ああああ!!!!! 無い! 無い! 無い!!!」

 

 

 台所に向かったポポポ女の雄叫び……今度はなんだと、ゴロッと寝返りを打った彼女が目にしたのは。

 

 この世の終わりが来たのかと思うぐらいに床にべちゃっとへたり込んでいる、ポポポ女の姿であった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………あ~、うん。

 

 

「どうした?」

「ポポポ……プロテインが……無いの……」

「新しいやつを二袋持ってきていたでしょ」

「ポポポ……うっかりしていたわ。そういえば、もうそろそろ買わないと駄目ねって思っていたのに……」

「牛乳でも飲めば?」

「ポポポ……それだけだと、たんぱく質がね、足りないの……」

 

 

 あまりにもあんまりな雰囲気を醸し出しているので、冷蔵庫に入れてある牛乳をススメてみれば、それではパワー不足らしい。

 

 なお、買いに行くという選択肢は、彼女には無い。

 

 このポポポ女、筋肉さえ絡まなければ理性的で、『万引きは窃盗、盗みは良くない』といった感じで、そうこう事はしない。

 

 ただ、仕事先に置かれてあったりする場合は、業務上の必要経費としてプロテインを徴収しても良いとかいう、謎の判断基準があったりするのは意味不明だけど。

 

 とりあえず、彼女としては、一食ぐらい無くても良いだろうって思ったわけだけど……ポポポ女からしたら。

 

 

「──ポポポ……トレーニング後のゴールデンタイムを逃すわけにはいかないわ」

 

 

 と、いうことらしい。

 

 でも、時刻は既に夜も更けて、ドラッグストアも閉まっている。

 

 最寄りのコンビニまで行ったところで、さすがにプロテインは置いていないだろう。

 

 

 ──そもそも、出歩きたくないんだよねえ。

 

 

 そんな思いで、ごろりと寝返りをうった彼女だが……そんな彼女の内心を呼んでいたかのように、電話が鳴った。

 

 その瞬間、彼女は非常に嫌そうな顔をした。

 

 なんでかって、管理人室に掛かって来る電話は一つしかない。

 

 そう、今回の仕事の依頼人である。

 

 それが代理人からなのか、オーナー本人からなのか、それは実際に出てみないと分からないが……とりあえず、無視するわけにはいかないので、嫌々ながら出る。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………電話の相手は代理人(相談室に来て話をした人)からなのだが、その内容を簡単にまとめると、だ。

 

 

 一つ、『以前から、夜中にゴミを不法投棄する人が居る』ので、見回り階数を増やすように、とのこと。

 

 二つ、『マンション内に誰かが悪戯半分で入り込んでいる』という目撃情報が入ったので、それも見回ってほしい、とのこと。

 

 

 つまり、もっと重点的に見回りするように、とのお達しだ。

 

 

 明確にどの曜日なのかはわかっていないが、これまでの調査からして、捨てられているのは夜間時が多い。

 

 だから、時間帯は指定しないから、普段の見回りとは別に、夜中や早朝など、捨てられていないかを重点的に確認し、万が一捨てられていたら現場の写真を撮って報告してほしい、とのこと。

 

 もしも、不審な人物を見かけても追いかけたり追い払おうとしたりは考えず、まず、こちらに報告してほしい……とのこと。

 

 ちなみに、警察には電話しないでほしい、らしい。

 

 なんでかって尋ねたら、下手に警察が関わってくると誰も住んでいないのがバレかねないし、大事にしたくないから……とのことだ。

 

 

(はあ、やれやれ……まあ、これもお仕事だ)

 

 

 そう思った彼女は、デモでもデモでもとプロテインを求めて縋って来る、汗臭い(常人には認識できない)2m40cm強の女を引きずりながら、外へ。

 

 

「とりあえず、見回りすんべ。万が一お前の姿を見られたら騒ぎになるから、意識して姿を消しとけ」

『ポポポ……ああ、私の筋肉がお腹を空かして……これが、母の苦しみ……』

 

 

 うっ、うっ、うっ……。

 

 指示を受けて子供などにも見えないよう姿を隠しつつも、悲しそうに嗚咽をこぼすポポポ女を無視して、彼女は懐中電灯を片手に1階ずつ見回っていく。

 

 照明は付いているけど、なんか経費削減とかいう理由で、ちょい薄暗い。

 

 まあ、光一つ無い空間でも彼女は昼間と同じ感覚の視界を維持できるので……懐中電灯は、単純に周りへの言い訳みたいなものである。

 

 なお、見回りの際はエレベーターを使わずに、階段を使って移動する。

 

 なんでも、消防法とか色々な理由から、常に開放していないと駄目なようだ……よくわからんけど、そういうわけで、階段にも誰か居ないかを見なくてはならない。

 

 そうして、右から左に、左から右に、しらみつぶしといった感じで、下から上へ……当たり前だけど、明かりが点いている部屋は一つとしてなく、どこもかしこも暗かった。

 

 

『ポポポ……足音がする』

 

 

 そんな、時であった。

 

 なにやら、上の階から足音がしたのは。

 

 その足音の感じからして、ドタバタどたばた……というよりは、タタタタ……といった感じだろうか。

 

 例えるなら、子供が廊下を全力で走っている……そんな感じの足音で、おやっと首を傾げた彼女はライトを上階へと向け……あ、ちなみに。

 

 今更な話だが、『グランドホール』の形状を上から見ると、L字型になっている。

 

 だから、立ち位置によっては上階を目視で確認できるし、外からはある程度遮られてはいるけど、そこに人が居るのかを確認できる構造になっていた。

 

 で、話を戻すが……ライトを向けた先、上階の廊下に何者かが居た──というか、走っていた。

 

 そいつは小さく、大人の背丈ではない。全体的に白い肌が見えて、半袖に半ズボンの……なんだろう、子供か? 

 

 これがまあ昼間であれば、勝手に入り込んだどこぞのガキで済ませるところだが……チラリと、彼女は時計を見やる。

 

 ……現在時刻、23時13分……

 

 当然の話だが、そんな時刻に他所のマンションに……それも、一人で廊下を走り回っているだなんて、正気の沙汰ではない。

 

 しかも、その挙動もまた、不自然過ぎた。

 

 というのも、このマンションは両端と、中央の辺りに設置したエレベーター、その隣には階段が設けられているのだが……言い換えたら、それ以外に各階へと続く通路は無い。

 

 つまり、どれを使うにしても、右端から下に降りたら右端からスタートし、左端から降りたら左端からスタートするわけだが……その子供は、違っていた。

 

 右端からスタートして、左端まで走り抜けているのに……何故か、その次は右端からスタートしているのだ。

 

 しかも、階を降りている。理屈では説明できない現象だ。

 

 そのうえ、子供はまったく息切れした様子もなく、ずーっと同じ速度で……そして、その子供の足音が天井を通り過ぎていったかと思えば……通路の向こうより、その子供が姿を見せた。

 

 子供は、満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 ──きゃは、きゃは、きゃはははははは。

 

 

 じろり、と。

 

 疲れた様子を欠片も見せないその子は、笑い声をあげながら……廊下を走りだす。ぱたぱたぱた、やはり、一切歩調に乱れ無し。

 

 

 ──おねえちゃぁぁあんんんあぁぁぉぉぉおそそそぼぼぼおおおおおおお!!! 

 

 

 間延びした呼び声、その行き先は、言うまでもなく彼女の元へ……瞬く間に近づいてくる子供の影が、グルリと90度直角に曲がって、彼女を捉えた。

 

 

『──(TSの気配)』

 

 

 だが、しかし、それは──同時に、子供もまた、捉えられたということに他ならなかった。

 

 それは、ひとすじの閃光に等しい弾丸であった。

 

 その名を、『祠』。

 

 放置すると何をしでかすか分からないので、外出の際は必ず懐に入れられていたソレが──まさしく弾丸がごとき勢いで飛び出したかと思えば、子供の膝を砕いたのである。

 

 

 ──おぁあぁあああ!?!?!?! 

 

 

 これには、明らかに生者の類ではない子供は勢いのままに倒れ、転がり──しかし、そこで終わりではなかった。

 

 

『──ポポポ、Welcome……!!!』

 

 ──え? 

 

 

 そう、そこには、肉に飢えた怪物が居た。

 

 圧倒的な肉圧、枯渇したエネルギーを求める筋肉たちの飢え……ポージングを取ったクソでか筋肉飢餓女を前にして、その子供は……逃げる術などなかった。

 

 吸われる……そう、吸われていく。

 

 細身な身体から、『筋肉』が吸われてゆく。

 

 客観的に見て、走るのが速そうな体系だったソレが、瞬く間に消え去り……後には、走るのが遅そうなぽっちゃり体系へと──だが、そこで終わりではなかった。

 

 

『──TSビーム』

 

 

 満を持して放たれる、『祠』によるTSビーム。

 

 これをまともに受けた子供は、ビビビッと体が淡く光ったかと思えば……次の瞬間には、ぽふんと総身より煙が立ち上り、後には、実にフェチ的な体系になった女の子が居た。

 

 具体的には、ロリ爆乳である。

 

 遠目にも分かるぐらいの、爆乳。しかも、恰好も変わっていて、かわいらしいデザインの膝下まで丈があるワンピースに……そこまでであった。

 

 

 ──う、う、うぇえええんんん!!!! 

 

 

 今しがたまで笑っていた男の子……もう女の子だけど、その子はポロポロと涙を零して立ち上がると、いずこかへと走り去っていった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………後に残されたのは、だ。

 

 

『ポポポ……腹2分目といったところかな?』

 

 ムキ、ムキムキ、ポーズを取るクソでか筋肉サイコ女と。

 

『──短パン小僧が一転してロリ爆乳へ……良い(ニチャァ)』

 

 なにやら、悦に浸っている『祠』と。

 

「……うわぁ(ドン引き)」

 

 心の底からドン引きする、彼女だけであった。

 

 

 

 

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